都響とデジタル・ファシズム
東京芸術劇場や東京文化会館管理を運営している組織のトップは東京都歴史文化財団です。この財団を運営している人々のリスト(役員名簿)はウェブで閲覧できます(1)。
理事長は日枝久氏で、ご存じの方も多いと思いますがフジサンケイグループ代表です。故石原慎太郎が都知事だったときから東京都の文化活動は読売グループ・フジサンケイグループが差配しています。しかも日枝氏は東京文化会館の館長でもあります。昔東京文化会館の館長だった三善晃氏が、石原の策謀で辞任を余儀なくされたのは古い都響ファンならよく知っていることです(2)。実際系列の団体が利用することもある施設を、その民間団体の総帥が管理するなどということは好ましいことではありません。
そして唯一の常勤理事で副理事長の堤雅史氏がどんな人物であるかというと、都政新報の記事を読む限り(3)、東京都における行政デジタル化推進の総帥のようです。ならば都響が上野の事務所でチケットの販売をやらない、当日券を会場で売らないというような無茶をやっていることも理解できます。彼らは常にプロバイダー目線・上から目線で仕事をしていて、カスタマー目線ではやっていないのです。最近東京都でカスハラ条例をつくるという話になっていますが、事実上電話での応対はなくメールだけでカスタマーに対応する企業も多いというのが現実です。メールだとリターンメールを出さないとか見当違いのリターンで泣き寝入りを期待するという手が使えるので、プロバイダーにはとても好都合です。プロバイダー(行政・会社)は非道なカスタマーの排除には熱心ですが、普通のカスタマーが困っている状況には真面目に対応しないこともあります(実は解決できないのですが、そうは言わないで四の五の言ってごまかそうとする)。
チケットの件も買う側の立場には立ってなくて、売る側の都合で現金決済を避けるという金科玉条を徹底しようとしている訳です。これをデジタル・ファシズムといいます。実際ウェブが使えなくてチケットが買えない人、上演直前に会場に来て無駄足になる人のことは無視します。さらに問題なのはデジタルファシズムの推進者は現金の「匿名性」、買う側の「主権」、プライバシーを侵害されない「自由」を無視することです(4、上の写真)。たとえばわざと過激な反政府的演劇をやって、そのチケットを購入した人を瞬時にリストアップすることだってできるわけです。
堤未果氏は「デジタル・ファシズム」という本を出版しているので、アンチデジタルと思われがちですが、中身をよく読んでみるとそうではなくて、デジタル化そのものは容認している人だと言うことがわかります。要するに行政・企業に都合の良いデジタル化ではなく、カスタマーや市民の主権を確保すればOKだということです。例えばエストニアというデジタル化先進国では、誰が自分の個人情報にどのような理由でアクセスしたかをいつでも知ることができますし、いつでも自分に関する情報を削除することができるなど、厳密にカスタマーや市民のプライバシーに配慮したシステムになっているそうです(4)。
とりあえず都響は事務所でのチケット販売、当日券の会場窓口販売を再開すべきです。当日会場に来て空席が一杯あるのにチケット買えないなんておかしいでしょう。堤氏も都政の効率化で押しまくって十分出世は果たせたわけですから、これからはデジタル化の負の側面やユーザーの便宜と主権にも十分配慮した行政を行って欲しいと思います。
デジタル化にはここで述べたようなことよりもっと巨大な問題点がありますが、私は詳細を知らないのでひとつだけ文献(5)を紹介しておきます。
1)https://www.rekibun.or.jp/about/outline/committee/list/
2)https://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/diary/200502190000/
3)http://www.newstokyo.jp/index.php?id=1424
4)堤未果「デジタル・ファシズム」 NHK出版新書 2021年
5)内田聖子 「日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の何が問題なのか」
https://www.jichiken.jp/article/0164/
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