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2026年2月22日 (日)

続・生物学茶話294:神経細胞のアクチンとその周辺 2.ドレブリン

ドレブリンは白尾らによって、発生過程のニワトリ視蓋のタンパク質を解析する過程で、発見されたタンパク質です(1)。白尾(図294-1)によればドレブリン drebrin とは「developmentally regulated brain protein」の略称だそうです(2)。このタンパク質は哺乳類にも存在し、主として出生前や出生直後に発現するEタイプと、主として成体で発現する少し分子量が大きいAタイプが存在します(3、図294-1)。ドレブリンEは移動中神経細胞の細胞体や軸索の成長円錐に多く集積しているのに対して、ドレブリンAは樹状突起スパインに多く集積するとされています(3)。

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図294-1 幼若型(胚型)および成熟型(成体型)ドレブリンのドメイン構造

ドレブリンにはいくつかのアイソフォームがありますが、遺伝子はひとつです。図494-2にはそれらのcDNAが示してあります。アイソフォームは選択的スプライシングによってつくられます。ニワトリには3つのアイソフォームE1、E2、Aがあり、ラットやヒトには2つのアイソフォームEとAがあります(4、図294-2)。Eは胚型または幼若型(embryo)、Aは成体型または成熟型(adult)を意味します。英語表記に従って、今後は胚型・成体型と言うことにします。

A型は挿入配列(哺乳類では ins2、ニワトリでは ins1+ins2)を含んでいます(図294-2)。この挿入配列よりN末側は保存性が高い領域になっていますが(conserved 1a および conserved 1b)、C末側は哺乳類とニワトリとでかなり違いがあります。挿入配列の部分だけを比べると哺乳類よりニワトリの方が長いにもかかわらず、哺乳類では点線の部分(V1領域)にニワトリにはない別個の配列が追加されているので、全体のサイズは哺乳類の方が大きくなっています。

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図294-2 成体型ドレブリンcDNA 鳥類と哺乳類の比較

文献(4)に報告されている、さまざまな動物における挿入配列部分(アダルトスペシフィックエクソン=ASE)のアミノ酸の比較を図294-3に示しました。驚くべきことにラット・マウス・ヒトで ins2 は完全に一致しています。ニワトリも46残基中4残基のみの相違です。この保存性の高い配列が成体の脳における樹状突起スパインの形成におそらく関係していて、また幼若期には存在すべきでない領域だと思われます。ins1の部分も哺乳類のなかでは非常によく保存されていますが、ニワトリではかなり異なっています。ニワトリにおいて ins1 がどんな役割を果たしているかは不明です。

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図294-3 胚型タンパク質で脱落しているインサーション配列
に相当する部分のアミノ酸配列: 動物による比較

スラピャンらは成体型ドレブリンの ins 部分にはアクチン結合能があり、コフィリンによるF-アクチン切断を阻害する機能があるとしています(5)。また彼らのモデルによると、成体型ドレブリンには胚型ドレブリンよりアクチンのバーブドエンド(矢尻側)をブロックする機能(キャッピング)があるとしています(5、図294-4)。このようなF-アクチンの構造を保護する機能によって、ドレブリンAは樹状突起スパインの安定化、ひいては記憶の固定に寄与していると思われます。

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図294-4 ドレブリンによるF-アクチンのキャッピングについての模式図

ドレブリンAは樹状突起スパインを安定化する機能があると述べましたが、ドレブリンAは新生仔の時代にすでにかなり合成されているので、そんな時にスパインが固定化されてしまっては困ります。それについてはドレブリンをスパインから樹状突起本体に収納するというメカニズムが用意されています。これはドレブリンエクソダス(エクソダス=集団移動、ユダヤ人がエジプトから集団で脱出したことを意味する)と呼ばれています。ドレブリンエクソダスは神経細胞にグルタミン酸が添加されることによって実現します(6、7、図294-5)。このメカニズムはNMDA型グルタミン酸受容体を介して発動されるようです。

個人的にはエクソダスという言葉は、細胞から出ていくようなニュアンスが付きまとうので適切でないと思います。マスリターンあるいはスタンバイ化っていう感じでしょうか。

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図294-5 ドレブリンエクソダス グルタミン酸の添加によって、スパインに存在したドレブリンが樹状突起内部に収納される(一番右側の図)

ドレブリンAのノックアウトマウスでは神経細胞にもドレブリンEが発現するため解析は難しいようですが、恐怖条件付け、LTP、スパインの形態、NMDA受容体および代謝型グルタミン酸受容体が関係するLTD=Long-Term Depression に異常がみられるなどの報告があります(3、8)。またドレブリンAEのダブルノックアウトマウスも飼育可能ですが、嗅覚に異常がみられるようです(9)。

 

参照文献

1)Tomoaki Shirao, Kunihiko Obata, Two Acidic Proteins Associated with Brain Development in Chick Embryo., J.Neurochem., vol.44, pp.1210-1216 (1985)
https://doi.org/10.1111/j.1471-4159.1985.tb08745.x
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.1985.tb08745.x

2)白尾智明 ドレブリンと歩んだ神経化学の道 神経化学 vol.64, pp.87-73 (2025)
https://neurochem-j.jp/10.11481/topics240/data/index.pdf

3)脳科学辞典 ドレブリン
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%B3

4)Tomoaki Shirao, Yuko Sekino Editors Advances in Experimental Medicine and Biology 1006
DrebrinFrom Structure and Function to Physiological and Pathological Roles
Springer Japan 2017 ISBN 978-4-431-56548-2  DOI 10.1007/978-4-431-56550-5

5)Srapyan S, Mkrtchyan M, Berlemont R, Grintsevich EE. Functional Differences Between Neuronal and Non-neuronal Isoforms of Drebrin. J Mol Biol. Vol.437(9): no.169015. (2025) doi: 10.1016/j.jmb.2025.169015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39971265/

6)東京大学大学院 農学生命科学研究科HP 記憶メカニズム研究や中枢神経系疾患の治療薬開発に有用なヒト神経細胞の作製に成功 ――転写因子で分化誘導されたヒトiPSC由来神経細胞で 迅速な樹状突起スパイン形成とシナプス機能の成熟化を達成
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20230324-1.html

7)Waka Lin, Shusaku Shiomoto, Saki Yamada, Hikaru Watanabe, Yudai Kawashima,Yuichi Eguchi, Koichi Muramatsu, and Yuko Sekino, Dendritic spine formation and synapse maturation in transcription factor-induced human iPSC-derived neurons., iScience vol.26, no.106285 (2023)
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.106285
https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S2589-0042%2823%2900362-0

8)Yasuda H, Kojima N, Hanamura K, Yamazaki H, Sakimura K and Shirao T., Drebrin Isoforms Critically Regulate NMDAR- andmGluR-Dependent LTD Induction.
Front. Cell. Neurosci. vol.12:330. (2018)
doi: 10.3389/fncel.2018.00330
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30349460/

9)Yuki Kajita, Nobuhiko Kojima, Tomoaki Shirao, A lack of drebrin causes olfactory impairment., Brain Behav. vol.14: e3354 (2024)
https://doi.org/10.1002/brb3.3354
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38376048/

 

 

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