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2023年9月 4日 (月)

続・生物学茶話219:fMRI

読者の皆様のなかにはMRIを経験された方もいらっしゃるかもしれません。私はあの工事現場のような騒音にさらされる検査を経験したことがあります。現在は多分もう少し静かな検査になっているかもしれません。本来は核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance=NMR)という名前なのですが、医療の場合「核」という言葉がマイナスイメージなので忌避されることを恐れて MRI(magnetic resonance imaging) としているそうです。

MRIの原理については一応大学の教育用資料(1)を読みましたが、わかったようなわからないような気分です。ヘモグロビンは図219-1のように酸化ヘモグロビンの状態と還元ヘモグロビンの状態があり、酸素が必要とされるような環境では酸素分子を解離して還元ヘモグロビンとなります(2)。還元ヘモグロビンは常磁性なのでMRIの信号は小さくなります。

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図219-1 ヘモグロビン分子のリボンモデル

ニューロンが刺激を与えられ活発に活動すると、図219-1の原理で言えば酸素を消費するので周囲の血流内の還元ヘモグロビンが増加しMRIの信号が小さくなるということになりますが、実際にはそうはならず、ニューロンが活発に活動するとその部域にむしろ顕著な動脈血の流入増加がみられ、その影響の方が大きいため酸素ヘモグロビンが増加してMRIの信号は大きくなります(3、図219-2)。ただその流入が収まった頃には還元ヘモグロビンの増加の影響がみられます(図219-2)。信号の増加は典型的には神経活動から5~6秒ほどでピークに達し、約 20秒ほどで元に戻ります。

このようなMRIの信号の変動を利用してニューロンの活動を研究する場合、fMRI(functional MRI)法を用いた研究ということになります。脳科学辞典の正式な定義では「機能的磁気共鳴画像(fMRI)とは、磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging; MRI)を用いて生体の脳や脊髄を一定時間連続的に撮像し、脳活動(神経活動とシナプス活動等の総和)と相関するMRI信号の変動を非侵襲的に計測する技術である」となっています。

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図219-2 短時間の感覚刺激後に生じるMRIの信号(BOLD信号)

核磁気共鳴の原理はなかなか難解ですが、その原理を示して測定機器を開発したフェリックス・ブロックとエドワード・パーセルは1952年のノーベル物理学賞を受賞しています。そして核磁気共鳴の装置を使って水と重水を識別することに成功したポール・ラウターバーと、その画像化に貢献したピーター・マンスフィールドは2003年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。マンスフィールドが開発したEPI法(Echo Planar Imaging Method)は現在も使われているようです。MRIのイメージングについて解説した日本語の総説もありますが(4)、畑違いは恐ろしく私には全く理解できません。医師や医学研究者も原理を理解できないまま画像を撮影しているのではないかと思われます。

脳科学辞典にも「fMRIの撮影には、BOLD信号のコントラスト源であるT2*減衰を鋭敏にとらえ、かつ時間分解能も高いエコープラナー画像(EPI)法を用いることがほとんどである。」とさらっと書いてあります。ただ実施上の注意点や統計解析などについては割と詳しく書いてあります(3)。

開発者たちは生理学・医学とは無縁の分野の研究者ですが、彼らの研究結果は脳梗塞などの診断に汎用される機器として結実しました。基礎科学が臨床に応用された典型例でしょう。

平野好幸らは咀嚼することによって脳の一部が活性化され、作業記憶が活性化されることをfMRIを使って証明しました(5、6、図219-3)。図の黄色い部分が活性化された場所です。堀田晴美らはマイネルト基底核が刺激されることによって、この部分の血管が拡張されたことを示しました(7、8)。MRIが臨床には汎用されているにもかかわらず、ニューロンの活性化と血流の増加の関連が曖昧であったことは研究者にとっては隔靴掻痒でしたが、しだいにそのメカニズムも解明されつつあるようです。

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図219-3 噛むことによって刺激される脳の領域をfMRI法で検出

fMRIは統合失調症の研究にも使われています。被験者を健常群と患者群にわけて安静時のMRI信号を測定し。その脳の各部分での波形に基づき信号が似ている場合同じ色にするという方法で、健常群と患者群のネットワークを比較するという実験があります。この色の分布を比較すると患者群と正常群ではそれぞれ独特な色分けになることが判明しました(9、10、図219-4)。これは患者群と正常群でネットワークのシステムが違うことを意味しています。非常に興味深い研究だと思います。今後の発展が期待されます。

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図219-4 統合失調症患者の脳内ネットワークの異常をfMRIで検出

 

参照

1)新潟大学教育用資料 MRIとは。 15分で分かる(?)MRI
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~nisiyama/MRI-15-min.pdf

2)Wikipedia: Hemoglobin
https://en.wikipedia.org/wiki/Hemoglobin

3)脳科学辞典 機能的磁気共鳴画像法
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%A9%9F%E8%83%BD%E7%9A%84%E7%A3%81%E6%B0%97%E5%85%B1%E9%B3%B4%E7%94%BB%E5%83%8F%E6%B3%95

4)町田好男、森一生 MRI 高速撮像の進展 ~画像化の原理から圧縮センシングまで~
医用画像情報学会雑誌 vol.31 no.1 pp.7-11 (2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mii/30/1/30_7/_pdf/-char/ja

5)平野好幸 ロッテ 噛むこと研究室 噛むことインタビュー No.28
https://www.lotte.co.jp/kamukoto/brain/1055

6)Yoshiyuki Hirano et al., Effects of chewing in working memory processing., Neuroscience Letters, vol.436, Issue 2, pp.189-192 (2008)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304394008003169

7)東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース 「咀嚼にともなう脳血流増加の神経メカニズムを解明」
https://www.tmghig.jp/research/release/2019/1225.html

8)Harumi Hotta et al., Involvement of the basal nucleus of Meynert on regional cerebral cortical vasodilation associated with masticatory muscle activity in rats.
Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, vol.40, Issue 12, 2019
https://doi.org/10.1177/0271678X19895244
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0271678X19895244

9)国立研究開発法人 情報通信研究機構 プレスリリース
ネットワーク理論に基づいた新しい統合失調症の解析手法を開発〜脳全体の相互関係に着目したモジュール解析による特徴付け〜 (2015)
https://www.nict.go.jp/press/2015/07/28-1.html

10)Ferdinand Peper, Tetsuya Shimokawa, Kenji Leibnitz, and Ben Seymour, From Networks of the Brain to Information Networks Inspired by the Brain., 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1, pp.51-58(2018)

 

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