「今日の人生」 益田ミリ
以前にまきちゃんぐの推薦で「腐女子のつづ井さん」という本を読んでみて、あまりに無感動だったので驚いた経験があるのですが、そんな希有な経験があったので、もう一度だけ彼女の推薦にのってみることにしました。
「腐女子のつづ井さん」
https://morph.way-nifty.com/grey/2019/09/post-1e3c2f.html
2度目の挑戦、それが「今日の人生」益田ミリ(2017 ミシマ社刊)。
あらまあ 意外や意外、面白いじゃないですか!
ひとつ紹介しますと、作者が映画館で映画を見た後売店でプログラムを買ったそうです。そのとき販売員の人が「当館ではこれが最後の一冊です」と言って売ってくれたことに感動するというエピソードなんですが、ミリさんはそれが販売員の人の生き方を表していると言うんですね。
それはひとつはミリさんが言っているように「お客さんのことを考えて、こう言えばきっと喜んでもらえる」という、相手のことをいつも考えながら生きている人であることと、もうひとつ人生にはプラスアルファ、美しい生け花とか鳥のさえずりとか寝そべる猫とかが必要で、不要不急ではないひとことだって、それらと同様に大事なんだと言うことなんですね。なんでも要件だけ事務的に済ませて進む人生であってはいけません。
前者はまきちゃんぐのような音楽制作者にも重い問題を投げかけています。自分をそのまま表現することと、それを社会が自分が生活できるくらいは受け入れてくれるかどうか、もっと多くの人にエンターテインメントとして認めてもらえる必要があるのではないか・・・と誰もが迷うところでしょう。ベートーヴェンだって悩んだに違いありません。
わたしがこのことで思い出したのは、スウェーデンのアラン・ペッテションという作曲家です。彼は中年になるまで自分の想念の中を「ぐるぐる周り」する、恐怖と怨念で埋め尽くされた音楽を書いていたのですが、7つめの交響曲で自分の音楽には聴衆がいるということをはじめて意識して曲を書いたのです。それで一部の人々が彼が天才であることに気づくことができました。
そして1973年になってスウェーデン最古のウプサラ大学創立500周年記念式典(1977年)のための音楽を委嘱されました。そうしてできたのが名作の交響曲第12番「広場にて死す」で、これはパブロ・ネルーダの詩に音楽をつけたもので、彼の作品の中で一番自分から離れた作品だったのですが、素晴らしい感動的な作品に仕上がりました。彼の交響曲第7番は、今年都響がアラン・ギルバートの指揮で演奏します。ペッテションが自分という貝殻の中で一生堂々巡りをしていたら、どんなにその音楽が一部の人々にとって感動的なものであっても、それを知ることすらできなかったと思います。
まきちゃんぐの音楽 「赤い糸」
https://www.youtube.com/watch?v=X9F7Qgr9QE4
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