続・生物学茶話254: 動物分類表アップデート
分類学は私にとって親密なジャンルではありませんが、生物学に関心を持つ者には避けて通れない基礎知識です。普段見かけないような体長1mm位の線虫が実は地球上に3億トンも居たりするので、あなどれません(1)。
線虫はまだ脊椎動物に寄生するので、鮮魚をさばく人ならアニサキスはみたことあるでしょうし、犬を飼っている人はフィラリアには関心があるでしょう。しかしヒトの食料にはならない生物に寄生する生物や、海底の砂のすきまにいる微小生物、海にいることはわかっていても採集は不可能で、ガラス板を沈めておくとそこにくっつくのでみつかる平板動物などというのもいて(2)、現代は人の活動がもたらした生物大絶滅時代であるにもかかわらず、次々と新種がみつかり門レベルの再編成まで行われたりするので、ときどき分類表の知識をアップデートすることは必須です。
本稿はウィキペディアの「動物」という項目の記述をもとに、加筆・編集しました(3)。
図254-1 スーパーグループ
図1はもっとも大まかな生物の分類表です。生物は非常に早い時期に光合成をする生物と光合成ができない生物に分かれたことがわかります。光合成ができない生物は当然餌を必要とします。光合成をする生物にはバラエティーがあって、炭素源が二酸化炭素だけの生物もあれば有機物を利用する生物もいます。独立栄養生物の中から二次的に従属栄養に転化した生物(TSARの一部)もいるようです。また逆に鞭毛虫のなかには葉緑体を獲得して光合成を営む者もいます。鞭毛虫の一部からアモルフェアというスーパーグループが生まれ、私たちはここに含まれます。
図254ー2 オピストコンタ
オピストコンタはアモルフェアのなかのひとつのグループで、すべて従属栄養の生物からなります。オピストコンタとは後方鞭毛という意味で、鞭毛を動かして鞭毛がある方と反対側に進むのが特徴です。ヒトの精子も鞭毛のある側と反対側に進みます。単細胞の原生生物、襟鞭毛虫、動物のすべてのほかカビやキノコもオピストコンタに含まれます。メタゾア(後生動物)とは生物学の言葉で、動物のすべてを意味します。同じメタゾアではありますが、有櫛動物(クシクラゲなど)と海綿動物はその他の動物と非常に遺伝子や体の構成が異なっており、エディアカラ紀以前の非常に早い時期に分岐したと考えられています。その後平板動物が分岐し、さらに刺胞動物と左右相称動物が分岐します。私たちはもちろんその左右相称動物(バイラテリア)に含まれます。
図254-3 バイラテリア
左右相称動物(バイラテリア)は口が先にできる(前口動物)か肛門が先にできる(後口動物)かで大きく2つのグループに分かれます。私たちは後口動物に含まれる生物であり、分類学的にはマイナーなグループです(種の数としては少ない)。それでも私たちを含む脊椎動物は大繁栄しています。
前口動物は脱皮動物と螺旋動物が2つのメジャーグループで、それ以外はとてもマイナーな生物群です。脱皮動物は節足動物門を含み、なかでも昆虫は100万種以上が既知の巨大なグループです。脱皮動物はカンブリア紀から現代までずっとメジャーな生物であり続けています。螺旋動物は最近できた名前で、卵割(初期発生)がらせん状に行われる生物のことを意味します。
図254-4 螺旋動物
螺旋動物のなかでは軟体動物や環形動物がメジャーな生物です。より専門的な知見に関心がある方は文献(4)などをご覧ください。
ところでこのブログでは今腸関係の話題を扱っていますが、脱皮動物に属するエラヒキムシの形態には興味をそそられます。円筒形の体の中心にほぼまっすぐに口-腸-肛門が配置されていて、まわりを神経・筋肉・皮膚が囲み、その名前に反して鰓はなく、中枢神経や心臓血管系もなく、しかし腎臓・生殖器・腸神経・赤血球・マクロファージはあるという、とてもシンプルな基本形の生物のように思われます(5、図5)。しかもウィキペディアでも指摘しているように、この生物はカンブリア紀に生息していたオットイアとそっくりです(5、図5)。もし私が腸や腸神経の研究をしていたら、是非いじってみたい生物です。
図254-5 鰓曳動物
参照
1)二井一禎 私たちの知らない線虫の世界 農業新時代 vol.1, pp.38-51(2020)
https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2023/03/001_038.pdf
2)ウィキペディア:センモウヒラムシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%82%A6%E3%83%92%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B7
3)ウィキペディア:動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E7%89%A9
4)矢﨑裕規・島野智之 真核生物の高次分類体系の改訂―Adl et al. (2019) について― タクサ 日本動物分類学会誌 vol.48, pp.71-83 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/48/0/48_71/_pdf
5)ウィキペディア:鰓曳動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B0%93%E6%9B%B3%E5%8B%95%E7%89%A9#
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