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2025年2月27日 (木)

悪性リンパ腫の異常な増加

高倉健さん、松方弘樹さん、石ノ森章太郎さんらが罹患して亡くなった病気が悪性リンパ腫(1、2)ですが、近年この悪性リンパ腫が爆発的に増えていて、この現象は高齢化では説明できません。最近では今月21日に、青山学院大の陸上競技部の皆渡星七(みなわたりせな)さんの死亡が公表されました。最近話題になっている高額医療費の自己負担の問題も、継続的な治療が必要なこの病気の患者には、モロに引っかかってくると思われます。

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図は国立がんセンターの統計ですが、これが不備です。情けないことに、Ⅹ軸およびY軸の数字が部分的に消えていて、私がY軸は元の表記を全部消して書き換え、X軸は元の表記と私が書き換えた表記を併記しました。国立がんセンターはもっとまじめにやってほしいと思います。もっとまじめにやってほしい点は他にもあって、図の茶色の線は罹患数なのですが、2016年までしかグラフがありません。データはあるに違いないのにグラフ化されていないと思われます。これはあまりにひどいじゃありませんか?

ともかく爆発的に増加していることは確かなのですが、何が原因なのかはさっぱりわかっていないようです。ただもともとは欧米では多く日本ではまれな病気だったことは確かなので、生活の欧米化が原因とは言われています。EBウィルス、ピロリ菌、メトトレキセートなどの関与も疑われていますが、これらでは近年の爆発的増加は説明できないと思います。

成人になっても激しく増殖している細胞は何種類かあって、それらの多くは癌化しないような対策がほどこされています。赤血球は脱核し、皮膚・毛髪細胞はケラチン化し、顆粒球は多型核化し、それぞれ細胞分裂が不可能な状態にすることによって癌化は防がれています。リンパ球は常時増殖している細胞ではないので、そのような特殊化はおこなわれていません。しかし負傷や感染など異常な事態になると増殖します。細胞が増殖すると癌化のリスクは増加します。それはDNAをコピーする際にエラーが発生するためです。

日本の研究者のグループは、患者のDNAを解析しBRCA1, BRCA2, ATM, TP53 の変異が悪性リンパ腫の発症に関係していることを報告しています(3)。

生活の欧米化で癌化のリスクは増すと言われていますが、リンパ球との関連はよくわかりません。ただワクチンを頻繁に接種すると、そのたびごとにリンパ球が増殖するので癌化のリスクは増加します。とはいってもワクチンを打つことのメリットもあるので、メリット―デメリットを数値化することができない現状では打つか打たないかの科学的判断は無理でしょう。

昨今はコメの値上げがとまらず、食生活の欧米化がますます進みそうで、これはさらに悪性リンパ腫を後押しすることになりそうです。本当に困ったものです。

参照

1)塚崎邦弘(がんプラス) 悪性リンパ腫 病型や悪性度、腫瘤の部位や大きさに応じた治療選択
https://cancer.qlife.jp/blood/blood_feature/article6523.html

2)山口素子 悪性リンパ腫 治療の進歩 日本内科学会雑誌 110 巻 9 号 pp.1939-1944 (2021)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1939/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1939/_pdf/-char/ja

3)国立がんセンター プレスリリース 2022年
悪性リンパ腫の大規模ゲノム解析~単一遺伝子疾患型が存在する可能性~
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/0906/index.html

 

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