続・生物学茶話299:神経細胞のアクチンとその周辺 7:PSD95
PSD95のPSDは postsynaptic density protein の意味で、分子量約95,000ダルトンのタンパク質です。脳のシナプス後細胞にほぼ特異的に存在します。英語版のウィキペディアには項目がなく、遺伝子名DLG4の項目に記載があります(1)。ノックアウトマウスは特にグルタミン酸受容体との関連で脳のさまざまな不具合が発生するようですが、機能を部分的に代替するようなタンパク質もあり、なかなか一筋縄ではいかないようです(2)。
このタンパク質はグルタミン酸受容体をはじめとして様々な物質と結合してシナプス後細胞のシナプス後膜肥厚部(postsynaptic density)に存在しますが、最近の考え方としてはそのような特異的結合だけではなく、結合をしていないフリーな分子を含めて疎水的な物質の集合による液-液相分離によって、ある分子群がシナプス後膜肥厚部に集積するとされています(3、図299-1)。
図299-1 シナプス後膜肥厚とPSD95 PSD95はCの部分に存在する
PSD95の構造的特徴は3つのPDZドメインと、それぞれひとつのSH3ドメインおよびGKドメインを持つことです(2、図299-2)。SH3ドメインは Src homology を意味し、様々なタンパク質と相互作用を持ちます。GKはグアニル酸キナーゼの略号ですが、酵素活性はなくやはり他の因子と相互作用を行うサイトとして利用されているようです(2)。このようなドメインを持つタンパク質群をMAGUK( membrane-associated guanylate kinases)ファミリーと呼んでいます。しかしグアニル酸キナーゼの活性は持たないわけですから、このようなネーミングは適切とは言えません。
PDZドメインは真核細胞が外界から得た情報を細胞骨格につなぐ、それによって動いたり形態変化を行ったりするうえで非常に重要なサイトであり、図299-2のメアリー・ケネディによって発見されました(4)。PDZはこのドメインを持つことが最初に発見された3つのタンパク質、PSD95、DLG1、ZO-1の3種のたんぱく質の頭文字をとったものです。これらはすべて分子の中にPDZ1、2、3の3つのPDZドメインを保有しています(5、図299-2)。
図299-2 PDZドメインとMAGUKファミリー
PDZドメインは通常4つのβシートと2つのαヘリックス構造を含んでいます(図299-2)。この構造は真核生物のみならず、細菌にも広汎に分布していることがわかっています(6)。おそらく外界の変化に対して生物が何らかのレスポンスを起こすためにこのドメインが必要で、それは生物の進化に伴って機能に変化はあっても、数十億年にわたって現在まで伝承されてきたものと思われます。
図299-3はPDZドメイン1、2、3の真核生物の進化に伴っての変化を追跡した研究です(7)。これによると1、2、3は少なくとも脊椎動物の全ゲノム重複などによってできたものではなく、後生動物が登場する以前から準備されていたものであることがわかります。PDZ3が最初にできて、その後PDZ2、PDZ1が順次N末側につけたされていったことがわかります。とはいってもPDZ1が海綿(A.queenslandica)にすでにあるので、いわゆる動物(後生動物)の進化に伴って付け足されていったのではなく、多細胞生物が生まれた頃にはすでに3つのドメインが存在していたことが示唆されています(図299-3)。
図299-3 PDZドメインの進化的歴史
PSD95のドメイン構造はN末から順にPDZ1、PDZ2、PDZ3、SH3、GKとなっています。立体構造を見るとひょうたん型で、N末側のPartAとC末側のPartBとに分かれている構造であることがわかります。AにはPDZ1とPDZ2が、BにはPDZ3・SH3・GKが含まれています(7、図299-4)。
このような2分された構造は、おそらくSH3やGKの領域にタンパク質が結合したり修飾したりする場合に、PDZ領域に何かが結合していることの影響を受けやすい場合(PDZ3)と受けにくい場合(PDZ1、PDZ2)の両者に対応できるようにするためだと思われます。図299-3が示すように、このような構造はオピストコンタが生まれた時点で確立されていたと考えられます。
図299-4 PSD95のドメイン構造とリボンモデル
PSD95には選択的スプライシングによってN末にL27というドメインがあるものとないものの2つのアイソフォームがあり、重要なのはそのL27ドメインがない分子はN末近傍(3番目と5番目)のセリン残基がパルミトイル化されることです(8、図299-5)。このことによってPSD95の疎水性が高まり、細胞膜・細胞膜貫通受容体との結合やシナプス後膜肥厚への集積が促進されると思われます。PSD95は膜に係留されるだけで埋め込まれないので、PDZ・SH3・GKなどすべてのドメインは有効なまま活用されます。
SAP97やCASKというそれがなければ致死という重要なタンパク質もPSD95と同じグループ(MAGUKファミリー)に属し、シナプス活動の維持に貢献しています。
図299-5 PSD95アイソフォームと関連タンパク質
ディストラーらはマウス海馬シナプス後膜肥厚(PSD)を高純度に精製し、そこから49491種類のペプチドを検出しました(9、図299-5)。そしてアルカースらはそのプロテオームデータをもとに、ひとつのシナプス後膜肥厚に存在する各タンパク質の分子数を計算しました(10)。その分子数の多い順にベストテンのタンパク質を図299-6に示しました。
グルタミン酸受容体(NMDA型およびAMPA型)が多くを占めますが、それ以外はカムキナーゼ関連とPSD95関連タンパク質によって占められています(図299-6)。このことはこれらの分子が中心となってシナプス後膜直下の構造・機能を担っていることを示唆しています。
図299-6 マウス海馬シナプス後膜肥厚におけるタンパク質分子数
ウィキペディアのPDZドメインの項目(11)には図299-7のような模式図が掲載されていました。PSD95はN末がスパイン先端の細胞膜に結合していて、これを利用してPDZドメインがNMDA受容体と結合し、一方C末はGKAPを介してコータクチンと結合し、コータクチンがアクチンと結合しているというスキームです。GKAPも図299-6のベスト10に顔を出しています。これは1例ですが、類似したさまざまなシステムによって細胞骨格と神経伝達物質受容体が連結され、記憶の調節すなわちスパインの調節が行われていると思われます。
図299-7 PSD95が仲介する細胞膜受容体とFアクチンとの連携
参照文献
1)Wikipedia: DLG4
https://en.wikipedia.org/wiki/DLG4
2)脳科学辞典:PSD95
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/PSD-95
3)細川智永 シナプス伝達と可塑性を担うタンパク質の集合と区画化 生化学 第94巻 第4号,pp. 523?528 (2022) doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940523
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2022.940523/data/index.html
4)Wikipedia: Mary B. Kennedy
https://en.wikipedia.org/wiki/Mary_B._Kennedy
5)Liu X, Fuentes EJ. Emerging Themes in PDZ Domain Signaling: Structure, Function, and Inhibition., Int Rev Cell Mol Biol., vol.343: pp.129-218 (2019)
doi: 10.1016/bs.ircmb.2018.05.013.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7185565/
6)Muley VY, Akhter Y, Galande S. PDZ Domains Across the Microbial World: Molecular Link to the Proteases, Stress Response, and Protein Synthesis., Genome Biol Evol., vol.11(3): pp.644-659. (2019) doi: 10.1093/gbe/evz023.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6411480/
7)Synaptic PSD-95 biology: from localization and interactors to N-terminus function
Atta Alkaas, Prajwal Kurup, Sai Kanuru, Adalia Von Rommel, Taran Singh, Meera J. Patel, and Jary Y. Delgado, Journal of Neurophysiology., vol.134:5, pp.1588-1606 (2025)
https://doi.org/10.1152/jn.00272.2025
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/jn.00272.2025
8)平田哲也,深田優子,深田正紀 パルミトイル化修飾酵素を軸とした神経機能研究
Journal of Japanese Biochemical Society vol.90(2): pp.125-137 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900125
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2018.900125/data/index.html
9)Distler, U., Schmeisser, M.J., Pelosi, A., Reim, D., Kuharev, J., Weiczner, R., Baumgart, J., Boeckers, T.M., Nitsch, R., Vogt, J. and Tenzer, S., In-depth protein profiling of the postsynaptic density from mouse hippocampus using data-independent acquisition proteomics. Proteomics, vol.14: pp.2607-2613. (2014)
https://doi.org/10.1002/pmic.201300520
https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pmic.201300520
10)Atta Alkaas, Prajwal Kurup, Sai Kanuru, Adalia Von Rommel, Taran Singh, Meera J. Patel, and Jary Y. Delgado,Synaptic PSD-95 biology: from localization and interactors to N-terminus function., Journal of Neurophysiology., vol.134:5, pp.1588-1606 (2025)
https://doi.org/10.1152/jn.00272.2025
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/jn.00272.2025
11)ウィキペディア: PDZドメイン
https://ja.wikipedia.org/wiki/PDZ%E3%83%89%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3































































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