てんかんを引き起こす様々な要因が知れられています(1)。リストアップしてみると
1.遺伝子変異
2.外傷性神経障害
3.低酸素障害(心筋梗塞などによる)
4.虚血(栄養不足・出血などによる)
5.感染
6.慢性神経炎症
のようなことになります。しかしこれはあくまでも出発点であり、発作というゴールまでの間の出来事はブラックボックスです。そこでもう少しその間を埋めるために、今まで知られている知識を整理すると図314-1のようになります。

図314-1 てんかんの発生に関係する分子的要因 図は左上:愛媛大学大学院医学系研究科 分子細胞生理学分野、中下:続・生物学茶話152:グルタミン酸 その1 イオンチャネル型グルタミン酸受容体、右上:国立研究開発法人科学技術振興機構のサイトから
分子生物学的な観点からみると、そのブラックボックスに深くかかわっているのは、イオンチャネル・神経伝達物質の受容体・グリア細胞の3つと思われます。
1.イオンチャネルの機能不全
電位依存性ナトリウムチャネルが正常な機能を失うと、ナトリウムの流入が止まらなくなる可能性があります。もしナトリウムの流入を適切に制御できなくなると、神経細胞は異常な興奮を継続することになり、てんかん発作が引き起こされます。遺伝子の異常によるてんかんとしては最もよくある場合です(2、3)。
電位依存性カリウムチャネルが正常な機能を失うと、神経細胞が興奮した後カリウムイオンを細胞外に逃がして膜電位を元に戻す機能が失われ、ブレーキが利かないような状態になります。たとえば KCNQ2 / KCNQ3 の異常によって、新生児期・乳児期に発症する良性家族性新生児てんかん(Benign Familial Neonatal Seizures など)や、重症のてんかん性脳症の原因となります(4)。
電位依存性のカルシウムチャネルは、脱分極に応じて細胞外からカルシウムを取り込み、シナプス小胞からの神経伝達物質の放出を促します。これが正常な機能を失うことによって、大脳皮質から線条体への興奮性入力が低下し、一時的な意識喪失(欠神発作)が発生します(5)。
2.レセプター(神経伝達物質の受容体)の機能不全
イオンチャネルに次いでてんかんの要因となるのは、イオンチャネル型情報伝達因子受容体の機能不全です。たとえばNMDA受容体が活性化されたままになると、カルシウムイオンが大量に細胞内に流入して発作の引き金になります(6)。このほかのイオンチャネル型受容体も活性化したままだとイオンが過剰に流入して発作の引き金になるという点は同じです。
抑制性神経伝達物質であるGABAの受容体が受容体として機能しなくなると、神経興奮の抑制が効かなくなり、やはり発作の引き金になります(7)。
3.グリア細胞の機能不全
アストロサイトは Kir4.1 というチャネルの機能によって神経細胞周辺のカリウムの濃度を適切に維持しています。このチャネルが機能不全に陥ると、神経細胞周辺のカリウム濃度が上昇し、脱分極後の回復処理ができなくなっててんかんの発作が引き起こされます(1)。またトランスポーター(EAATs)はグルタミン酸の濃度を調節しています。この因子が機能不全に陥ると、アストロサイトがグルタミン酸を取り込めなくなり、周辺のグルタミン酸濃度が上昇します。このことが発作に引き金になります(1)。またけいれんが発生した脳ではミクログリアが活性化され、これがTNF‐αやIL-1βを介しててんかん原性アストロサイトが誘導されることになって、その結果難治性てんかんが引き起こされるという報告があります(8、9)。
ここで述べてきたようなてんかんのメカニズムの解明には実験動物の使用がかかせませんが、テーマによってはかならずしも哺乳類(マウスなど)のようないわゆる高等生物を使う必要はありません。神経を持つ生物はすべて興奮と抑制のメカニズムを持っており、このバランスが崩壊することによってけいれんがおこり得ます。たとえば神経細胞が302個しかない線虫(C.elegance) のようなシンプルな生物であっても、変異体と薬剤によっててんかんに似た痙攣状態を引き起こすことができますし(10)、それを緩和する薬剤の研究もできます(11)。このほかゼブラフィッシュ、カエル、ショウジョウバエなども研究に使用されています(図314-2)。

図314-2 てんかんの研究によく用いられる実験動物 ハツカネズミは北海道大学理学部生物学科のサイトから 他はウィキペディアから
特にショウジョウバエにはバング・センシティブ・ミュータントという、容器をバンと叩くと数秒から数分痙攣性発作→麻痺がおこって歩行や飛翔ができなくなるという突然変異体が知られており、てんかんの研究に利用されています。このような痙攣性発作を引き起こしやすい突然変異体の遺伝子が多様であることをみると、ヒトのてんかんの原因も多様であることがうかがえます(12、図314-3)。

図314-3 ショウジョウバエの bang-sensitive という表現型にかかわる遺伝子 文献12より
参照文献
1)Wang-Jia-Lu Lu, Jing Xi, Zhi-Sheng Li, Fan Fei, Jun-Zi Chen, Yi Wang
Diverse species of animal models in epilepsy research: Progress and perspectives
Zool. Res., vol.46(6): pp.1588-1614 (2025)
https://doi.org/10.24272/j.issn.2095-8137.2025.280
https://cstr.cn/32248.14.zr.2025.280
2) Brunklaus A, Feng T, Brünger T, et al. 2022. Gene variant effects across sodium channelopathies predict function and guide precision therapy. Brain, 145(12): 4275–4286.
doi: 10.1093/brain/awac006.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35037686/
3)Berecki G, Tao E, Howell KB, et al. 2025. Nav1.2 channel mutations
preventing fast inactivation lead to SCN2A encephalopathy. Brain, 148(1):
212–226.
doi: 10.1093/brain/awae213.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38939966/
4)Perucca E, Taglialatela M., Targeting Kv7 potassium channels for
epilepsy. CNS Drugs, 39(3): 263–288. (2025)
doi: 10.1007/s40263-024-01155-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39853501/
5)理化学研究所 てんかん発症の新たな神経回路を発見 -欠神発作発生機構のパラダイムシフト- (2019)
https://www.riken.jp/press/2019/20190516_1/index.html
6)Lemes JA, dos Anjos Rosário B, Rocha SMS, et al., The role of
glutamate receptors and transporters in epilepsy: evidence from animal
studies. Reviews in the Neurosciences, 36(6): 645–660. (2025)
https://doi.org/10.1515/revneuro-2024-0173
https://europepmc.org/article/med/40248882
7)大阪大学医学部付属病院 てんかんセンター
てんかんの内科的治療
https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/epilepsy/disease/treatment1.html
8)山梨大学プレスリリース てんかん発症に関与する「てんかん原生型アストロサイト」の発見 —難治てんかんの壁を越える新規創薬に期待—
https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2021/05/20210510pr.pdf
9)佐野史和、繁冨英治、小泉修一 てんかん原性型アストロサイトと発作原性・てんかん原性 脳と発達 vol.58, pp93-96, (2026)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/58/2/58_93/_pdf
10)Shelli N. Williams, Cody J. Locke, Andrea L. Braden, Kim A. Caldwell, Guy A. Caldwell, Epileptic-like convulsions associated with LIS-1 in the cytoskeletal control of neurotransmitter signaling in Caenorhabditis elegans, Human Molecular Genetics, vol.13, issue 18, pp.2043–2059 (2004)
https://doi.org/10.1093/hmg/ddh209
11)Daniela F. Câmara et al., MPMT-OX up-regulates GABAergic transmission and protects against seizure-like behavior in Caenorhabditis elegans., Neurotoxicology vol.74, pp.272–281 (2019)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31415799/
12) Bloomington Drosophila Stock Center, Seizure disorders/epilepsy
https://bdsc.indiana.edu/stocks/hd/seizures.html
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