先に述べたように(1、2)、山内らはCaイオン、カルモデュリン、ATPの存在下で芳香族アミノ酸を水酸化する酵素CAMKIIを発見し、これこそが神経伝達物質合成のトリガーであるとして、意気揚々と1980年に論文を発表しましたが、その後精製倍率の高いトリプトファン水酸化酵素を使用すると、CAMKIIの活性を測定できなくなることが判明しました。これはおそらく精製することによって、酵素サンプルに不純物として含まれていた活性化因子が失われたことによると思われ、彼らは実際酵素をさらに精製すると失われる、そして芳香族アミノ酸がリン酸化されたのちに作用する因子が存在することを突き止めました。山内らはこれを説明するために図291-1のようなスキームを考えていました。

図291-1 カムキナーゼIIと活性化因子Aによる芳香族アミノ酸の活性化機構
しかし山内らはその後活性化因子Aについての研究を後回しにしていました。すると磯部らが自分たちが研究している14-3-3タンパク質が活性化因子Aと同じものではないかという連絡がきました。実際反応のプロセスやアミノ酸組成を調べると極めて類似していたので、急いで速報誌に共著で発表しました(3)。その後磯部らはこの因子のアミノ酸配列などを調査し、14-3-3タンパク質にはαからηの7種類があり、全てトリプトファン水酸化の活性化に有効であることを確かめました(4)。さらに多くの研究者がアミノ酸配列などを詳しく調べて、14-3-3タンパク質が植物も含めてユニバーサルな分子であり、情報伝達やタンパク質リン酸化の調節に広汎に作用していることがわかりました(5、6)。
14-3-3タンパク質はホモまたはヘテロダイマーとして機能し、リン酸化したタンパク質をゆりかごのようにかかえることができます。どのようなリン酸化の様式に反応するかは、図291-2に示したような3つのモードがあります。リン酸化したタンパク質を抱え込むことによって、活性化したり、安定化したり、担体となって移動させたりなど様々な機能を果たします(7、8、図291-2)。

図291-2 14-3-3 タンパク質の形態と機能
脳科学辞典によると9つのアイソフォームがあると書いてありますが(8)、実はαはβのリン酸化型であり、δはζのリン酸化型なので7つのアイソフォーム(β、γ、ε、η、τ、ζ、σ)とした方がよいと思われます(9、図291-3)。Θとτは同じ物質に2つの言葉を使っているわけで、紛らわしい状況が続いています。いずれにしても ホモダイマー、ヘテロダイマー、リン酸化の状態、それぞれで機能が異なっているとすると研究は大変です。

図291-3 14-3-3 タンパク質のアイソフォーム
14-3-3 というタンパク質は、上記7種類のアイソフォームがおそらくすべての脊椎動物に存在します。これはめずらしいことだと思います。図291-4にN末近傍のアミノ酸配列を示します。植物も含めて保存性は高いと思われます。これはN末近傍だけではなく全体についても同様に保存性は高いといえます(10)。ほぼすべての場合についてN末はメチオニンで削除されていません。
Jerlらは非常に多くの生物についてこのたんぱく質の系統を調査しました(10)。図291-5にその一部のみを示しますが、驚くべきことに哺乳類の隣に海綿があったり、カエルの隣にハエがあったりして、14-3-3タンパク質が広い範囲にわたって進化的保存性の高いタンパク質であることが示されています。単細胞生物、扁形動物、植物にも存在します。特に植物では巨大なグループを形成していて、まだまだ未知の領域です。細菌や古細菌ではみつかっていないようですが、これは多分まだみつかっていないという可能性が高いと思います。特にどんな古細菌でみつかるかというのが真核細胞への進化の道程を知るうえで重要になります。ただこの研究以来、植物以外で広汎な調査が行われた形跡がないのは残念。

図291-4 様々な生物における 14-3-3 タンパク質のN末近傍のアミノ酸配列 赤:完全一致 青:保存性が高い部分 (一部のみ 文献10より)

図291-5 14-3-3タンパク質の系統図(一部のみ 文献10より)
最近では主に脳神経疾患との関係で14-3-3タンパク質が研究されているようです。たとえばこのタンパク質の産生が低下すると、タウタンパク質のリソソームでの代謝が支障をきたしてアルツハイマー型認知症の引き金になるとか、筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてはいくつかのタンパク質のミスフォールディングに関与しているとか、また14-3-3タンパク質はα-シヌクレインと結合するのでパーキンソン病にも関与しているという報告もあります(11、図291-6)。これらの場合にも、それぞれのアイソフォームが特異的に関与していることが示唆されています(11)。

図291-6 脳神経系疾患との関連
それにしても moonlight protein(11) とはね (副業という意味?)
個人的にはシンプルにクレセント・プロテインの方が良いと思いますが 🌙🌙🌙
参照文献
1)続・生物学茶話290:記憶の固定をめぐって 2.芳香族アミノ酸水酸化酵素
https://morph.way-nifty.com/grey/2026/01/post-4bebb5.html
2)記憶と学習をささえる分子 カムキナーゼⅡの発見
https://morph.way-nifty.com/grey/2026/01/post-3903ae.html
3)Tohru Ichimura, Toshiaki Isobe, Tsueno Okuyama, Takashi Yamauchi, Hitoshi Fujisawa Brain 14-3-3 protein is an activator protein that activates tryptophan 5-monooxygenase and tyrosine 3-monooxygenase in the presence of Ca2+,calmodulin-dependent protein kinase II.,
FEBS lett., vol.219, pp.79-82 (1987)
https://doi.org/10.1016/0014-5793(87)81194-8
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1016/0014-5793(87)81194-8
4)Toshiaki Isobe, Tohru Ichimura, Toshiyuki Sunaya, Tsuneo Okuyama, Nobuhiro Takahashi, Ryozo Kuwano, Yasuo Takahashi Distinct forms of the protein kinase-dependent activator of tyrosine and tryptophan hydroxylases vol.217, pp.125-132 (1991)
https://doi.org/10.1016/0022-2836(91)90616-E
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/002228369190616E
5)Alastair Aitken. D. B. Collinge, B. P. H. van Heusden. T. Isobe.
P. H. Roseboom G, Rosenfeld and J. Soil, 14-3-3 proteins: a highly conserved widespread family of eukaryotic proteins., Trends Biochem Sci vol.17, pp.498-501 (1992)
doi: 10.1016/0968-0004(92)90339-b
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1471260/
6)Robert J erl, Michael S Manak and Matthew Reyes, The 14-3-3s., Genome Biology, 3(7):reviews 3010.1-3010.7 (2002)
http://genomebiology.com/2002/3/7/reviews/3010.1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12184815/
7)Rittinger K, Budman J, Xu J, Volinia S, Cantley LC, Smerdon SJ, Gamblin SJ, Yaffe MB. Structural analysis of 14-3-3 phosphopeptide complexes identifies a dual role for the nuclear export signal of 14-3-3 in ligand binding. Mol Cell., vol.4(2): pp.153-166. (1999) doi: 10.1016/s1097-2765(00)80363-9
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276500803639
8)脳科学辞典:14-3-3タンパク質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/14-3-3%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA
9)Abdi G, Jain M, Patil N, Upadhyay B, Vyas N, Dwivedi M, Kaushal RS., 14-3-3 proteins a moonlight protein complex with therapeutic potential in neurological disorder: in-depth review with Alzheimer's disease. Front Mol Biosci., vol.11:1286536.(2024)
doi: 10.3389/fmolb.2024.1286536.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38375509/
10)Robert Jerl, Michael S Manak and Matthew Reyes, The 14-3-3s., Genome Biology, vol.3(7) review 3010.1 (2002)
http://genomebiology.com/2002/3/7/reviews/3010
11)Abdi G, Jain M, Patil N, Upadhyay B, Vyas N, Dwivedi M and Kaushal RS., 14-3-3 proteins—a moonlight protein complex with therapeutic potential in neurological disorder:in-depth review with Alzheimer’s disease., Front. Mol. Biosci. vol.11:1286536.
doi: 10.3389/fmolb.2024.1286536
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38375509/
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