続・生物学茶話293:神経細胞のアクチンとその周辺 1.マイクロフィラメント
Andrew Huxley と Hugh Huxley がそれぞれ独立に筋収縮の滑り説-すなわちアクチンとミオシンの相互作用によって筋収縮が行われるという仮説を発表したのは1954年のことでした(1)。その後筋肉以外にもアクチンのフィラメント(マイクロフィラメント)が存在することが知られてきました。現在ではほとんどの細胞において形状維持、運動、分裂、細胞内輸送に中心的な役割を果たしていることがわかっています。多くの細胞の中は空洞ではなく、微小管・中間系繊維・マイクロフィラメントが密生する迷路のような構造になっています。マイクロフィラメントはなかでも直径がわずか7nmの細い線維で、電子顕微鏡でようやくその存在が確認できます。
ケネス山田は1970年に神経細胞軸索の先端付近のフィロポディアにマイクロフィラメントが集積していることを報告しました(2、図293-1)。これは彼が26才の時に書いた最初の論文だそうです(3)。この仕事が神経におけるアクチンおよび関連因子の特別な役割を解明する出発点となりました。
図293-1 ケネス山田の電子顕微鏡写真
細胞が移動または成長するときに出す仮足には、広い領域が盛り上がってくる葉状仮足(ラメリポディウム)と狭い領域が針のように突き出してくる糸状仮足(フィロポディウム)があります。これら両者においてアクチン線維は構成要素として基幹的な役割を果たしていることがわかっています。図293-2に Mejillano らのモデルを示しました(4)。もちろん仮足の構成要素としては他にも多くのタンパク質があることがわかっていますし、基底部には微小管が存在します。図293-2にはファシンなど他の構成要素も一部記してあります。ファシンは糸状仮足の先端部に存在する因子として知られています(5)。
図293-2 葉状仮足および糸状仮足におけるアクチン線維の模式図(仮説)
現在では糸状仮足のアクチン繊維には2種類あり、先端部のアクチン線維はいわゆるマイクロフィラメントであり、その根元の部分にはアクチンとコフィリンによって構成される別の線維(コフィラクチン)があることがわかっています(6、図293-3)。先端部ではマイクロフィラメント同志はファシンで結合されていて、強力な繊維の束となりますが(rigid state)、コフィラクチンがこの束に混在していると線維同士の結合がルーズになります(flexible state)(6、図293-3)。
図293-3 糸状仮足におけるアクチン線維の構造 最近の知識
コフィラクチンの根元には微小管が扇子の要のような形で広がっています。逆にマイクロフィラメントよりさらに先端部にはシューティンというタンパク質が分布しています(7、図293-4A)。シューティンは細胞表層の細胞接着分子とマイクロフィラメントを連結する役割を果たしているようです。細胞接着分子をタイヤ、マイクロフィラメントをエンジンとして、シューティンはクラッチ分子とも言われています(8)。
このほか神経細胞には中間径繊維としてニューロフィラメントが細胞全体に存在し、神経細胞体・樹状突起・軸索の形態を支える役割を果たしています(9、図293-5)。ニューロフィラメントを構成しているのは、主としてNF-H (分子量200kD)、 NF-M(分子量160kD)、 NF-L(分子量68kD)という3種類のタンパク質です。個人的にはL・M・Sとしたほうがわかりやすいと思うのですが。軸索が損傷すると外部にニューロフィラメントが漏れ出してくるので医学的検査のためにも重要な要素です(10、図293-4B)。
図293-4 軸索におけるニューロフィラメント微小管・マイクロフィラメントの配置
図293-5 神経細胞におけるニューロフィラメントの汎在(from Wikipedia: Neurofilament
ここまで述べてきたような諸因子などの働きによって、軸索や樹状突起・シナプスが発達し再構成されることが記憶の形成と維持にとって重要であると考えられており、もちろん海馬のニューロンについてもそれは言えます。レテリエによるラット海馬神経細胞の美しい写真を図293-5に示します(11)。
図293-6 ラット海馬ニューロンにおける微小管(水色)とマイクロフィラメント(橙色)
アクチンとチュブリンの免疫染色による
最後に広川による軸索の電子顕微鏡写真(12)を貼っておきます(図239-7)。マイクロフィラメントがみられないので、先端部ではありません。細胞内に中間系繊維(ニューロフィラメント)がびっしりと密生し、その間に微小管が長軸方向に平行に伸びています。ミトコンドリアと微小管を連結するリンカータンパク質がみえますが、これについては今でも詳細がわかっていないと思います。
図293-7 電子顕微鏡で観察したカエル神経の軸索
細胞骨格についてより基本的な知識を得たい方は以前の書き込みなどをご覧ください(13)。
参照
1)ウィキペディア:滑り説
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%91%E3%82%8A%E8%AA%AC
2)Kenneth M. Yamada, Brian S. Spooner, and Norman K. Wessells, Axon Growth: Roles of Microfilaments and Microtubules., Proceedings of the JVational Academy of Sciences Vol.66, No.4, pp.1206-1212 (1970) DOI: 10.1073/pnas.66.4.1206
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5273449/
3)ウィキペディア:ケネス山田
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%80
4)Marisan R. Mejillano, Shin-ichiro Kojima, Derek Anthony Applewhite, Frank B. Gertler, Tatyana M. Svitkina and Gary G. Borisy., Lamellipodial Versus Filopodial Mode of the Actin Nanomachinery: Pivotal Role of the Filament Barbed End., Cell, Vol. 118, 363–373, (2004)
DOI: 10.1016/j.cell.2004.07.019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15294161/
5)Wikipedia: fascin
https://en.wikipedia.org/wiki/Fascin
6)Ryan K. Hylton, Jessica E. Heebner, Michael A. Grillo & Matthew T. Swulius, Cofilactin filaments regulate filopodial structure and dynamics in neuronal growth cones., Nat Commun vol.13, no.2439 (2022).
https://doi.org/10.1038/s41467-022-30116-x
https://www.nature.com/articles/s41467-022-30116-x
7)稲垣 直之 Shootin1による細胞‒基質間の力の発生を介した神経細胞の 細胞移動,極性形成,軸索ガイダンスおよびアクチン波
生化学 第91巻第2号,pp. 159‒168(2019)
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2019.910159/index.html
8)奈良先端科学技術大学院大学HP:神経を伸ばす分子の仕組みを解明- クラッチタンパク質の発見 -
https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=97
9)Wikipedia: Neurofilament
https://en.wikipedia.org/wiki/Neurofilament
10)Skarlis, C.; Siozios, D.; Rentzos, M.; Papageorgiou, S.G.; Anagnostouli, M.
Neurofilament Biomarkers in Neurology: From Neuroinflammation to Neurodegeneration, Bridging Established and Novel Analytical Advances with Clinical Practice.
Int. J. Mol. Sci.,vol.26, no.9739. (2025)
https://doi.org/10.3390/ijms26199739
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41097004/
11)Christophe Leterrier, A Pictorial History of the Neuronal Cytoskeleton., J Neurosci. vol.41(1): pp.11-27. (2021) doi: 10.1523/JNEUROSCI.2872-20.2020.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33408133/
12)Hirokawa N., Cross-linker system between neurofilaments, microtu bules and membranous organelles in frog axons revealed by the quick freeze, deep-etching method. J Cell Biol 94:129–142. (1982) doi: 10.1083/jcb.94.1.129.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6181077/
13)https://morph.way-nifty.com/grey/2017/06/post-20be.html
または冒頭の 生物学茶話(Science):こちら1 より第5章
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