13.カンブリア紀の生物 II
カンブリア紀の地球は現在とは大きく異なり、現在の南アメリカ・アフリカ・南極・オーストラリア・中国が連結して巨大なゴンドワナ大陸を形成し、他の陸地は東欧のバルティカ、北米(バージェス頁岩がみつかった場所を含む)のローレンシア、シベリアの3つの島大陸となっていました(1)。バージェスはたまたま化石が残りやすい条件が整っていたわけですが、他にもそんな場所はなかったのでしょうか?
図13-1 カンブリア紀化石の聖地 バージェス(カナダ)とチェンジャン(中国)
それは中国雲南省の澄江(チェンジャン)にありました(図13-1)。カンブリア紀の澄江はゴンドワナ大陸の辺境地域の入江にありました。外洋から保護された湾の中で、生物にとっては住みやすい場所だったのでしょう。
ここは1907年にフランスの地質学者達によって発掘されて、カンブリア紀の化石が出ることは知られていましたが、その後日中戦争などの影響で調査がおくれ、本格的な研究は1980年代以降になりました。発掘・調査は主に南京地質古生物研究所と西北大学によって行われました。
その結果驚くべきことに、バージェスと澄江は数千キロは離れていたにもかかわらず、図13-2のアノマロカリスやハルキゲニアなど、バージェスで発掘されたカンブリア紀を代表する生物の化石が澄江でも発掘されています。当時の地球全体で共通の生態系があったことをうかがわせる結果です。しかしそれらは同じ種ではなく、微妙に異なっています。
図13-2 アノマロカリスとハルキゲニア
私たち人類は脊索動物門というグループに所属するわけですが、ではこの脊索動物門の生物はカンブリア紀にすでに存在していたのでしょうか? バージェスではピカイアという生物(図13-3)がみつかっています。ピカイアには脊椎はないと考えられており、脊索動物門のなかでも脊椎動物より原始的な頭索動物に分類されています。現在生きている頭索動物の代表はナメクジウオです(2-3、図13-3)。
図13-3 ピカイア、ミロクンミンギア、ナメクジウオ
ナメクジウオは日本でもみられ、天然記念物に指定されています。ピカイアは武器も甲冑も持たない弱々しい生物のようにみえますが、脊索という硬い組織(骨ではない)を得たことで、そこに結合する左右の強力な筋肉を装備して、くねくねと素早く動いて捕食を逃れたと思われます。またうまく泳ぐためには運動神経系とその機能を統合する部位も発達する必要があります。ピカイアは澄江での発掘が進むまで最も人類に近いカンブリア紀の生物と考えられていました。
ところが澄江の地層から素晴らしい魚類の化石がみつかったことから、カンブリア紀に早々と脊椎動物が出現していたことが示唆されました。この魚類はミロクンミンギアと名付けられました(4、図13-3)。彼等はアゴを持っていない無顎類なので硬いものは食べられません。現在生きている無顎類はヤツメウナギとヌタウナギです。ミロクンミンギアはウィキペディアでは脊索動物でとどめられていますが(綱目は不記載)、一方で「頭部が存在することは、それが脊椎動物であることを強く示唆するものである。 従って、最初の魚類であるといわれる」との記述もあります(4)。脊索動物はひとつの門であり、脊椎動物、頭索動物、尾索動物は脊索動物門に含まれる下部分類群(亜門)です。
結論的にカンブリア紀あるいはエディアカラ紀には、現存するすべての生物のグループ(門)が出そろっていたと考えられます。さらに言えばカンブリア紀以降5億年の間、新しい門は出現しませんでした。生物の長い歴史の中で、どうしてこのような特殊な時代が存在したのかということは、単に眼が出現したということだけで説明するのは無理かもしれません。今後の研究が待たれるところです。日本でも茨城県の常陸太田市や日立市にはカンブリア紀の地層がありますが、残念ながら化石の保存に適した条件でなかったせいか、バージェスや澄江のようなお宝はみつかっていません。
カンブリア紀の個々の生物についてここでは詳しくとりあげませんでしたが、より深い知識を得たい方はセクション12で紹介したモリスかグールドの本を手に入れるか、またはウィキペディアの目次ページ(5)からウェブサーフィンでたどることもできます。
参照
1)Gigazine: Ancient earth globe これまでの地球の姿を年代別に変化させて見ることができるサイト
https://gigazine.net/news/20180613-ancient-earth-globe/
http://dinosaurpictures.org/ancient-earth
2)Wikipedia: Cephalochordate
https://en.wikipedia.org/wiki/Cephalochordate
3)窪川かおる ナメクジウオの生物学 The Journal of Reproduction and Development. Topics., vo.47, no.6 (2001)
http://reproduction.jp/jrd/jpage/vol47/470603.html
4)ウィキペディア: ミロクンミンギア
5)ウィキペディア: Category:カンブリア紀の生物
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