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2025年11月14日 (金)

中江早希さん(ソプラノ歌手)

中江早希さんは柔らかさと迫力をあわせもった、素晴らしいソプラノ歌手です。オペラはもちろんのことリートやアニメ音楽なども幅広くレパートリーに加えています。なんとまだウィキペディアに掲載されていないようです。私は今年の春TCPOのヴェルディ「レクィエム」で初めて知りました。その会場全体を牽引していくような豪快な歌唱に圧倒されました。

HP:https://sakinakae.com/

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富士吉田 時空間絵巻 蝶々夫人 クライマックスシーン
https://www.youtube.com/watch?v=YmQaFppf4k4&list=RDYmQaFppf4k4&start_radio=1

長時間版
https://www.youtube.com/watch?v=hgXkFGJAo6E

立体サウンドのオペラアリアビデオ 蝶々夫人 ある晴れた日に
https://www.youtube.com/watch?v=aHAx6aD_i-A&list=RDaHAx6aD_i-A&start_radio=1

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春の声 ヨハン・シュトラウスII
https://www.youtube.com/watch?v=Mf_PMOC6h_A

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Morgen! R・シュトラウス
https://www.youtube.com/watch?v=Bv1bisqLq7g&list=RDBv1bisqLq7g&start_radio=1

コロナ時代のリモート配信

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第9 ベートーヴェン
https://www.youtube.com/watch?v=Bgcwx1sFS5Q&list=RDBgcwx1sFS5Q&start_radio=1

アルトパートを藤木大地さんが歌っていてびっくり

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美しい恋人よ さようなら モーツァルト
https://www.youtube.com/watch?v=6LkHtBchSpw&list=RD6LkHtBchSpw&start_radio=1

歌詞および和訳
https://www7b.biglobe.ne.jp/lyricssongs/TEXT/S13071.htm

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マリエッタの歌 コルンゴルト
https://www.youtube.com/watch?v=gfPs7C2DVpg&list=RDgfPs7C2DVpg&start_radio=1

薔薇のリボン R・シュトラウス
https://www.youtube.com/watch?v=qFJjpJfKT_M&list=RDqFJjpJfKT_M&start_radio=1

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しあわせよカタツムリにのって 作曲:信長貴富 作詩:やなせたかし
https://www.youtube.com/watch?v=WIiG4vxsMKI&list=RDWIiG4vxsMKI&start_radio=1

 

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2025年11月11日 (火)

ネット詐欺 悪魔の所業

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ゴヤの描いた悪魔祓い(ウィキペディアより)

アサヒビールがランサムウェアで攻撃を受けて出荷が難渋していることが話題になっています。もうランサムウェアによる攻撃はめずらしいことではないそうです。多分水面下で身代金を支払った企業も多いことでしょう。こんな悪魔の所業をどうすればお祓いできるのでしょうか?

警察だって遊んでるわけじゃなくて何とかしようとは思っているのでしょうが、大企業の事件ですら解決できないのが今の状況です。こういう恐喝グループを摘発できないのだったら社会のシステムを変えるしかないと思うのですが、それでもなかなか社会はそっちの方に動きません。ネットで注文するんじゃなくて、ファックスで注文するんだったら、こういう恐喝グループも活動できないと思うのですがねえ。さすがにこの期に及んでは、アサヒビールはファックス注文に変えているようです。私がたまに使っているCECILEはファックスでの注文を受けています。

ネット詐欺師のターゲットは企業だけではなくて、個人にも猛烈な攻撃をかけています。私のメールボックスもカオスになりつつあって、もはや詐欺メールの山で、どれが開けなければいけないメールなのか判定するのが大変になっています。多分開けなければいけないメールを見逃して相手に迷惑をかけていることもあるかもしれません。だったら本当にすみません。逆に用があってメールを出しても見てもらえてないこともあります。

いっそのこと世の中がメール廃止になって、すべてファックスでのやりとりになればいいのにと思うくらいです。画像をデジタル保存すれば紙をつかうこともありません。まあそうなればそうなったでファックス詐欺師なんてのも出ないとも限りませんが、インターネットじゃないので出どころがわかりますからねえ。そう簡単にはいかないでしょう。

詐欺メールはあらゆる名目のところから届きます

銀行
証券会社
カード会社
ETC(車乗ってないのに)
イオン
郵便
ガス会社
通販
宅配業者

などなど

最近ではこのサイトを運営している@ニフティーからの詐欺メールもあります。また最悪なのは自分からのメールです。もちろん私を装った何者かが出しています。これはどうやっても排除できません。ただこれは詐欺目的ではなく、愉快犯とか何かほかの目的があってのことだとは思いますが、実に気分悪いです。

私の考えではもうインターネットは廃止して、自由なネットは国内だけに限定し、外国からのまた外国への通信は、警察で管理するポイントを通過しなければならないようにしないと、詐欺師を逮捕することは不可能に近いと思います。

 

 

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2025年11月 8日 (土)

米国はどうなってしまうのか...

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日本ではクマが住宅地に出没して食料をあさり、大変なことになっていますが、米国ではそれどころではなく人間が食料をあさることになるかもしれません。人間は射殺できません。いや射殺するかも💥

どうしてそんなことになりそうかというと、トランプと民主党の対立によって予算案が議会を通らないので、公務員が自宅待機になるなど大変なことになっていますが、フードスタンプが廃止になると人間が飢えますから、何が起こるか想像できません。トランプは廃止に踏み切ったのですが、裁判所が差し止めているようです。どうなることやら。

https://www.bbc.com/japanese/articles/cqx33ep9ng4o

https://www.youtube.com/watch?v=1U7V5csQYcU

https://www.youtube.com/watch?v=YfMQrtwCrpg

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2025年11月 7日 (金)

続・生物学茶話286:感情とは 3.扁桃体周辺

広辞苑で「感情」は 1.物事に感じて起こる気持ち 2.主体が状況や対象に対する態度あるいは価値づけすをする心的過程 となっています。感情の起源はカンブリア紀にできた食物連鎖の結果、敵に襲われそうになったときに恐怖を感じることが必要だったためと思われますが、もし食欲あるいは空腹感がある種の感情であるとするならば、さらにさかのぼって先カンブリア時代から感情が存在した可能性があります。

多細胞生物が初めて獲得した臓器は腸だと思われますが、腸神経系のはたらきとして最初は食べ物があるときは反射的に腸を動かし、ないときはシグナルがないので動かないという制御をやっていたと思います。しかし腸以外にも筋肉が配置されて何らかの採餌行動ができるようになったら、「腸が空になったら採餌行動が促進され、腸に食べ物があるときは採餌行動を抑制する」という神経のはたらきが新たに開始されることは、合理的であり生存に有利です。ただしこれらの神経の活動が反射的に行われている限りは、感情が関与する余地はありません。

自発的移動能力を持つベントス(底生生物)やネクトン(遊泳生物)はプランクトン(浮遊生物)や固着生物と違って、エサとエサでないものを識別するための記憶を持ちはじめていたはずです。でなければ移動できるように進化したメリットがありません。初期には記憶と照合してエサだと認定した場合反射的に動きが決められ運動プログラムが起動していたと思われますが、感覚器や神経の進化にともなって、照合すべき記憶が複雑になって反射による行動が困難になり、次第に接近すべきエサをあらかじめ特定してその方向に移動するという意思決定が行わなれるようになっていったに違いありません。それがいつかはわかりませんが、もし先カンブリア時代からこのような意思決定が行われていたならば、その時点である種の感情が存在していたとしても不思議ではありません。

そんなことを考えていたら東北大学のプレスリリースをみつけました(1)。原著論文もありました(2)。発表者らによると、プランクトンであるクラゲが満腹時と空腹時で異なる行動をとっていて、それを制御しているのが神経ペプチドだということです。満腹時には神経細胞からこれらの神経ペプチドが分泌され、触手の運動を低下させるそうです。どんなペプチドかというと、彼らはトランスクリプトーム実験を行って検出した様々なペプチドを使ってテストを行い、結果は図286-1のようになりました。

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図286-1 クラゲの採餌行動を抑制するペプチド a はカルボキシル末端がアミド化されていることを意味します

C末の配列が重要なようですが、その配列に加えてある程度の長さ(5アミノ酸以上)が必要だそうです。そしてGLW(グリシン‐ロイシン‐トリプトファン)という配列を持つペプチドは、ショウジョウバエの採餌行動も低下させることが明らかになりました(2)。クラゲとショウジョウバエの祖先たちが分岐したのはもちろんディープな先カンブリア時代なので、それ以前から満腹時の行動制御は行われてきたということになります。このようなペプチドはおそらくエサを口に運ぶ触手だけでなく、周辺の筋細胞を弛緩状態にさせる一種の麻薬のようなものと想定されるので、この種の弛緩物質を分泌するクラゲには、リラックスすることによるある種の感情が発生している可能性があります。クラゲは必ずしも散在神経系の生物とは言えません。

さて私たちの感情と意思決定の問題に戻りますが、これにかかわっている脳のパーツはだいたい図286-2に示されます(3、4)。vmPFC=腹内側前頭前野と扁桃体はすべてのプロセスにかかわっているようです。ここで留意すべきは扁桃体は少なくとも脊椎動物の創生期から存在していた脳の古いパートであり(5-7)、一方vmPFCは大脳が発達してからできてきたパートであるということです。ヒトの場合感覚器からの情報は多くの場合vmPFCに集められるので、他の動物に比べてvmPFCが感情と意思決定における存在感を増しているかもしれません。vmPFCは扁桃体の暴走を抑えるような役割も担っています(4)。

感情と意思決定について脳が行っている仕事は、図286-2に示した3つのジャンルに分けられます(3、4)。

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図286-2 感情と意思決定にかかわる脳の部位

図286-2の1と3については多くの実験が行われていますが、脳においてはなかなか複雑なプロセスであり解析は複雑です。これらに対して、2は条件付けした状態で脳の電磁波を測定することによって比較的容易にデータがとれそうです。最近では電流ではなく磁場を測定することによって脳の活動を記録するというようなこともクリニックレベルでも行われているようで、その装置を図286-3に示します。

名古屋大学脳と心の研究センターの記述を引用しますと「磁場の通りやすさ(透磁率)は脳、髄液、骨、皮膚および空気でほぼ一定のため、 測定コイルを皮膚組織に非接触のまま、神経細胞が生じた磁場を直接記録することができます。磁気脳波計(MEG)は、頭皮上に配置した多数の測定コイルで記録された脳の磁場分布(脳磁場)から、脳の神経細胞が いつ・どこで活動したかを高い精度で計算すること(電流源推定)を可能とする脳機能測定機器です」(8)。電極を頭皮に接着しなくてよいため被験者にとっては測定が快適なようです。また癲癇の患者に対しては、扁桃体に電極を埋め込むという操作を行って記録するということも行っているようです。

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図286-3 磁気脳波計(Magnetoencephalography)

様々な方法で扁桃体及び周辺の情報の流れを計測した結果を図286-4に示します。原図は LeDoux らの報告によるものらしいですが(9、10、私は未読)、Simicらがまとめたものです(4)。 これを日本語化して修飾を加え、図286-4として示しました。

行うのはパヴロフ以来の古典的な条件付け実験です。ベル音で恐怖を喚起します。ベル音は聴覚器から視床の腹側後外側・内側核および内側膝状体に入力され、それらから直接扁桃体に出力される経路と、いったん大脳皮質に送られてから扁桃体に出力される経路に分岐します。Simicらは前者を low road、後者を High road と呼んでいます(4)。扁桃体の外側核から入った情報は、中心核などから脳および末梢の様々なニューロンに出力され自律神経系、筋肉、ホルモンなどに影響を及ぼします(図286-4)。継続して恐怖にさらされると、特に扁桃体-分界条床核を介した異常な内分泌により病的な状態に陥るおそれがあります。

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図286-4 恐怖反応における扁桃体の役割 (Based on Simic et al., 2021 (4))

扁桃体が恐怖の中枢であることは確かなようですが、だからと言って扁桃体がなければ恐怖を感じないかと言えばそんなことはないようです。左右両方の扁桃体を損傷しても恐怖を感じることはできる場合もあるということがわかっています(11)。これは感じなくなったという場合もあるので微妙ですが。進化的に言えばヒトは扁桃体の機能を大脳皮質に移すまたは拡張つつある過渡期の状態なのかもしれません。また扁桃体の活動は恐怖など意識できることに関連した仕事だけではなく、もっと多くの仕事を意識下でやっていて、意識下で活性化されても図286-4のようなアウトプットは行われるので体には大きな影響があります。むしろその人が置かれた環境、それは意識下の恐怖ではなくても無意識化のストレスによって扁桃体が過活動状態になることが、重大な疾病をもたらすおそれがあると思われます。

参照文献

1)クラゲとハエで食欲の起源に迫る 6億年前の共通祖先から続く満腹感の分子メカニズム
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/date/detail---id-51228.html

2)Vladimiros Thoma, Shuhei Sakai, Koki Nagata, Yuu Ishii, Shinichiro Maruyamac, Ayako Abea, Shu Kondoe, Masakado Kawata, Shun Hamadag, Ryusaku Deguchi, and Hiromu Tanimoto,
On the origin of appetite: GLWamide in jellyfish represents an ancestral satiety neuropeptide., PNAS Vol.120 No.15 e2221493120 (2023)
https://doi.org/10.1073/pnas.2221493120
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2221493120

3)Hiser, J.; Koenigs, M. The Multifaceted Role of the Ventromedial Prefrontal Cortex in Emotion, Decision Making, Social Cognition, and Psychopathology. Biol. Psychiatry vol.83, pp.638–647. (2018)
http://doi.org/10.1016/j.biopsych.2017.10.030
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006322317322035

4)Šimic, G. Tkalcic, M., Vukic, V.; Mulc, D.; Španic, E., Šagud, M.; Olucha-Bordonau, F.E.; Vukšic, M.; R. Hof, P., Understanding Emotions: Origins and Roles of the
Amygdala. Biomolecules vol.11, no.823 (2021)
https://doi.org/10.3390/biom11060823
https://www.mdpi.com/2218-273X/11/6/823

5)続・生物学茶話283: 大脳辺縁系 7.扁桃体
https://morph.way-nifty.com/grey/2025/10/post-193960.html

6)魚から人へ 扁桃体の暴走ー「うつ病」とは
http://www.erugo.jp/news/mjblog/837

7)うつ病の起源から未来医療へ
https://www.nips.ac.jp/srpbs/media/publication/140719_report.pdf

8)名古屋大学 脳と心の研究センター  脳磁計による脳磁場計測
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/noutokokoro/machine/meg.html

9)LeDoux J.E., Synaptic Self: How Our Brains Become Who We Are
https://www.amazon.co.jp/Synaptic-Self-How-Brains-Become/dp/0670030287/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1U4BQP6NU5XFX&dib=eyJ2IjoiMSJ9.B7Wdjg61sh7B__SzjPgoGw.s_SBqOqDRnEwmlY9bijItUO3_ntoQ6RHsVCdoz8fSMA&dib_tag=se&keywords=LeDoux%2C+J.E.+Synaptic+Self+%3B+Penguin+Books%3A&qid=1762412631&s=english-books&sprefix=ledoux+j.e.+synaptic+self+penguin+books+%2Cenglish-books%2C182&sr=1-1

10)LeDoux J.E., Semantics, Surplus Meaning, and the Science of Fear., Trend in Cognitive Sciences., Volume 21, Issue 5, pp.303-306 (2017)
https://www.cell.com/trends/cognitive-sciences/abstract/S1364-6613(17)30033-5?cc=y%3D&_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS1364661317300335%3Fshowall%3Dtrue

11)Feinstein, J., Buzza, C., Hurlemann, R. et al. Fear and panic in humans with bilateral amygdala damage. Nat Neurosci 16, 270–272 (2013). https://doi.org/10.1038/nn.3323
https://www.nature.com/articles/nn.3323

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2025年11月 5日 (水)

Congratulations !

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BBCの報道によると(1)予想通りゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長になるようです(2)。トランプは投票前日に、共和党系の候補をさておいて、無所属のクオモに投票するように・・・などと卑怯なアジテーションをしましたが、それも空しかったわけです。パージニア州の知事選、ニュージャージー州の知事選でも民主党が勝利しました。

マムダニ氏は民主党の中でもバーニー・サンダース派で、オカシオ=コルテスらと政策を共にする左派に属します。トランプは彼らを共産主義者と言っていますが、なんのことはない、彼らの政策は昭和時代の自民党がやっていた政策とさして差はありません(3)。バス代無料とか家賃フリーズというのは今の時代に特に必要とされる政策で、昭和日本とは違いますが。

ニューヨーク市長をとっただけで騒ぐのはおかしいのですが、もし彼らが政権をとると、私は日本にも絶大な影響があると思っています。彼らはおそらく日米地位協定の改正に同意すると思います。彼らが政権を取った時こそ、日本が独立国家となる絶好のチャンスです。これを逃してはなりません。そのためにも与党・野党をとわず、国会議員は今から秘密裡にでもサンダース派と緊密にコンタクトをとっておくべきだと思います。

1)米ニューヨーク市長選、民主党のマムダニ氏が当選確実に
https://www.bbc.com/japanese/articles/c4gkwxnvynxo

2)渋めのダージリンはいかが:ゾーラン・マムダニ ニューヨーク市長に最有力
https://morph.way-nifty.com/grey/2025/09/post-d7ff9c.html

3)渋めのダージリンはいかが:オカシオ=コルテスという人物
https://morph.way-nifty.com/grey/2020/02/post-0dae79.html

 

Victory Speech
https://www.youtube.com/watch?v=hFH2dYwH3rI
https://www.youtube.com/watch?v=9MfBp8xUR3Q

 

 

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2025年11月 2日 (日)

続・生物学茶話285:感情とは 2.ソマティック・マーカー仮説

アントニオ・ダマシオはポルトガルのリスボン医科大学で医学を学び、神経科学を専攻して学位を得ました。その後米国に移って主にアイオワ大学で研究を続けました。感情とその生物学的基礎がいかに意思決定に関与しているかについての仮説「somatic marker hypothesis」を提唱しました。これはどう訳したらよいかわかりませんが、脳科学辞典では somatic marker を身体信号と訳しています(1)。一般的にはそのまま「ソマティック・マーカー仮説」とされているようです。

アントワン・ベチャーラはカナダのトロント大学で学位を得て、その後米国のアイオワ大学で研究を続けました。ここでダマシオと共に Iowa Gambling Task (アイオワ・ギャンブリング課題、2)という意思決定の過程を検定するテストを開発して、ダマシオの仮説を実験的に確かめました。ダマシオとベチャーラの写真を図185-1に示します。

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図185-1 アントワン・ベチャーラとアントニオ・ダマシオ

フィニアス・ゲージ氏のように前頭前野の損傷がある人や扁桃体に損傷がある人は、脳生理学のさまざまなテスト、IQ・数値計算・長期短期記憶・言語能力・運動機能・視覚聴覚などでは異常が発見されないくらい保たれているにもかかわらず、日々の行動計画をたてたり、過去の失敗を考慮してやり方を変えることなどの意思決定ができず、友人やパートナーを選ぶことができないなど様々な生きていく上で必要なことができないため、普通に生活することができません。この欠陥の原因を究明するため、ベチャーラとダマシオはアイオワ・ギャンブリング課題というテストを開発しました。

アイオワ・ギャンブリング課題とは、Senwisdomsというサイト(3)の説明をお借りすると、

まず4つのカードの束(ABCD)をつくります

A:報酬は100円。10枚に1枚の割合で1250円の罰金カードがはいっている
B:報酬は100円。4枚に1枚の割合で500円の罰金カードがはいっている
C:報酬は50円。10枚に1枚の割合で250円の罰金カードがはいっている
D:報酬は50円。4枚に1枚100円の罰金カードがはいっている

AまたはBを選び続けると損をしますが、CまたはDを選び続けると得をすることになります。

ベチャーラとダマシオの研究によると、健常者はこのテストを続けると、次第にCDを選んで得をすることになりますが、フィニアス・ゲージ氏のように大脳の腹内側前頭前野に損傷がある人(4、5、図185-2)や扁桃体(6)に損傷のある人は、いつまでたってもトータルで得をするような選択にたどりつけないことがわかりました(7、図185-3)。

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図185-2 ヒト脳における腹内側前頭前野の位置

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図185-3 アイオワ・ギャンブリング課題

ベチャーラとダマシオはカードを引くときの被験者の皮膚に流れる電流を測定しました。この結果健常者はABがある机からカードを引くと皮膚に流れる電流が強くなりますが、腹内側前頭前野に損傷がある患者はAB、CDのいずれの机から引いても差はなく、扁桃体に損傷のある患者の場合はそもそも電流が非常に弱いことがわかりました(7、図185-4上図)。

また健常者はカードを引く前から、ABのカードがある机から引こうとしたときには電流が強く流れることがわかりました(7、図185-4下図)。腹内側前頭前野や扁桃体に損傷がある患者の場合、そもそも電流が弱くまたABを引こうとした場合とCDを引こうとした場合で差はないことがわかりました(7、図185-4下図)。

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図185-4 皮膚電気活動

このような健常者と患者の違いは被験者達がこのカードの仕組みに気が付く前からみられ、健常者は本能的に皮膚の電気信号がABを選択しようとしたときに強くなって、CDを選択することがわかりました。しかも驚くべきことに腹内側前頭前野に損傷がある人はカードの仕組みに気が付いた後も、得をするような選択ができないこともわかりました。つまり知性のはたらきによってCDを選択すべきであると結論が出ていても、それを選択するという意思決定は知性によってはできなくて、別の力が必要なのです。これは動物の脳のしくみに大きな示唆を与えました。

アイオワ・ギャンブリング課題などの実験結果から、ベチャーラらは適切な意思決定には腹内側前頭前野や扁桃体が引き起こす無意識の情動的身体反応が不可欠であるという仮説を立てました(7)。これを理解することは直感的にはできませんが、好き・嫌い・危険・安全など意思決定に関わる感情は無意識のうちにも存在し、人間は意外にもそのような無意識下の感情に従って意思決定をしているということなのでしょう。また感情の発生には脳以外の体の変化(ここでは手における電流の発生)がかかわっており、これは昔から議論になっている情動の理論に大きな影響を与えるものでもあります(8)。

もちろんソマティック・マーカー仮説によって腹内側前頭前野の機能がすべて説明されたわけではありませんし批判もありますが(9、10)、高度脳機能の解明のための大きなステップになったことは確かなのでしょう。

参照文献

1)脳科学辞典:ソマティック・マーカー仮説
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%BD%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E4%BB%AE%E8%AA%AC

2)Wikipedia: Iowa gambling task
https://en.wikipedia.org/wiki/Iowa_gambling_task

3)Senwisdoms 医療と育児と心理学 アイオワ・ギャンブリング課題とは
https://sengakuhisai.com/gambling-task/#google_vignette

4)続・生物学茶話284:感情とは1
https://morph.way-nifty.com/grey/2025/10/post-496aec.html

5)ウィキペディア::腹内側前頭前野
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%B9%E5%86%85%E5%81%B4%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%89%8D%E9%87%8E#:~:text=%E8%85%B9%E5%86%85%E5%81%B4%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%89%8D%E9%87%8E%20(Ventromedial,%E3%81%AE%E5%87%A6%E7%90%86%E3%81%AB%E9%96%A2%E4%B8%8E%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82

6)続・生物学茶話283: 大脳辺縁系 7.扁桃体
https://morph.way-nifty.com/grey/2025/10/post-193960.html

7)Antoine Bechara and Antonio R. Damasio, The somatic marker hypothesis: A neural theory of economic decision., Games and Economic Behavior vol.52, pp.336–372 (2005)
https://doi.org/10.1016/j.geb.2004.06.010
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0899825604001034

8)続・生物学茶話284:感情とは1
https://morph.way-nifty.com/grey/2025/10/post-496aec.html

9)大平英樹 感情的意思決定を支える脳と身体の機能的関連 Japanese Psychological Review, vol.57, no.1, pp.98-123 (2014)
https://doi.org/10.24602/sjpr.57.1_98
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/57/1/57_98/_article/-char/ja/

10)大平英樹 感情史と生命科学―『感情史の始まり』へのコメント― 現代史研究 vol.67, pp.67-73 (2021)
https://doi.org/10.20794/gendaishikenkyu.67.0_67
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gendaishikenkyu/67/0/67_67/_pdf/-char/ja

 

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