続・生物学茶話304:オピオイドと受容体 その1.基本的メカニズムとバラエティ
ギリシャ語で「アヘン」を意味する言葉が opion で、「~のようなもの」を意味する言葉が -oid なので、オピオイドは日本語にすれば「アヘンのようなもの」ということになります。アヘンはケシの果実に含まれるアルカロイドがその実効成分です。ギリシャでは紀元前後からケシのシロップが麻酔剤として使われていたそうです(1)
ではなぜケシはそのような物質を合成しているのかという疑問がわいてきますが、それはやはりこの植物の実をたべようとする昆虫や動物にとって嫌な味、または毒だからでしょう。ヒトの場合苦くはないそうです。進化上保存されていることを考えると、ケシのような植物を好む昆虫や動物に有害であったに違いありません。これは可能性としては低いと思いますが、好んで食べさせて健康被害を起こし最終的に殺すというストラテジーもあり得ます。
ヒトの場合ケシの果汁は古代から鎮痛・鎮静作用が知られ、モルヒネ・コデイン・オキシコドンなどの薬物を抽出して医薬品などに用いてきました。しかし同時に習慣性や、濫用による健康被害も知られています(2)。しかしそれにもかかわらず、現在でもこれらの医薬は汎用されています。私も咳が出るときはコデインを含む薬を利用します。
これらの薬物の効果として最も一般的なのは鎮痛作用でありモルヒネやオキシコドンは癌性疼痛を和らげる用途で用いられます。これらの鎮痛作用はどのようなメカニズムを介しているのでしょうか? 脳科学辞典によると、1972年前後に多くの研究室でほぼ同時にこれらの薬物の受容体(=オピオイド受容体)が生体内に存在するという報告が行われました(3)。つまりオピオイド受容体は生体内におけるそれらの本来のリガンドが見つかる前に、薬物の受容体として発見されたということになります。
そして1992年には、その受容体はすべての真核生物が保有する膜7回貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)であることが明らかとなりました(4、5)。生体内における本来のリガンドもその後明らかになりつつあり、脳科学辞典などを参照して図304-1に一部をまとめておきます。医薬品としての外因性リガンドはこのほかにも多くの種類があり、日進月歩でもあります。
図304-1 オピオイドリガンドと受容体 (ORL1はOPRL1と同義)
オピオイド受容体はGi/Go型の3量体タンパク質と結合しているいわゆる膜7回貫通型Gタンパク質なので、リガンド(オピオイド)が結合するとGタンパク質はαとβγに分離し、図304-2のようにシグナル伝達を行います(3)。さらにGタンパク質が離れたC末はリン酸化を介してβ‐アレスチンが結合し、独自のシグナル伝達を行うとともにエンドソームにとりこまれて内在化されたのち、受容体のリサイクリングや分解が行われます(3、6、図304-2)。
次回で触れるつもりですが、オピオイド受容体は免疫細胞にも強く発現しているので、その場合β‐アレスチンによるシグナル伝達が重要であると思われます(6)。
図304-2 オピオイド受容体の機能 この図は脳科学辞典「オピオイド受容体」の図をもとに製作したものです
つぎに内因性リガンドについてですが、調べていくとそれらは分子生物学の常識にかからない、とんでもないものであることがわかりました。例えば図304-3(7)をご覧になればわかるように、プロエンケファリンという長いペプチドのなかに、ごった煮のように多数の種類の異なるオピオイドリガンドの配列が含まれており、さらにオピオイドではない別機能の配列まで含まれているのです。これらは転写や翻訳の過程では個別の調節を受けず、親ペプチドのプロセッシングがおこなわれるかどうかによって世に出るかどうかが決められているという特殊な調節を受けます。
なぜこのようになったのか想像するのは困難ですが、C末メチオニン型のエンケファリンの配列は6個も親ペプチドに収納されています。そのほか黒線部分の配列はシンエンケファリンの部分を除いて、それぞれオピオイドとして機能します。確かにこれだけ多くの活性ペプチドが存在すれば、プロセッシングを実行するプロテアーゼの産生あるいは活性を調節することによってアナログ的なリガンドの調節ができるのかもしれません。もともと特にオールオアナッシングではまずかったのではないでしょうか。
図304-3 プロエンケファリン
プロエンケファリンのような親ペプチドはほかにも3つあって、このことはこうした特殊な制御様式が偶然ではなく、オピオイドリガンドの合成に一般的に適していることが示唆されます。プロオピオメラノコルチンの親ペプチドからは、エンドルフィンやエンケファリンだけでなく、メラノサイト刺激ホルモン・リポトロピン・クリップなどオピオイド以外の多くの機能ペプチドが製造されることになっています。これらは機能的に連動して発現すべきものなのでしょうか?
フリッカーらはμκδに結合するリガンドの特性を比較するために3角グラフを作って説明しています(7、図304-5)。薬品として製造されたものは特異性が非常に高いものがあり、鋭角的な矢じり状の図形になっていますが、内在性のリガンドはそこまで特異性は高くありません。それでも一桁~二桁Kiが異なる場合はあるようです(図304-5)。
図304-5 リガンドの特異性を比較するための3角グラフ
参照文献
1)佐川道夫 日本軍と阿片
https://nara9jyonet.com/document/jyukunen/nihongunahen.pdf
2)ウィキペディア:アヘン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%98%E3%83%B3
3)脳科学辞典:オピオイド受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AA%E3%83%94%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%89%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
4)Evans CJ, Keith DE Jr, Morrison H, Magendzo K, Edwards RH. Cloning of a delta opioid receptor by functional expression. Science vol.258(5090): pp.1952-1955. (1992)
doi: 10.1126/science.1335167.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1335167/
5)Kieffer BL, Befort K, Gaveriaux-Ruff C, Hirth CG. The delta-opioid receptor: isolation of a cDNA by expression cloning and pharmacological characterization. Proc Natl Acad Sci U S A. vol.89(24): pp.12048-12052. (1992)
doi: 10.1073/pnas.89.24.12048.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1334555/
6)渡健治,黒瀬等 β‐アレスチンの生理定期機能 日薬理誌 vol.141,pp.53-54 (2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/141/1/141_53/_pdf
7)Lloyd D. Fricker, Elyssa B. Margolis, Ivone Gomes and Lakshmi A. Devi,Five Decades of Research on Opioid Peptides: Current Knowledge and Unanswered Questions., Molecular Pharmacology, vol.98, pp.96-108 (2020)
https://doi.org/10.1124/mol.120.119388
https://molpharm.aspetjournals.org/article/S0026-895X(24)01042-3/abstract
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