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2023年12月 7日 (木)

半島のマリア 第11話:接触

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 情報提供者の特定は意外に簡単だった。カーティスの東京事務所に盗聴器を仕掛けたら数日も経たないうちに名前が判明した。スタッフの会話がうまく拾えたのだ。情報提供者はメイソンという下士官で名簿で顔も特定できたが、今はグアムに居ることがわかった。ヒロタとスタッフ、それにロスバーグも東京にいるので、メイソンがグアムでは作戦を立て直さなければいけない。ハミルトンに連絡すると、グアムでの作戦はあらためて考えるということで、とりあえず日本でできることをやってくれということだった。

 ヒロタらは事件が起こったあたりに近い海岸を回って、遭難者・水死者・不審な外国人の調査を行ったがこれと言った情報は得られなかった。ならばいっそのこと事件が起こったあたりの海底の調査をやってみようと思って、ハミルトンにお伺いを立てると「やっていい」とOKが出たので潜水夫を2人雇い、ヒロタと2人のスタッフを含めて旅館に滞在し、船も借りて本格的な調査を開始した。おそらく計画的に投下したとすれば、そのブツには音波発生装置がついていると思われるが検出できなかった。長い間沈めておくには、連続的に音波を発生すると電池が消耗するので、なんらかの信号を使うアクティベーションが必要なのかもしれない。

 この問題が解決しないとすると、しらみつぶしに海底を調査してみるしかないと覚悟を決めたのだが、ひとつ気になることがあった。どうも頭上にいつもドローンが飛んでいて監視されているようなのだ。非常に気持ち悪いのでスタッフに調べさせたところ、古い灯台の敷地を基地にしていることがわかった。その灯台は点灯することはないので現在灯台としては使われてはいないようだ。にもかかわらず駐車場に車がいる。ナンバープレートは米国式ではなく US NAVY の表示もなく、日本式表記のYナンバー車だった。つまり公用車ではないということだ。しかしYナンバーなので軍の車で、やはり灯台の敷地を使ってドローンを飛ばし、問題の海域を監視しているに違いない。作戦を間違ったかもしれない。これで自分たちも全員ネイビーにメンが割れてしまった上に、何をやっているかもバレバレだ。一方ネイビーのアジトらしき場所が判明した上に、車のナンバーまでわかったことは大きな収穫だった。

 もうバレてしまったのだから仕方がない。根気よく海底調査を続けていると、ハミルトンから朗報がはいった。メイソンが7月に休暇を取って東京に来るらしいのだ。海底調査はいったん打ち切り、とりあえず一度ロスバーグと会うことにした。それとネイビーのアジトらしい旧灯台を監視するために、ハミルトンに頼んでスタッフを増やしてもらった。ここを監視していればネイビーの動向がつかめるに違いない。司令部を監視していても情報は得られない。実際に行動する部隊にアジトがあるとすれば、そこを見ていると動向がわかる。監視するには最適の場所をみつけた。旅館街から少し上ったところのあまり人気の無い展望台だ。相手は車1台だからせいぜい3~4人だろう。灯台を基地とするドローンは自分たちを監視しているわけではなく、問題の海域を監視していた。それが彼らの任務なのだろう。おそらく海岸あたりにも別のスタッフを配置して、何かを引き上げようとする者がいればすぐに対処できるようにしているに違いないが、海岸のスタッフについてはヒロタらはまだ誰だかつかめていなかった。近隣の駐車場の車を調べればわかると思ったが、それより優先すべき仕事がある。

 ロスバーグとは展望台に行く道の道標がある場所で会うことにした。しかしそこにやってきたのはロスバーグじゃなく、学生時代にバンドを組んでいた達也だった。30年くらい会ってなかったのに、どうしてこんなところでばったり会ってしまうのだろう。びっくりするしかない。遅れてロスバーグもやってきて、達也には接触を見られてしまった。さらにびっくりしたのはロスバーグと達也が顔見知りだったということだ。神様は不思議なことをやってくれる。

 ともかく夕方宴会をやるという約束をして達也とは別れ、ようやくロスバーグと2人になれた。何をやって欲しいか概要はマクマホンから聞いていたはずだが、段取りを詳しく説明できてほっとした。達也の家が近くにあるというので、その日は3人で思い切り飲んで騒いだ。翌日望洋荘にハミルトンがよこしたスタッフがやってきたので、バトンタッチしてヒロタらは東京に帰った。メイソンとロスバーグを会わせる段取りをしなければいけない。しかし自分とスタッフの顔がバレたというのはまずい。これから自分たちはネイビーに監視される可能性があるということは常に頭に入れておく必要がある。

 ロスバーグとメイソンの接触は箱根のマノスの別荘で7月の最終金曜日に行うことにした。メイソンには監視がついている可能性がある。その週の初めから灯台を監視するために呼んだスタッフも箱根に集めて、総勢7名で作戦を練った。新たに加わったスタッフは電波妨害装置を持ってきていたが、これは万一の場合にだけ使うことにする。トンネル内に同じタイプの車を停めておいて、ドローンにダミーを追跡させる作戦をとることにした。メンが割れている3人を含む5人は木曜日から別荘に入って待機することにした。残りの2人は東京からメイソンを車に乗せて連れてくる役目だ。ロスバーグとメイソンが別荘に到着したら要人警護の要領で彼らを保護すれば良いので、これはSSにとってはいつもの職務なので慣れている。ロスバーグはメンが割れていないし、まして監視されてもいないだろうから問題なく無事に到着できるだろう。

 しかしそれは甘かった。ネイビーはマクマホンの動向については、大統領に近い要注意人物として5月に来日したときからマークしていた。彼らはマクマホンが日本を訪問したときにマノスが所有する箱根の貸別荘に来たことを知っていて、メイソンが箱根に向かったことを知ると別荘に人を貼り付けたのだ。メイソンは近隣の駐車場に車を止めて、スタッフの案内で徒歩で裏口から別荘にはいったのだが、ロスバーグは正面玄関から車ではいろうとしたため、隠れていたネイビーの車が現れて中に入る前に妨害された。ロスバーグは慌ててバックして切り返し逃げることにしたが、ネイビーは追ってきてカーチェイスになってしまった。しばらく逃げていたがこのままだと事故を起こすに違いないと思い、車止めに乗り上げ徒歩で逃げようとしたが、後ろからタックルされて倒れてしまった。次の瞬間にもう一人に首に注射を打たれ、意識がなくなった。ふたりはロスバーグを車に運んで走り去った。

 別荘の二階から外を監視していたスタッフが、ロスバーグが妨害されるのを目撃したが、建物から門までは少し距離があり、目視しながら車で追跡するのは不可能だった。大失態だ。当初の計画は崩壊した。東京に向かう道は多くないので、スタッフにはロスバーグの捜索と救援を頼み、ヒロタ自身は身分を明かしてメイソンから事情を聴くことにした。

 メイソンによるとガイルスが投下した物体は、投下時に大きな音がしたのである程度重量があることは推定できたが、闇夜ということもあり実物をはっきり見たわけでもなく、形状はわからなかったらしい。ともかく浮かせて回収するのではなく、沈めるという意図があったようだ。ガイルスはメイソンがいたことに非常に驚いたらしく、あわてて海に飛び込んだ感じで、あらかじめ泳いで逃げることを予定していたとは思えなかったとも証言した。メイソンが報告したとき艦長は真っ青になって呆然自失の様子だったが、厳しく「部屋を出るな、これは命令だ」と言って、マスターキーを持って一人で部屋の外へ出たこともわかった。ハミルトンに連絡してメイソンは横田から出国させ、米国で保護することにした。

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