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2025年4月26日 (土)

続・生物学茶話267:視床と大脳皮質2

Edward G. Jones は2007年に出版した「The Thalamus」という本(私は未読)の中で 「All cortical areas receive thalamocortical projections from specific thalamic nuclei」(大脳皮質のすべての領域は、それぞれ特異的な視床の神経核からの投射を受けている)と書いているそうです(1)。 視床から大脳皮質への投射が意識そのものなのかどうかはわかりません。もしそうならコンピュータだって意識を持っているということになるので、それは違うのではないでしょうか。意識を持つということは記憶との照合などもう少し高次のメカニズムが必要なのでしょう。また視床と大脳皮質の連絡は一方通行ではなく相互的なものであり、意識に基づく行動は大脳皮質から視床への投射によります。このネットワークがどのように成立するのかは意識を持つ生命体にとっては核心的に重要です。

どのような細胞、どのような因子が軸索の伸長とターゲットへの接近をサポートしているかという問題は、無脊椎動物では案内する細胞を個別に破壊するという手法で確かめられていますが(2)、哺乳類の胚でそのような実験を行うことは技術的に困難です。哺乳類では発生過程で脳のネットワークを形成する段階で、大脳皮質領域から視床に向かって伸びるニューロンが、視床から大脳皮質へ延びるニューロンの道案内細胞となるという仮説(ハンドシェイク仮説)は古くからありました(3、4、図267-1)。これは大脳皮質から伸びる軸索と視床から伸びる軸索が、例えばマウスの場合胎生13~14日目に中間点で邂逅するという解剖学的・形態学的な知見に基づいています。これに失敗した場合正常なマウスは生まれません。

PC・テレビ・無線通信・有線電話などでネットワーク通信を行う場合、情報が片方向にしか流れない場合と双方向に流れる場合があります。ケーブルにも片方向用と双方向用があります。私たちの場合、腸神経系以外では多分ほとんどの神経は片方向用にできています。しかし視床と大脳皮質のように起床時には常時大容量の双方向通信を行っているネットワークでは、ハンドシェイクによって形成された双方向ケーブルによって、事実上有線電話のような常時性双方向通信ができることは合理的です。

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図267-1 ハンドシェイク仮説

ハンドシェイク仮説は興味深い仮説ですが、それを証明したのは提唱者であるオックスフォード大学のグループではなく、エジンバラ大学のグループでした。Chen らはAPCというニューロンが分化する際に必要な因子のコンディショナル・ノックアウトマウスを用いて、視床から伸びる軸索が大脳皮質に到達するためには、大脳皮質のニューロンの助力が必要だということを証明しました(5)。

彼らは大脳皮質のニューロンだけが軸索進展に必要なAPC遺伝子を失うというノックアウトマウスでは、胎生15.5日目においても視床ニューロンの軸索がPSPB(pallial-subpallial boundary=外套‐外套下部境界、すなわち将来大脳皮質などになる部分と基底核などになる部分との境界)を乗り越えることができないことを見出しました(5、図267-2B、D)。大脳皮質周辺から遠隔の細胞に届くような誘導物質は放出されていないことも証明していたので、視床ニューロンの軸索がPSPBを乗り越えるためには大脳皮質からのびてくるニューロン軸索の助力が必要であることが示唆されています(5)。

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ノックアウトマウスの予定大脳皮質領域を取り除き、正常マウスの予定大脳皮質領域を移植すると、視床ニューロンの軸索はPSPBを乗り越えられることもわかりました(5、図267-3)。大脳皮質および視床由来の軸索が伸びる領域には多くの誘導物質がそれぞれの濃度勾配を持って配置されており、基本的にそれらに導かれて軸索は伸びるものと思われますが、PSPBを乗り越えるメカニズムについてMolnarらは誘導物質というより、大脳皮質由来のニューロンが視床由来の軸索のバンドリング(束を作る)に必要な物質を供給するのだろうと述べています(6)。PSPB付近は胎生2週間にはグリア細胞が緻密に存在しており、これらをかき分けて伸びるにはバンドリングが必要なのかもしれません。

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図267-3 ミュータント大脳皮質に正常大脳皮質を移植すると、視床神経軸索はPSPBを突破できる

Molnar と Kwan は最近の総説(6)で大脳皮質‐視床ネットワーク構築に関する知見のリニューアルをおこなっています。彼らのまとめによると誘導因子のなかには欠損すると、Tbr1, Mash1, Pax6, Gbx2:大脳皮質→視床、視床→大脳皮質の双方向に伸びる軸索がともに迷子になって進めなくなる、Nkx2.1:視床→大脳皮質は到達するが大脳皮質→視床は迷子になるものがある、Ebf1:大脳皮質→視床は到達するが視床→大脳皮質は迷子になるものがある、Emx2:到達できるが経路が異なる、Dix1:到達できないばかりか大脳皮質からの軸索は消失してしまう、などさまざまな場合が示されています(図267-4、図267-5)。

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図267-4 誘導因子の影響1

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図267-5 誘導因子の影響2

特に興味深いのは Doyle らの研究結果(7)で、彼らはArid1aというクロマチンモデリング複合体の構成成分であるタンパク質の遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを作成し、大脳皮質-視床のネットワーク構築過程を調べたところ、この遺伝子の欠損によって特に視床→大脳皮質の軸索のバンドリングができなくなり、ハンドシェイクが成立しなくなることがわかりました。そしてハンドシェイクが成立しないと、特に視床から伸びてきた軸索はPSPBを乗り越えることがほとんどできません(図267-6)。

この動物は視床の細胞の Arid1a は正常なのですから、正常な視床ニューロン軸索の動向が、別の細胞である大脳皮質ニューロンだけに現れるクロマチン構造の変異の影響を強く受けるということになります。

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図267-6 Arid1a のコンディショナルノックアウトマウス(大脳皮質ニューロンでの変異)ではハンドシェイクが成立しない

 

参照

1)Edward G. Jones「The Thalamus」2nd Ed., (2007) Cambridge University Press

2)Bentley D, Caudy M (1983) Pioneer axons lose directed growth after selective
killing of guidepost cells. Nature vol.304: pp.62-65 (1983)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6866090/

3)Molnar Z, Blakemore C, Lack of regional specificity for connections formed between thalamus and cortex in coculture. Nature vol.351: pp.475–477. (1991)
https://www.nature.com/articles/351475a0

4)Zoltan Molnar, Richard Adams, Andre M. Goffinet, and Colin Blakemore, The Role of the First Postmitotic Cortical Cells in the Development of Thalamocortical Innervation in the Reeler Mouse., The Journal of Neuroscience, vol.18(15): pp.5746–5765 (1998)
doi: 10.1523/JNEUROSCI.18-15-05746.1998
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6793036/

5)Yijing Chen, Dario Magnani, Thomas Theil, Thomas Pratt, David J. Price, Evidence That Descending Cortical Axons Are Essential for Thalamocortical Axons to Cross the Pallial-Subpallial Boundary in the Embryonic Forebrain, PLoS ONE 7(3): e33105. (2012)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0033105
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0033105

6)Zoltán Molnár and Kenneth Y. Kwan, Development and Evolution of Thalamocortical Connectivity, Cold Spring Harb Perspect Biol, vol.16, no.1, a041503.
DOI: 10.1101/cshperspect.a041503
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38167425/

7)Doyle DZ, Lam MM, Qalieh A, Qalieh Y, Sorel A, Funk OH, Kwan KY., Chromatin remodeler Arid1a regulates subplate neuron identity and wiring of cortical connectivity.,
Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 118 | No. 21 e2100686118 (2021)
https://doi.org/10.1073/pnas.2100686118
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2100686118

 

 

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2025年4月24日 (木)

米国はデフォルトしたのじゃないのか?

Usdnotes

私は経済学は全く知らないので(大学で公文俊平という男の講義を1年間聴いただけ・・・一応単位は取った記憶があります、もうすべて忘れました)、米国で何が起こっているのかはよくわかりません。しかし、貿易赤字や金利の上昇を極端に恐れたり、政府職員を大量解雇したり、さまざまな補助金をカットしたり、ウクライナに金を出し渋ったりしているのをみると、トランプがなんだかんだ理由はつけていますが、結局のところ米国は実はデフォルトじゃないかという疑念がわいてきます。だとすると米国が今やっている一見メチャクチャな政治がすっきり理解できるように思います。

一部の政治家や経済学者は、自国通貨でお金を借りている場合は紙幣を印刷すればいいのだからデフォルトはあり得ないと言っていて、だから米国や日本がデフォルトするなどありえないなどというわけですが、実はそう単純ではなくて実際には紙幣を赤字の分だけ印刷して補填するなどということはできないんじゃないか・・・という疑いを持たざるを得ない今日この頃です。

 

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2025年4月22日 (火)

ボードゲーム AI恐るべし

ボードゲームは囲碁・将棋・麻雀・コントラクトブリッジあたりは、超弱とはいえなんでもやりますが、最近驚いたのはAIvsAIの将棋です。人間同士がやっているのを見るより面白いです。

例えばポンタマンvs水匠10(beta)3
https://www.youtube.com/watch?v=GDr_m5BUtGY&t=1667s 

最初は矢倉風にはじまりますが、そのうち仰天手が満載。
たとえばここで後手どう指すか?

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なんと9八香です(つぎは9九飛車うちのねらい)。
まあこれは序の口で、一見意味不明に見えてもしばらく指してみると納得できる・・・という妙手連発で驚愕します。

これならひょっとすると政治もAIにまかせたほうがいいのか?

 

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2025年4月19日 (土)

まきちゃんぐ 本と音楽

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今日は神保町ブックセンター(岩波書店)の企画で、ライブセレクト「本と音楽」vol.3として、まきちゃんぐさんのお話と音楽を楽しむ会が開催されました。

神保町ブックセンターは飲食店と図書館が合体したような場所で、こんな場所で時間が過ごせる近隣の方々がうらやましくなるような素晴らしい空間です。

このお店の奥にライヴができるスペースがあって、ライブハウスにはないような座り心地の良い椅子で、音響も文句なく、大変リラックスして楽しめる会場でした。読書家であるちゃんぐさんの本に関する蘊蓄を拝聴しながらのライブ、なかなかない経験でした。

セットリストはすべて覚えているわけではありませんが、少なくとも下記の曲は歌いました。日本一のソウルシンガーであるまきちゃんぐさんは絶好調でした。ただ「愛が消えないように」は歌と演奏のキーがずれる感じで最後にやりなおしましたが、これがけがの功名といいますか本日最高のパフォーマンスで圧倒的でした。

さなぎ

木造アパート

名前

2020

鋼の心

ハニー

愛が消えないように

私のサイトに YouTube へのリンクがあります
https://morph.way-nifty.com/grey/2023/11/post-6f6350.html 

まきちゃんぐオフィシャル
https://x.com/makichang_info 

 

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2025年4月17日 (木)

素晴らしいCDジャケット

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マッケラスさんは米国生まれですが、子供のころからオーストラリアに住み、シドニー交響楽団のオーボエ奏者を務めていたそうです。指揮者としての活躍は主として英国で、特にスコティッシュ室内管弦楽団とのモーツァルト録音や、ヤナーチェクのオペラの録音で著名な方です。2010年に亡くなっています。

この霧の中で光が差し込む墓地のジャケットは、なんとも素晴らしいタイミングで撮影されたものと思います。モーツァルトのレクイエムにどんぴしゃの映像、そして演奏も清潔で引き締まった集中力の高い名演だと思います。

Mozart - Requiem K.626 (Mackerras) 2002
https://www.youtube.com/watch?v=Pl4oZg1J4xs

YouTube にも多く演奏がアップされていますが、ロンドンフィルを指揮したときはソフトな感じになるのがちょっと彼らしくない感じがします。

モーツァルト 交響曲第38番第1楽章 マッケラス指揮スコットランド室内管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=iA_zRbA2LQI 

モーツァルト 交響曲第40番第4楽章 マッケラス指揮スコットランド室内管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=JGO3Hr3_00M 

モーツァルト 交響曲第41番第1楽章 マッケラス指揮スコットランド室内管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=1afrf5HaFLc 

JBL K2 S5500 + UT505 with SANSUI B-2102 MOS VINTAGE - モーツァルト 交響曲第25番 第1楽章 / チャールズ・マッケラス
https://www.youtube.com/watch?v=GEXGESkQl4I 

アマゾンで見ると、同じ曲のCDはありましたがジャケットが変わっているようでした。

 

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2025年4月14日 (月)

続・生物学茶話266:視床と大脳皮質1

「意識」という現象は昔は哲学や心理学で取り扱われていましたが、今では自然科学の研究対象でもあります。医学では意識レベルという段階が定義されています(Japan Coma Scale, Glasgow Coma Scale, 1)。視床という脳の領域は「意識」と深いかかわりがあり、この部分の損傷によって「意識」は障害されます(2-4)。

「意識」といっても救急医学で定義されているレベルとは違った意味で、動物によって異なるレベルがあり、それは視床や関連領域の発達の程度によって異なると思われます。また「意識」は視床という脳のパートが単独で担うものではなく、視床と大脳皮質との神経連絡を中心としたネットワークが担っていると思われます。この意味で視床と大脳皮質をつなぐ中間地点に位置する尾状核被殻領域も「意識」とは深いかかわりがあると思われます。

今回登場する関連部域(マウス脳のパーツ)の一覧を図266-1に示します。一次とか二次とかがありますが、二次というのは脳の他の領域で得た情報と照合するとか、より複雑で高級な処理をする脳の領域です。たとえば予測に基づいて環境の変化に対応する行動をとるとか(5)、音の高さや強さだけでなくハーモニー・メロディ・リズムのパターン処理をするとか(6)を受け持つ部分です。まあ実際にはそんなに単純ではないと思いますが。

視床と大脳皮質一次体性感覚野・一次視覚野は相互に投射するニューロンによって密接なネットワークを構築しています(図266-1c、7)。

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図266-1 マウス大脳皮質と視床

視床から大脳皮質への軸索の伸長、逆に大脳皮質から視床への軸索の伸長は、意識の成立のためにも非常に重要なことなので胎生期に行われます。マウスなら胎生13.5日目にはそのネットワーク構築は開始されています。軸索は大脳皮質と基底核の境界や間脳と終脳との境界を乗り越え、方向転換したのち、相互にすれ違うという形をとって進行します。

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図266-2 胎生13.5日目のマウス脳縦断面

そして胎生18.5日目には、それぞれターゲットである大脳皮質と背側視床に到達します。

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図266-3 胎生18.5日目のマウス脳縦断面

背側視床のニューロンから出発する軸索は、間脳終脳境界に至るとそれまで視床下部に向かっていた進行方向を
転換して間脳終脳境界を乗り越え、線条体方向に延びていきます。このような方向転換を実現するために視床下部領域に負の誘導因子が存在するというのが脳発生生物学が到達した結論です(8、図266-4)。

終脳領域に侵入した軸索はさらに、終脳腹側の負の誘導因子、背側の正の誘導因子に導かれて pallial–subpallial boundary を乗り越え、ようやく大脳皮質に到達します。大脳皮質から出発した軸索も同様な誘導因子に導かれて背側視床に到達します(図266-4)。

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図266-4 神経軸索ガイダンス

誘導因子の実体は遺伝子ノックアウトマウスを使った実験によって次々と明らかになってきましたが、ここではロペス=ベンディトらの論文の一部を紹介します(7)。

まずEmx2-KOマウスでは大脳皮質からの軸索、背側視床からの軸索共に遠回りしています。なかにはターゲットに到達できなかった軸索もあります。これは本来終脳間脳境界の腹側にあるはずの負の誘導因子がなかったことによるものと思われます。Tbr1-KOマウスの場合、大脳皮質からおよび背側視床からの軸索共に途中で伸長が止まっています。これは正の誘導因子が欠損していたためと思われます(図266-5)。Gbx2やMash1についても同様と思われます。Pax6も細胞移動に関わる因子とされていますが、ここでどのようにかかわっているかは図266-5からは判断できません。

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図266-5 遺伝子ノックアウトマウスによる誘導物質の探索

ニューロンのネットワークはもちろん正負の誘導因子だけで決まるものではなく、細胞接着、シナプス形成、刈込みなどそのほか多くの要因がかかわって形成されるもので、総合的な見方が必要です。

 

参照文献

1)【意識レベル評価】JCS・GCSとは?意識障害時の対応は?
https://motoyawata.clinic/blog/jcs-gcs/

2)管るみ 失語症,そして復職─私の闘病経験─
高次脳機能研究 vol.42(2):pp.207 ~ 211 (2022)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/42/2/42_207/_article/-char/ja

3)日坂ゆかり、柿田さおり 意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の
発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化
日本救急看護学会雑誌 vol.23, pp.1-8 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaen/23/0/23_1/_article/-char/ja/

4)田上雄大 他 もやもや病に合併した穿通枝動脈瘤に対して塞栓術を施行した 1 例
脳卒中 vol.45: pp.270-276, (2023)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/45/3/45_11115/_article/-char/ja/

5)Kosuke Hamaguchi, Hiromi Takahashi-Aoki and Dai Watanabe, Prospective and retrospective values integrated in frontal cortex drive predictive choice., Proc. Natl. Acad, Sci. USA, vol.119 (48) e2206067119 (2022)
https://www.pnas.org/doi/epub/10.1073/pnas.2206067119

6)ウィキペディア:1次聴覚野
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E6%AC%A1%E8%81%B4%E8%A6%9A%E9%87%8E

7)Guillermina Lopez-Bendito and Zoltan Molnar, Thalamocortical development: how are we going to get there? Nature Rev Neuroscience vol.4, pp.276-289 (2003)
https://doi.org/10.1038/nrn1075
https://www.nature.com/articles/nrn1075

8)新明洋平 軸索ガイダンス分子 Draxin が担う脳神経回路形成機構 金沢大学十全医学会雑誌 第125 巻 第 2 号 55 -59(2016)
https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/records/16615

 

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2025年4月12日 (土)

私の不思議ノート4: 忘れるということ

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忘れるということは、限られたメモリー量で仕事をしている脳にとっては必要なことだと思います。ハードディスクを整理していないと、そのうちどうにもならなくなってしまうのと同じでしょう。しかしよりによってこれだけは忘れちゃいけないってことを忘れるのは困ります。

山本裕康教授は「冷蔵庫」という言葉を思い出せなくて困ったそうですが(1)、私はもっと困ったことがあります。一生に一度だけですが、数年前に自分のPCのパスワードをなぜか思い出せなくなってしまったことがあります。さすがにこれは、まさか忘れるなんて思っていないのでどこにも書いてありません。誰にも聞けません。呆然として1日過ごしたのですが、幸いにして翌日に思い出しました。一体脳に何が起こっていたのでしょうか?

この話とは全く別なのですが、言葉を全く話せなくなって脳外科にかけこんだことがあります。これは理由がはっきりしていて、MRIとCTをとって硬膜下血腫という病名が付きました。外傷が全くなくてもこの病気になる人はいるようです。脳の硬膜の下側で出血が起こって脳が圧迫され、言語中枢が機能を失ったわけです。出血した血液が脳の浄化システムで徐々にリンパに吸収されていくと回復します。現在はほぼ回復しています。

全く話せなくなるというのは簡単にイメージできますが、ある言葉だけ忘れるというのはなぜなのでしょうか? シナプスが一つなくなるとか細胞が一つ死ぬとかはイメージしやすいですが、それではなぜ1日で回復したのかというのが説明できません。もっと複雑なダメージなのでしょう。

ある時突然帰り道がわからなくなるということだってあるかもしれません。これは「見当識障害」という病名があるようです。住所・電話番号・帰りの道順・PCのパスワードくらい書いたメモは持っていた方がいいみたいです。私は「言葉が話せません、救急車を呼んでください」というメモはいつも持ち歩いています。

1)山本裕康教授のすべらない話Vol,8【春休み特大号】
https://www.youtube.com/watch?v=ivGfK50SfaE 

山本裕康教授のすべらない話・増刊号
https://www.youtube.com/watch?v=DnvsqRp7Seo&t=822s

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2025年4月10日 (木)

ベティがオスをつれてやってきた

ベティはしばらく繁殖でうちを離れるのかと思っていましたが、来なかったのは数日間だけでまた現れました。

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と思ったら、なんと ♂ を連れてきました。私に紹介してくれたのね。

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イソヒヨドリらしく、パートナーとはいえある程度距離をとって行動するようです。

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向かいの建物の一番上のひさしの下にベティが降りていきました(↓)。

オス(♂)は周りをみています。

確認したわけではありませんが、ここに営巣するつもりなのかもしれません。

うーん ここはカラスにみつかって荒らされる危険があるかも・・・。

オスにもフィルという名前をつけてあげましょう。

 

 

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2025年4月 9日 (水)

World music collection 25: Tommy feburuary6 (Kawase Tomoko)

川瀬智子が思い出したように動画をリニューアルしてウェブにアップしたら、大変な人気になっているそうです。私は The brilliant green 時代から favorite だったので、ようやく世界に認められるような world wide な人気者になったんだと大納得です。

Tommy2

Tommya

Tommy feburuary6 以外に Tommy heavenly6 というプロジェクトもやっていますが、こちらの方は個人的に好みではないので下記にはありません。

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Tommy feburuary6

Bloomin’!
https://www.youtube.com/watch?v=u14KDsYeSxk 

?KISS? ONE MORE TIME
https://www.youtube.com/watch?v=LAwg7-vYYfE 

MaGic in youR Eyes
https://www.youtube.com/watch?v=y2R3do1J4jY 

EVERYDAY AT THE BUS STOP
https://www.youtube.com/watch?v=xY5yazcNpCI 

Love is forever
https://www.youtube.com/watch?v=QszNwa2DOYw 

je t'aime ★ je t'aime
https://www.youtube.com/watch?v=I4JrXQrvidw 

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the brilliant green -

(Previously she was a member of a band "The brilliant green")

Hello Another Way -それぞれの場所-
https://www.youtube.com/watch?v=uLvfxh7YZys 

There will be love there -愛のある場所-(SUPER TERRA2000)
https://www.youtube.com/watch?v=JHmP1rQ3eqY 

angel song -イヴの鐘-
https://www.youtube.com/watch?v=moAX32HsMy8 

長いため息のように
https://www.youtube.com/watch?v=5CAutqKGnM4 

Forever to me ~終わりなき悲しみ~
https://www.youtube.com/watch?v=T0JcS5uPJEo 

 

 

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2025年4月 6日 (日)

ATOKとの訣別

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純丘曜彰氏の話(引用)
https://www.insightnow.jp/article/11507 

だが、じつは、ここのところ、それ以上の問題が生じている。たとえば、一太郎。多少の改善が進んでいることを期待して、なんとなく二年ごとくらいにはバージョンアップを当ててきたが、今回はやばい。カナ漢字変換のATOKがかってにサブスクになって、前のATOKが自動で消されてしまい、毎年、サブスク更新料を払わないといけなくなる。これは、実質的には一太郎のバージョンアップを毎年、強制されるのと同じ。

それも、良くなっているのならいいのだが、もの書きには使いにくくなる一方。スマホ向けなのか、ATOKが通俗化して、話し言葉、さらには方言や略語などが得意になったせいで、書き言葉、文語、単漢字が後に追いやられ、必要な漢字がすぐに出てこない。それどころか、差別語っぽいものは、辞書そのものから消されてしまっていて、ふつうの変換では出せない。一太郎も、やたら装飾だらけになっていくが、段組やレイアウト枠のリンクなどだらけだと、あいかわらず入力ごとに「応答無し」で待たされ、仕事にならない。

(引用終了)

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全くその通りです。ATOKはたくさんの専門用語を覚えさせて賢くなっていたのですが、なんとある日突然使えなくなってしまいました。ジャストシステムは唯一大手の日本土着ソフト企業として期待していたのですががっかりです。日本語入力システムについては、結局みんな米国の会社であるマイクロソフトが開発したプログラムを利用することになるなんて、あきれるしかありません。

私は日本国憲法を尊重し日本の法律を遵守するなら、いくら大勢の外国ルーツの人々が日本で生活しても結構だと思っていますが、トランプと同様日本人が使う日用品はなるべく日本で生産してほしいと思っていますし、日本で育った文化はそれなりに保存発展してほしいと思っています。ジャストシステムはパーソナルメディアを買収してOSを開発し、マイクロソフトを日本から駆逐するくらいのことをやってほしいと思っていましたが、今の状態だと没落一直線でしょう。

石破政権はトランプから日本がEUより高い関税をくらっても、報復関税すらやらないと公言しています。これははいったいどういうことなのでしょうか? 最初からカードを放棄するんじゃディールにもならないんじゃないの?

 

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2025年4月 5日 (土)

2025 北総の桜

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今年は長く寒い冬でしたが、ようやく桜の季節になりました。
昨年は全く咲かなかった近隣のしだれ桜の老木が、管理組合が手入れしたのでしょうか、見事に花をつけました。まだまだ頑張ってほしい。

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ソメイヨシノはまだ全体的には5~7分咲きですが、この木は満開に近いです。

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春の花は桜だけではありません。近隣の空地に咲く利休梅、本当に可憐で美しい花です。

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うちに毎日やってきていたベティちゃんも、ついに繁殖のための旅に出たようです。

がんばれとエールをおくりたい。子育てが終わったらまたおいで💕

 

 

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2025年4月 3日 (木)

続・生物学茶話265: 活動電位にまつわる話

生物が生まれた非常に初期のころから、外界と細胞との境界膜にNa・Kポンプは設置されていたと思われます。実際細菌や古細菌もこれを保有しています。このポンプは次のような反応を触媒します(1)。

3Na(in)+2K(out)+水1分子+ATP=3Na(out)+2K(in)+ADP+Pi

これはATP1分子と水1分子を消費して、ナトリウムイオン3つを細胞から放出し、同時にカリウムイオン2つを細胞に取り込むという意味です。この結果外界と細胞に電位差が発生し、それを使って糖・アミノ酸、リン酸などの栄養物質のとりこみ、様々なイオンの出し入れ、細胞のpHや体積の調節などが行われます(2)。Na・Kポンプはまさに細胞を電池化する革命的なアイテムでした。

神経細胞もこの電位差を使って作業することになりました。その作業の肝は活動電位の発生です。Na・Kポンプによって細胞内は常にNaイオンの濃度が外界より低く保たれているので、細胞膜に穴をあけるチャネル分子=電位依存性ナトリウムチャネル(3)があれば細胞膜からNaイオンが細胞内に流入し、電流を発生させることができます(4、図265-1)。

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図265-1 活動電位(アクションポテンシャル)

図265-1は高校の教科書などにでてくるアクションポテンシャル(活動電位)のグラフです。このグラフを見ているといろいろ疑問がわいてきます。まずその活動電位を発生させるためのチャネル=電位依存性ナトリウムチャネルの最初の活動は誰が指示しているのでしょうか? 隣のチャネルが活動すればナトリウムが細胞内に流れ込みそれが刺激となってチャネルが開き、それがまた隣に伝搬するわけですが最初はどうなのでしょう。 

通常軸索末端のシナプスから放出された神経伝達物質はシナプス後細胞表層のレセプターと結合して情報は伝達されます。レセプターがリガンド依存性イオンチャネルであった場合、リガンドが結合することによってチャネルが開き、イオンが細胞内に流入します(5、図265-2)。代表的なリガンド依存性イオンチャネルの例として、ニコチン性アセチルコリン受容体などがあげられます(6)。この受容体がリガンドと結合しナトリウムイオンが流入した結果、一定の閾値に達すると電位依存性ナトリウムチャネルが開いてアクションポテンシャルが発生するというわけです。

しかし実際にはそれほど単純ではなく、リガンド依存性チャネルの分布なども影響して、まだ知られていないメカニズムも関与しているようです。脳科学辞典の「閾値」という項目をみると「樹状突起の比較的近い部位の興奮性シナプスが一定数以上同時に活性化すると、各々による脱分極の線形和を越えた脱分極が起こり、それが細胞体に伝わる」という報告がとりあげられています(7、8)。シナプスには抑制性のものもあるので、それぞれの数やクラスター化の程度、軸索起始部との距離など複数のパラメータが関与してアクションポテンシャルの起動が決定されるものと想像できます。

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図265-2 リガンド依存性イオンチャネル 実際に通過するのはカチオン

リガンド結合型チャネルのはたらきによってナトリウムイオンが流入し、ある程度神経細胞の電位が上昇すると、電位依存型のチャネルが開口し、さらにナトリウムイオンが流入してアクションポテンシャルが発生します。リガンド結合型チャネルによるナトリウムイオンの流入は加算的である―すなわちリガンドが結合したチャネルだけが開口し二つ開口すれば流入量が2倍になるという様式なのに対して、ナトリウムイオンの細胞内濃度が閾値を超えるとそれを感知した電位依存型チャネルは原則的にはすべてが一気に開口しアクションポテンシャルを発生させます(図265-3)。

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図265-3 シナプスにおける情報伝達から活動電位発生まで

しかしここでひとつ不思議なことがあります。活動電位(アクションポテンシャル)が発生すると細胞内のナトリウムイオン濃度が爆上がりするので、電位依存型チャネルは開きっぱなしになってしまい、電位を生理的レベルに落とすことができなくなるのではないかと思うのですが、実際にはそんなことはありません。なぜなのでしょうか?

図265-4は故意に膜電位を50mⅤに維持して電位依存型ナトリウムチャネルが開放したままになるかどうか試した実験ですが、そうはならないことがわかりました(9)。電位依存型ナトリウムチャネルが開口するのはわずか10mSという短い時間だけで、すぐ自動的に閉じてしまうのです(図265-4)。この閉じたチャネルのコンフォメーションは膜電位が生理的レベルだった最初とは違った状態(不活化状態)なのですが、ナトリウムイオンが通過できないことに変わりはありません。膜電位を正常レベルに戻すとコンフォメーションも元に戻ります。つまり膜電位が上昇したときの本来のコンフォメーションは不活化状態に相当するものであり、ナトリウムイオンが通過できるのは途中の遷移段階に相当する間だけということです(図265-4)。

一方電位依存型カリウムチャネルは、ナトリウムチャネルが電位変化に素早く反応して開口するのに対して、開口まで10mS前後の時間がかかります。なので活動電位の発生を妨害することはありません。このカリウムチャネルは電位が高い間は開きっぱなしで、電位が生理的レベルに下がれば閉じるというシンプルなメカニズムで活動します。つまりナトリウムチャネルの特殊な活動と、カリウムチャネルのシンプルな活動の組み合わせによってアクションポテンシャルが発生するわけです。

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図265-4 電位依存型ナトリウムチャネルと電位依存型カリウムチャネルの作動様式

電位依存型ナトリウムチャネルのメインサブユニットはαでそれを2次元に広げた模式図が図265-5です(10)。他のサブユニットがない状態でも電位依存型ナトリウムチャネルとして機能します。前記したようにこのチャネルは膜電位が上昇すると自動的にチャネルを閉じますが、それはウィキペディアを引用すると、「ナトリウムチャネルは不活性化ゲート(inactivation gate)を閉じることで自身を不活性化する。不活性化ゲートは、αサブユニットのドメインIIIとIVをつなぐ細胞内の領域が「プラグ」のように機能することで開閉が行われていると考えられている。不活性化ゲートが閉じるとNa+の流れが止まり、膜電位の上昇は止まってチャネルは不活性化状態となる」(10)ということです。図265-5のIの部分が不活性化に関与する領域です(11)。

詳しくは不活性化はⅢ-Ⅳリンカー領域中に存在する疎水性アミノ酸配列 Ile-Phe-Met (IFMモチーフ)が IFM モチーフのレセプターである2つのリンカー(ドメインⅢのセグメント4とセグメント5を結ぶリンカー(ⅢS4-S5)及びドメインⅣのセグメント4とセグメント5を結ぶリンカー(ⅣS4-S5)と疎水性相互作用すること
により生ずると考えられているそうです(12)。

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図265-5 電位依存型ナトリウムチャネルαサブユニットの模式図

不活性化を含む電位依存型ナトリウムチャネルの立体構造に関する最新のデータについては参照文献13をご覧ください。

 

参照文献

1)ウィキペディア:Na+/K+-ATPアーゼ
https://ja.wikipedia.org/wiki/Na%2B/K%2B-ATP%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC

2)上野晋、泉太、川村越 ナトリウムポンプの構造と機能―βサブユニットの役割―
膜 (MEMBRANE), 20 (2), 115-125 (1995)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane1976/20/2/20_2_115/_pdf/-char/ja

3)続・生物学茶話190: 電位依存性ナトリウムチャネル
https://morph.way-nifty.com/grey/2022/09/post-b7024f.html

4)やぶにらみ生物論118: 活動電位
https://morph.way-nifty.com/grey/2018/12/post-cf21.html

5)Wikipedia: Ligand-gated ion channel
https://en.wikipedia.org/wiki/Ligand-gated_ion_channel#:~:text=Ligand%2Dgated%20ion%20channels%20(LICs,a%20ligand)%2C%20such%20as%20a%E8%84%B3%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%BE%9E%E5%85%B8%E3%80%80:%E9%96%BE%E5%80%A4

6)続・生物学茶話135: アセチルコリンによる情報伝達
https://morph.way-nifty.com/grey/2021/03/post-5df6c6.html

7)脳科学辞典:閾値
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%96%BE%E5%80%A4

8)Schiller, J., Major, G., Koester, H.J., & Schiller, Y. , NMDA spikes in basal dendrites of cortical pyramidal neurons. Nature, 404(6775), pp.285-289 (2000)

9)岡良隆 基礎から学ぶ神経生物学 オーム社 (2012) p.56

10)ウィキペディア:ナトリウムチャネル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB

11)上坂伸宏 電位依存性Na+チャネルの生理機能と構造
膜(MEBRANE), vol.20(6), pp.398-405(1995)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane1976/20/6/20_6_398/_pdf/-char/ja

12)宮本和英 ナトリウムチャネルの不活性化ゲート関連ペプチドの立体構造
YAKUGAKU ZASSHI vol.122(12) pp.1123―1131 (2002)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/122/12/122_12_1123/_pdf

13)Daohua Jiang, Jiangtao Zhang and Zhanyi Xia, Structural advances in voltage-gated sodium channels., Frontiers in Pharmacology., 13:908867. doi: 10.3389/fphar.2022.908867. (2022)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9204039/

 

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