「政府はもう嘘をつけない」 by 堤未果
「政府はもう嘘をつけない」 堤未果著 角川新書 2016年刊
ヒラリー・クリントンの言葉:「私は御社(ゴールドマン・サックス)からの支援を決して忘れません。そしてどんな時も、あなたがたの要望を他の何より最優先させていただきます」
彼女がこのように考える企業は金融だけではなく、保険・軍需・医療・エネルギー・食糧・農薬など多岐にわたっています。これらの企業の莫大な政治献金で大統領の地位を得たとしたら、ヒラリーがどういう政策をとるかは明らかでしょう。
堤氏は第1章で米国の金権腐敗政治を指摘した後、第2章では転じて議論を日本の政治の独裁化にフォーカスしています。現在でも晋三周辺による政治の独裁下は顕著ですが、それは憲法改正によって完成します。堤氏が特に注目しているのは「緊急事態条項」で、これがフランスの非常事態宣言よりもかなりひどいものであると指摘しています。
さらに「テロとの戦い」というのを錦の御旗にしますと、この戦いは(テロ組織とは交渉しないので)事実上終わりがないわけですから、好きなだけ緊急事態を延長できるわけで、これでは憲法も法律もないも同然で、独裁政権の思いのままとなります。日本にはドイツのような憲法裁判所もないので、歯止めがききません。第2章では学資ローンの問題も指摘されています。このことは自衛隊員の確保と密接に関連しているというお話です。
第3章はまず軍需産業から。米国の投資家達はパリのテロで何を考えたかというと、軍需産業の株を死にものぐるいで買いあさるということです。「テロとの戦い」は儲かりすぎてやめられないというのが軍需産業と投資家の本音です。こう考えると誰がISISをサポートしているかも想像がつきます。ISISがだめになったら、別のテロ組織を支援するでしょう。まさしくマッチポンプ式経営術です。
ギリシャはIMFへの借金が返済できなくて破綻しましたが、その真相を私たちは知らされていませんでした。NATO加盟国のなかで、米国を除くとギリシャの軍事支出は第1位だということを日本のニュースは教えてくれません。ドイツやフランスはギリシャに大量の武器を売ってボロ儲けしていたのです。ギリシャが1300両の戦車をもっているなんてこの本ではじめて知りました。
これからは一般市民・農民 vs グローバル企業の戦いの時代です。TPPはもろんですが、さらに留意すべきは公共事業の民営化です。保険・病院・教育・上下水道などをグローバル企業にゆだねるための国際交渉がジュネーヴで秘密裏に行われており、もちろん日本も参加しているという驚愕の事実をこの本ではじめて知りました。この協定はTiSA ( Trade in Services Agreement) という名前で、2030年に調印予定だそうです。これを暴露したのはウィキリークスで、いまや頼りになる報道機関はウィキリークスだけというのは嘆かわしい事実です。このようなことが実現すると、貧乏人の生活はますます苦しくなり、グローバル企業はボロ儲けということになるのは明白です。TiSA が秘密裏の交渉の結果締結されても大丈夫なように、自民党は新憲法草案にこっそり条文を忍び込ませているようです。
私たちはこのままグローバル企業のなすがままになってしまうのでしょうか? それを拒否した国アイスランドのお話が第4章にあります。是非この本を購入して、この章を読んで欲しいと思いますね。日本の野党統一組織はアイスランドの制度をモデルにして、政権をめざすべきだと思います。その際新自由主義者でかつTPPやTiSAを支持する人々だけは統一組織から排除すべきです。
米国もトランプはスキャンダルでつぶされると思いますが、ヒラリーの後は必ずサンダースの考え方を引き継ぐ革命家が現れて、コンセプトの異なる政権が成立することを期待したいと思います。
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