カテゴリー「生物学・科学(biology/science)」の記事

2026年4月16日 (木)

続・生物学茶話299:神経細胞のアクチンとその周辺 7:PSD95

PSD95のPSDは postsynaptic density protein の意味で、分子量約95,000ダルトンのタンパク質です。脳のシナプス後細胞にほぼ特異的に存在します。英語版のウィキペディアには項目がなく、遺伝子名DLG4の項目に記載があります(1)。ノックアウトマウスは特にグルタミン酸受容体との関連で脳のさまざまな不具合が発生するようですが、機能を部分的に代替するようなタンパク質もあり、なかなか一筋縄ではいかないようです(2)。

このタンパク質はグルタミン酸受容体をはじめとして様々な物質と結合してシナプス後細胞のシナプス後膜肥厚部(postsynaptic density)に存在しますが、最近の考え方としてはそのような特異的結合だけではなく、結合をしていないフリーな分子を含めて疎水的な物質の集合による液-液相分離によって、ある分子群がシナプス後膜肥厚部に集積するとされています(3、図299-1)。

2991a_20260416154801

図299-1 シナプス後膜肥厚とPSD95 PSD95はCの部分に存在する

PSD95の構造的特徴は3つのPDZドメインと、それぞれひとつのSH3ドメインおよびGKドメインを持つことです(2、図299-2)。SH3ドメインは Src homology を意味し、様々なタンパク質と相互作用を持ちます。GKはグアニル酸キナーゼの略号ですが、酵素活性はなくやはり他の因子と相互作用を行うサイトとして利用されているようです(2)。このようなドメインを持つタンパク質群をMAGUK( membrane-associated guanylate kinases)ファミリーと呼んでいます。しかしグアニル酸キナーゼの活性は持たないわけですから、このようなネーミングは適切とは言えません。

PDZドメインは真核細胞が外界から得た情報を細胞骨格につなぐ、それによって動いたり形態変化を行ったりするうえで非常に重要なサイトであり、図299-2のメアリー・ケネディによって発見されました(4)。PDZはこのドメインを持つことが最初に発見された3つのタンパク質、PSD95、DLG1、ZO-1の3種のたんぱく質の頭文字をとったものです。これらはすべて分子の中にPDZ1、2、3の3つのPDZドメインを保有しています(5、図299-2)。

2992a

図299-2 PDZドメインとMAGUKファミリー

PDZドメインは通常4つのβシートと2つのαヘリックス構造を含んでいます(図299-2)。この構造は真核生物のみならず、細菌にも広汎に分布していることがわかっています(6)。おそらく外界の変化に対して生物が何らかのレスポンスを起こすためにこのドメインが必要で、それは生物の進化に伴って機能に変化はあっても、数十億年にわたって現在まで伝承されてきたものと思われます。

図299-3はPDZドメイン1、2、3の真核生物の進化に伴っての変化を追跡した研究です(7)。これによると1、2、3は少なくとも脊椎動物の全ゲノム重複などによってできたものではなく、後生動物が登場する以前から準備されていたものであることがわかります。PDZ3が最初にできて、その後PDZ2、PDZ1が順次N末側につけたされていったことがわかります。とはいってもPDZ1が海綿(A.queenslandica)にすでにあるので、いわゆる動物(後生動物)の進化に伴って付け足されていったのではなく、多細胞生物が生まれた頃にはすでに3つのドメインが存在していたことが示唆されています(図299-3)。

2993a

図299-3 PDZドメインの進化的歴史

PSD95のドメイン構造はN末から順にPDZ1、PDZ2、PDZ3、SH3、GKとなっています。立体構造を見るとひょうたん型で、N末側のPartAとC末側のPartBとに分かれている構造であることがわかります。AにはPDZ1とPDZ2が、BにはPDZ3・SH3・GKが含まれています(7、図299-4)。

このような2分された構造は、おそらくSH3やGKの領域にタンパク質が結合したり修飾したりする場合に、PDZ領域に何かが結合していることの影響を受けやすい場合(PDZ3)と受けにくい場合(PDZ1、PDZ2)の両者に対応できるようにするためだと思われます。図299-3が示すように、このような構造はオピストコンタが生まれた時点で確立されていたと考えられます。

2994a

図299-4 PSD95のドメイン構造とリボンモデル

PSD95には選択的スプライシングによってN末にL27というドメインがあるものとないものの2つのアイソフォームがあり、重要なのはそのL27ドメインがない分子はN末近傍(3番目と5番目)のセリン残基がパルミトイル化されることです(8、図299-5)。このことによってPSD95の疎水性が高まり、細胞膜・細胞膜貫通受容体との結合やシナプス後膜肥厚への集積が促進されると思われます。PSD95は膜に係留されるだけで埋め込まれないので、PDZ・SH3・GKなどすべてのドメインは有効なまま活用されます。

SAP97やCASKというそれがなければ致死という重要なタンパク質もPSD95と同じグループ(MAGUKファミリー)に属し、シナプス活動の維持に貢献しています。

2995a

図299-5 PSD95アイソフォームと関連タンパク質

ディストラーらはマウス海馬シナプス後膜肥厚(PSD)を高純度に精製し、そこから49491種類のペプチドを検出しました(9、図299-5)。そしてアルカースらはそのプロテオームデータをもとに、ひとつのシナプス後膜肥厚に存在する各タンパク質の分子数を計算しました(10)。その分子数の多い順にベストテンのタンパク質を図299-6に示しました。

グルタミン酸受容体(NMDA型およびAMPA型)が多くを占めますが、それ以外はカムキナーゼ関連とPSD95関連タンパク質によって占められています(図299-6)。このことはこれらの分子が中心となってシナプス後膜直下の構造・機能を担っていることを示唆しています。

2996a

図299-6 マウス海馬シナプス後膜肥厚におけるタンパク質分子数

ウィキペディアのPDZドメインの項目(11)には図299-7のような模式図が掲載されていました。PSD95はN末がスパイン先端の細胞膜に結合していて、これを利用してPDZドメインがNMDA受容体と結合し、一方C末はGKAPを介してコータクチンと結合し、コータクチンがアクチンと結合しているというスキームです。GKAPも図299-6のベスト10に顔を出しています。これは1例ですが、類似したさまざまなシステムによって細胞骨格と神経伝達物質受容体が連結され、記憶の調節すなわちスパインの調節が行われていると思われます。

2997a

図299-7 PSD95が仲介する細胞膜受容体とFアクチンとの連携

 

参照文献

1)Wikipedia: DLG4
https://en.wikipedia.org/wiki/DLG4

2)脳科学辞典:PSD95
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/PSD-95

3)細川智永 シナプス伝達と可塑性を担うタンパク質の集合と区画化 生化学 第94巻 第4号,pp. 523?528 (2022) doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940523
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2022.940523/data/index.html

4)Wikipedia: Mary B. Kennedy
https://en.wikipedia.org/wiki/Mary_B._Kennedy

5)Liu X, Fuentes EJ. Emerging Themes in PDZ Domain Signaling: Structure, Function, and Inhibition., Int Rev Cell Mol Biol., vol.343: pp.129-218 (2019)
doi: 10.1016/bs.ircmb.2018.05.013.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7185565/

6)Muley VY, Akhter Y, Galande S. PDZ Domains Across the Microbial World: Molecular Link to the Proteases, Stress Response, and Protein Synthesis., Genome Biol Evol., vol.11(3): pp.644-659. (2019) doi: 10.1093/gbe/evz023.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6411480/

7)Synaptic PSD-95 biology: from localization and interactors to N-terminus function
Atta Alkaas, Prajwal Kurup, Sai Kanuru, Adalia Von Rommel, Taran Singh, Meera J. Patel, and Jary Y. Delgado, Journal of Neurophysiology., vol.134:5, pp.1588-1606 (2025)
https://doi.org/10.1152/jn.00272.2025
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/jn.00272.2025

8)平田哲也,深田優子,深田正紀 パルミトイル化修飾酵素を軸とした神経機能研究
Journal of Japanese Biochemical Society vol.90(2): pp.125-137 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900125
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2018.900125/data/index.html

9)Distler, U., Schmeisser, M.J., Pelosi, A., Reim, D., Kuharev, J., Weiczner, R., Baumgart, J., Boeckers, T.M., Nitsch, R., Vogt, J. and Tenzer, S., In-depth protein profiling of the postsynaptic density from mouse hippocampus using data-independent acquisition proteomics. Proteomics, vol.14: pp.2607-2613. (2014)
https://doi.org/10.1002/pmic.201300520
https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pmic.201300520

10)Atta Alkaas, Prajwal Kurup, Sai Kanuru, Adalia Von Rommel, Taran Singh, Meera J. Patel, and Jary Y. Delgado,Synaptic PSD-95 biology: from localization and interactors to N-terminus function., Journal of Neurophysiology., vol.134:5, pp.1588-1606 (2025)
https://doi.org/10.1152/jn.00272.2025
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/jn.00272.2025

11)ウィキペディア: PDZドメイン  
https://ja.wikipedia.org/wiki/PDZ%E3%83%89%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3

 

 

| | | コメント (0)

2026年4月 6日 (月)

続・生物学茶話298:神経細胞のアクチンとその周辺 6:コータクチン

ラウスザルコーマウィルス(RSV)は、感染すると 60 kDa のチロシンプロテインキナーゼを発現します。またこのホモログは細胞自体にも遺伝子が存在します。コータクチンはもともとはこのプロテインキナーゼの目立ったターゲット(基質)p80/85 として報告されました(1)。報告した Wu らは2年後、このタンパク質がアクチンに結合する性質があることをみつけ、さらに細胞膜の裏側に多いこと(cortical)からコータクチン(cortactin)と命名し発表しました(2)。

コータクチンは様々な細胞に存在し、細胞膜をアクチンの重合と解離を利用して動かそうとするとき、具体的にはラメリポディアの生成および細胞の移動、細胞分化、エンドサイトーシス、がんの浸潤などの場合に、コータクチンはArp2/3複合体とともにアクチンの活動をサポートする役割を持つことがわかってきました(3、4)。神経細胞においても、その移動・軸索形成・樹状突起スパイン形成などに関与すると考えられています。

アイソフォームであるp80とp85の違いは、p80ではN末の10残基が欠けていることによります。これは Alternative initiation (AUG 以外の開始コドンによって翻訳が開始される)によるとされています(5、図298-1)。

2981a

図298-1 コータクチンのアミノ酸配列

哺乳類のコータクチン遺伝子(CTTN)の構造を図298-2に示します(6)。mRNAは長い3’非翻訳領域を保有していて、マイクロRNAによる翻訳制御を受けていると考えられています。タンパク質はN末に Arp2/3 と結合する領域があり(NTA:アミノ端末酸性領域)、続いてアクチンと結合する領域があります。アクチンと結合する領域はコータクチンリピートと呼ばれ、哺乳類では6.5回の反復領域があるとされています。実際の配列を図298-3に示します(7)。

反復配列といっても厳密に同じ配列が反復しているわけではなく、図298-3のようにアバウトなところもありますが、この37アミノ酸残基が6.5回反復する構造は哺乳類では保存性が高い領域とされています。この領域を使ってコータクチンはアクチンと結合します(6)。

2982a

図298-2 コータクチンの遺伝子(CTTN)、mRNA、タンパク質・ドメイン構造


2983a

図298-3 コータクチンの6.5回反復配列(コータクチンリピート)

6.5回の反復配列のC末側にαヘリックスを作る領域があり、さらにプロリンリッチ領域があって、ここに Src によってリン酸化されるサイトがあります。C末にはSH-3ドメインがあり、ここに図298-2に示された様々な制御因子や酵素がアクセスします。ここにアクセスする因子の一つである Shank2 の遺伝子はCTTNの下流に隣接しています(図298-2)。

脊椎動物にはコータクチンのホモログであるHS-1というタンパク質が存在することが知られています。HS-1は主として血液細胞に発現していますが、その機能はよくわかっていません。おそらく血液細胞においてコータクチンと同様な役割を果たすとともに、他の機能もあると思われます。特にチロシンがリン酸化されると核に移行するというコータクチンとははっきりと異なる性質が知られています(8)。核に移行することにどういう意味があるかについては、アポトーシスを誘導するという説が有力なようです(9、10)。ただこれらの研究は30年前のものであり、B細胞以外ではどうなのかということがよくわかりません。

コータクチンとHS-1のエクソンとタンパク質の比較を図298-4に示します(11)。図298-3に示した37アミノ酸残基の繰り返しが、コータクチンでは6.5回なのに対して、HS-1では3.5回になっています。血液細胞は基本血流で運ばれるので、自主的にラメリポディアをつくって動く必要はないのですが、貪食など細胞膜を使った活動を行うことはあるのでHS-1がコータクチンに類似した機能を全く失っているとは思えません。

2984a

図298-4 コータクチンとHS-1 遺伝子(エクソン)とタンパク質の構造の比較

私は昔赤芽細胞を扱っていたことがあるので、HS-1の Lyn によるリン酸化が赤芽球の分化に重要な役割を果たしているという古い論文には強く興味を惹かれました(12、13)。しかしその後、特に正常な赤芽細胞の分化においてHS-1がどのような役割を果たしているかを調べた研究がないのが残念ですが、私の調査不足かもしれません。脊椎動物に進化する直前から分岐した尾索動物(ホヤなど)は赤血球を持っていませんし、HS-1もありません(11、14)。このことはHS-1が赤血球への分化に関与することを示唆するものと思います。ただHS-1ノックアウトマウスは生存可能だそうです(15)。

様々な脊椎動物におけるHS-1の違いをみると、魚類→両生類→鳥類→哺乳類の順に37アミノ酸残基のリピート回数が減って、特殊化していることがわかります(図298-5)。哺乳類の場合リピート回数は3.5回です。

2985a

図298-5 脊椎動物におけるHS-1の進化的変遷

コータクチンが細胞膜を変形させることによる細胞移動に関与しているといっても、アメーバがコータクチンを利用しているわけではなく、この物質が登場するのは多細胞生物の登場以降のようです。現存の多細胞生物の中では最も始原的といわれる海綿動物にはコータクチンが存在します(図298-6)。昆虫や尾索類にも存在するので、多細胞生物が標準的に保有する遺伝子・タンパク質と考えてよいようです(11、図298-6)。

2986a

図298-6 コータクチン(Cort)とHS-1の分子進化系統図 脊椎動物のコータクチンについては省略したので、文献(11)を参照してください

コータクチン分子のN末酸性領域とコータクチンリピートの機能は、Arp2/3複合体とFアクチンによって形成された分枝アクチンを安定化させることにあると考えられています。図298-7はクライオ電子顕微鏡による観察から推定された分枝部位の構造です(16)。コータクチンは分枝部位において、Arp2/3複合体とFアクチンの両者に外側から結合しています。

2987a

図298-7 コータクチンはArp2/3複合体によって形成されたFアクチン枝分かれ構造を安定化する

一般的に言えば、Fアクチンが分枝をつくって仕事をするときは常にコータクチンが関与している可能性があります。ラメリポディウム(葉状仮足)、細胞膜の波うち構造、エンドサイトーシス、細胞の結合(アドヒアレンスジャンクション、タイトジャンクション)、癌細胞の浸潤などが例としてあげられます(6)。神経細胞においても軸索伸長の際のラメリポディアの形成とか、樹状突起スパインの発達や安定化にも当然寄与していると考えられます。

問題はコータクチン分子のC末側で、こちらは様々なタンパク質・酵素とかかわりあっており、非常に多くの生化学的プロセスに関与している可能性があります。Dalyが例として挙げている図(17)を図298-8に示します。

2988a

図298-8 コータクチンの多彩な機能

コータクチンはその分子のN末側でFアクチンの分枝部位に結合しているので、C末側に結合する物質ならなんでも細胞骨格を形成するFアクチンに係留できますし、リン酸化などを通じて結合の調節も可能です。たとえば神経伝達物質の受容体をシナプス内部の細胞骨格に固定するにはうってつけです。また受容体媒介エンドサイトーシスが行われた際に、GTPaseと協力してアクチン骨格を再編成する機能があるとされています(17、図298-8)。

最後に前回(18)述べたように、Fアクチンが伸長する方向に細胞を移動するためのシステムの中で(Fアクチン-コータクチン-シューティン-L1CAM-細胞外基質)、コータクチンがクラッチの役割を果たしているのではないかという説(19)があるというのも興味深いと思います。

 

参照文献

1)Wu H, Reynolds AB, Kanner SB, Vines RR, Parsons JT. Identification and characterization of a novel cytoskeleton-associated pp60src substrate. Mol Cell Biol. vol.11(10): pp.5113-5124.(1991) doi: 10.1128/mcb.11.10.5113-5124.1991.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC361526/

2)Wu H, Parsons JT. Cortactin, an 80/85-kilodalton pp60src substrate, is a filamentous actin-binding protein enriched in the cell cortex. J Cell Biol. vol.120(6): pp.1417-1426. (1993) doi: 10.1083/jcb.120.6.1417.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2119758/

3)Kaksonen M, Peng HB, Rauvala H., Association of cortactin with dynamic actin in lamellipodia and on endosomal vesicles. J Cell Sci., vol.113, pp.4421-4426. (2000)
doi: 10.1242/jcs.113.24.4421.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11082035/

4)Wikipedia: Cortactin
https://en.wikipedia.org/wiki/Cortactin

5)UniPlot:Src substrate protein p85
https://www.uniprot.org/uniprotkb/Q01406/entry

6)Schnoor M, Stradal TE, Rottner K. Cortactin: Cell Functions of A Multifaceted Actin-Binding Protein. Trends Cell Biol., vol.28(2): pp.79-98, (2018)
doi: 10.1016/j.tcb.2017.10.009.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29162307/

7)Li, X., Tao, Y., Murphy, J.W. et al. The repeat region of cortactin is intrinsically disordered in solution. Sci Rep 7, 16696 (2017).
https://doi.org/10.1038/s41598-017-16959-1
https://www.nature.com/articles/s41598-017-16959-1#citeas

8)Kitamura D, Kaneko H, Taniuchi I, Akagi K, Yamamura K, WatanabeT., Molecular cloning and characterization of mouse HS1. Biochem Biophys Res Commun., vol.208:1137-1146., (1995)
https://doi.org/10.1006/bbrc.1995.1452
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X85714520

9)Yamanashi Y, Fukuda T, Nishizumi H, Inazu T, Higashi K, Kitamura D, Ishida T, Yamamura H, Watanabe T, Yamamoto T. Role of tyrosine phosphorylation of HS1 in B cell antigen receptor-mediated apoptosis. J Exp Med., vol.185(7): pp.1387-92., (1997) doi: 10.1084/jem.185.7.1387.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9104825/

10)Taniuchi I, Kitamura D, Maekawa Y, Fukuda T, Kishi H, Watanabe T. Antigen-receptor induced clonal expansion and deletion of lymphocytes are impaired in mice lacking HS1 protein, a substrate of the antigen-receptor-coupled tyrosine kinases. EMBO J., vol.14(15): pp.3664-3678. (1995) doi: 10.1002/j.1460-2075.1995.tb00036.x.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7641686/

11)van Rossum AG, Schuuring-Scholtes E, van Buuren-van Seggelen V, Kluin PM, Schuuring E. Comparative genome analysis of cortactin and HS1: the significance of the F-actin binding repeat domain. BMC Genomics., vol.6: no.15. (2005) doi: 10.1186/1471-2164-6-15.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC554100/

12)Ingley E, Sarna MK, Beaumont JG, Tilbrook PA, Tsai S, Takemoto Y, Williams JH, Klinken SP. HS1 interacts with Lyn and is critical for erythropoietin-induced differentiation of erythroid cells. J Biol Chem. 2000 Mar 17;275(11):7887-93. doi: 10.1074/jbc.275.11.7887.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10713104/

13)Samuels AL, Klinken SP, Ingley E. Liar, a novel Lyn-binding nuclear/cytoplasmic shuttling protein that influences erythropoietin-induced differentiation. Blood., vol.113(16): pp.3845-3856. (2009) doi: 10.1182/blood-2008-04-153452.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19064729/

14)長畑洋佑他 血液細胞の先祖が判明:それはアメーバ様単細胞生物だった
京都大学プレスリリース 2022年
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2022-12/221215_Kawamoto-c31a524170a541abb82c577fa3957772.pdf

15)Thomas SG, Calaminus SD, Auger JM, Watson SP, Machesky LM. Studies on the actin-binding protein HS1 in platelets. BMC Cell Biol., vol.8: no.46. (2007) doi: 10.1186/1471-2121-8-46.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17996076/

16)Liu, T., Cao, L., Mladenov, M. et al. Cortactin stabilizes actin branches by bridging activated Arp2/3 to its nucleated actin filament. Nat Struct Mol Biol 31, 801–809 (2024). https://doi.org/10.1038/s41594-023-01205-2
https://www.nature.com/articles/s41594-023-01205-2

17)Daly RJ. Cortactin signalling and dynamic actin networks. Biochem J. 2004 Aug 15;382(Pt 1):13-25. (2004) doi: 10.1042/BJ20040737.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1133910/

18)続・生物学茶話297:神経細胞のアクチンとその周辺 5:シューティン
https://morph.way-nifty.com/grey/2026/03/post-7bd2c0.html

19)Laura Pulido Cifuentes , Athamneh Athamneh, Efremov Y, Raman A, Kim T, Suter DM. A modified motor-clutch model reveals that neuronal growth cones respond faster to soft substrates. Mol Biol Cell., vol.35(4):ar47. (2024) doi: 10.1091/mbc.E23-09-0364.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38354034/

 

| | | コメント (0)

2026年3月23日 (月)

続・生物学茶話297:神経細胞のアクチンとその周辺 5:シューティン

シューティン(shootin)は2006年に鳥山らによって新規に報告されたタンパク質です(1)。細胞内のアクチン波(2)によって、まるでサッカーボールがシュートによってゴールに吸い込まれるように、神経突起に流れ込むことから命名されました。

神経細胞は昔から自発的に非対称性を獲得する細胞として知られています。すなわちシャーレで培養しても、発生過程の観察によっても、細胞体から非対称に樹状突起や軸索を生やして神経細胞として分化します。発見者たちはシューティンが非対称性を作るプロセスをわかりやすく説明してくれている(3)ので引用します---「偶然 shootin1が1本の突起に他の突起よりも多く濃縮した場合、shootin1は突起伸長を引き起こすのでその突起は他の突起より伸長すると考えられる。その結果、shootin1がその突起先端から細胞体に向かって拡散によって戻るのに要する時間が他の突起より延長する。そうするとその突起にとどまる shootin1の量が他の突起よりも増え,さらなる突起伸長(軸索形成)が引き起こされる。」(引用終了)。

また 「shootin1を過剰発現させた場合、shootin1が複数の突起に持続的に濃縮して軸索が複数形成された。一方,RNAi により shootin1の発現を抑制すると神経極性形成に遅れが生じた」と報告しています。しかし非対称性の誘導もさることながら、shootin 1 は軸索の伸長そのものに貢献しているわけで、そのメカニズム自体が重要です。さらに発信側だけでなく、受信側である樹状突起スパインの形成にも関与していると思われ、海馬における記憶形成などにも貢献している可能性があります(4)。

シューティンは神経細胞に特異的に発現するシューティン1aのほかに様々な臓器にも存在するシューティン1b、ゼブラフィッシュで発見されたシューティン1、2、3などが存在します(5、6)。それぞれのタンパク質の構造を図297-1に示します。図に示されているように、αヘリックスがからまりあう構造を形成するコイルドコイルドメインをひとつの分子あたり3~4個含んでおり、またすべての分子において、最もC末寄りにあるこのモチーフのすぐC末側にプロリンリッチ領域があるという共通の構造がみられます(図297-1)。

2971a

図297-1 哺乳類とゼブラフィッシュの Shootin の構造

ラット・マウス・ヒトのシューティン1a を比較すると、アミノ酸配列は 90%以上の残基について3種完全一致しておりホモロジーは高度です。しかもトータルのアミノ酸数は456個で3種で一致しています。ユニプロットで検索するとこのタンパク質についてはなんと2560もデータがあって、とても全部は見切れませんが、個人的にピックアップすると、

Microcaecilia unicolor アシナシイモリ 原始的な両生類

Leptobrachium leishanense ヒキガエル 両生類

Latimeria chalumnae シーラカンス 魚類

Gopherus agassizii (Agassiz's desert tortoise) リクガメ 爬虫類

Salvator merianae テグー 爬虫類

Otus sunia (Oriental scops-owl)コノハズク 鳥類

Falco tinnunculus チョウゲンボウ 鳥類

そして特筆すべきは

Caenorhabditis elegans 線虫 線形動物  120 and 252 amino acids

線虫のシューティンがどの程度研究されているのかよくわかりませんが、その進展によってはこのタンパク質の歴史が一気に塗り替えられる可能性があります。非常に多くの種類の魚類をはじめとする脊椎動物、特にシーラカンスにも存在するようなので、少なくとも脊椎動物には遍く存在するのでしょう。

2972a

図297-2 ラット・ヒト・マウスにおけるシューティン1a のアミノ酸配列

図297-3は鳥山らがこのタンパク質について最初に報告した論文に掲載されていた図です。ABは軸索・樹状突起両者への局在が示されています。Cはシューティン1a の海馬軸索成長円錐における局在を示していますが、Dはシューティン1bの臭球神経細胞軸索成長円錐への局在を示しています。神経細胞の種類によっては1bが1aに代わって役割を果たしているようです(1)。

2973a

図297-3 シューティン1は神経細胞に極性を付与する

軸索の成長円錐は内側から順に、チュブリンによる微小管、F-アクチン、シューティン1aという並びの構造になっていますが(2、図297-4A)、いちばん外側のシューティン1aの役割について、稲垣らは図297-4Bのように、ネトリン-1からはじまるシグナルカスケードによって、F-アクチンの伸長というエンジンと細胞接着因子というタイヤをつなぐクラッチがつながるという仮説をたてました。細胞骨格-クラッチ分子-細胞接着因子-細胞外マトリクスがつながるという考え方自体は昔からあるようです(7)。

2974b

図297-4 シューティンはクラッチ分子の機能を持つ

シューティン1a にL1-CAMやコータクチンとの結合部位が確認されることによって、図297-5のように、シューティン1aが F-アクチン-コータクチン-シューティン1a-L1CAM-細胞外マトリクス という並びの中で、実際にクラッチ分子としての役割を果たしているという証拠が蓄積されています(8)。このような結合部位はシューティン1bにもあるので、この分子が同様な役割を果たすのは当然と思われますし、成長円錐や樹状突起スパインのような動的な活動だけでなく、クラッチをつなぎっぱなしの係留という役割も考えられるので、様々な組織でシューティン1bがそれなりの役割を果たしているということは納得できます。

2975a

図297-5 シューティンとコータクチン、L1-CAM、F-アクチンとの関係

図297ー6は軸索の成長円錐だけでなく、樹状突起スパインにおいてもアクチンやコータクチンがシューティン1a と共同作業を行っていることを示唆しています(9)。これが本当なら、シューティン1aは記憶を形成するうえでも重要な役割を果たしていることになります。

2976a

図297-6 ラット海馬樹状突起におけるシューティン関連タンパク質の局在
(Kastian et al., 2021, (9))

 

参照文献

1)Toriyama M, Shimada T, Kim KB, Mitsuba M, Nomura E, Katsuta K, Sakumura Y, Roepstorff P, Inagaki N. Shootin1: A protein involved in the organization of an asymmetric signal for neuronal polarization. J Cell Biol., vol.175(1): pp.147-157. (2006) doi: 10.1083/jcb.200604160.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2064506/

2)奈良先端科学技術大学院大学 INAGAKI LAB 研究分野 新たな細胞内分子輸送機構:アクチン波
https://bsw3.naist.jp/inagaki/interests_4.html

3)稲垣直之,鳥山道則,島田忠之 神経極性形成と shootin1のフィードバックループ
生化学 第79巻 第8号 pp.800-802 (2007)
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2018/12/79-08-11.pdf

4)Kastian RF, Minegishi T, Baba K, Saneyoshi T, Katsuno-Kambe H, Saranpal S, Hayashi Y, Inagaki N., Shootin1a-mediated actin-adhesion coupling generates force to trigger structural plasticity of dendritic spines., Cell Rep., vol.35(7): no.109130. (2021)
doi: 10.1016/j.celrep.2021.109130.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34010643/

5)Urasaki A, Morishita S, Naka K, Uozumi M, Abe K, Huang L, Watase E, Nakagawa O, Kawakami K, Matsui T, Bessho Y, Inagaki N. Shootins mediate collective cell migration and organogenesis of the zebrafish posterior lateral line system. Sci Rep. 2019 Aug 21;9(1):12156. doi: 10.1038/s41598-019-48585-4.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6704158/

6)稲垣直之 Shootin1による細胞?基質間の力の発生を介した神経細胞の細胞移動,極性形成,軸索ガイダンスおよびアクチン波
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 159-168 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910159
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2019.910159/

7)Tim Mitchison and Marc Kirschner, Cytoskeletal dynamics and nerve growth., Neuron vol.1,?pp.761-772 (1988)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0896627388901249

8)R.F. Kastian, thesis 2019, Shootin1a Mediates an F-actin-adhesion Clutch for Dendritic Spine Formation and Synaptic Plasticity
奈良先端科学技術大学院大学学術リポジトリ
file:///C:/Users/morio/Downloads/R016140.pdf

9)Ria Fajarwati Kastian, Takunori Minegishi, Kentarou Baba, Takeo Saneyoshi, Hiroko Katsuno-Kambe, Singh Saranpal, Yasunori Hayashi, and Naoyuki Inagaki, Shootin1a-mediated actin-adhesion coupling generates force to trigger structural plasticity of dendritic spines,
2021, Cell Reports 35, 109130 (2021)
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2021.109130
https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S2211-1247%2821%2900469-1

 

| | | コメント (0)

2026年3月15日 (日)

続・生物学茶話296:神経細胞のアクチンとその周辺 4.ファシン

1975年 R.E.Kane はウニのアクチンを精製していましたが、 最後の精製段階までアクチンと結合していたタンパク質として、分子量58,000のファシンを単離しました。しかし彼はこのたんぱく質に名前をつけませんでした(1)。おそらくそのために、ほかの生物から同じタンパク質が精製されファシンと名付けられるまでに、なんと20年の歳月を要することになりました(2)。

ファシンは4つのβトレフォイルユニットと呼ばれるパーツからなり、それぞれのパーツが図296-1AのようにF-アクチンと結合します(3)。β-トレフォイル(trefoil)は3つのループが120°回転させると重なり合う3回対称のエレガントな構造をしています(図296-1B)。他のタンパク質ファミリーには見られないユニークな配列パターンをもつことから、β-トレフォイルファミリーは、突然変異によって新規に出現したと考えられていましたが、確かなことは分かっていませんでした。

東京工業大学(現 東京科学大学)地球生命研究所の Liam Longo と Shawn McGlynn は、イスラエルのHaifa大学の Rachel Kolodny と協力し、彼らに言わせれば自然界で最も美しい形のひとつであるβ-トレフォイル構造の起源を探索しました。研究グループは、β-トレフォイルの起源のヒントを得るために、何百万ものタンパク質配列との比較を行いました。ほとんどのタンパク質ファミリーはβ-トレフォイルとの類似性を示しませんでしたが、顕著な例外がありました。それが、免疫グロブリン様βサンドイッチタンパク質ファミリーです。β-トレフォイルの配列(緑)は、免疫グロブリン様βサンドイッチの配列(水色)と顕著に類似していました(4、図296-1B)。

2961a

図296-1 β-トレフォイルの構造

免疫グロブリン様βサンドイッチファミリーは地球上で生命が誕生した時期と識別できないくらい早い時期に出現したと考えらえている古いタンパク質ファミリーで、その起源は生命の共通祖先(LUCA)まで遡ることができると言われています。今回の結果から研究グループは、新たに出現したと思われた若いタンパク質であるβ-トレフォイルは、まるでフランケンシュタイン氏の作った怪物のように、古くから存在していた免疫グロブリン様βサンドイッチの部品を縫い合わして作られたのではないかという仮説を立てました(5)。

Sedeh らが提出しているヒトファシン1の構造モデルによると、ヒトファシン-1はふたつのローブ(lobe)からなり、それぞれF1/F2およびF3/F4のトレフォイルドメインで構成されています。それ以外に短いN末部、ローブ連結部、C末部があります(2)。

2962a

図296-2 ヒトファシン1の構造

Sedeh らによるファシンのF3/F4(ローブ2)のアミノ酸配列をヒト・ウニ・ショウジョウバエで比較した図を図290-3に示します(2)。ヒトの3つのアイソフォームも含めて、進化的に保存されている部分とされていない部分がはっきりと分かれています。このタンパク質はきっちり保存されていないと機能が果たされない部分と、構造的に自由な部分がはっきり分かれているようです。

ヒトファシンには3種類のアイソフォームがありますが、1は主に脳に、2は網膜特異的に、3は精巣特異的に分布しているようです。2は視細胞円板の形成に必要とされています(6)。3は精子の頭部に存在していて、受精の際の形態変化に関係していると考えられているようです(7)。ヒト以外の生物にもこれらのアイソフォームは存在すると思われますが、まだ研究が進んでいません。

2963a

図296-3 ファシン アイソフォームと進化的保存

ここで先に進む前に、F-アクチンの成長メカニズムについて少し復習します。そもそも仮足ができるためには、細胞表層近傍のF-アクチンが成長する必要がありますが、それは細胞膜側からG-アクチンが結合するのか、それとも細胞内部側から結合するのか、どちらでしょうか? 答えは細胞膜側から結合するというのが正解のようです(8)。

WASPによって活性化されたArp2/3は単量体アクチンを既存のF-アクチンに枝分かれのような形で反矢じり端からつぎ足すことができます(図296-4)。このような枝分かれ構造が数多くできることによってF-アクチンは細胞内に網目状の構造をつくることができ、これがいわゆる細胞骨格となります。この構造を基盤として、まず葉状仮足(ラメリポディア)が形成され(図296-4)、さらにファシンなどのはたらきによって糸状仮足(フィロポディア)が形成されます(9、図296-5)

2964a

図296-4 アクチンは細胞膜に対してどちらの方向から重合するか

2965a

図296-5 フィロポディア(糸状仮足)におけるFアクチンと関連タンパク質

最近 Hardin らはファシンが軸索の成長に重要な枠割を果たしていることを示唆する結果を発表しました(10)。図296-6はラット海馬ニューロンの培養系ですが、ファシンは特に軸索の先端部にアクチンとかぶって多く見られます(矢印およびカラーの二重染色図)。ただし多くの樹状突起にもみられます(二重矢印)。こちらは必ずしも先端部に局在しているわけではないので、神経伝達に必要なフィロポディアの形成にアクチンのバンドリングという形で関与するものと思われます。Hardin らは哺乳類のファシンに相当するショウジョウバエの Singed をもたない突然変異体を分離し、これが感覚運動機能を欠くことを示しました。そしてキノコ体だけでファシンを発現させると、キノコ体の形態が回復し感覚運動機能が正常になるとのことで(10)、ファシンが脳の中心的機能の発現に欠かせないことが示唆されています。

2966b

図296-6 ニューロンの成長とファシン

 

参照文献

1)Kane RE. Preparation and purification of polymerized actin from sea urchin egg extracts. J Cell Biol., vol.66(2): pp.305-315.(1975) doi: 10.1083/jcb.66.2.305.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2109559/

2)Sedeh RS, Fedorov AA, Fedorov EV, Ono S, Matsumura F, Almo SC, Bathe M. Structure, evolutionary conservation, and conformational dynamics of Homo sapiens fascin-1, an F-actin crosslinking protein. J Mol Biol., vol.16;400(3): pp.589-604. (2010)
doi: 10.1016/j.jmb.2010.04.043.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7141155/

3)Scholarly Community Encyclopedia: Fascom
https://encyclopedia.pub/entry/6530

4)Longo LM, Kolodny R, McGlynn SE (2022) Evidence for the emergence of β-trefoils by ‘Peptide Budding’ from an IgG-like β-sandwich.
PLoS Comput Biol 18(2): e1009833.
https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1009833
https://journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371/journal.pcbi.1009833

5)東京科学大学 地球生命研究所(ELSI)HP:
新たなタンパク質ファミリーは、古いタンパク質の継ぎはぎから生まれるのかもしれない
https://wpi.elsi.jp/ja-JP/news_events/highlights/2022/frankensteins_protein.html

6)Wikipedia: FSCN2
https://en.wikipedia.org/wiki/FSCN2

7)Benjamin Tubb, David J. Mulholland 1, Wayne Vogl, Zi-Jian Lan, Craig Niederberger, Austin Cooney, Joseph Bryan, Testis Fascin (FSCN3): A Novel Paralog of the Actin-Bundling Protein Fascin Expressed Specifically in the Elongate Spermatid Head., Exp. Cell. Res., vol.275. pp.92-109 (2002)
https://doi.org/10.1006/excr.2002.5486
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014482702954868?via%3Dihub

8)千住洋介・末次志郎 Arp2/3複合体とアクチン重合 細胞生物学用語 (細胞生物学会)
https://www.jscb.gr.jp/experiment/glossary/experiment_glossary-82/

9)荒牧慎二 電子顕微鏡法と画像の統計的解析を用いた細胞運動に関わる糸状仮足の成長メカニズム解明 九州工業大学リポジトリ 学位論文(2016)
file:///C:/Users/morio/Downloads/jou_k_315-2.pdf

10)Hardin KR, Penas AB, Joubert S, Ye C, Myers KR, Zheng JQ. A Critical Role for the Fascin Family of Actin Bundling Proteins in Axon Development, Brain Wiring and Function. bioRxiv [Preprint]. 2025 Jun 10:2025.02.21.639554. doi: 10.1101/2025.02.21.639554. Update in: Mol Cell Neurosci. 2025 Sep;134:104027. doi: 10.1016/j.mcn.2025.104027.

 

| | | コメント (0)

2026年3月 5日 (木)

続・生物学茶話295:神経細胞のアクチンとその周辺 3.ADF/コフィリン

細胞がある形態をとるためには、家に柱や梁があるようにささえが必要です。アクチンはその柱や梁の役割を果たすポリマー形成分子として進化の非常に早い時期から生物にとって欠かせないタンパク質でした。そしてそのアクチンによる構造形成を制御する因子としてADF(actin depolymerozing factor)は1980年に(1)、コフィリン(cofilin) は1984年に発見されました(2)。ADFとコフィリンは遺伝子構造・アミノ酸配列・分子としての機能がきわめて類似していることから、近縁のそのほかの分子群と合わせてADF/コフィリンファミリーを形成しています。

ではそれらのアクチンを加工する分子としてのADF/コフィリンのファミリーは分子進化の観点からみると、いつの時代からあるのでしょう。そして現在はどのような生物が保有しているのでしょう。ユニバーサルな分子なのでしょうか。

2020年に Akil らは Asgard archaea という古細菌に、ADF/コフィリンのファミリーに含まれると考えられるタンパク質が存在すると報告しました(3)。真核生物については Mciver and Hussey が2002年にまとめています(3)。ドレブリンなどに比べるとADF/コフィリンファミリーのタンパク質群は古くから多数の報告があり、遺伝子構造まで詳しく調べられています。ピックアップして生物の種類・分子の種類・イントロンの数を並べると次のようになります(4)。ヒトやそのほかの哺乳類が持つこのファミリーのたんぱく質は、非筋肉型コフィリン1、筋肉型コフィリン2、ADF(Actin depolymerizing factor)の3種類ですが、シロイヌナズナには6種類が存在し、一般的に植物は多くの分子種を持っているようです(4)。植物・粘菌・酵母・昆虫・ヒトに存在することから、このファミリーはユニバーサルであるといえます。

シロイヌナズナ  ADF1~ADF6  2
イネ       ADF1~ADF2    2
粘菌       UNC60   4
タマホコリカビ  DCOF1~2    1(DCOF1) & 0(DCOF2)
出芽酵母     COF1    1
分裂酵母     ADF1    0
ショウジョウバエ  twinstar   2

ヒト       cofilin 1    3
         cofilin 2    4
         ADF    3

分子系統樹も報告されています(植物は省略 4、図295-1)。

2951a

図295-1 ADF/コフィリンファミリーの分子系統樹
コクシジウムというのは多細胞生物に寄生する原生動物です

ADF/Cofilin 分子の立体構造は、系統上かけはなれた生物においても非常に類似しています(4、図295-2)。これは切断の対象となるアクチン分子が非常に強く進化的に保存された構造を持つので、当然といえば当然です。ただシロイヌナズナではC末のαヘリックスが失われていることが気になりますが、これにどのような意味があるのかはわかりません。

2952a

図295-2 ADF/コフィリンの立体構造

次に、ADF/Cofilin の機能について図295-3(5)を使って解説します。

2953a

図295-3 アクチン線維の形成とADF/Cofilinの役割

アクチンモノマーはGアクチン(globular actin)と呼ばれ、Gアクチンの濃度がある程度上昇すると3量体が形成され、Mgイオンの存在下でさらに重合が進んで繊維状の構造が形成されます。この状態のポリマーをFアクチン(filamentous actin)と呼びます。以下の解説については参照文献(5~7)を参考にしました。

①Gアクチンは通常ATPまたはADPと結合している状態で存在しますが、ATPと結合した状態のGアクチンが重合すると、2秒以内に加水分解反応が起きてATPはADPとなります。このときリン酸はすぐにはアクチンと解離せず数分結合した状態が保たれます。この結果図の赤色の部分はATP-アクチン、橙色の部分はADP-Pi-アクチンとなり、F-アクチンは左右(新旧)で異なる構造をとることになります。左端を反矢尻端(barbed end)、右端を矢尻端(pointed end)と呼びます。矢尻というのは矢の後端ではなく先端です。

②③ATP-アクチンの重合・脱重合が拮抗するGアクチン濃度は0.1μM、ADP-アクチンの重合・脱重合が拮抗するGアクチン濃度は0.6μMなので、リン酸(Pi)が離れたADP-アクチンはGアクチン濃度がO.6μM以下の場合脱重合します。そして0.1μM~0.6μMの場合F-アクチンは左端では重合し、右端では脱重合するという、いわゆるトレッドミル(ルームランナー)状態になります。

④コフィリンはADP-アクチンと親和性があり結合します。この結果コフィリンが結合した部分のF-アクチンは構造が変化します。

⑤⑥コフィリンが結合している部分と結合していない部分は構造が異なり、その連結が不安定になるためそれぞれの部分ごとに切断されます。

⑦コフィリンが結合しているF-アクチンはLife-Actやファロイジンで検出できないことがあります。

G-アクチン濃度やコフィリン濃度に応じてF-アクチンは解離してG-アクチンとなります。細胞の形態を再構築し、例えば樹状突起に新たなスパインをつくろうとするときには素材となるG-アクチンが豊富に存在することが必要で、これは新たな合成を待てない場合もあります。したがってF-アクチンをG-アクチンに変換する機能を持つADF/コフィリンの役割は大きいのですが、この分子群は条件によってはF-アクチンを安定化する場合もあります。

記憶という現象が樹状突起におけるスパインの形態変化に依存しているとすれば、そのエンジンはアクチンなので、アクチンの重合を制御するシステム(アクセル・ブレーキ・ハンドル)は極めて重要な意味をもつことになります。また神経細胞の成長も形態変化のひとつであり、アクチンがエンジンであることに変わりはありません。

Hyltonらはラット海馬の神経細胞を培養し、仮足におけるアクチン線維と関連タンパク質を電子顕微鏡と染色によって解析しました(8)。これはすでによく知られていることですが、仮足のF-アクチンをファロイジンで染色すると、図295-4aのように葉状仮足も糸状仮足もよく染まります。しかしF-アクチンに結合するタンパク質であるコフィリンとファシンは、それぞれほぼ糸状仮足の基部と先端部に住み分けているような結果が得られました(図295-4d、e)。

2954a

図295-4 ニューロンの成長円錐における糸状仮足のアクチン関連タンパク質-ファシンとコフィリン

ファロイジン染色では葉状仮足(ラメリポディア)も盛大に染まっていますが(図295-a)、ファシンやコフィリンはかなり糸状仮足(フィロポディア)のF-アクチンと同じ位置に偏在しているようにみえます(図295-d、e)。葉状仮足にはほとんどみられません。

Hylton らは高倍率の電子顕微鏡を用いて、糸状仮足のコフィリンを含まないアクチン線維とコフィリンが結合したコフィラクチン線維の比較を行いました。

2955a

図295-5 電子顕微鏡でみるF-アクチンとコフィラクチンの比較と構造モデル

コフィリンを含まないアクチン線維(F-アクチン)は、かなり分子構造のでこぼこがあるスクリュー型で回っている感じがよくわかります。その螺旋のピッチは37nmです(図295-5a)。それに対してコフィラクチンは、コフィリンがでこぼこの穴にはまる感じで結合していて、しめ縄型ともいえるスムースな形態です。ピッチは短くなっていて27nmになります。そして隣の線維とはずれた配置になっています(図295-5b)。

コフィラクチンの分子モデルは図295-6b にあります。コフィリンがF-アクチンのまわりを覆うように結合しているのに対して、ファシンはF-アクチンの線維を架橋するように結合します(図295-6a)。コフィラクチンの場合図295-6bのように、ファシンが線維間に入り込むスペースがないので架橋することはできません。

2956a

図295-6 ファシンによる架橋の可否

Hylton らはフィロポディアにおけるアクチン線維束の構造について図295-7のようなモデルを提出しています。左が根元で右が先端です。根元はコフィラクチンで、先端はファシンで束ねられたF-アクチンです。図295-4をみるとコフィリンとファシンが共存している移行部分がありそうなので、そのあたりの中間的構造も示してあります(図295-7b)。コフィラクチンがどのような構造によって束ねられているかははっきりしていないようで、彼らも?をつけています。未知の架橋因子があるのかもしれません。

2957a

図295-7 糸状仮足におけるアクチン線維束のモデル

 

参照文献

1)J. R. Bamburg, H. E. Harris AND A. G. Weeds, PARTIAL PURIFICATION AND CHRACTERIZATION OF AN ACTIN DEPOLYMERIZINNG FACTOR FROM BRAN., FEBS lett., vol.121, no.1, pp.178-182 (1980).
https://doi.org/10.1016/0014-5793(80)81292-0
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0014579380812920

2)Nishida E, Maekawa S, Sakai H. Cofilin, a protein in porcine brain that binds to actin filaments and inhibits their interactions with myosin and tropomyosin. Biochemistry. 1984 Oct 23;23(22):5307-13 (1984)
https://doi.org/10.1021/bi00317a032
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6509022/

3)Caner Akıl et al., Insights into the evolution of regulated actin dynamics via characterization of primitive gelsolin/cofilin proteins from Asgard archaea., Proc.NAS.USA, vol.117, no.33, pp.19904 - 19913 (2020)
https://doi.org/10.1073/pnas.2009167117
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2009167117

4)Maciver SK, Hussey PJ. The ADF/cofilin family: actin-remodeling proteins. Genome Biol. vol.3(5): reviews 3007. (2002)
https://link.springer.com/article/10.1186/gb-2002-3-5-reviews3007
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC139363/

5)James R. Bamburg J.R.; Minamide, L.S.; Wiggan, O.; Tahtamouni, L.H.;Kuhn, T.B.
Cofilin and Actin Dynamics: Multiple Modes of Regulation and Their Impacts in
Neuronal Development and Degeneration.
Cells vol.10, 2726. (2021)
https://doi.org/10.3390/cells10102726

6)若林健之,村上健次 アクチンのフィラメント構造と重合機構―重合によるATPase活性化のメカニズム― 生物物理 vol.1(6),pp.256-259(2011)
https://doi.org/10.2142/biophys.51.256
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/51/6/51_6_256/_article/-char/ja/

7)ウィキペディア: アクチン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3

8)Hylton, R.K., Heebner, J.E., Grillo, M.A. et al. Cofilactin filaments regulate filopodial structure and dynamics in neuronal growth cones. Nat Commun 13, 2439 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-30116-x
https://www.nature.com/articles/s41467-022-30116-x#citeas

 

 

 

| | | コメント (0)

2026年2月22日 (日)

続・生物学茶話294:神経細胞のアクチンとその周辺 2.ドレブリン

ドレブリンは白尾らによって、発生過程のニワトリ視蓋のタンパク質を解析する過程で、発見されたタンパク質です(1)。白尾(図294-1)によればドレブリン drebrin とは「developmentally regulated brain protein」の略称だそうです(2)。このタンパク質は哺乳類にも存在し、主として出生前や出生直後に発現するEタイプと、主として成体で発現する少し分子量が大きいAタイプが存在します(3、図294-1)。ドレブリンEは移動中神経細胞の細胞体や軸索の成長円錐に多く集積しているのに対して、ドレブリンAは樹状突起スパインに多く集積するとされています(3)。

2941b

図294-1 幼若型(胚型)および成熟型(成体型)ドレブリンのドメイン構造

ドレブリンにはいくつかのアイソフォームがありますが、遺伝子はひとつです。図494-2にはそれらのcDNAが示してあります。アイソフォームは選択的スプライシングによってつくられます。ニワトリには3つのアイソフォームE1、E2、Aがあり、ラットやヒトには2つのアイソフォームEとAがあります(4、図294-2)。Eは胚型または幼若型(embryo)、Aは成体型または成熟型(adult)を意味します。英語表記に従って、今後は胚型・成体型と言うことにします。

A型は挿入配列(哺乳類では ins2、ニワトリでは ins1+ins2)を含んでいます(図294-2)。この挿入配列よりN末側は保存性が高い領域になっていますが(conserved 1a および conserved 1b)、C末側は哺乳類とニワトリとでかなり違いがあります。挿入配列の部分だけを比べると哺乳類よりニワトリの方が長いにもかかわらず、哺乳類では点線の部分(V1領域)にニワトリにはない別個の配列が追加されているので、全体のサイズは哺乳類の方が大きくなっています。

2942a

図294-2 成体型ドレブリンcDNA 鳥類と哺乳類の比較

文献(4)に報告されている、さまざまな動物における挿入配列部分(アダルトスペシフィックエクソン=ASE)のアミノ酸の比較を図294-3に示しました。驚くべきことにラット・マウス・ヒトで ins2 は完全に一致しています。ニワトリも46残基中4残基のみの相違です。この保存性の高い配列が成体の脳における樹状突起スパインの形成におそらく関係していて、また幼若期には存在すべきでない領域だと思われます。ins1の部分も哺乳類のなかでは非常によく保存されていますが、ニワトリではかなり異なっています。ニワトリにおいて ins1 がどんな役割を果たしているかは不明です。

2943a

図294-3 胚型タンパク質で脱落しているインサーション配列
に相当する部分のアミノ酸配列: 動物による比較

スラピャンらは成体型ドレブリンの ins 部分にはアクチン結合能があり、コフィリンによるF-アクチン切断を阻害する機能があるとしています(5)。また彼らのモデルによると、成体型ドレブリンには胚型ドレブリンよりアクチンのバーブドエンド(矢尻側)をブロックする機能(キャッピング)があるとしています(5、図294-4)。このようなF-アクチンの構造を保護する機能によって、ドレブリンAは樹状突起スパインの安定化、ひいては記憶の固定に寄与していると思われます。

2944a

図294-4 ドレブリンによるF-アクチンのキャッピングについての模式図

ドレブリンAは樹状突起スパインを安定化する機能があると述べましたが、ドレブリンAは新生仔の時代にすでにかなり合成されているので、そんな時にスパインが固定化されてしまっては困ります。それについてはドレブリンをスパインから樹状突起本体に収納するというメカニズムが用意されています。これはドレブリンエクソダス(エクソダス=集団移動、ユダヤ人がエジプトから集団で脱出したことを意味する)と呼ばれています。ドレブリンエクソダスは神経細胞にグルタミン酸が添加されることによって実現します(6、7、図294-5)。このメカニズムはNMDA型グルタミン酸受容体を介して発動されるようです。

個人的にはエクソダスという言葉は、細胞から出ていくようなニュアンスが付きまとうので適切でないと思います。マスリターンあるいはスタンバイ化っていう感じでしょうか。

2945a

図294-5 ドレブリンエクソダス グルタミン酸の添加によって、スパインに存在したドレブリンが樹状突起内部に収納される(一番右側の図)

ドレブリンAのノックアウトマウスでは神経細胞にもドレブリンEが発現するため解析は難しいようですが、恐怖条件付け、LTP、スパインの形態、NMDA受容体および代謝型グルタミン酸受容体が関係するLTD=Long-Term Depression に異常がみられるなどの報告があります(3、8)。またドレブリンAEのダブルノックアウトマウスも飼育可能ですが、嗅覚に異常がみられるようです(9)。

 

参照文献

1)Tomoaki Shirao, Kunihiko Obata, Two Acidic Proteins Associated with Brain Development in Chick Embryo., J.Neurochem., vol.44, pp.1210-1216 (1985)
https://doi.org/10.1111/j.1471-4159.1985.tb08745.x
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.1985.tb08745.x

2)白尾智明 ドレブリンと歩んだ神経化学の道 神経化学 vol.64, pp.87-73 (2025)
https://neurochem-j.jp/10.11481/topics240/data/index.pdf

3)脳科学辞典 ドレブリン
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%B3

4)Tomoaki Shirao, Yuko Sekino Editors Advances in Experimental Medicine and Biology 1006
DrebrinFrom Structure and Function to Physiological and Pathological Roles
Springer Japan 2017 ISBN 978-4-431-56548-2  DOI 10.1007/978-4-431-56550-5

5)Srapyan S, Mkrtchyan M, Berlemont R, Grintsevich EE. Functional Differences Between Neuronal and Non-neuronal Isoforms of Drebrin. J Mol Biol. Vol.437(9): no.169015. (2025) doi: 10.1016/j.jmb.2025.169015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39971265/

6)東京大学大学院 農学生命科学研究科HP 記憶メカニズム研究や中枢神経系疾患の治療薬開発に有用なヒト神経細胞の作製に成功 ――転写因子で分化誘導されたヒトiPSC由来神経細胞で 迅速な樹状突起スパイン形成とシナプス機能の成熟化を達成
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20230324-1.html

7)Waka Lin, Shusaku Shiomoto, Saki Yamada, Hikaru Watanabe, Yudai Kawashima,Yuichi Eguchi, Koichi Muramatsu, and Yuko Sekino, Dendritic spine formation and synapse maturation in transcription factor-induced human iPSC-derived neurons., iScience vol.26, no.106285 (2023)
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.106285
https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S2589-0042%2823%2900362-0

8)Yasuda H, Kojima N, Hanamura K, Yamazaki H, Sakimura K and Shirao T., Drebrin Isoforms Critically Regulate NMDAR- andmGluR-Dependent LTD Induction.
Front. Cell. Neurosci. vol.12:330. (2018)
doi: 10.3389/fncel.2018.00330
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30349460/

9)Yuki Kajita, Nobuhiko Kojima, Tomoaki Shirao, A lack of drebrin causes olfactory impairment., Brain Behav. vol.14: e3354 (2024)
https://doi.org/10.1002/brb3.3354
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38376048/

 

 

| | | コメント (0)

2026年2月 3日 (火)

続・生物学茶話292:記憶の固定をめぐって 4.BDNFとTrk

BDNF(brain-derived neurotrophic factor)はバルデらによって1982年に発見・精製された神経成長因子です(1、2、図292-1)。神経成長因子としては1956年にすでにNGF(nerve growth factor)がモンタルチーニとコーエンによって発見されており、彼らはノーベル賞を受賞しました(3)。しかし2番目となるBDNFの遺伝子配列が解明されたことがきっかけとり、1990年代になってさらにニューロトロフィン3およびニューロトロフィン4が発見されました(4)。

NGFをニューロトロフィン1、BDNFをニューロトロフィン2と呼ぶという命名法はまだ普及していないようですが、これらの因子の遺伝子は類似していて進化的に類縁関係があり、ひとつの分子群としてニューロトロフィンファミリーを形成しています(5)。これらのニューロトロフィンは低親和性神経栄養因子受容体(p75)と高親和性ニューロトロフィン受容体(Trk=トラック)という2種類の受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達します(図292-1)。

2921a

図292-1 バルデらが発見したBDNF(brain-derived neurotrophic factor)

p75はすべてのニューロトロフィンと結合しますが、高親和性受容体にはTrkA, TrkB, TrkC の3種類があり、TrkAにはNGFが、TrkBにはBDNFとNT4が、TrkCにはNT3がそれぞれ高親和性に結合します(6、図292-2)。またTrkA, BはNT3とも低親和性に結合します。Trkはチロシンキナーゼ活性を持ちますが、それゆえにTrkと命名されたのではなく、もともとは tropomyosin receptor kinase という名前で、トロポミオシンの受容体としてクローニングされていたという経緯があります(6)。

Trk はABCともに受容体型チロシンキナーゼであり、細胞内の部位にキナーゼドメインを持っています。細胞外には2つのシステインリッチクラスターとそれに挟まれた3つのロイシンリッチリピート、さらに2つのイムノグロブリン様ドメインがあります。細胞膜寄りのイムノグロブリン様ドメインにリガンドである各ニューロトロフィンが結合しますが、リガンドが結合することによって受容体が2量体となり、細胞内のチロシン残基を相互にリン酸化します(図292-2)。リン酸化されたチロシン残基がシグナル伝達の起点となります。つまりこの部分に接触した分子がコンフォメーションチェンジを起こしてシグナルカスケードが起動されます。

2922a

図292-2 ニューロトロフィンとその受容体Trk

NGFのイメージが強いので、一般的にニューロトロフィンは神経細胞のサバイバルに関与していると思われがちですが、実はBDNFは生存因子としての機能は強くなく、むしろ成長因子、特に樹状突起を発達させるために重要であることが明らかになってきました(2)。実際脳が形成される過程の胎児期にはBDNFの濃度は極めて低く、出生後急増します(7、図292-3)。一方ニューロトロフィン3やニューロトロフィン4は生存因子としての機能を持つようです。

2923a

図292-3 ラット脳におけるニューロトロフィンmRNAの出生前後における変動

BDNFは図292-4の上部に示したような、17アミノ酸のシグナルペプチドおよび111アミノ酸の加工前配列を含む形(プリプロタンパク質)で生まれます。他の分泌型ペプチドと同様にシグナルペプチドによって小胞体に導かれ、シグナルペプチド切断後に小胞体内で分子内SS結合(システインノット)などが形成されて正しい3次元構造を持つタンパク質に成熟します。このときプロ配列(図292-4の赤い部分)はフォールディングを正しく行うための分子シャペロンの役割を果たします。

このあとプロ配列が切断され、通常ならBDNF(緑の部分)が細胞外に分泌されるわけですが、BDNFの場合プロBDNFも分泌されているのではないかという疑問が最近までありました。現在では図292-4に示されているように、興奮性ニューロンは通常のBDNFと切断されたプロペプチドの両者を分泌し、それぞれ別の生理機能をもって活動するということに落ち着いたようです(2、8)。ただプロペプチドには66番目のバリンがメチオニンに置き換えられた分子が存在し、それはまた別の機能を持っているようで、まだまだ詳しい分析が必要だと思われます(2、8)。

BDNFに限らず、プロペプチドが細胞外に出てきて何らかの機能を果たしている可能性は置き忘れられた研究領域なのかもしれません。

2924a

図292-4 BDNF:Brain-derived neurotrophic factor

BDNF-TrkB のリガンド-レセプターシステムはシナプス前部(軸索)およびシナプス後部(樹状突起)の両者に存在しますが(4)、Lin らはマウス海馬におけるコンディショナルノックアウトシステムによって、プレシナプティックなBDNF-ポストシナプティックなTrkBシステムを壊すと長期増強の形成が、ポストシナプティックなBDNF-プレシナプティックなTrkBシステムを壊すと長期増強の維持が損なわれることを示しました(9)。このことはBDNF-TrkBシステムが神経可塑性・記憶の形成と維持に深く関わっていることを示しています。もちろん海馬や周辺組織には強い局在が見られます(2、図292-5)。

2925a

図292-5 マウス脳海馬周辺におけるBDNFの局在(緑色蛍光タンパク質=GFPによる可視化)

もちろん神経可塑性や神経細胞の成長は海馬だけに限られてはいませんし、その他の機能にも関連してニューロトロフィンは様々な組織に存在します。また齧歯類と猿類でも局在は異なります。ヘルナンデス-デルカノらが調査した結果を図292-6に示します。

BDNFについて言えば齧歯類では視床にはほとんどみられないのに、猿類でははっきりみられるという違いがあります。NGFについても齧歯類では線条体ではほとんどみられないのに、猿類でははっきりみられます。脳は他の臓器と違って脊椎動物あるいは哺乳類のなかでも、進化のスケールで言えば、極めて短期間で大きな変化を遂げているので、大きな相違があっても不思議ではありませんが、なぜそのような相違があるのかはさらなる研究が必要です。

2926a

図292-6 成体齧歯類およびマカク猿脳におけるニューロトロフィンタンパク質の濃淡分布

 

参照文献

1)Y A Barde, D Edgar, H Thoenen, Purification of a new neurotrophic factor from mammalian brain., The EMBO journal vol.1 (5), pp.549-553 (1982)
doi: 10.1002/j.1460-2075.1982.tb01207.x.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7188352/

2)Yves-Alain Barde The physiopathology of brain-derived neurotrophic factor Physiol Rev., vol.105(4), pp.2073-2140 (2025)
doi: 10.1152/physrev.00038.2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40490314/.

3)ウィキペディア:神経成長因子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E6%88%90%E9%95%B7%E5%9B%A0%E5%AD%90

4)脳科学辞典:神経栄養因子
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E6%A0%84%E9%A4%8A%E5%9B%A0%E5%AD%90

5)Finn Hallbook, Carlos F. Ibanez, Hakan Persson., Evolutionary studies of the nerve growth factor family reveal a novel member abundantly expressed in xenopus ovary., Neuron vol.6, issue 5, pp.845-858 (1991)
https://doi.org/10.1016/0896-6273(91)90180-8
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0896627391901808

6)脳科学辞典:高親和性ニューロトロフィン受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%AB%98%E8%A6%AA%E5%92%8C%E6%80%A7%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

7)Carlos Hernandez-del Cano, Natalia Varela-Andres, Alejandro Cebrian-Leon and Ruben Deogracias, Neurotrophins and Their Receptors: BDNF's Role in GABAergic Neurodevelopment and Disease., Disease. Int. J. Mol. Sci., vol.25, no.8312. (2024)
https://doi.org/10.3390/ijms25158312
https://www.mdpi.com/1422-0067/25/15/8312

8)Mizui T, Ohira K, Kojima M. BDNF pro-peptide: a novel synaptic modulator generated as an N-terminal fragment from the BDNF precursor by proteolytic processing. Neural Regen Res. vol.12(7): pp.1024-1027 (2017)
https://doi.org/10.4103/1673-5374.211173
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28852376/

9)Lin PY, Kavalali ET, Monteggia LM. Genetic Dissection of Presynaptic and Postsynaptic BDNF-TrkB Signaling in Synaptic Efficacy of CA3-CA1 Synapses. Cell Rep. vol.24(6): pp.1550-1561 (2018) doi: 10.1016/j.celrep.2018.07.020.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30089265/

 

 

| | | コメント (0)

2026年1月20日 (火)

続・生物学茶話291:記憶の固定をめぐって 3.14-3-3 タンパク質

先に述べたように(1、2)、山内らはCaイオン、カルモデュリン、ATPの存在下で芳香族アミノ酸を水酸化する酵素CAMKIIを発見し、これこそが神経伝達物質合成のトリガーであるとして、意気揚々と1980年に論文を発表しましたが、その後精製倍率の高いトリプトファン水酸化酵素を使用すると、CAMKIIの活性を測定できなくなることが判明しました。これはおそらく精製することによって、酵素サンプルに不純物として含まれていた活性化因子が失われたことによると思われ、彼らは実際酵素をさらに精製すると失われる、そして芳香族アミノ酸がリン酸化されたのちに作用する因子が存在することを突き止めました。山内らはこれを説明するために図291-1のようなスキームを考えていました。

2911a

図291-1 カムキナーゼIIと活性化因子Aによる芳香族アミノ酸の活性化機構

しかし山内らはその後活性化因子Aについての研究を後回しにしていました。すると磯部らが自分たちが研究している14-3-3タンパク質が活性化因子Aと同じものではないかという連絡がきました。実際反応のプロセスやアミノ酸組成を調べると極めて類似していたので、急いで速報誌に共著で発表しました(3)。その後磯部らはこの因子のアミノ酸配列などを調査し、14-3-3タンパク質にはαからηの7種類があり、全てトリプトファン水酸化の活性化に有効であることを確かめました(4)。さらに多くの研究者がアミノ酸配列などを詳しく調べて、14-3-3タンパク質が植物も含めてユニバーサルな分子であり、情報伝達やタンパク質リン酸化の調節に広汎に作用していることがわかりました(5、6)。

14-3-3タンパク質はホモまたはヘテロダイマーとして機能し、リン酸化したタンパク質をゆりかごのようにかかえることができます。どのようなリン酸化の様式に反応するかは、図291-2に示したような3つのモードがあります。リン酸化したタンパク質を抱え込むことによって、活性化したり、安定化したり、担体となって移動させたりなど様々な機能を果たします(7、8、図291-2)。

2912a

図291-2 14-3-3 タンパク質の形態と機能

脳科学辞典によると9つのアイソフォームがあると書いてありますが(8)、実はαはβのリン酸化型であり、δはζのリン酸化型なので7つのアイソフォーム(β、γ、ε、η、τ、ζ、σ)とした方がよいと思われます(9、図291-3)。Θとτは同じ物質に2つの言葉を使っているわけで、紛らわしい状況が続いています。いずれにしても ホモダイマー、ヘテロダイマー、リン酸化の状態、それぞれで機能が異なっているとすると研究は大変です。

2913a

図291-3 14-3-3 タンパク質のアイソフォーム

14-3-3 というタンパク質は、上記7種類のアイソフォームがおそらくすべての脊椎動物に存在します。これはめずらしいことだと思います。図291-4にN末近傍のアミノ酸配列を示します。植物も含めて保存性は高いと思われます。これはN末近傍だけではなく全体についても同様に保存性は高いといえます(10)。ほぼすべての場合についてN末はメチオニンで削除されていません。

Jerlらは非常に多くの生物についてこのたんぱく質の系統を調査しました(10)。図291-5にその一部のみを示しますが、驚くべきことに哺乳類の隣に海綿があったり、カエルの隣にハエがあったりして、14-3-3タンパク質が広い範囲にわたって進化的保存性の高いタンパク質であることが示されています。単細胞生物、扁形動物、植物にも存在します。特に植物では巨大なグループを形成していて、まだまだ未知の領域です。細菌や古細菌ではみつかっていないようですが、これは多分まだみつかっていないという可能性が高いと思います。特にどんな古細菌でみつかるかというのが真核細胞への進化の道程を知るうえで重要になります。ただこの研究以来、植物以外で広汎な調査が行われた形跡がないのは残念。

2914a

図291-4 様々な生物における 14-3-3 タンパク質のN末近傍のアミノ酸配列 赤:完全一致 青:保存性が高い部分 (一部のみ 文献10より)

2915a

図291-5 14-3-3タンパク質の系統図(一部のみ 文献10より)

最近では主に脳神経疾患との関係で14-3-3タンパク質が研究されているようです。たとえばこのタンパク質の産生が低下すると、タウタンパク質のリソソームでの代謝が支障をきたしてアルツハイマー型認知症の引き金になるとか、筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてはいくつかのタンパク質のミスフォールディングに関与しているとか、また14-3-3タンパク質はα-シヌクレインと結合するのでパーキンソン病にも関与しているという報告もあります(11、図291-6)。これらの場合にも、それぞれのアイソフォームが特異的に関与していることが示唆されています(11)。

2916a

図291-6 脳神経系疾患との関連

それにしても moonlight protein(11) とはね  (副業という意味?)

個人的にはシンプルにクレセント・プロテインの方が良いと思いますが 🌙🌙🌙

参照文献

1)続・生物学茶話290:記憶の固定をめぐって 2.芳香族アミノ酸水酸化酵素
https://morph.way-nifty.com/grey/2026/01/post-4bebb5.html

2)記憶と学習をささえる分子 カムキナーゼⅡの発見
https://morph.way-nifty.com/grey/2026/01/post-3903ae.html

3)Tohru Ichimura, Toshiaki Isobe, Tsueno Okuyama, Takashi Yamauchi, Hitoshi Fujisawa Brain 14-3-3 protein is an activator protein that activates tryptophan 5-monooxygenase and tyrosine 3-monooxygenase in the presence of Ca2+,calmodulin-dependent protein kinase II.,
FEBS lett., vol.219, pp.79-82 (1987)
https://doi.org/10.1016/0014-5793(87)81194-8
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1016/0014-5793(87)81194-8

4)Toshiaki Isobe, Tohru Ichimura, Toshiyuki Sunaya, Tsuneo Okuyama, Nobuhiro Takahashi, Ryozo Kuwano, Yasuo Takahashi Distinct forms of the protein kinase-dependent activator of tyrosine and tryptophan hydroxylases vol.217, pp.125-132 (1991)
https://doi.org/10.1016/0022-2836(91)90616-E
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/002228369190616E

5)Alastair Aitken. D. B. Collinge, B. P. H. van Heusden. T. Isobe.
P. H. Roseboom G, Rosenfeld and J. Soil, 14-3-3 proteins: a highly conserved widespread family of eukaryotic proteins., Trends Biochem Sci vol.17, pp.498-501 (1992)
doi: 10.1016/0968-0004(92)90339-b
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1471260/

6)Robert J erl, Michael S Manak and Matthew Reyes, The 14-3-3s., Genome Biology, 3(7):reviews 3010.1-3010.7 (2002)
http://genomebiology.com/2002/3/7/reviews/3010.1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12184815/

7)Rittinger K, Budman J, Xu J, Volinia S, Cantley LC, Smerdon SJ, Gamblin SJ, Yaffe MB. Structural analysis of 14-3-3 phosphopeptide complexes identifies a dual role for the nuclear export signal of 14-3-3 in ligand binding. Mol Cell., vol.4(2): pp.153-166. (1999) doi: 10.1016/s1097-2765(00)80363-9
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276500803639

8)脳科学辞典:14-3-3タンパク質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/14-3-3%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

9)Abdi G, Jain M, Patil N, Upadhyay B, Vyas N, Dwivedi M, Kaushal RS., 14-3-3 proteins a moonlight protein complex with therapeutic potential in neurological disorder: in-depth review with Alzheimer's disease. Front Mol Biosci., vol.11:1286536.(2024)
doi: 10.3389/fmolb.2024.1286536.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38375509/

10)Robert Jerl, Michael S Manak and Matthew Reyes, The 14-3-3s., Genome Biology, vol.3(7) review 3010.1 (2002)
http://genomebiology.com/2002/3/7/reviews/3010

11)Abdi G, Jain M, Patil N, Upadhyay B, Vyas N, Dwivedi M and Kaushal RS., 14-3-3 proteins—a moonlight protein complex with therapeutic potential in neurological disorder:in-depth review with Alzheimer’s disease., Front. Mol. Biosci. vol.11:1286536.
doi: 10.3389/fmolb.2024.1286536
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38375509/

 

 

| | | コメント (0)

2026年1月 9日 (金)

続・生物学茶話290:記憶の固定をめぐって 2.芳香族アミノ酸水酸化酵素

神経伝達に必要なカテコールアミンのなかで、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの生合成経路を図290-1に示しました(1)。これらの主要な神経伝達物質は芳香族アミノ酸のひとつであるチロシンから合成されます。このほかにセロトニンは別の芳香族アミノ酸であるトリプトファンから合成されます。これは図290-4に示してあります(2)。

L‐ドーパはアミノ酸ですが通常はタンパク質の構成要素とはなりません。しかし細菌や植物を含む神経をもたない生物にもこの分子は存在するので、神経伝達物質の前駆体という役割以外にも機能が存在するに違いありません。おそらくGPCR(Gタンパク質共役受容体)を介して情報伝達にかかわっていると思われます。

2901a

図290-1 カテコールアミンの主要な生合成経路

チロシンを出発点とするカテコールアミン生合成経路の律速酵素はチロシン水酸化酵素(TH)とされています(3)。この酵素を含めて一般に芳香族アミノ酸を水酸化する酵素はヘムを構成しない2価鉄イオンを含み、反応にはテトラヒドロビオプテリンと酸素を必要とします(図290-2)。すなわちこれらの酵素は、非常に類似した反応機構をもつ一つのグループと思われます。またシアノバクテリアが大量発生する前の酸素がきわめて薄い地球大気のもとでは、このような酵素による反応は存在しなかったと思われます。ただし進化的系譜の根元には嫌気的細菌があるという矛盾点もあります(図290-5)。

芳香族アミノ酸水酸化酵素は特異性がよくわかっていないグループ(AAAH:aromatic amino acid hydrolase)、フェニルアラニン-4-水酸化酵素(PAH)、チロシン水酸化酵素(TH)、トリプトファン水酸化酵素(TPH)などがありますが、これらは進化的に密接な関係があることがわかっています。カオらが最初にこれらの酵素群の進化的関係について発表したのは2010年ですが、その論文の中で彼らは「Given the relatively high amino acid sequence similarity found among AAAH proteins(4), surprisingly, few studies haveinvestigated their relationships. 」(5)と述べています。重要な酵素群でありながら、長い間それらの関係性はネグレクトされていたことがうかがえます。

2902a

図290-2 チロシン水酸化酵素とフェニルアラニン水酸化酵素

カテコールアミン類を合成するおおもとのアミノ酸は必須アミノ酸の一つフェニルアラニンです(6、図290-3)。チロシンはフェニルアラニンから合成されます。これらのアミノ酸から神経伝達物質としてよく知られている物質以外ににも多くの種類の分子が合成されます。これらの物質も神経に何らかの作用を及ぼす可能性がありますが、詳しくはわかりません。たとえば Synephrine という物質はミカンに含まれていて、交感神経を刺激する作用があることが知られていますが、ヒトの生体内で生合成される量のこの物質が、実際どのような役割を果たしているのかは不明なようです。

図290-5でわかりますが、フェニルアラニンをチロシンに変えるフェニルアラニン-4-水酸化酵素(PAH、図290-4)はチロシン水酸化酵素(TH)より歴史は古く、このおかげでチロシンは必須アミノ酸ではなくなったわけです。

2903a

図290-3 フェニルアラニンの代謝経路

カオらはAAAH、PAH、TH以外にトリプトファン水酸化酵素(TPH)についても調べました。この酵素はトリプトファンを5-ハイドロキシトリプトファンに代謝し、さらに別に酵素によってセロトニンが生成されます(290-4)。セロトニンは様々な生理作用を持つ神経伝達物質です(7)。

2904a

図290-4 フェニルアラニン-4-水酸化酵素とトリプトファン水酸化酵素

カオらは既に報告されている遺伝子情報をまとめた細菌のデータベースを調査することによって、AAAH、PAH、TH、TPHがどのような関係にあるかを明らかにしました(5)。その結果を図290-5に示します。データベースを用いた調査なので、実際に酵素活性や特異性を調べたものではありません。しかしこれら4群の酵素が予想通り進化的に相同であり密接に関係があることがわかりました。発生した順でいえばAAAHからPAHが生まれ、PAHからTHとTPHが生まれたということになります。

これらすべての酵素群は細菌においてすでに用意されていたということになります。ひとつだけコル古細菌からも発見されています(図290-5緑四角)。古細菌についてはもっと詳しい調査が行われるべきだと思います。もしごく一部の古細菌からしか芳香族アミノ酸水酸化酵素がみつからないとなれば、その生物群から真核生物が進化したことが示唆されます。ともあれ細菌の中にすでにL-ドーパやセロトニンを使っていた者がいたわけで、これらが神経細胞の発生とともに現れたのではないということは明らかです。

2905a

図290-5 芳香族アミノ酸水酸化酵素の進化的系譜  Cao et al (2010) 文献5

残念ながらCao氏もZhou氏も2010年に論文を発表したのち、芳香族アミノ酸水酸化酵素についての仕事をしている形跡がありません。このほか例えば古細菌の芳香族アミノ酸水酸化酵素についての研究も進展していません。

 

参照

1)Izel Tekin, Robert Roskoski Jr., Nurgul Carkaci-Salli, Kent E. Vrana, Complex molecular regulation of tyrosine hydroxylase., Journal of Neural Transmission, vol.121, no.6 (2014) DOI 10.1007/s00702-014-1238-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24866693/

2)Wikipedia: serotonin
https://en.wikipedia.org/wiki/Serotonin

3)脳科学辞典:カテコールアミン
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%B3

4)Teigen, K., McKinney, J.A., Haavik, J. and Martinez, A., Selectivity and affinity determinants for ligand binding to the aromatic amino acid hydroxylases. Curr. Med. Chem. vol.14, pp.455-467 (2007)

5)Cao J, Shi F, Liu X, Huang G, Zhou M. Phylogenetic analysis and evolution of aromatic amino acid hydroxylase. FEBS Lett. vol.584(23), pp.4775-4782 (2010).
doi: 10.1016/j.febslet.2010.11.005.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21073869/

6)Wikipedia: Catecholamine
https://en.wikipedia.org/wiki/Catecholamine

7)ウィキペディア:セロトニン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3

 

| | | コメント (0)

2025年12月21日 (日)

続・生物学茶話289:記憶の固定をめぐって 1.MRTF

GPCR(Gタンパク質共役受容体)は、動物だけでなく植物や細菌にも存在する非常に進化的に古いタンパク質で、外界と細胞をつなぐ重要な役割を果たしています(1)。神経も成長、分化、機能発現にこのたんぱく質が受け取り発信するシグナルによって起動されるシステムを利用しています(2)。図289-1に示したCdc42・Rac・RhoAはいずれもRhoファミリーに所属するいわゆる低分子量Gタンパク質で、GPCRが受け取った情報を細胞内に伝える役割を果たしています。神経細胞はこれらのGタンパク質を使って、図289-1のような経路で細胞骨格を形成するアクチンやチュブリンの集合を調節し、細胞の成長・増殖・分化を制御しています。

2891a

図289-1 細胞骨格を制御するRhoファミリーのタンパク質

記憶を安定的に保存するためにはシナプスの構造変化が必要です(3、4)。どのような方法で神経細胞の構造を変化させてシナプスを増強安定化させるか、その基本はアクチン分子(Gアクチン)を重合させて繊維状のアクチン(Fアクチン)を形成させることにあります。すなわち図289-1に示したようなメカニズムを利用することによって神経の可塑化が実現されています。

実際にはグルタミン酸などの神経伝達物質が受容体の構造変化を引き起こし、その結果RhoAなどが活性化されてアクチンが重合を開始します(5)。カルシウムの流入なども重要なイベントですが、いずれ取り上げる予定です。このような状況下ではGアクチンとMRTF複合体は解離し、Gアクチンはアクチン繊維の素材として使われることになります。一方Gアクチンと分離したMRTF(myocardin-related transcription factor)は核に移行し、SRF(serum response factor)と複合体を形成して遺伝子発現の調整を行います(6、7、図289-2)。マイオカルディンは筋肉にしか発現しませんが、MRTFはニューロンを含む様々な細胞に発現します。

2892a

図289ー2 MRTFの細胞質および核内での役割

Serum response factor=SRF とは意味の分かりにくいネーミングですが、この由来を知るにはまず最初期遺伝子という概念を知る必要があります。最初期遺伝子とは細胞が増殖や分化など何らかの活動を開始する上で、最も上流にある(初期に転写される)遺伝子群です。シャーレの中で静かな状態にある細胞に血清を加えると、通常まず最初期遺伝子が転写され、細胞は活動を開始します(8)。その最初期遺伝子である fos やβアクチンなどの遺伝子の上流にある転写制御領域に結合して転写を開始させる役割を持っているのでSRFと命名されたのでしょう。つまりSRFが活動を始めないと最初期遺伝子が転写されません。

MRTFはそのSRFと結合し、SRFと共同で遺伝子発現の制御を行います。MRTFタンパク質のドメイン構造は図289-3のようになっています。アイソフォームであるMRTFBはMRTFAよりN末が少し長くなっていますが、その他の構造はAとBでほとんど変わりがありません。1番N末に近い部分に、Rhoシグナルが弱い環境においてGアクチンと結合する部分があり、続いて転写因子SRFと結合して核内で機能するための部位があります。それよりC末側には染色体・DNAとかかわりのあるサイトが並んでいます。

2893a

図289-3 MRTFタンパク質のドメイン構造

SRF複合体転写因子は軸索の成長やガイダンスの役割を担っているエフリンAやセマフォリンの
発現に関わっていると思われます。SRFが脳で発現しないコンディショナルノックアウトマウスを作成し、海馬の歯状回からCA3領域に投射する苔状線維(特殊軸索)を染色した切片を観察すると、整然とした構造が失われ、図289-4bおよびdのようにランダムな方向に伸長しているようにみえます(9)。

2894a

図289-4 海馬歯状回ニューロンから伸びる軸索の構造(ニューロフィラメントに結合するタンパク質α-NFAPの免疫染色)

エフリンとその受容体は接触依存性の反発を行う機能を持っており、軸索が伸びる方向を決める役割を果たしています(10)。SRFが発現していないコンディショナルノックアウトマウスのニューロンはエフリンの誘導(赤ストライプ)に従った軸索の伸長ができず、図289-5bのように網状構造になってしまいます。SRFが発現しているコントロールでは一定の方向性をもって伸長しています(図289-5a)。

2895a

図289-5 細胞培養系での軸索誘導実験

このようなことから、長期記憶の固定には海馬の苔状線維が正常な構造を持つことが重要であると思われます。SRFが脳で発現していないマウスでは記憶の固定がうまくできません(11)。

 

参照文献

1)ウィキペディア:Gタンパク質共役受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E5%85%B1%E5%BD%B9%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

2)Eve-Ellen Govek, Sarah E. Newey, and Linda Van Aelst, The role of the Rho GTPases
in neuronal development., Genes & Dev. vol.19: pp.1-49 (2005)  doi: 10.1101/gad.1256405
https://genesdev.cshlp.org/content/19/1/1.short

3)東洋大学 医学博士に聞く、記憶力・学習力アップに影響する脳機能「シナプス可塑性」とは? https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/life/synapticplasticity

4)脳科学辞典:Rhoファミリー低分子量Gタンパク質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Rho%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC%E4%BD%8E%E5%88%86%E5%AD%90%E9%87%8FG%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

5)Murakoshi, H., Wang, H., & Yasuda, R., Local, persistent activation of Rho GTPases during plasticity of single dendritic spines. Nature, vo.472(7341), pp.100-104. (2011)
http://doi.org/10.1038/nature09823
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3105377/

6)伊原大輔 神経形態・遺伝子発現に関わる転写因子のシナプス活性化による制御に基づく神経可塑性メカニズムの解明 YAKUGAKU ZASSHI vol.145, pp.931-936 (2025)
https://doi.org/10.1248/yakushi.25-00136
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/145/12/145_25-00136/_html/-char/ja

7)森田強 和歌山県立医科大学生物学・分子細胞制御学HP
https://www.wakayama-med.ac.jp/med/lasbiology1/morita/research.html

8)脳科学辞典:血清応答因子
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%A1%80%E6%B8%85%E5%BF%9C%E7%AD%94%E5%9B%A0%E5%AD%90

9)Knöll B, Kretz O, Fiedler C, Alberti S, Schütz G, Frotscher M, Nordheim A. Serum response factor controls neuronal circuit assembly in the hippocampus. Nat Neurosci. vol.9(2): pp.195-204 (2006) doi: 10.1038/nn1627
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16415869/

10)脳科学辞典:Eph受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Eph%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

11)Amit Etkin, Juan Marcos Alarcón, Stuart P. Weisberg, … Yan You Huang, Alfred Nordheim, Eric R. Kandel, A Role in Learning for SRF: Deletion in the Adult Forebrain Disrupts LTD and the Formation of an Immediate Memory of a Novel Context.,
Neuron, vol.50, Issue 1, pp.127 - 143 (2006) DOI 10.1016/j.neuron.2006.03.013
https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(06)00210-8

 

| | | コメント (2)

より以前の記事一覧