死の街を照らしたショスタコーヴィチ交響曲第7番
1月2日にNHKはBSで「玉木宏 音楽サスペンス紀行▽ショスタコーヴィチ 死の街を照らした交響曲第7番」という番組を放映しました。
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92779/2779263/index.html
私が知らなかったさまざまな情報、ショスタコーヴィチの肉声、当時のレニングラード放送交響楽団の演奏録音など盛りだくさんで非常に興味を引かれる番組でした。ショスタコーヴィチの交響曲第7番が戦火のレニングラード(現サンクトペテルブルク)で演奏され、市民の士気を高めたことはよく知られていますが、この番組はその詳細を伝えています。
レニングラードは1941年の独ソ開戦当時人口300万人以上の大都会であり、西はフィンランド湾、東はラドガ湖にはさまれた場所に位置し、ドイツ軍は北と南から攻め込んできました。しかしドイツ軍といえども一気に街をふみつぶす程の戦力はなかったので、食糧倉庫を爆撃して市民を飢餓に陥れる作戦に出ました。
このためレニングラード市民は極端な食糧不足に陥りました。レニングラード放送交響楽団も多くの団員が徴兵で抜け、残された団員も労役と空腹で演奏もままならず、ついにメトロノームだけの放送をせざるを得なくなるほど追い詰められていました。
当時のレニングラード共産党のトップはジダーノフで、いつ放送を聴いてもメトロノームであることにいらだち、レニングラード放送交響楽団に音楽を演奏するよう命じたのですが、当時の指揮者エリアスベルクが栄養失調で生きているのがやっとであるうえに、団員も同様であることを訴えたところ、結局徴兵されていた団員を呼び戻すという驚くべき決断をジダーノフは行ないました。
ジダーノフは後にジダーノフ批判という悪名高い前衛音楽排除を行ないましたが、本当は音楽好きだったのだと意外な感じがしました。戦後レニングラード事件というのがあって、党幹部や市長をはじめ多くのレニングラード上層部が粛正されましたが、それに関連してジダーノフも暗殺されたのではないかという説があるそうです。
前衛音楽排除は社会主義リアリズムという共産党の方針に基づくものですが、実はスターリンはショスタコーヴィチの音楽は良く理解していて、だからこそこの戦時中彼が作曲した交響曲第7番を利用しようとしたに違いありません。
スターリンはおそらくショスタコーヴィチが自分に怨念を持っていることを承知していて、その上で彼を利用しようと考えていたと思います。それほどまでに彼の音楽を評価していたとも言えます。だからこそレニングラードにとどまっていたショスタコーヴィチを強制的に疎開させ、交響曲第7番の作曲に専念させたのでしょう。
曲は1941年12月17日に完成し、1942年3月に首都の疎開先であるクイビシェフ(現サマーラ)で初演が行なわれました。楽譜は国家機密扱いとなり、マイクロフィルムに収められ、テヘラン、カイロを経由して米国に送られました。米国ではイタリアから亡命してきたトスカニーニ指揮でNBC交響楽団が演奏し、その後大評判のうちに2年間で62回も演奏されて米国民の戦争への支持を高めたものと思われます。それこそがスターリンの狙いだったわけです。
こちら
レニングラードではドイツ軍の包囲が続く中で、空輸されてきたマイクロフィルムの楽譜を使って、1942年カール・エリアスベルク指揮:レニングラード放送交響楽団によって演奏されました。この日ドイツ軍は総攻撃をかける予定でしたが、この曲の演奏を成功させるために、レニングラード軍は総力で戦線を押し戻し、演奏会を成功させました。このときレニングラードフィルはどうしていたかというと、ノヴォシビルスクに楽団ごと疎開していました。
このブログでも、昨年インバル-都響が演奏したときの感想文をアップしています。
https://morph.way-nifty.com/grey/2018/03/post-ac67.html
パーヴォ・ヤルヴィが言っているように、この曲は聴けば聴くほどのめりこむ不思議な吸引力を持っています。
専門的な解説はプロの方がやってくれています↓。
http://www.dasubi.org/dsch/kaisetu/10_4.html
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