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2020年1月 9日 (木)

3.真核生物

地球が誕生してから、カンブリア紀(いろいろな生物種が一気に出現したといわれている)に至るまでの歴史を整理しておきましょう。といってもそれぞれの出来事が起きた時期を判断する確固たる証拠があるわけでもないので、数年後には数字が書き換えられている可能性もあります。一応真核生物が出現したのは21億年前ということになっています(図3-1)。
 真核生物(ユーカリア)は細菌(バクテリア)や古細菌(アーキア)と違って、ゲノムすなわちミトコンドリアと葉緑体以外のすべての遺伝子が、核という閉じたボール状の構造に収納されています。ゲノムの情報が核の中で読み取られてRNAが合成され(転写)、合成されたRNAは核内でメッセンジャーRNAに加工されます。加工されることによってメッセンジャーRNAは核から、核膜に開いている穴(特定の物質だけが通行できる)をくぐって細胞質に出ることが可能となり、細胞質でその情報を元にリボソームという蛋白質とリボソームRNAからなる工場でタンパク質が合成されます(翻訳)。つまり真核生物では、それまでワンルームだった細胞が、1DKに進化したということになります。キッチンとリビングを分けるように、転写する部屋と翻訳する部屋を分けたというわけです(1-2、 図3-2)。このことのメリットは次ページに述べるように、かなり大きいものでした。

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図3-1 カンブリア紀以前の地球史年表

地球史年表はとりあえずこのようになっていますが、新しい証拠の発見などがあるとたちまち数億年のずれが生じたりしますので、あくまで現時点での理解と考えておいた方がよさそうです。

 

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図3-2 原核生物の細胞と真核細胞の細胞の構造を比較する

 ワンルームの細胞では、遺伝子発現ONの情報が来ると、すぐに転写→翻訳と進んでタンパク質ができますが、1DKでは、とりあえずDK(核)で転写して、それをリビングルーム(細胞質)に持っていって翻訳することになります。したがって、しばらくDKに品物を置いておき、時期をみてリビングに移動するというような融通はききます。細胞内にとりこまれたウィルスなど外界のDNAと、ゲノムのDNAが簡単には接触できないようにするというメリットもあります。細菌では外界からやってきたDNAが、比較的簡単に細胞内のDNAにもぐりこんで住み着くことができます。
 DNAのサイズが大きくなると、細胞全体にDNAが分散してしまうことになり、糸が絡まり合うような混乱がおこる可能性があります。そうなると細胞分裂の時などに収拾がつかなくなるかもしれません。真核生物ではとりあえずDNAを核にとじこめておくことができます。また核膜には放射線を遮蔽して、ゲノムDNAを保護する役割もあります。
 DNAは長いひものような分子なので、何かにまきつけておくとからまりにくくて便利なのですが、DNAの糸巻きのような構造を形成する能力があるヒストンあるいはそれと類縁関係にあるタンパク質を、ある種の古細菌と真核生物は持っています(3)。このことは古細菌と真核生物の近縁性を示す証拠のひとつです。DNAは通常ヒストンがつくる糸巻きにまきつけられて、核に収納されています。
 真核生物の細胞のサイズは普通直径10μmくらいですが、細菌は1μm以下です。そうなると体積でいえば、真核生物の細胞は細菌の1000倍以上になります。この中に含まれている各種分子の立場からみれば、犬小屋の中をうろうろしていたのがいきなり広いマンションに放り出されたような感じですから、他の分子と遭遇する機会が激減し、化学反応がうまくいきません。そのためどこにいけば反応すべき分子と出会えるか道案内が必要であったり、化学反応を行わせるためのツールを整列させたりすることが必要で、そのためにも細胞内膜系や細胞骨格を整備する必要があったと思われます。細胞内膜系や細胞骨格がないと、細胞は中に核やミトコンドリアというパチンコ球のような構造体が動き回る袋のようになり、これも好ましくはないでしょう。

参照:

1)Wikipedia "Prokaryote" https://en.wikipedia.org/wiki/Prokaryote
2)Wikipedia "Eukaryote" https://en.wikipedia.org/wiki/Eukaryote
3)Mattiroli et al., Structure of histone-based chromatin in Archaea., Science vol. 357, pp. 609-612 (2017)

 

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