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2021年4月13日 (火)

続・生物学茶話138: GPCRの進化

これからもGPCR(G protein-coupled receptor)にはたっぷりと付き合わないといけないと思いますので、このあたりで少し整理しておます。まず代表としてウィキペディアにあった牛のロドプシンの立体構造図を表示します(1、図138-1)。ロドプシンはGPCRの中では最もシンプルなもののひとつです。なぜなら光による構造変化がその仕事なので、リガンドをキャッチする細胞外のN末部分がいらないからです。それでも細胞膜を7つのαヘリックス(1番から7番まで番号がついています)によって7回貫通する構造、3量体Gタンパク質を保持する細胞内の構造というGPCRとしての基本ははずしていません。GPCRはかならずN末を細胞外に、C末を細胞内に露出します。

ロドプシンと似た構造を持つタンパク質はすでに真核生物以前の段階で認められています。ただし古細菌のバクテリオロドプシンは7回貫通構造はあるものの、Gタンパク質を結合することはできません。なぜなら彼らのタンパク質は情報伝達を行っているのではなく、光エネルギーによってプロトンを細胞外に排出し、細胞内外のプロトンの濃度差を利用してATPを合成する目的で機能するなど情報伝達以外の多彩な機能を持つものです。詳しくは拙稿をご覧ください(2)。

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図138-1 ウシロドプシンの構造

図138-2は一般的なGPCRの分類を示しています。ヒトゲノムには約350種類のGPCR遺伝子があるそうです(3)。この中にはまだ機能が不明なものも多いようなので、研究が進展すれば分類法も変わるかもしれません。

クラスAはシンプルな構造のロドプシンに近縁のタンパク質群で、細胞外のN末部分、細胞内のC末部分共に特に長くはないグループです。クラスBは細胞外のN末部分に長いリガンド結合部位を持つタイプのグループです。リガンドがペプチドの場合、それを認識する部位のサイズが大きくなるのはやむをえません。クラスCは2量体を形成していて、さらにN末・C末部分が共に長いという特徴があります(4、5)。クラスCのN末ドメインは細菌時代の祖先タンパク質から構造が保存されているというのは驚きです。とはいっても細菌にクラスCのGPCRがあるわけではなく、アミノ酸の輸送など全く別の機能を持つタンパクだそうですが(5)。

一般的に言って図138-2の分類は細胞の外側部分の特徴によるもの、すなわちリガンドの種類に即した構造によってわけられているもので、細胞内のC末部分による機能の違いは考慮していません。したがって細胞内部分に結合するGタンパク質の違いによって、機能が正反対になることもあり得ます。

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図138-2 GPCRの分類

ここでウィキペディアの図を使ってGPCRの動作機構を復習しておきましょう。図138-3は私が日本語キャプションを追加したものです。細胞外のリガンドを受け取ったGPCRは構造変化をおこし、その結果Gαに結合していたGDPがはずれ、代わりにGTPが結合します。GTPが結合したGαはGβγと解離し、GPCRからも離れてシグナリング活動を行います。同時にGβγも独自に活動します。Gタンパク質が離れたGPCRはリガンドを解離します。Gαに結合していたGTPが加水分解されGDPになると、Gαは再びGβγを結合し、さらにGPCRと結合してスタンバイ態勢にはいります(1、図138-3)。

GβとGγは強固に結合しており、その主たる機能はGαの活動を制御することにあると思われますが、独自にフォスフォリパーゼ活性やイオンチャネル活性を制御するとも言われています(6)。

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図138-3 GPCRの動作機構

文献(5)によると、哺乳類のGタンパク質α、β、γはそれぞれ20種類、6種類、12種類前後あるとされており、同じリガンドがやってきても、細胞内ドメインに結合しているGタンパク質の種類が変わると、異なる生理作用が発動されることがあります。ですからGタンパク質の分布によって、ある臓器では促進、別の臓器では抑制という結果になることもあり得ます。

図138-4では大まかなGαタンパク質の分類とそれぞれの作用を記しています。Gsのsは stimulation を意味し、アデニル酸シクラーゼを活性化します。その結果増加したcAMPはプロテインキナーゼAを活性化することによって、細胞の代謝に広範な影響を与えます。Gi/oのi/oは inhibitory/others を意味し、アデニル酸シクラーゼの活性を抑制し、フォスフォジエステラーゼを活性化することにより、Gsとは逆の効果を持ちます。Gq/11、G12/13もそれぞれ図138-4のような作用があります。それぞれの詳細な作用機構についてはここではふれませんが、詳しく知りたい方は文献(7)などをご覧ください。また後にここでも取り扱うことがあるでしょう。

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図138-4 Gαタンパク質の分類

ここでは動物(メタゾア)におけるGPCRの起源についてみていきましょう。私たちは左右相称動物の一員ですが、左右相称動物が出現する以前に地球上に存在したと考えられているのは、図138-5に代表例を示した4つのグループ、すなわち海綿動物・刺胞動物・有櫛動物・平板動物の各門に所属する動物です。

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図138-5 左右相称動物出現以前から存在していたと思われる動物

Krishnan、Schiöth らはこれらの動物のGPCRを調べました(8、9)。その結果驚くべきことに、これらの動物も、私たちと同様クラスA・B・C・DすべてのGPCRを持っていることが明らかになりました。それも1つ2つではなく、すべての門の生物が非常に多くの種類のGPCRを利用していることが明らかになりました(図138-6)。注目すべきはメタゾアに最も近いとされている単細胞生物(原生生物)の襟鞭毛虫もGPCRを持っていることです。しかし彼らのカタログからはクラスAが欠けています(図138-6)。これは多細胞生物が出現することとクラスAのGPCRが関連していることを示唆していますが、さらなる研究が待たれます。

海綿動物や平板動物のように神経系を持たない生物もGPCRを保有しているということは、メタゾアにおけるGPCRの出発点は情報伝達にあるのではなく、細胞接着などの機能によって多細胞生物としての最低限の形態を維持するなど別個の機能だったということが示唆されます。

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図138-6 左右相称動物より古くから存在する動物のGPCR

原生生物ばかりか細菌もバクテリオロドプシンという膜7回貫通タンパク質を持っていることが知られています(10)。このタンパク質はプロトンポンプであり、光エネルギーを化学エネルギーに変換する上で重要な働きを持っています。最近クロロフィルを用いた光合成機構を獲得したシアノバクテリアにもロドプシンが存在することが明らかになりました(11)。酵母には数個、植物には十数個のGPCR遺伝子が存在することが知られています(12)。de Mendoza らはGαタンパク質について大規模な調査を行い、メタゾア・真菌・アメーバ・バイコンタ一般などあらゆる真核生物にこのタンパク質が存在することを明らかにしました(13)。つまり真核生物のGPCRはGαと共同して機能してきたことが示唆されます。こうしてみると、GPCRはまさに10億年以上の生物の歴史の中で、ずっとその活動を支えてきた伝統の分子と言えます。

参照

1)Wikipedia: GPCR
https://en.wikipedia.org/wiki/G_protein-coupled_receptor

2)続・生物学茶話 112: 光を感じるタンパク質
https://morph.way-nifty.com/grey/2020/09/post-453128.html

3)群馬大学 若松研究室HP
https://sites.google.com/a/gunma-u.ac.jp/wakamatsu-lab/home/research/gpcr

4)構造生物学:ついに明らかになったクラスC GPCRの構造 (2019)
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/96234

5)天野剛志・廣明秀一、領域融合レビュー, 2, e003 (2013)DOI: 10.7875/leading.author.2.e003 (2013)
https://dbarchive.biosciencedbc.jp/data/leading_authors/data/Doc/Hiroaki-2.e003-PDF.pdf

6)ウィキペディア: Gタンパク質
https://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

7)A. Inoue et al., Illuminating G-Protein-Coupling Selectivity of GPCRs., Cell vol.177, pp.1933–1947 (2019)
https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.04.044

8)Krishnan, A., Almén, M. S., Fredriksson, R. and Schiöth, H. B. (2012). The origin of
GPCRs: identification of mammalian like Rhodopsin, Adhesion, Glutamate and Frizzled GPCRs in fungi. PLoS ONE 7, e29817.
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0029817

9)Arunkumar Krishnan and Helgi B. Schiöth, The role of G protein-coupled receptors in the early evolution of neurotransmission and the nervous system., J. Exp. Biol., vol.218., pp.562-571 (2015)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25696819/

10)ウィキペディア: バクテリオロドプシン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%B3

11)東大ら,シアノバクテリアにロドプシン遺伝子発見 オプトロニクスオンライン (2020)
https://optronics-media.com/news/20201104/69609/

12)諏訪牧子 ゲノム情報解析から概観するGPCR プロテオーム ファルマシア vol.50, no.9, pp.888-892 (2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/9/50_888/_pdf

13)Alex de Mendoza, Arnau Sebe-Pedros, and Inaki Ruiz-Trillo1, The Evolution of the GPCR Signaling System in Eukaryotes: Modularity, Conservation, and the Transition to Metazoan Multicellularity., Genome Biol. Evol. vol.6(3): pp.606–619 (2014)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24567306/

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コメント

大変参考になりました。僕のブログで引用させて下さい。

投稿: ミトラ | 2021年5月27日 (木) 09:33

>ミトラ 様

引用歓迎します
ブログ読みたいので、よかったらURL教えてください サイエンスブログ盛り上げたいですね
(私のは雑談が多いブログですが)

投稿: monchan | 2021年5月28日 (金) 22:34

ありがとうございます。僕のブログはニューサイエンス〜神秘主義系なので貴方の様な科学者から見ると馬鹿馬鹿しいものとしか見えないかもしれませんが、一応URLを貼っておきます。
http://bashar8698.livedoor.blog/

投稿: ミトラ | 2021年5月29日 (土) 09:53

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