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2020年1月 9日 (木)

2.地球の始まり

私たちが住んでいる地球は、地球科学者によれば46億年前に出現し、そのできたばかりの地球に他の天体が衝突して(ジャイアントインパクト、図2-1)、ぶつかった天体は粉々になり、地球は衝突の衝撃で温度が上昇しマグマ化してしまった、あるいは粉々になってしまったとされています。気体化していたという説すらあります。最近ではこの衝突は接触事故のようなものではなく、正面衝突の可能性が高いとされています。しかしながら、月の成分は巨大衝突説が唱えるように1回の大規模衝突によって形成されたのでは説明がつかず、微惑星の小さな衝突が20回程度繰り返されて月形成がなされたとする説があります。私にはコメントできない天文学・地球科学分野の論争です(1-4)。

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図2-1 ジャイアントインパクト

いずれにせよ、天体衝突のときに形成された液状のマグマは現在でも地球のほとんどの体積を占め、私たちはようやく冷えて固まった卵の殻のような表層に相当する地殻に住んでいます。地球の周りに飛び散った衝突天体のかけらは次第に集積して月となったという説が有力であり、最初は極めて近くにあった月は次第に地球から離れていきました。今でも毎年月は地球から3.8cmづつ遠ざかっています(5)。
 マグマオーシャンとなった地球ですが、宇宙の低温によってしだいに冷やされ、43億年前には地殻が形成されたといわれています。地表が灼熱地獄だったときには地面までとどかなかった雨が、冷えるとともに地表に届くようになり、40億年前には海洋が形成されました。大気が無い地球の地殻表面には、とても生物が生きていけないような宇宙線や二次宇宙線が降り注いでいたので(6)、それらを遮蔽する機能がある海洋が形成されたことは、生物が生まれる上で決定的に重要なことだったと言えるでしょう。すなわち水の中で生きる生物なら宇宙線の影響をかなり緩和できるからです。
 生物は化学反応の集積であると言えば、それはウソではありません。45億年前の地球でも、現在の地球でも、たとえばCO₂(二酸化炭素) + H₂(水素)→ HCOOH(ギ酸)という化学反応は現在と全く同じであるのに対して、45億年前の地球には生物は存在しませんでした。ところが現在の地球には無数の生物が住んでいます。このことを考えれば、生物に関する科学には、化学反応だけではすまされない独自の理論や説明が必要であることがわかります。
 生物学の基本は地球の歴史の中での生物の進化であり、またその進化の中で作り上げられた独特なシステムを、物理学や化学の言葉で説明することです。広い宇宙には無限のバラエティに富んだ生物が存在するでしょうが、幸か不幸か私たちがそれらに接触するチャンスはこれまで一度も無かったし、これからもわずかな可能性しかないでしょう。地球に住む生物のルーツが複数あるという証拠は、これまでのところ存在しません。すなわちすべての地球上の生物には共通の祖先があり、したがってなんらかの共通点があります。生物学者は普通いくつかの生物種を選び、その限られた素材を用いて研究するので、その研究結果そのものは無数にある各論のひとつに過ぎませんが、それらは進化という1本の樹木につながる枝葉という意味ですべてつながっています。それによって生物学という大伽藍が成立していると言えましょう。
 さて、ではその共通の祖先である生命体はどのように「生物では無いもの」から生まれてきたのでしょうか? それについては今のところすべては仮説です。しかし無機物からどのように有機物ができたかというメカニズムについてはいろいろな実験が可能です。ただ当時の地球環境がどのようなものであったかはよくわからないので、確定的なことは何も言えません。したがってここではそれらはすべてスキップして、現在の科学の力によって解明されつつある進化という一つの樹木の根についてみてみましょう。
  図2-2にみられるように進化系統樹の根元には5つの系統の生物群があります。一昔前までは細菌・古細菌・真核生物の3つのドメイン(領域)というのが、最もおおまかな生物の分類だったのですが、そう簡単にはいかないようです。系統樹からも想像出来るように、古細菌というのは細菌よりもむしろ真核生物と共通な部分が多い生物なのですが、その生活は地球創世時代の海底火山周辺の高温の海に生きていた頃の状況を、今でも引き継いでいる種が大部分です。そういう意味で古という枕詞がつくのも納得出来ます。ロキ古細菌については私のブログ記事もあります(7)。興味のある方はご覧下さい。

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図2-2 ドメインについての仮説的進化系統樹

細菌や古細菌は、一般的に細胞内の構造体と言えば、DNA複合体とリボソームくらいのものなのですが、ロキ古細菌は細胞骨格・細胞変形・小胞体などに関連する遺伝子を持っており、細胞の構造は複雑で、かなり真核生物に近づいているようです(7)。メタン菌をメインとした多くの古細菌は「ユーリ古細菌」に属し、クレン古細菌の幹にはクレンアーキオータ、タウムアーキオータなど真核生物と共通点の多い特異な古細菌群が属します。現在でも海底に熱水が噴出している場所はいたるところにあります(8)。例えば鹿児島湾には水深100メートル以下の浅い海にも熱水噴出口がみられ、その周辺に古細菌が生きています。
 多くの古細菌は高温に順化しているので、彼らの酵素は40℃のような低い温度では反応速度が遅すぎて役に立たず生きていけません。彼らが生きているような100℃近い高温では、DNAもタンパク質も構造的に強い制限をうけるので、進化の速度が極めて遅くなってしまいます。そういうわけで、昔ながらの生き方しかできないのです。ごく一部の種が低温に順化し、そのなかから真核生物が生まれてきたと思われます。

参照:

1)ウィキペディア: ジャイアント・インパクト説
2)TOKANA: 45億年前の巨大衝突「ジャイアント・インパクト」はもっと大きな衝突だった!? 月の起源の秘密も…
https://tocana.jp/2016/02/45_entry_2.html
3)Excite news:月ができる時、地球がほぼ蒸発していた可能性が浮上
https://www.excite.co.jp/news/article/Gizmodo_201609_extremely-giant-impact/
4)ウィキペディア: 複数衝突説
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88
5)logmi biz:  月は少しずつ地球から遠ざかっているらしい。では最終的にどうなるのか?
https://logmi.jp/business/articles/257365
6)東京大学宇宙線研究所 宇宙線とは
http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/about/cosmicray.html
7)渋めのダージリンはいかが 真核生物と古細菌
https://morph.way-nifty.com/grey/2015/10/post-d3d8.html
8)ウィキペディア: 熱水噴出孔

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