mRNAワクチン なぜレトロポジションの生物学は無視されるのか?
mRNA Vaccines: Why Is the Biology of Retroposition Ignored?
Tomislav Domazet-Loso
Genes vol.13, no.5, p.719. (2022)
https://doi.org/10.3390/genes13050719
以下の要約は管理人の意訳ですので、正確な情報を得たい方は上記の原著を参照されることをおすすめします。
要約:従来型ワクチンに比べて、mRNAワクチンのおもな利点は、パンデミックの状況下で急速かつ大規模に展開できるという潜在能力です。今日の新型コロナ蔓延の危機に際して2種のmRNAワクチンが条件付きで認可され広く使われましたが、他のワクチンはまだ治験の段階にあります。しかしmRNAワクチンの一般住民への大規模な使用は、過去には行われた経験がありません。このことはすべての私たちのmRNAに関する分子生物学や進化についての知識を動員して、mRNAワクチンの安全性についての注意深い評価を行うべきであることを意味します。
ここで私はmRNAを基盤としたワクチンが遺伝子を変化させることがあり得るかどうかについて議論します。これは驚くべきことだと思いますが、mRNAワクチンに関する多くの文献で、そのようなことはあり得ないと述べられているのですが、この疑問にきちんと取り組んだ科学論文によってそのような意見が支持されているわけではありません。それどころか、マウスやヒトにおいて分子的あるいは進化的に、臨床状況においても、mRNA分子はしばしばゲノムに組み込まれていると述べられていることは私たちをさらに混乱させます。
基本的な比較を行うことによって、私はmRNAワクチンの塩基配列はL1エレメントを用いた逆転写の条件を満たしていることを示します。L1エレメントというのはヒトのゲノムにおいて自動的に活性化する非常にありふれたトランスポゾンです。実際mRNAワクチンが持つ多くの特性はL1を介したトランスポジションの可能性を増加させます。
私はmRNAワクチンを用いた治療がゲノムに影響を与えないという思い込みには根拠がないと結論します。ワクチンのmRNAは体内にあるL1レトロエレメントを介して容易にゲノムに組み込まれるというルートが存在します。このことは私たちがワクチンmRNAのゲノムへの組み込みの可能性について厳密な試験を緊急に行わなければならないことを意味します、現時点ではmRNAを用いたワクチンが挿入変異を起こすことについての安全性の問題は解決していないと思われます。
管理人付記:私たちのゲノム(DNA)の半分くらいは遺伝子ではないトランスポゾンによって構成されています。なかでもL1トランスポゾンは逆転写酵素をつくりだす能力があるので、この酵素によってmRNAに転写された自分の配列をDNAに逆転写し、再びゲノムに組み込むことが可能です。この論文の著者はこの経路を使ってワクチンのmRNAがゲノムに組み込まれる可能性について述べています。
トランスポゾンについて基本的なことを知りたい方は拙文をご覧ください
トランスポゾン1
https://morph.way-nifty.com/grey/2017/09/post-c22b.html
トランスポゾン2
https://morph.way-nifty.com/grey/2017/09/post-e6f5.html
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