麻薬として有名なカンナビノイドですが、依存性や中毒性がなく健康食品として市販されているものも多くあります。図311-1は大正製薬から発売されているCBD(カンナビジオール)。

図311-1 市販されているカンナビジオール
カンナビノイドには鎮痛作用と抗炎症作用があることは昔から知られており、現在も多くの人がカンナビジオールなどを利用しています(1)。カンナビノイドの主な受容体はCB1とCB2ですが、それらの体内における分布は図311-2のようになっています。
この図(図311-2、日本臨床カンナビノイド学会による)では脳には全くCB2が発現していないことになっていますが、実際には脳幹の神経細胞や脳全体に分布するミクログリアに低レベルで発現しているようです(2)。手足の末梢神経にはCB1とCB2がともに存在します。なぜかオリジナルには書いてなかったので、管理人が加筆しました(図311-2)。CB1はおもにシナプス前膜にあり、CB2はおもにシナプス後膜にあります(3)。
CB2受容体は神経細胞以外にもグリア細胞、血管内皮細胞などにも存在し、カンナビノイドやアゴニストによって受容体が活性化されると、サイトカインやマトリクスメタロプロテアーゼの産生を抑制する作用があります(3)。

図311-2 カンナビノイド受容体CB1とCB2の棲み分け 図には記してありませんが、CB2は脳でも少量発現しています。
CB2受容体は脳には少ないので、活性化することによるさまざまな精神への影響が少ないと考えられています。また炎症を抑制する働きがあるので、炎症による痛みやかゆみを軽減する効果が期待されます。現在実験動物を使って、さまざまなカンナビノイドCB2受容体のアゴニストがプレクリニカルでテストされています。主なものを図311-3に示します。

図311-3 化学合成された、または植物から抽出されたCB2アゴニスト
実験結果は次のようになります(4)。有望ではありますが、まだプレクリニカルの段階で臨床実験には至っていないようです。
-------------------------
AM1241: cAMPの集積を阻害するが、リン酸化ERK1/2の上昇はない。
JWH015: ラットやマウスよりヒトのCB2に強く結合する。リン酸化ERK1/2を上昇させる。CB1にも結合する
AM1710: CB2に選択的に結合し、CB1には結合しない。他のアゴニストに比べて血液脳関門を通過しにくいので脳への影響が少ない。
JWH-133: Δ9‐テトラハイドロカンナビノールに構造がよく似ている。CB2に選択的に結合する。オフターゲット効果が少ない。
LY2828360:cAMP低下およびリン酸化ERK1/2上昇に対する効果がゆっくりおこる。βアレスチンを誘導しないので効果が長続きする。
β-Caryophyllene (BCP) :大麻に含まれるテルペンなので天然にも存在する。CB2に結合する。オピオイドμ受容体のアンタゴニストで効果が阻害されるので、オピオイドと関連があるかもしれない。
GW405833:CB2を通じた鎮痛効果がある。ただしアロディニア(異痛症)抑制効果はCB1を介している。
-------------------------
かゆみとCB2受容体の関係の解明については、最近深圳のグループによって大きな進展がみられました(5、図311-4)。
かゆみは皮膚のセンサーがその刺激を受けるとヒスタミンなどの痒みメディエーターが放出され(6)、TRPチャネルが働いて脊髄後角に信号が伝達されます。この信号によって脊髄後角のミクログリア(常在性マクロファージ)が活性化され、JAK1シグナルからの経路がONになって大量のサイトカインを放出します。これによって脳につながるかゆみの神経回路が起動します(図311-4)。

図311-4 CB2受容体はかゆみをコントロールする Xuらの論文(5)からの引用
サイトカインの刺激を受けたGRP+ニューロンはGRP(ガストリン放出ペプチド)を放出します。ここでこのペプチドはガストリンとは関係なく、受容体を持っているGRPR+ニューロンを刺激して興奮させ、その信号はVGlu2+というグルタミン酸型の投射ニューロンに伝達され、長い軸索によって信号は脳幹の橋にある結合腕傍核(けつごうわんぼうかく、Parabrachial Nucleus=PBN)に伝えられます(図311-4)。ここから大脳辺縁系にかゆみのシグナルがつたわり、不快を感じたり、ひっかくという行動を引き起こしたりします。
CB2受容体にCB2リガンド・アゴニストが結合すると、SOCS3(Suppressor of Cytokine Signaling 3)というペプチドが合成され、JAK/STAT経路が阻害されて、ミクログリアからのサイトカイン放出が妨げられます。これによってかゆみが鎮静化されます(図311-4)。
すなわち通常はミクログリアのCB2受容体は、内在性のカンナビノイドが結合することによって自らの過剰反応を抑止する機能を持つと考えられます。しかし病的なかゆみが発生した場合は、アゴニストによってミクログリアの反応を強制的に鎮静化することに薬剤としての意義があります。
痛みとCB2の関係についてもCB2欠損マウスなどで研究が進められています(7)。神経を損傷させたマウスでは、野生型マウスに比べてCB2欠損マウスの場合痛みの過敏化が著しく悪化・長期化します。神経が傷つくと生体はエンドカンナビノイドを放出してCB2受容体を刺激し、痛みを抑えようとします。しかし、CB2欠損マウスではこのブレーキが利かないため、服が擦れる程度の軽い刺激でも激痛と感じる「アロディニア」などの病態がより重篤になります。
正常なマウスの場合、活性化したミクログリアにはCB2受容体が大量に発現し、これが自身の暴走を抑えるセーフティ機能として働きます。一方CB2欠損マウスの場合、このセーフティ機能がないため、脊髄における神経炎症が収まらず、痛みの信号が脳へ過剰に送られ続けてしまいます。
片足の神経を傷つけた場合、通常は傷つけた足だけが痛みます。しかし、CB2欠損マウスでは、傷つけていない反対側の足(対側)まで過敏化して痛むようになる現象が報告されています。このことは、CB2を介したシグナルが、痛みの範囲が全身や反対側にまで「拡大・拡散」するのを食い止める障壁の役割を果たしていることを意味しています(8)。
参照文献
1)dsm-firmenich news 患者の信頼から新たなエビデンスへ:CBDと慢性疼痛管理の背後にある専門家の洞察
https://www.dsm-firmenich.com/ja-jp/businesses/health-nutrition-care/news/talking-nutrition/from-patient-trust-to-emerging-evidence-expert-insights-behind-cbd-and-chronic-pain-management.html
2)ウィキペディア:カンナビノイドCB2受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%93%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%89CB2%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
3)渡辺正仁ら カンナビジオールの治療効果とその作用機序
保健医療学雑誌9巻2号112-126ページ 2018年
4)Guenther KG, Hohmann AG. Cannabinoid CB2 receptor-mediated analgesia: mechanism-based insights and therapeutic potential., Br J Pharmacol., vol.182(21): pp.5090-5118. (2025)
doi: 10.1111/bph.70116.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40611669/
5)Xu K, Liu X, Zeng Q, Liu Y, Shan L, Ji L, Wu Y, Wu J, Chen Y, Li Y, Huang S, Jiang C, Hong X, Wu C, Wang Z. Cannabinoid CB2 receptor controls chronic itch by regulating spinal microglial activation and synaptic transmission. Cell Rep., vol.44(4): no.115559. (2025)
doi: 10.1016/j.celrep.2025.115559.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40222011/
6)江川形平 皮膚のかゆみのメカニズム アレルギー69巻4号256-259ページ (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/4/69_256/_pdf
7)Nent, E., Nozaki, C., Schmöle, AC. et al. CB2 receptor deletion on myeloid cells enhanced mechanical allodynia in a mouse model of neuropathic pain. Sci Rep 9, 7468 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-43858-4
https://www.nature.com/articles/s41598-019-43858-4
8)Racz I, Nadal X, Alferink J, Baños JE, Rehnelt J, Martín M, Pintado B, Gutierrez-Adan A, Sanguino E, Manzanares J, Zimmer A, Maldonado R. Crucial role of CB(2) cannabinoid receptor in the regulation of central immune responses during neuropathic pain. J Neurosci. vol.28(46): pp.12125-12135. (2008)
doi: 10.1523/JNEUROSCI.3400-08.2008.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3844839/
最近のコメント