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2020年1月 5日 (日)

誰が科学を殺すのか

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「誰が科学を殺すのか 科学技術立国崩壊の衝撃」 毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班 毎日新聞出版 2019年刊

日本という国は科学政策を策定する上で、産業界の要望を反映させようとするあまり、現場の研究者の意見を無視して改革を進めてきましたが、その結果逆に研究レベルの低下を招いてしまいました。その原因を作った産業界からして、研究能力をみずから自殺的に削減して、世界各国の後塵を拝するようになっています。

本書は丁寧な取材によって、わが国の科学技術が衰退した原因をつきとめたと思います。執筆はプロの新聞記者(毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班)ですから非常に気持ちよく読める文章で、科学技術に関心のある方にはお勧めしたいと思います。

要するに素人の願望だけで科学者を引きずり回しても、良い結果は生まれないということです。種を植えないで、実だけ摘み取ろうというのが日本の科学政策と言えます。中国は国民を国が徹底的に管理する専制国家をめざしているようですが、こと科学技術に関して言えば、国営の研究所でも非常に自由に研究が出来る環境を用意しているようで、科学技術のレベルではあっという間に日本を凌駕しそうに感じました。

以下はいくつかの警句的な発言を本書からピックアップしたものです。

毎日新聞取材班
「日本の研究力を示すさまざまな指標が、悪化の一途をたどっている」

OECD
「2014年のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は、日本は比較可能な34ヶ国中最低の3.2%」

科学技術・学術政策研究所調査
「2009年度に33.8才だったポストドクの平均年齢は、2015年には36.3才に上昇している」

本書での大学教授達の意見

細野秀雄
「ここ五年ほどの日本の科学技術力の落ち方は尋常じゃない」

豊田長康
「GDPあたりの論文数はラトビアやトルコと同じくらい」

西森秀稔
「日本の大学には、じっくりと落ち着いて基礎研究をする環境が九十年代まではあったが、残念ながら過去形だ」

新村和久
「資金を持つ大企業がリスクをとらないため、ベンチャー企業に資金が回らない」

山口栄一
「九十年代後半に、企業が中央研究所を殺してしまった。大企業はぜい肉を落とそうとして、脳みそを切り落としてしまった」

八大学工学系連合会修士課程学生アンケート
「七割が4ヶ月以上就活に費やしており、そのうち九ヶ月以上が12%」

黒木登志夫
「日本の研究力衰退の最大の原因は【選択と集中】だ。特定の部門では研究費がたっぷりあり、そこは伸びているが、その一方で多様性がなくなっていることが最大の問題だ」
(大学の法人化により)
「予算を握られ、みんな文部省の顔色をうかがうのに一生懸命。何をするにも文科省にお伺いを立てなければならず、学長の裁量は狭まった」

長尾真
「大学が自由度を失い、萎縮した」

山本清
「研究者の雑用が増え、研究時間が圧倒的に足りない」

ロルフ・ホイヤー(CERN前所長)
「ある研究成果がいつ、どのように応用されるかを予測することは困難だ。だが基礎研究を忘れれば、イノベーションの基礎は失われる」

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