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2025年1月13日 (月)

続・生物学茶話258: ドギエルⅡ型ニューロンの謎

しばらく腸神経について学習していますが、かなり立往生感が強く進みたくても進めないという状況が続いています。努力不足もありますが、結局のところすっきりとわかっていない部分が多く、もっと実験を積み重ねないと詳細についての理解は不能な領域だと思います。

腸管神経系にどんなニューロンがあるかについて概略は脳科学辞典を参考にして図258-1にまとめましたが、モルモットの小腸についてのリストですし、まだまだデータの蓄積が必要です(1)。タキキニンはサブスタンスP(substance P;SP)、ニューロキニンA(neurokinin A;NKA)、ニューロキニンB(neurokinin B;NKB)などの総称ですが、タキキニングループの物質は神経伝達物質としてもホルモンとしても作用するので、これひとつとっても一筋縄ではいきません。筋層間神経叢と粘膜下神経叢で細胞の形態・種類にかなり差があるのも不思議。

ひとつはっきりしているのは、筋層間神経叢におけるドギエルタイプIニューロンは腸管筋に接続するという役割を担っており、その収縮と弛緩に直接関与しているということです。さらにドギエルタイプIニューロンのうち抑制性のものはおそらく一酸化窒素を神経伝達物質として用いているというのは際立った特徴です(1、図258-1)。

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図258-1 主要な腸管神経細胞の性質

神経科学者はどうも一酸化窒素を「神経伝達物質ひとつである」と定義するのを好まないようで、例えば脳科学辞典の一酸化窒素の項目をみると、確かに神経系におけるこの分子の機能をとりあげて詳しく解説していますが、神経伝達物質とは書いてありません(2)。通常の神経伝達物質のメカニズムとは全く異なる方式で情報伝達をおこなうためでしょう(3、図258-2)。図258-2Bのような場合、シナプス領域で得られた情報は軸索を逆行して細胞体に伝えられることになります(4、5)。

ならば軸索の先端などで一酸化窒素以外の情報も逆行することがありそうです(図258-2)。ベルトランドらは昔から腸神経のドギエルⅡ型ニューロンの軸索のターゲットは粘膜層であり、かつこのニューロンは求心性であると結論しています(6)。つまりこのニューロンはおそらく常時軸索を逆行した情報を得ているということです。最近ようやくドギエルⅡ型ニューロンの同定が正確に行われるようになったので、遅々とはしていますがいずれこの方面にも進展があるでしょう(7)。クラゲには双方向性のシナプスを持つ運動ニューロンが存在するという報告もあります(8)。

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図258-2 逆行性情報伝達

図258-3は2004年にファーネスらが報告したドギエルⅡ型ニューロンです(9)。分岐し密生しているのは樹状突起ではなく軸索です。脳科学辞典の「軸索」という項目をみると「樹状突起と軸索と言う形態上の分類は、この機能と密接に関わっていて、一般に、樹状突起: 入力の場。他の神経細胞、感覚器官などから情報を受け取る。軸索: 出力の場。他の神経細胞、筋肉、腺などの効果器へ情報を伝える。と考えられている。但し、突起の中の部位による機能分化も存在するので、形態的分類と、機能的分類が単純に1:1で対応する訳ではない。樹状突起、軸索という分類は、基本的に形態上の名称である。」という記載があります。しかし図258-3を見ると、その「形態上の名称」というのも怪しくなってきます。少なくとも腸神経においては軸索とか樹状突起とかという分別はなりたたないのではないかと思われます。

「軸索」がこのような錯綜した構造をとるということは、それが特定のターゲットに情報を伝える、または情報を得るという目的からはかけはなれています。合目的的ではありません。プルキンエ細胞の樹状突起は錯綜していますが、あくまでも形態は樹状であり、多数の先端がターゲットに接続しています。ドギエルⅡ型細胞の錯綜した軸索はそういった性質のものではありません。

図中にgという部分がありますが、ここは近隣の神経節(ガングリオン)と接する部分を意味しており、このように長大で錯綜した軸索が実は複数の神経節で情報を共有または同期するためのツールであることを示唆しています。gの部分で特に構造が密になっていることは、その部分の情報量あるいは濃度を高める意味があるのではないかと思われます。

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図258-3 ドギエルⅡ型ニューロンの形態

ドギエルⅡ型ニューロンは樹状突起が乏しいので、多分複雑な調節は苦手で、ひとつの軸索からの情報をほかの軸索に伝える(図258-4a-c)、細胞体のシナプスで受け取った情報を軸索に伝える(図258-4d)、他の神経節と接したときに電気的あるいは物質的に他の細胞に情報を伝える(図258-4e)、または受け取る(図258-4f)などの役割が考えられます。

図258-4a-c の情報は何かといえば、軸索が上皮直下の粘膜層まで伸びていることがわかっているので、やはり粘膜層の変形、化学物質、神経伝達物質を認識して興奮するのでしょう。

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図258-4 ドギエルⅡ型ニューロンにおける情報の流れ

 

参照

1)脳科学辞典:腸管神経系
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

2)脳科学辞典:一酸化窒素
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E4%B8%80%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0

3)続・生物学茶話132: 化学シナプスの実在とカルシウムチャネル
https://morph.way-nifty.com/grey/2021/03/post-bb9eed.html

4)ウィキペディア:一酸化窒素
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E4%B8%80%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0

5)山下直也 神経成長因子による逆行性シグナル伝達研究の新展開 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)vol.154,pp.84-85(2019)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/154/2/154_84/_pdf

6)Bertland P. et al., Electrical mapping of the projections of intrinsic primary afferent neurones to the mucosa of the guinea-pig small intestine., Neurogastroenterology &Motility.,Volume.10, pp.533-542 (1998)
https://doi.org/10.1046/j.1365-2982.1998.00128.x
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1046/j.1365-2982.1998.00128.x

7)Timothy J. Hibberd, Wai Ping Yew, Kelsi N. Dodds, Zili Xie, Lee Travis, Simon J. Brookes, Marcello Costa1, Hongzhen Hu & Nick J. Spencer, Quantification of CGRP-immunoreactive myenteric neurons in mouse colon., J Comp Neurol. vol.530(18): pp.3209-3225. (2022)
doi: 10.1002/cne.25403.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36043843/

8)P. A. Anderson, Physiology of a bidirectional, excitatory, chemical synapse., J. Neurophysiol., vol.53, pp.821-835 (1985)
https://doi.org/10.1152/jn.1985.53.3.821
https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/jn.1985.53.3.821

9)Furness JB, Robbins HL, Xiao J, Stebbing MJ, Nurgali K. Projections and chemistry of Dogiel type II neurons in the mouse colon. Cell Tissue Res., vol.317(1): pp.1-12. (2004)
doi: 10.1007/s00441-004-0895-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15170562/

 

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2025年1月 5日 (日)

続・生物学茶話257: 腸神経細胞の形態学

腸管神経系の形態学については、19世紀の半ば頃にマイスナーがマイスナー神経叢(現在は粘膜下神経叢と呼ばれることが多い)、アウエルバッハがアウエルバッハ神経叢(現在は筋層間神経叢または腸管筋神経叢と呼ばれることが多い)を発見したことが端緒になっていますが(図257-1)、これらを構成する神経細胞の形態については、ロシアの神経学者アレクサンダー・ドギエルの19世紀末から20世紀初頭にかけての研究が現在でも基準となっています。しかし現在手軽に読めるドギエルの論文はとても少なく、唯一1895年の「Zur Frage uber den feineren Bau des sympathischen Nervensystems bei den Saugethieren」(1)という論文も4980円支払わないと読めないので諦めました。その代わりにエルランゲン‐ニュルンベルク大学のブレーマーの総説(2)を手がかりとして、腸神経細胞の形態学を探訪したいと思います。

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図257-1 腸縦断面の模式図

図257-1は前回の図256-1と同じものです。256では腸の蠕動運動は神経がなくてもカハール間質細胞がペースメーカーとなって自動的に行われることを述べました(3)。では腸神経は何をやっているのでしょうか? おそらく先カンブリア時代からやっていたことが2つあると思います。ひとつは餌が腸にあることを感知して腸をはたらかせ、無い時には休ませるということです。これは大きなエネルギーの節約になります。いまひとつは有害なものを取り込んだときに排出する作業です。これらの作業を行うためには神経だけでなく、センサーとしての上皮細胞の分化も必要です。たとえば痛みを感じたときに全力で蠕動運動を開始することは有益だったでしょう。

腸神経がどのような形態をとっているかは現在でも完全には解明されておらず、議論の対象になっています。たとえば脳科学辞典の腸管神経系の項目には筋層間神経叢における一酸化窒素を神経伝達物質とする神経の形態が示されています(4、図257-2)。これによれば数個の細胞が近接して集合体を作り、それぞれの集合体は軸索や樹状突起を出して連絡しています(図257-2A)。また集合体は1種類のニューロンで構成されるのではなく、別の神経伝達物質を使用するニューロンも共存しています(図257-2B)。

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図257-2 モルモット腸管筋神経叢の免疫染色

ドギエルが報告したとされている TypeI、TypeⅡ、TypeⅢ のニューロンの形態図が脳科学辞典にあったので貼っておきます(4、図257-3)。TypeI は普通のニューロンで、1本の軸索と多数の樹状突起がみられます。TypeⅡ は軸索が枝分かれしているか複数本あって、樹状突起は極めて少ないタイプです。TypeⅢ は軸索は多分1本ですが枝分かれしていて、樹状突起も非常に長く複雑に枝分かれしています。Portbury らが1995年に報告したTypeⅢの図には、軸索が消化管と並行の方向に延びていること、軸索が枝分かれして複数のニューロンに接続していることなどが示されています(5、図257-4)。

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図257-3 ドギエルの古典的な神経細胞形態図と分類

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図257-4 ドギエルTypeIIIニューロンの模式図

細胞の形態が現在でも議論になっているというのは珍しい例だと思いますが、ブレーマーは腸神経系のニューロンの形態をまとめた総説を2021年に出版しています(2)。その中で筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)にみられるとされているニューロンの一部を図257-5に示します。

TypeI は樹状突起の形態によって"stubby"型と"spiny"型に分けられています。TypeⅡは軸索が複数あるタイプと枝分かれしているタイプがあり、さらに樹状突起があるタイプとないタイプがあります(2、図257-5)。複数の軸索状突起が本当に軸索かどうかについては、1990年にヘンドリクスらが軸索であることを電気生理学的にモルモットで確認しています(6)。その伝達読度は0.23m/秒ということです。腸神経のニューロンは一般的にミエリン鞘で覆われていないので、伝達速度は高速ではありません。実は図257-5では軸索はカットしてあり、最後までトレースすると異常に絡まりあったり分岐している長大で複雑な構造であることが分かっています(11)。

TypeⅡは変わったタイプのニューロンですが、ヒトの全筋層間ニューロンの10%位を占めコリナージックであること、カルレチニン、ソマトスタチン、サブスタンスP、CGPR(calcitonin gene-related peptide)などが検出されることなどが分かっています。TypeⅡのニューロンは実は感覚ニューロンで軸索における情報伝達が逆行性であることが示されているのですが(11)、両行性かもしれません。このあたりは稿を改めてとりあげたいと思っています。

TypeⅢもドギエルが1899年にモルモットの大腸にあることを報告しましたが、スタックがブタの小腸にもあることを報告したのは100年近く経過した1982年でした(7)。ヒトの小腸での存在が確認されたのは2004年です(8)。いかに腸神経系の研究が軽視されてきたかがわかります。TypeⅢの特徴は軸索は1本で、樹状突起がよく発達していて長いことです(図257-5)。TypeⅤはブタの小腸でスタックが発見しました(9)。ヒトにも存在することは確認されています。コリナージックなニューロンですが、樹状突起の途中から軸索が出ているように見えます(図257-5)。

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図257-5 筋層間神経叢ニューロンの形態  ax:axon

ここまで述べてきた様々な形態のニューロンは、筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)で見つかったものですが、では粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)のニューロンはどのような形態なのかを図257-6に示します。筋層間神経叢のニューロンの形態もドギエルの時代から報告はあるのですが、それほど詳しくは研究されてないようです。軸索は概ね1本で、樹状突起は発達しているタイプとほとんどないタイプがあるようです(2、図257-6)。またコリナージックなタイプと一酸化窒素性を使うタイプがあります(2)。

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図257-6 粘膜下神経叢ニューロンの形態

 

参照

1)Dogiel, A.S. Zur Frage uber den feineren Bau des sympathischen Nervensystems bei den Saugethieren. Archiv f. mikrosk. Anat. 46, 305?344 (1895).
https://doi.org/10.1007/BF02906657

2)Axel Brehmer, Classification of human enteric neurons., Histochemistry and Cell Biology vol.156, pp.95-108 (2021)
https://doi.org/10.1007/s00418-021-02002-y

3)続・生物学茶話256: 蠕動運動
https://morph.way-nifty.com/grey/2024/12/post-d46b60.html

4)脳科学辞典: 腸管神経系
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

5)Portbury, A.L., Pompolo, S., Furness, J.B., Stebbing, M.J., Kunze, W.A., Bornstein, J.C., & Hughes, S., Cholinergic, somatostatin-immunoreactive interneurons in the guinea pig intestine: morphology, ultrastructure, connections and projections. Journal of anatomy, vol.187 ( Pt 2), pp.303-321 (1995)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1167426/pdf/janat00130-0045.pdf

6)Hendriks R, Bornstein JC, Furness JB, An electrophysiological study of the projections of putative sensory neurons within the myenteric plexus of the guinea pig ileum. Neurosci Lett., vol.110(3): pp.286–290 (1990)
doi: 10.1016/0304-3940(90)90861-3
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2325901/

7)Stach W., Neuronal organization of the myenteric plexus (Auerbach) in the swine small intestine. III. Type III neurons. Z Mikrosk Anat Forsch vol.96(3): pp.497–516 (1982)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7148094/

8)Brehmer A, Blaser B, Seitz G, Schrödl F, Neuhuber W., Pattern of lipofuscin pigmentation in nitrergic and non-nitrergic, neurofilament immunoreactive myenteric neuron types of human small intestine. Histochem Cell Biol vol.121(1): pp.13–20 (2004)
DOI: 10.1007/s00418-003-0603-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14663589/

9)Stach W., Neuronal organization of the myenteric plexus (Auerbach's) in the pig small intestine. V. Type-V neurons. Z Mikrosk., Anat Forsch vol.99(4):pp.562–582 (1985)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7210798/

10)Kustermann A, Neuhuber W, Brehmer A., Calretinin and somatostatin immunoreactivities label different human submucosal neuron populations. Anat Rec (hoboken) 294(5):858–869. (2011)
https://doi.org/10.1002/ar.21365
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21416629/

11)John B. Furness . Heather L. Robbins . Junhua Xiao .Martin J. Stebbing . Kulmira Nurgal., Projections and chemistry of Dogiel type II neurons in the mouse colon., Cell Tissue Res vol.317: pp.1–12 (2004)
DOI 10.1007/s00441-004-0895-5
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15170562/

 

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2024年12月24日 (火)

続・生物学茶話256: 蠕動運動

「続・生物学茶話252: 腸神経」で、ヤツメウナギの腸神経は脳脊髄神経とは別の場所に発生の起源をもち、独立に働くというグリーンらの仕事を紹介しました(1)。マウスでは迷走神経堤から発生した脳脊髄神経が腸にも伸びてきて、腸神経と二重に腸を制御することになり制御の様式が複雑になりました(1)。しかし腸の蠕動運動そのものは、1917年にトレンデレンブルクが「モルモットの腸を切り出し内部に圧力をかけると試験管内で何時間でも蠕動運動を行う」ということを実験で示して、腸の基本的活動が中枢神経系とは独立に行われ得ることがわかっています(2)。この論文は2006年に復刻出版されています(3)。さらに21世紀にも追試されて確認されています(4)。

脊椎動物が地球上に生まれる前から存在していたに違いない腸神経が、脳脊髄神経系と比較してどんな特徴を持っているかは非常に興味深く感じられますが、とりあえずそれはさておいて、Sharkey と Mawe が作成した腸内部の表面から筋層に至るまでに存在する組織・細胞のイラスト(管理人が日本語で加筆)を図256-1に示します。上皮細胞についてはすでに「続・生物学茶話253: 腸を構成する細胞」で説明しておりますので興味ある方はご覧ください(5)。

上皮と接する皮下組織は上皮細胞からの情報を神経末端が受け取る重要な場所であり、また様々な免疫細胞が感染を防ぐために活動する場所でもあります。平滑筋は3層あり、腸を口方向-肛門方向に伸長・収縮させる筋と、腸の内径を大きくしたり小さくしたりする筋があります。真ん中の筋層が後者であり、上下の筋層が前者です。真ん中の筋層より上皮に近い方の皮下組織を粘膜下層と呼び、その内部に粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)があります。それより筋層を経て内部に筋層間神経叢(腸管筋神経叢・アウエルバッハ神経叢)があります。実際には神経叢があるスペースはこの模式図よりずっと狭いのですが、便宜上広く描いてあります(図256-1)。

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図256-1 腸管縦断面

ところで腸神経に興味を持って調べていたところ、実は消化管の蠕動運動は神経がなくても可能で、心臓のように非神経性のペースメーカーがあってそのリズムによって制御されているそうです(6、7)。そのペースメーカーはカハールの間質細胞(Intersti-tial cells of Cajal : ICC)という名前の、カハールがおそらく19世紀に発見した細胞で(正確な年代は不明)、主に筋層間神経叢(myenteric plexus)と重なる位置に存在します。図246-1には描いてありません。この細胞は細胞膜のレセプター型チロシンキナーゼであるC-KITを発現しているので、現在ではこれをマーカーとして同定できます(8)。福井大学医学部解剖学教室のホームページに美しい写真が掲載されていました(9、図256-2)。

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図256-2 マウス筋層間神経叢領域のカハール間質細胞=カハール介在細胞(緑)とニューロン=消化管神経叢(赤)

カハールの間質細胞は場所によっては神経叢のニューロンより圧倒的に稠密に存在しています(図256-2)。この細胞群は相互におよび平滑筋細胞とギャップ結合を形成しており、シナプスを介さず興奮を伝えることができます。活動電位発生のメカニズムは、中村らによるとミトコンドリアのプロトンポンプの活動がカルシウムイオンの濃度変化をもたらし、最終的に細胞膜のカルシウム感受性イオンチャネルが活性化されて電位変動が引き起こされることによるとしています(10)。

カハール間質細胞はC-KITを発現していると述べましたが、C-KITが欠損するとマウスは体毛・色素細胞・赤血球・マスト細胞・生殖細胞を欠損し生まれることができません。そこでC-KITヘテロのマウスとC-KITの細胞外領域だけが正常であるマウスをかけあわせた変異マウスを作成すると、粘膜下神経叢領域にはカハール間質細胞が存在するが筋層間神経叢領域には存在しないというマウスが生まれました。このマウスではペースメーカーがつくる規則的な電位変化はみられず規則的な腸の運動はおこりませんでしたが、不規則な運動は発生しました(7、11)。このことから確かに筋層間神経叢領域のカハール間質細胞はペースメーカーの役割を果たしていると思われますが、ペースメーカーがなくても腸が活動を停止するわけではないことがわかりました。粘膜下神経叢領域のカハール間質細胞が何をやっているかは不明です。もちろん腸の活動は消化すべき食料が中に存在するかどうかによって左右されるわけで、それは腸神経によって go or stop が制御されています。

このように考えると、腸の蠕動運動という観点から図256-3のような腸の進化が考えられます。口-腸-肛門という3点セットが整備されて腸の筋肉が活動するようになって、はじめて大型の餌を食べることができるようになります。さらに餌があるときだけ腸を活動させることによって効率的な消化ができるようになります。5を行うためには脳脊髄神経系の支配をうけなければなりませんが、これは明らかにカンブリア紀になってからの進化です。

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図256-3 蠕動運動から見た腸の進化

図256-3のなかで4までは先カンブリア時代においても、かなり進化することによるアドバンテージがあると思われます。ですからおそらくカンブリア紀の入り口までに、私たちの祖先生物では4まで到達していたと想像できますがどうでしょうか。5を行うためには脳脊髄神経系の支配をうけなければなりませんが、これは戦闘や逃亡が必要になったカンブリア紀になってからの進化でしょう。

腸の蠕動運動という観点とは別に、免疫や共生細菌という観点からの進化もあるので、これらは別途考えなければなりません。


参照

1)続・生物学茶話252: 腸神経
https://morph.way-nifty.com/grey/cat5925431/index.html

2)Trendelenburg P. Physiological and pharmacological investigations of small intestinal peristalsis. Translation of the article “Physiologische und pharmakologische Versuche uber die Dunndarmperistaltik”, Arch. Exp. Pathol. Pharmakol. vol.1, pp.55-129, 1917.

3)Trendelenburg, P. Physiological and pharmacological investigations of small intestinal peristalsis. Naunyn Schmied Arch Pharmacol vol.373, pp.101?133 (2006). https://doi.org/10.1007/s00210-006-0052-7
https://link.springer.com/article/10.1007/s00210-006-0052-7#citeas

4)Dominik Schreiber, Viktor Jost, Michael Bischof, Kristina Seebach, Wim JEP Lammers, Rees Douglas, Karl-Herbert Schafer, Motility patterns of ex vivo intestine segments depend on perfusion mode., World J Gastroenterol vol.20(48): pp.18216-18227 (2014)
DOI: 10.3748/wjg.v20.i48.18216
file:///C:/Users/Owner/Downloads/Motilitypatternsofexvivointestinesegmentsdependonperfusionmode.pdf

5)続・生物学茶話253: 腸を構成する細胞
https://morph.way-nifty.com/grey/2024/12/post-973808.html

6)Malysz J, Thuneberg L, Mikkelsen HB, Huizinga JD. Action potential generation in the small intestine of W mutant mice that lack interstitial cells of Cajal. Am J Physiol. vol.271: G387-G399 (1996)
DOI: 10.1152/ajpgi.1996.271.3.G387
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8843760/

7)Dickens EJ, Hirst GDS, Tomita T. Identification of rhythmically active cells in guinea-pig stomach. J Physiol(Lond) vol.514, pp.515-531, (1999)
doi: 10.1111/j.1469-7793.1999.515ae.x.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9852332/

8)Yu Chen, Tambudzai Shamu, Hui Chen, Peter Besmer, Charles L. Sawyers, Ping Chi, Visualization of the Interstitial Cells of Cajal (ICC) Network in Mice., J.
Vis. Exp. (53), e2802, doi:10.3791/2802 (2011).
https://www.jove.com/video/2802

9)福井大学医学部解剖学教室HP カハール介在細胞 ICC: interstitial cells of Cajal
https://www.med.u-fukui.ac.jp/laboratory/anatomy/icc/

10)中村江里 他 胃平滑筋の自発活動発生機序 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)vol.123, pp.141-148 (2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/123/3/123_3_141/_pdf

11)高木都 魅力ある講義と生理学教育(消化器)テーマ:消化管運動の発生機序並びに自律神経性制御 日本生理学雑誌 vol.68(7・8) pp.253-261, 2006
https://cir.nii.ac.jp/crid/1010282256961623048
http://physiology.jp/wp-content/uploads/2014/01/068070253.pdf

 

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2024年12月13日 (金)

続・生物学茶話255: 腸の起源をさぐる

ヒトが分類学上所属するアモルフェアというスーパーグループの生物はすべて従属栄養です(1)。すなわち光合成ができないのでエネルギーを得るには餌を食べるしかない、いわば他の生物に依存する寄生的生物といっても良いかもしれません。そういうやり方で生きるためには、有機物を体に取り込むことが必要です。取り込む方法にはあまりバラエティーはなくて3種類しかありません。それは・・・

A.糖やアミノ酸をトランスポーターを使って細胞膜を透過させ、細胞内に取り込む
B.細胞膜で餌を包み込み、包みの中のpHを下げて餌を分解して栄養物質を得る
C.細胞外に消化酵素を分泌して餌を分解し、1)または2)の方法で栄養物質を細胞内に取り込む

Aは私たちも含めてすべての従属栄養生物が行っている方法です。つまりこれを行うための遺伝子やメカニズムは10億年レベルで保存されています。しかし1)の方式では低分子レベルのものしか取り込めないので得られるエネルギーは少ないのが欠点です。Bの方式はかなり複雑で、実行するためにはいくつかの新機軸が必要です。まず細胞膜で餌を包み込むメカニズムを開発しなければなりません。次にとりこんだ包みの内部で消化を行わなければいけません。消化酵素を投入したいのですが、包みの中には遺伝子がなくDNAから情報を得て酵素を合成・調達することはできません。かと言ってもとから消化酵素があれば自分が消化されてしまいます。

そこで普段は不活性な酵素をあらかじめ用意しておいて、包みの中のpHを下げることによって活性化するというメカニズムを開発した生物がいて、その方式を連綿と受け継いでいる子孫の一種が私たちであるわけです。単細胞生物のゾウリムシなどもすでにこのメカニズムを獲得していて、餌を食胞(food vacuole)にいれて内部のpHを下げ消化するということをやっています(2、3、図255-1)。

図255-1を見て、ゾウリムシが cytoproct=細胞肛門という構造を持っていることに気が付き、知らなかったのでちょっとびっくりしました。彼らはもちろん腸はもっていませんが、食胞の通路というのは多分あるのだと思いました。

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図255-1 ゾウリムシ

Bの方式を採用することによって、Aだけの場合とくらべて細胞はサイズを1000倍くらいの体積に拡大することができました。それが真核生物の細胞の普通のサイズです。ゾウリムシは単細胞ですが、私たちの体の細胞よりずっと大きく大腸菌の体積の10万倍以上あるでしょう。Bの方式は餌を消化するだけではなく、真核生物にとって有害な細菌やウィルスを取り込んで無害化するという目的のためにも用いられるようになり、私たちの場合はむしろそちらの方がメインになっています。

Cの方式はおそらく単細胞生物で成功した者はいません。多細胞生物となって腸を形成し、その中に消化酵素を分泌することによって実現することができます。単細胞生物だと外に消化酵素を出しても普通は拡散してしまうので非効率です。ここに腸の存在意義があります。生物学でいう動物すなわちメタゾア(後生動物)はすべて多細胞生物ですが、これと最も近縁な単細胞生物が襟鞭毛虫です。私たちの精子とよく似た生物ですが、彼らは鞭毛の周りに立てた襟のような構造物を持っていて、なかには立襟鞭毛虫と呼んでいる人々もいます(4)。立襟のなかに餌を集めて細胞に取り込みます。ここに消化酵素を放出して消化するという報告はないので、おそらくC方式はやっていないのでしょう。

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図255-2 襟鞭毛虫

襟鞭毛虫は本来単細胞生物には必要がなさそうなカドヘリンという細胞接着に必要な物質や、他の細胞に情報を伝えるためのシグナル伝達因子を持っており(4)、多細胞生物まであと一歩というところまできているような生物です。実際に群体のような形をつくることもあるようです(5、図255-2)。横につながることができれば円をつくることができ、円を重ねると竹輪型の構造を形成することができます。それはもう腸の原型でしょう。彼らは約2万個の遺伝子を持っており、これは人の遺伝子数約2万6千にかなり近い数です(4)。

初期の海綿動物は骨格(炭酸カルシウムやシリカからなる)を持たなかったと思われるので、化石としては残りにくいですが、わずかな骨格を持つものがエディアカラ紀の地層からみつかっています(6、7)。おそらく最初は襟鞭毛虫の群体から進化したと思われます。シンプルなタイプの海綿の細胞(襟細胞)は襟鞭毛虫と酷似しています。現在は図255-3に示されているように、シンプルなタイプから、非常に複雑な構造を持つタイプまでバラエティーに富む種類が繁栄しています(8)。

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図255-3 海綿動物

どのタイプも体の中心にアトリウムというパイプ状の構造を持っていますが、これはある意味腸とも言えます。ただ栄養は大部分水流がここに来るまでの細管で吸収されると思われるので、この部分の主な役割は排出腔であり、外界に開けた大孔は肛門と言えます(図255-3)。細胞が力を合わせて一定の方向に水流を作って餌を集めるのは効率的であり、また細胞が集合することによって繁殖も容易になります。集合することによる排出物の集積というデメリットはアトリウムと大孔をつくることによって解決しました。このボディープランは海中のプランクトンを餌として生きていくには大変優れたものであったに違いなく、だからこそ5億年以上前から現在に至るまで生き残って繁栄しているのでしょう。

先カンブリア時代において、海綿動物とは異なるボディープランを選択したなかに刺胞動物があります。クラゲの化石は割と多くエディアカラ紀の地層から見つかっています。しかし一部のクラゲは最近の研究では左右相称動物に近く、始原的な刺胞動物はサンゴの仲間だと考えられています(9)。サンゴの縦断面を図255-4に示しました(10)。

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図255-5 刺胞動物(サンゴ)

刺胞動物の体の構造を見る前に、ひとつ不思議なことがあります。それはほどんどの刺胞動物が刺胞(9、図255-4)という銛(モリ)のような高度な武器を持っていて、この中に毒を仕込んで餌の動物を麻痺させて取り込むという先カンブリア時代としては信じがたいほど特殊な進化をとげているということです。このことはこのような特殊な武器を持たない種は生き残ることができなかったということを意味します。

図255-4に示したように、刺胞動物は胃腔(stomach) を持っていて、これが海綿動物のアトリウムと異なるのは水流が双方向だということです。すなわちこの胃腔の出入り口となる孔は口であり肛門でもあるということです。細いパイプを通る餌を取り込む海綿の襟細胞とちがって、この広大な胃腔の餌を取り込むのは効率が悪く、また生きたままの生物を消化するのは時間がかかります。逃げられる恐れもあります。麻痺させるか殺せばトラップは完全で消化の効率も上がるので、刺胞を持つことが生存の絶対条件になったのだと思われます。いったん刺胞を獲得すれば、大きな胃腔は大きな餌をトラップすることが可能になるのでむしろメリットとなります。それにしても先カンブリア紀のクラゲはどんな餌を食べていたのでしょうか? それとも刺胞はカンブリア紀になってからの新種が獲得したもので、それ以外の刺胞を持たない刺胞動物は全部絶滅したのでしょうか?

水流を反対方向に切り替えるには細胞を協調させるメカニズムや、胃壁を動かす筋肉が必要となります。このことが神経や横紋筋の進化に貢献し、ひいては左右相称動物が出現する伏線になったのでしょう。海綿動物や固着性の刺胞動物が海底に豊富に存在することも、もちろん海底を移動して餌を探す左右相称動物が出現する前提でもあります。

 

参照

1)続・生物学茶話254: 動物分類表アップデート
https://morph.way-nifty.com/grey/2024/12/post-a39dd7.html

2)川島祥二、原田恵、菊池嘉子 ゾウリムシにおける食胞形成 連鎖菌と栄養物質 茨城大学教養部紀要(第30号)pp.61-71
file:///C:/Users/Owner/Downloads/CSI2010_1856-1.pdf

3)Wikipedia: Paramecium
https://en.wikipedia.org/wiki/Paramecium

4)隈恵一ほか 単細胞生物から動物への進化を探る
https://www.nii.ac.jp/userimg/openhouse/2010/202_kuma.pdf

5)Wikipedia: Choanoflagellate
https://en.wikipedia.org/wiki/Choanoflagellate

6)Wang, X., Liu, A.G., Chen, Z. et al. A late-Ediacaran crown-group sponge animal. Nature vol.630, pp.905–911 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07520-y
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07520-y

7)Nature ハイライト 古生物学:先カンブリア時代の海綿動物の証拠
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/127066

8)Nelly Godefroy, Emilie Le Goff, Camille Martinand-Mari, Khalid Belkhir, Jean Vacelet, et al.. Sponge digestive system diversity and evolution: filter feeding to carnivory. Cell and Tissue Research, vol.377 (3), pp.341-351. (2019) doi: 10.1007/s00441-019-03032-8
https://link.springer.com/article/10.1007/s00441-019-03032-8

9)Wikipedia: Cnidaria
https://en.wikipedia.org/wiki/Cnidaria

10)Wikipedia: Coral
https://en.wikipedia.org/wiki/Coral

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2024年12月 7日 (土)

続・生物学茶話254: 動物分類表アップデート

分類学は私にとって親密なジャンルではありませんが、生物学に関心を持つ者には避けて通れない基礎知識です。普段見かけないような体長1mm位の線虫が実は地球上に3億トンも居たりするので、あなどれません(1)。

線虫はまだ脊椎動物に寄生するので、鮮魚をさばく人ならアニサキスはみたことあるでしょうし、犬を飼っている人はフィラリアには関心があるでしょう。しかしヒトの食料にはならない生物に寄生する生物や、海底の砂のすきまにいる微小生物、海にいることはわかっていても採集は不可能で、ガラス板を沈めておくとそこにくっつくのでみつかる平板動物などというのもいて(2)、現代は人の活動がもたらした生物大絶滅時代であるにもかかわらず、次々と新種がみつかり門レベルの再編成まで行われたりするので、ときどき分類表の知識をアップデートすることは必須です。

本稿はウィキペディアの「動物」という項目の記述をもとに、加筆・編集しました(3)。

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図254-1 スーパーグループ

図1はもっとも大まかな生物の分類表です。生物は非常に早い時期に光合成をする生物と光合成ができない生物に分かれたことがわかります。光合成ができない生物は当然餌を必要とします。光合成をする生物にはバラエティーがあって、炭素源が二酸化炭素だけの生物もあれば有機物を利用する生物もいます。独立栄養生物の中から二次的に従属栄養に転化した生物(TSARの一部)もいるようです。また逆に鞭毛虫のなかには葉緑体を獲得して光合成を営む者もいます。鞭毛虫の一部からアモルフェアというスーパーグループが生まれ、私たちはここに含まれます。

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図254ー2 オピストコンタ

オピストコンタはアモルフェアのなかのひとつのグループで、すべて従属栄養の生物からなります。オピストコンタとは後方鞭毛という意味で、鞭毛を動かして鞭毛がある方と反対側に進むのが特徴です。ヒトの精子も鞭毛のある側と反対側に進みます。単細胞の原生生物、襟鞭毛虫、動物のすべてのほかカビやキノコもオピストコンタに含まれます。メタゾア(後生動物)とは生物学の言葉で、動物のすべてを意味します。同じメタゾアではありますが、有櫛動物(クシクラゲなど)と海綿動物はその他の動物と非常に遺伝子や体の構成が異なっており、エディアカラ紀以前の非常に早い時期に分岐したと考えられています。その後平板動物が分岐し、さらに刺胞動物と左右相称動物が分岐します。私たちはもちろんその左右相称動物(バイラテリア)に含まれます。

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図254-3 バイラテリア

左右相称動物(バイラテリア)は口が先にできる(前口動物)か肛門が先にできる(後口動物)かで大きく2つのグループに分かれます。私たちは後口動物に含まれる生物であり、分類学的にはマイナーなグループです(種の数としては少ない)。それでも私たちを含む脊椎動物は大繁栄しています。

前口動物は脱皮動物と螺旋動物が2つのメジャーグループで、それ以外はとてもマイナーな生物群です。脱皮動物は節足動物門を含み、なかでも昆虫は100万種以上が既知の巨大なグループです。脱皮動物はカンブリア紀から現代までずっとメジャーな生物であり続けています。螺旋動物は最近できた名前で、卵割(初期発生)がらせん状に行われる生物のことを意味します。

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図254-4 螺旋動物

螺旋動物のなかでは軟体動物や環形動物がメジャーな生物です。より専門的な知見に関心がある方は文献(4)などをご覧ください。

ところでこのブログでは今腸関係の話題を扱っていますが、脱皮動物に属するエラヒキムシの形態には興味をそそられます。円筒形の体の中心にほぼまっすぐに口-腸-肛門が配置されていて、まわりを神経・筋肉・皮膚が囲み、その名前に反して鰓はなく、中枢神経や心臓血管系もなく、しかし腎臓・生殖器・腸神経・赤血球・マクロファージはあるという、とてもシンプルな基本形の生物のように思われます(5、図5)。しかもウィキペディアでも指摘しているように、この生物はカンブリア紀に生息していたオットイアとそっくりです(5、図5)。もし私が腸や腸神経の研究をしていたら、是非いじってみたい生物です。

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図254-5 鰓曳動物

 

参照

1)二井一禎 私たちの知らない線虫の世界 農業新時代 vol.1, pp.38-51(2020)
https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2023/03/001_038.pdf

2)ウィキペディア:センモウヒラムシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%82%A6%E3%83%92%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B7

3)ウィキペディア:動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E7%89%A9

4)矢﨑裕規・島野智之 真核生物の高次分類体系の改訂―Adl et al. (2019) について― タクサ 日本動物分類学会誌 vol.48, pp.71-83 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/48/0/48_71/_pdf

5)ウィキペディア:鰓曳動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B0%93%E6%9B%B3%E5%8B%95%E7%89%A9#

 

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2024年12月 1日 (日)

続・生物学茶話253: 腸を構成する細胞

私たちの便の成分は80%が水分、残りの20%はぼ1/3づつ食べかす・細菌・腸の粘膜からなります。腸には100兆個の細菌が常時住みついており、この数は人の体を構成する細胞の数より明らかに大きいのです。こんなに細菌まみれの臓器なので、切り取って培養するわけにはいきません。マウスで腸内細菌を枯渇させるような操作を行うと、なんとセロトニンが枯渇するそうです(1)。これはもう正常な動物とは言えません。腸内細菌は私たちにとって大事な共生生物です。とはいっても腸は大量の細菌と常時接触している器官なので、強力な免疫機能を持っており、全免疫細胞の60~70%が腸に存在すると言われています(2)。

腸の粘膜が便として排出されるというのはどういうことでしょうか? 実は腸の細胞(腸管上皮細胞)はかなりのハイペースで入れ替わっており、例えばマウスではその寿命は3~5日です。そのため毎日大量の死細胞が排出されることになります。どうしてそうなるかといえば、粘液などで保護されているとはいえ、腸壁の細胞は脂質やタンパク質を分解する酵素に常時さらされているわけですから、寿命が短いのはやむを得ないのでしょう。

ウィキペディアによると腸は小腸(十二指腸を含む)と大腸(直腸を含む)という2つの部分からなり、小腸は約6m、大腸は約1.5mの長さがあります(3)。まず小腸の構造を見ておきましょう。

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図253-1 腸(小腸)の構造と構成細胞 マクロファージ・樹状細胞(dendritic cell)・T細胞は上皮細胞より内部の結合組織に存在する免疫細胞で、細菌の侵入に備えている細胞群です

図253-1は小腸縦断面の模式図です。無数の凹凸があり、凸の部分を絨毛(villi)、凹の部分を陰窩(crypt)といいます。腸上皮は大部分が腸管側を粘液に覆われたモノレイヤーで、この図には描いてありませんが陰窩の部分だけは細胞が重層化しています。陰窩の一番深部に幹細胞があり、近隣には幹細胞を保護し免疫機能も持つパネト細胞があります(ウィキペディアではパネート細胞となっています、4)。陰窩で幹細胞から生まれた腸上皮細胞は押し出されるように柔毛上部に移動し、頂点に達すると死んで脱落します。その寿命は3~5日と言われています(5)。つまり3~5日かけて陰窩から絨毛の先端まで移動し、そこで剥がれて腸管に排出されます。

腸上皮には幹細胞、パネト細胞、腸上皮細胞以外にも少数ながら数種の細胞が存在し、それらの機能は図253-2にリストアップして示しました。腸上皮には1)栄養や水分をとりこむ 2)消化酵素から組織を守る 3)栄養状態を神経などに伝える 4)細菌や寄生虫から生体を守る など様々な役割があり、それぞれの細胞は分担してその役割を果たしています。

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図253-2 腸を構成する細胞とその機能一覧

腸上皮の機能を研究する上で大きなネックはプライマリーカルチャーが困難だったことです。幹細胞の決定的なマーカーがないことも大きな問題でした。ユトレヒトのニック・バーカーらのグループがGPCR型受容体のひとつである Lgr5 を発現する細胞が腸上皮幹細胞であることをつきとめたことが、腸上皮研究のブレイクスルーになりました(6)。

図253-3右上部の6つ組図は Lgr5 遺伝子に lacZ のレポーターをつけて青色に発色させたもので、小腸・大腸・胃においてこの細胞が陰窩に存在し、特に小腸ではパネト細胞と一つ置きに配置されているという美しい図が得られています。この配置は電子顕微鏡でも確認され、ふっくらとした円錐形のパネト細胞の間に細長い形態の幹細胞が見られます(図253-4)。幹細胞とナース細胞が一つ置きに配置されているような組織は他にはないと思います。

その後 Metcalfe らはジフテリアトキシンを使って Lgr5 発現細胞をすべて殺す実験系を開発し、Lgr5 発現細胞をすべて除去すると放射線照射後の腸上皮再生が起こらなくなることを示し、Lgr5+ 細胞が腸上皮幹細胞であることの補強的証明を行いました(7)。

佐藤俊朗らは Barker らと同じグループですが、幹細胞が Lgr5 を特異的に発現していることを利用して、腸研究者達が永年渇望してきた消化管幹細胞の培養技術を開発し、図253-3下図のようなオルガノイド(3次元の人工的な臓器)をシャーレの中で形成させることによって in vitro で正常な消化器官の機能を解析することが可能になりました(8、9)。

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図253ー3 腸研究の革命的進展を成し遂げた Clevers 研究室のメンバーと業績

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図253-4 腸管上皮幹細胞とパネト細胞の電子顕微鏡写真

ただ腸上皮細胞の寿命はわずか3~5日なので、これを維持するには幹細胞がのべつ幕無しで細胞分裂を行わなくてはならず、常識的にはDNA塩基配列の正確さが短期間で失われると考えられます。これを回避するために、一定の期間が経過すると普段は細胞分裂していない親玉の幹細胞が細胞分裂を行って、この種の高速増殖型幹細胞の補填を行うと考えた方が自然であり、その候補として昔から幹細胞ではないかといわれていた、いわゆる+4幹細胞が挙げられているそうです(10)。

図253-5におもな腸上皮細胞の細胞系譜を示しました。「通常は休止している幹細胞」は間違いなく存在すると思いますが、まだ仮説的なものです。

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図253-5 腸管上皮細胞のターンオーバーを維持するシステム

 

参照

1)Tukuba Journal 2020/11/17 腸内細菌がいなくなると睡眠パターンが乱れる
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20201117200209.html

2)シオノギヘルスケア 人体最大の免疫器官「腸」
https://www.shop.shionogi-hc.co.jp/Reading/Info-immunity_20210423.html

3)ウィキペディア:腸
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%B8

4)ウィキペディア:パネ―ト細胞
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%88%E7%B4%B0%E8%83%9E

5)金野祐 小腸上皮細胞の細胞寿命を制御する新規因子の探索
上原記念生命科学財団研究報告集, 32 (2018)
https://www.ueharazaidan.or.jp/houkokushu/Vol.32/pdf/report/131_report.pdf

6)Nick Barker, Johan H. van Es, Jeroen Kuipers, Pekka Kujala, Maaike van den Born, Miranda Cozijnsen, Andrea Haegebarth, Jeroen Korving, Harry Begthe, Peter J. Peters & Hans Clevers, Identification of stem cells in small intestine and colon by marker gene Lgr5., Nature vol.449, pp.1003-1008, (2007) doi:10.1038/nature0619 pp.1003-1008
https://www.nature.com/articles/nature06196

7)Metcalfe C, Kljavin NM, Ybarra R, de Sauvage FJ. Lgr5+ stem cells are indispensable for radiation-induced intestinal regeneration. Cell Stem Cell. vol.14(2): pp.149-159. (2014)
doi: 10.1016/j.stem.2013.11.008.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24332836/

8)Toshiro Sato, Robert G. Vries, Hugo J. Snippert, Marc van de Wetering, Nick Barker, Danie E. Stange,Johan H. van Es, Arie Abo, Pekka Kujala, Peter J. Peters & Hans Clevers, Single Lgr5 stem cells build crypt –villus structures in vitro without a mesenchymal niche., Nature vol.459, pp.262-266 (2009) doi:10.1038/nature07935
https://www.nature.com/articles/nature07935

9)松井伸祐,坂口恒介,岩槻健  オルガノイド培養の課題と展望
研究者目線で語るオルガノイド研究
化学と生物 Vol. 61, No. 4, pp.179-187, (2023)
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1689

10)佐藤卓,樗木俊聡 組織再生を担う腸管幹細胞の維持と機能
生化学 第 93 巻第 4 号,pp. 503‒511(2021)
DOI: 10.14952/SEIKAGAKU.2021.930503
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2021.930503/data/index.html

 

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2024年11月22日 (金)

続・生物学茶話252: 腸神経

出勤時に急に下痢が来てトイレに駆け込むという経験は、サラリーマンなら1度や2度は誰でも経験していると思いますが、その時に用は足せましたか? 私の経験では朝のパブリックトイレ(大)はどこでも混んでいてまず用は足せません。私の知人のなかには、朝通勤するときに会社にストレスを感じていたため、必ず途中の駅で下車してトイレ(大)を探すという人がいました。結局その人は退職することになりました。

このような症状を医学的には過敏性腸症候群と言うそうですが、ストレスで排便したくなるというというのはおかしな話です。本来であればストレスがかかると交感神経優位となって胃腸の働きは抑制され、便秘になるはずです(1)。こういう人が多いということは、人類が進化する過程で中枢神経が過剰に内臓支配を行うようになったからだと思いますが、その原点は魚類の進化に遡ることができそうだということが最近判明しました。

そのまえに末梢神経の起源について復習しておきましょう。脊髄神経は胚の外側を覆う外胚葉の一部が内側に落ち込んでできますが、このとき脊髄神経に予定されて落ち込んでいく細胞と外側にとどまる細胞の間に神経堤という堤防みたいな部分が形成され、ここから細胞が下部に移動して様々な細胞に分化します。この中に末梢神経細胞やシュワン細胞が含まれています(2、3、図252-1、図252-2)。

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図252-1 神経堤とは


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図252-2 神経堤の各部域はそれぞれどのような組織に分化するのか

ヤツメウナギ類とヌタウナギ類は分類学上の位置が不安定で、現在でも定まっていません。両者をまとめた円口類という名前は分類学上定義された名称ではありません。ウィキペディアの記述も項目ごとにバラバラで統一されていません。例えば「頭甲綱」という項目をみると「頭甲綱(とうこうこう Cephalaspidomorphi)は無顎類の一群として知られる脊椎動物。全て絶滅種であり、オルドビス紀前期からデボン紀後期にかけて繁栄していたことが化石によって知られている。その名称のとおり、多くの種には骨質の頭甲があった。かつては現生のヤツメウナギ類がこのグループに含まれるとされたが、現在ではこれらは別のグループと見なされることが多い」と説明されているわけですが、その下にはヤツメウナギ目が頭甲綱に含まれる1グループとして記載されており、しかもここにはヌタウナギ類は排除されています(4)。これでは何が何だかわかりませんね。ただヤツメウナギとヌタウナギを脊椎動物亜門に入れることについてはコンセンサスがようやく成立したようです(5)。

円口類の誕生・進化については以前にここでとりあげたことがありますので、興味のある方はご覧ください(6)。円口類の祖先と魚類の祖先が分岐したのはエディアカラ紀末で、カンブリア紀を経過し、ヤツメウナギグループとヌタウナギグループが分岐したのはオルドビス紀初期ということになっています(6)。今回のテーマはヤツメウナギの腸神経なので、まず形態図をウィキペディアからひろってきてコピペしておきます(7、図252-3 日本語は私が添加)。形態的に魚類と異なるのは、体の側面に左右対称のヒレがないこと、顎がなく吸盤があることです。歯はありますがケラチンの歯であり、魚類や私たちのハイドロキシアパタイトの歯とは異なります。

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図252-3 ヤツメウナギの外観

図252-4は脊椎動物の消化管のイラストです。腸神経は主として筋肉層の内部にある筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)と粘膜と筋肉の間の粘膜下層にある粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)からなります。そこに含まれるニューロンの数は脊髄よりも多いといわれています。これらの神経は制御はうけるものの自律神経系の支配とはある程度独立に、消化管の動きや栄養分・水分の吸収を調節しています(8、9)。

消化器官はウルバイラテリア(始原的左右相称動物)の時代から存在していたに違いない臓器であり、脳や心臓より従属栄養生物(動物)にとって基本的に重要な臓器といえます。エサがあるときは消化吸収と排出腔への移動がその仕事です。腸神経系は脳や脊髄よりも先にあったものですから、もともと独自に活動していたわけで、中枢神経系による制御は後付けのメカニズムといえます。

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図252-4 脊椎動物の消化管

グリーンらはそんな腸神経の進化的ヒストリーについて興味深い研究結果を発表しています(10)。彼らはヤツメウナギの幼生の頭部(菱脳)と背側体幹にトレーサー色素などを注入し、取り込んだニューロンの動きを追跡しました。そうすると頭部の色素は腹側に広がりますが、消化管の周辺には認められず、一方背側体幹の色素は消化管の周辺に移動していくことがわかりました(図252-5)。

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図252-5 ヤツメウナギ腸神経の発生上の起源

DiIなどのトレーサーを使ってマウスの腸神経と比較すると、マウスの腸神経は迷走神経提から移動してくるものと、体幹部神経堤から移動してくるものが混在することがわかりました(10、図252-6)。このことはヤツメウナギ(円口類)と魚類から進化した一般脊椎動物の共通祖先の腸神経は体幹部神経堤から移動してきた細胞が分化したものであり、ヤツメウナギはその祖先型の腸神経を受け継いでいるのに対して、分岐した一般脊椎動物は他のデータなども併せて考えると(2)、迷走神経堤からも腸神経細胞が供給されるという新機軸を獲得したということになります。このことは迷走神経の指示によって消化管が活動しうること、また消化管の情報が求心性迷走神経によって延髄から脳に伝えられることを意味します。

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図252-6 腸神経系を作る細胞の起源 マウスとヤツメウナギの比較

腸神経系を脳・延髄・副交感神経システムがその支配下に置くということは、体全体のアナボリズム・カタボリズムの調整や行動の統一性維持にはアドバンテージがあると考えられますが、一方で冒頭に述べたような自律神経の不調がそのまま胃腸の不調につながるということにもなります。

ヤツメウナギは古い体の構造を残した生きた化石などと呼ばれますが、彼らもそれなりに進化して何度もあった大絶滅時代を乗り越え、何億年も生き延びてきました。現に魚類を餌にして生きている種類もいます(11)。

参照

1)大正製薬ナビ 過敏性腸症候群
https://www.taisho-kenko.com/disease/142/

2)脳科学辞典:神経堤
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%A0%A4

3)Uesaka T, Nagashimada M, Enomoto H. Neuronal differentiation in Schwann cell lineage underlies postnatal neurogenesis in the enteric nervous system. J. Neurosci., vol.35: pp.9879–9888. (2015)
DOI: 10.1523/JNEUROSCI.1239-15.2015
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26156989/

4)ウィキペディア:頭甲綱
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E7%94%B2%E7%B6%B1

5)ウィキペディア:円口類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E5%8F%A3%E9%A1%9E

6)続・生物学茶話195:円口類の源流
https://morph.way-nifty.com/grey/2022/11/post-1f4cf6.html

7)Wikipedia: Lamprey
https://en.wikipedia.org/wiki/Lamprey

8)脳科学辞典:腸管神経系
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

9)Wikipedia: Enteric nervous system
https://en.wikipedia.org/wiki/Enteric_nervous_system

10)Stephen A. Green1, Benjamin R. Uy, and Marianne E. Bronner, Ancient evolutionary origin of vertebrate enteric neurons from trunk-derived neural crest., Nature, vol.544(7648): pp.88–91. (2017) doi:10.1038/nature21679
https://www.nature.com/articles/nature21679

11)医療法人 金剛 エリー湖のヤツメウナギ
https://kongo.or.jp/2011/07/14/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%BC%E6%B9%96%E3%81%AE%E3%83%A4%E3%83%84%E3%83%A1%E3%82%A6%E3%83%8A%E3%82%AE/

 

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2024年11月14日 (木)

続・生物学茶話251: 求心性自律神経

英国の生物学者エドガー・エイドリアンは刺激が神経を通じて脳に伝わるのは電気的伝導であり、同じ刺激が続くとそれは減弱することを示して1932年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の自律神経に関する業績は日本語版にも英語版にもウィキペディアには書いてありませんが、鈴木によるとノーベル賞受賞の翌年に自律神経に求心性のものが含まれていると報告しているそうです(1)。求心性の自律神経についても最近ようやく詳しい研究が行われるようになってきました。

自律神経を代表するのはやはり迷走神経(vagus nerve)でしょう。図251-1はウィキペディアに投稿された、右外側から見た心臓とそこに配置された迷走神経の分枝を描いた図です(2)。分枝といえども多数の神経細胞軸索の集合体で、そこには遠心性および求心性の神経が含まれます。

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図251-1 迷走神経 ウィキペディアの図(1)を改変

おそらくエイドリアンの報告は当時の電気生理学者達に大きな刺激を与えたのでしょう。デュボアとフォーリーは1937年に猫の頸部迷走神経を調べて、その65-80%が求心性の線維(軸索)であることを報告しています。またエバンスとマリは1954年にウサギの腹部の自律神経26000本のうち遠心性のものは10%以下だと報告しました。マリらはさらに猫でもウサギと同様であることを1957年に報告していて、この論文(3)はよく引用されます。

もともとの概念では交感神経も副交感神経も遠心性の細胞ですから、アセチルコリンによって脱分極し、ノルアドレナリンかアセチルコリンを放出するという非常に単純な機能でその役割が果たせます。一方、求心性の神経細胞は臓器からどんな情報をどのような形で受け取って脱分極を起こすのでしょうか? これは現代医学・生物学においても最大級の未知分野のひとつに違いありません。

筋肉の収縮弛緩(心拍数なども含む)・胃腸の内圧・血圧・pH・血糖値・体温・浸透圧(のどの渇きなど)・ホルモン・代謝産物・腸内細菌が生成する化学物質・臓器被膜の変形や損傷などさまざまな刺激によって求心性の神経細胞は興奮し、脳にその情報を伝えます。そのメカニズムを解明するために多くの研究が進行中ですが、全貌の解明にはまだ程遠い状況でしょう(4)。圧力や温度を感知するメカニズムについては2021年にデヴィッド・ジュリアスとアーデム・パタプティアンがノーベル賞を受賞しましたが、これは感覚神経に関連した業績です(5)。

ひとつ不思議なのは、遠心性の交感神経・副交感神経は節前細胞・節後細胞というシナプスを介した複数のニューロンで臓器までつながっているのですが、求心性の神経は直接延髄や脊髄まで伸びているらしいのです。なぜ行きと帰りでこのような構造的相違があるのかはよくわかりませんが、求心性の情報の方がシンプルという見方もできます。

Brain and Nerve の「迷走神経の不思議」という特集号の冒頭で、鈴木が迷走神経性求心性線維への入力として図に記載しているのは、消化管ホルモン(CCK=cholecystokinin, PYY=peptideYY, GLP-1=glucagon-like peptide-1, グレリンなど)、レプチンや栄養成分、代謝産物です(6)。このあたりが比較的研究が進んでいる分野なのでしょう。このほかに内臓知覚神経から骨髄を経由する情報、血流を介して直接視床下部にアクセスする情報などがあります(7、8、図251-2)。

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図251-2 内臓の情報を脳に伝える3つの経路 

満腹になる、あるいは栄養が十分に足りているにもかかわらずどんどん食べ続けると、胃腸がパンクするか糖尿病になってしまいます。ですからそれらを感知して食べるのを中止するシステムは、胃腸ができる頃と同時期には出来上がっていたはずです。このシステムが機能するためには消化器官の状況を感知する求心性の神経系が必要です。

そのためのメカニズムのひとつには GLP-1 がかかわっています。GLP-1 は腸管腔内の栄養が十分な時に、腸のL細胞から分泌されるホルモンです。Kuhre らがL細胞を検出した写真が図251-3です(9)。上部の暗い部分が腸管です。

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図251-3 免疫組織化学により検出された腸のL細胞 文献(9)の図を改変

L細胞は小腸下部・大腸・結腸に分布していますが、普通何某かを分泌する細胞は腺のような組織を作るはずが、L細胞はひとつふたつの細胞がかなり距離をおいてポツンと存在しています。分泌細胞はニューロンのように一生同じということはなく、死んではまた作られているはずなので幹細胞もセットになっているはずで、おそらく分化した細胞2つと幹細胞1つのセットで機能していると思われます。このような最小単位からなる組織は珍しいと思います。

GLP-1 はホルモンといっても血流で運ばれて遠くのターゲットに作用するのではなく、近隣の求心性迷走神経のニューロン表層の受容体に結合することによって効果を発揮します。このことは迷走神経を切断したり、迷走神経の受容体をノックダウンすることによって証明されました(10、11)。クリーガーらはレンチウィルスベクターを使って迷走神経の GLP-1 受容体をノックダウンする方法を開発し、これによってラットは大食いになり、食べた後のインスリンリリースも抑えられて高血糖になってしまうことを示しました(11)。

GLP-1 にはインシュリンの分泌を促進する作用がありますが、意外なことにインスリンを分泌する膵臓β細胞のGLP-1受容体はこのプロセスに関与していません。これは膵臓β細胞特異的 GLP-1 欠損マウスによる実験で判明しました(12)。GLP-1 の作用は求心性迷走神経の GLP-1 受容体を介して行われます。現場での勝手な判断は許されず、報告を上にあげてから上部組織が決定するというシステムです。

インスリンも通常のホルモンとしての作用で各臓器における糖の細胞へのとりこみや同化作用を促進していますが、実は中枢神経系にも作用することが知られています。ところがインスリンはほとんど血液脳関門を通過できないので、通常のホルモンとして脳に作用することができません。しかし食後しばらくは膵臓周辺のインスリン濃度は求心性迷走神経が応答する濃度に達しているので、求心性神経経路で十分脳に影響を与えうるそうです(13、14)。このようなことからインスリンおよび GLP-1 による摂食・糖代謝の求心性迷走神経を介した情報は図251-4のような経路で視床下部につたえられ、視床下部が行動を制御したり、膵臓や肝臓の機能調節、各臓器における代謝調節などを行っていると考えられます(図251-4)。

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図251-4 求心性迷走神経を介した摂食・糖代謝調節

 

参照

1)鈴木郁子 自律神経の科学 講談社 (2023) p.167

2)Wikipedia: Vagus nerve
https://en.wikipedia.org/wiki/Vagus_nerve?uselang=ja

3)E. Agostoni, J. E. Chinnock, M. de Burgh Daly, AND J. G. Murray, Functional and histological studies on the vagus nerve and its branches to the heart, lungs and abdominal viscera in the cat. J.Physiol., vol.135, pp.182-205 (1957)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1358921/pdf/jphysiol01365-0210.pdf

4)佐々木拓哉 内臓信号が神経回路演算に及ぼす影響の考察 日本神経回路学会誌 Vol. 30, No. 3, pp.142-147 (2023)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnns/30/3/30_142/_article/-char/ja

5)彩恵りり 2021年ノーベル生理学医学賞解説「温度と触覚の受容体の発見」
https://note.com/science_release/n/nb14019a8451b

6)鈴木郁子 迷走神経の生理学 基礎研究の歴史から現在への展開 BRAIN and NERVE vol.74, no.8, pp.955-958

7)山田哲也、片桐秀樹 求心性神経路によるエネルギー代謝調節 糖尿病 vol.51(5):pp.399?402, (2008)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/51/5/51_5_399/_pdf

8)井上啓 金沢大学プレスリリース 脳による血統調節の分子メカニズムの解明に成功!! (2016)
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2016/03/160303.pdf

9)Rune E. Kuhre, Carolyn F. Deacon, Jens J. Holst, and Natalia Petersen,What Is an L-Cell and How Do We Study the Secretory Mechanisms of the L-Cell? Front. Endocrinol., vol. 12 no. 694284 (2021)
doi: 10.3389/fendo.2021.694284
https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/articles/10.3389/fendo.2021.694284/full

10)Makoto Nishizawa et al., Intraportal GLP-1 stimulates insulin secretion predominantly through the hepatoportal-pancreatic vagal reflex pathways., Am J Physiol Endocrinol Metab vol.305: E376?E387, (2013)
doi:10.1152/ajpendo.00565.2012.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23715725/

11)Jean-Philippe Krieger, Myrtha Arnold, Klaus G Pettersen, Pius Lossel, Wolfgang Langhans, Shin J Lee, Knockdown of GLP-1 Receptors in Vagal Afferents Affects Normal Food Intake and Glycemia., Diabetes vol.65(1): pp.34-43 (2016)
doi: 10.2337/db15-0973
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26470787/

12)Eric P Smith et al., The role of β cell glucagon-like peptide-1 signaling in glucose regulation and response to diabetes drugs., Cell Metab vol.19(6): pp.1050-1057 (2014)
doi: 10.1016/j.cmet.2014.04.005
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24836562/

13)Masafumi Kakei, Toshihiko Yada, Atsushi Nakagawa, Hajime Nakabayashi, Glucagon-like peptide-1 evokes action potentials and increases cytosolic Ca2+ in rat nodose ganglion neurons., Auton Neurosci
vol.102(1-2): pp.39-44. (2002)
doi: 10.1016/s1566-0702(02)00182-0
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12492134/

14)岩﨑有作、矢田俊彦 食後ホルモンインスリン・GLP-1 の求心性迷走神経を介した摂食・糖代謝調節 自律神経 58 巻 1 号 pp.105-113 (2021)
https://doi.org/10.32272/ans.58.1_105
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/58/1/58_105/_article/-char/ja/

 

 

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2024年11月 6日 (水)

続・生物学茶話250: 交感神経と副交感神経

自律神経を発見したのは誰かというと、それはおそらく古代ギリシャの医師であり医学研究者でもあったガレノスだということになっています。原著を読んだわけではありませんが、彼は脳神経や脊髄神経がどこにはじまりどこにつながっているかということを詳しく記載しており、その中には動かしたり感じたりすることができない内臓につながっているものあるので、当然筋肉を動かしたり感覚を中枢に伝えたりするためだけに神経が存在するわけではないことは理解していたと思われます(1)。

自律神経 = autonomic nervous system という言葉を19世紀末に提唱したのはジョン・ニューポート・ラングレーですが(2)、彼は内臓につながる自律神経は遠心性神経のみという定義をしてしまったため、当時から一部では問題視されていました(3)。現在では遠心性神経(交感神経・副交感神経)、求心性神経、腸管神経を含めて自律神経とされています(4)。求心性神経が知られたのは1933年ですが、ラングレーの時代から腸管神経は知られていました。彼はこれを第3の自律神経系と呼んでいたようです(5)。

生物学的に言えば、交感神経や副交感神経は大脳には直接支配されてないとはいえ、脳には支配されているので自律神経というのは妙な言葉ではあります。求心性神経も脳に情報を伝えるためにあるわけですから同様です。一方、腸管神経は脳から影響は受けるものの、基本的には脳につながっていないので正しい意味での自律神経です。そしてウルバイラテリア(始原的左右相称動物)がまだ生まれていなかった頃から、そして生物が脳を持っていなかった時代から、腸管神経は存在していた可能性があります。

まあそういうロマンティックな話はさておき、交感神経と副交感神経から話を始めたいと思いますが、ウィキペディアの図(6-8)はやや見にくいと感じたので、とりあえず修正して図250-1~図250-4として掲載しました。これらをもとに話を進めたいと思います。

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まず脳幹系副交感神経(図250-1)からみていくと、III・ⅤII・ⅨのグループとⅩのグループとは違うなと感じます。前者はすべて獲物または餌をみつけて食べるということに関連したものであり、後者は様々な臓器が進化していくなかで、それぞれを制御する神経が徐々に生まれてきたと想像されます。たとえばナメクジウオ(頭索類)には肝臓がありませんが、このグループから進化したとみられるヌタウナギ(メクラウナギ、円口類)には肝臓があり、迷走神経があります(9)。しかしナメクジウオに自律神経がないかというとそんなことはなく、例えば彼ら独特の内分泌器官であるハチェックピットには自律神経と思われる神経が伸びているようです(10)。

副交感神経の出力は空間配置的には延髄でいったんとぎれて、脊髄の大部分からは交感神経のみが出力し、その最先端部(尾に近い部分)の仙髄から再び副交感神経が出力します。おそらく目や口に関連のある最前部と生殖に関係がある最後部がエディアカラ紀初期にはつながっていて、その中間部はその後できてきたと想像されます。このことから考えると、脳幹から出力している副交感神経がより古いタイプの神経なのでしょう。

交感神経と副交感神経には奇妙な一致点があります。それは自律神経節という中継地点があり、そこで1回シナプスを経由して情報が伝達されるという点です。ただその中継地点は交感神経の場合脊髄に非常に近いところにあり、副交感神経の場合は臓器に近いところにあります(図250-5)。いずれの場合も自律神経節より中枢側を節前神経、末梢側を節後神経といいます。図250-1~図250-4の交感神経では、節前神経を実線、節後神経を点線で描いてあります。交感神経の場合、同じ情報を多くの臓器に伝えるため、副交感神経の場合個々の臓器に別々に情報を伝えるためにこのような構造になっていると考えられています(4 pp.38-41)。

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交感神経の節前神経と節後神経は別種の細胞で、節前神経はアセチルコリン、節後神経はノルアドレナリンをシナプスで放出します。一方副交感神経の節前神経と節後神経は同種の細胞でいずれもアセチルコリンをシナプスで放出します。どちらも節後細胞のアセチルコリン受容体はニコチン型受容体です(図250-5)。。

臓器側が交感神経のノルアドレナリン情報を受け取る受容体はα型とβ型で、副交感神経のアセチルコリン情報を受け取る受容体はムスカリン型受容体です。同じ臓器であっても、異なる受容体で異なる神経伝達因子を受け取るというのは、混乱を防ぐという意味で極めて合目的的です。

交感神経と副交感神経の主な役割を図250-6の表にまとめました。それぞれが拮抗的に臓器の活動を制御していることが示されていますが、興味深いのはペニスの活動に対する機能で、拮抗するどころかシーケンシャルに生殖のためのお膳立てをやっています。たとえば臨床関係では、治療という立場から勃起と射精が全く別のメカニズムであることを強調していますが(11)、正常な生殖のためには当然連動していなければなりません。

実は迷走神経以外の部分では拮抗支配でない場合があります。例えば涙腺や唾液腺では交感神経も副交感神経も分泌する方向に誘導します。このことは脊髄ができてから迷走神経(副交感神経)vs脊髄神経(交感神経)という拮抗メカニズムが確立されたのであって、それ以前の時代には手分けしていただけだったのかもしれません。現在の私たちにおいても、汗腺・立毛筋・皮膚の血管・副腎髄質などは交感神経だけで制御されてます(4 pp.53-54)

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参照

1)坂井建雄、池田黎太郎、月澤美代子 ガレノス「神経の解剖について」 ―ギリシャ語原典からの翻訳と考察 日本医史額雑誌第49巻第3号(2003)
http://jshm.or.jp/journal/49-3/403-454.pdf

2)Langley JN. On the union of cranial autonomic (visceral) fibres with the nerve cells of the superior cervical ganglion.
J Physiol (Lond) vol.23: pp.249-270.(1898)

3)田村直俊 自律神経研究の歴史 ―情動と自律神経―  第 74 回日本自律神経学会総会 / 自律神経レクチャーズ 7
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/59/2/59_197/_pdf/-char/ja

4)鈴木郁子 自律神経の科学 講談社ブルーバックス (2023)

5)マイケル・ガーション著 古川奈々子訳「セカンドブレイン 腸にも脳がある」 小学館(2000)

6)Wikipedia: Autonomic nervous system
https://en.wikipedia.org/wiki/Autonomic_nervous_system

7)ウィキペディア:副交感神経系
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%AF%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

8)Wikipedia: Sympathetic nervous system
https://en.wikipedia.org/wiki/Sympathetic_nervous_system

9)肝細胞研究会HP 塩尻信義、太田考陽  脊椎動物における肝臓構築の多様性と進化
http://hepato.umin.jp/kouryu/kouryu49.html

10)窪川かおる ナメクジウオの生物学 Journal of Reproduction Biology Vol. 47, No. 6 (2001)
http://reproduction.jp/jrd/jpage/vol47/470603.html

11)プライベートケアクリニック東京 勃起と射精のメカニズム
https://pcct.jp/repro/disease/mechanism-of-erection-and-ejaculation/

 

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2024年10月29日 (火)

自律神経の科学 鈴木郁子著

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この本の著者鈴木郁子さんはお茶大理学部出身で日本保健医療大学の教授です。自律神経について学びたいと思っていたのですが、メカニズムに関心がある私としては、話を医療から始められるのは困ると思っていたのでこの本を選びました。

カバーが猫になっていますが、これは多分著者が猫好きのせいではなくて、昔は自律神経研究のための実験動物として猫がよくつかわれていたからだと思います(合掌)。このイラストの作者をみると小泉さよさんで、なんとこのブログの2つ前の記事「黒猫ダイアリー」とつながってしまってびっくり。

講談社ブルーバックス(2023年刊)なので一般向けのはずなのですが、読み始めてすぐ、これはかなりきちんとした教科書であることに気がつきます。それでとばした「はじめに」をあらためて読むと、著者の講義録をふくらませたものであると書いてありました。ならばそれなりの心構えで読まなければいけません。

そのつもりで読むと、とてもわかりやすい教科書です。脳神経系に関する予備知識がなくても読めると思います。私は特に内臓求心性線維(第3の自律神経)について興味深く拝読しました。また腎臓の健康のためにはコーヒーがよいという研究論文が複数あるとか、実用上のメリットもありました。排尿とか排便のメカニズムについては特に詳しく書いてあって、この問題を抱えている人は一読に値します。

 

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