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2016年5月19日 (木)

やぶにらみ生物論19: 石炭紀の生物2

最初期に現れた爬虫類として考古学者に認められているのは、3億1500万年前の地層から発見されたヒロノムスというトカゲに似た生物です(図1 ウィキペディアより)。ウィキペディアによると30cmくらいの体長があったようです。初期の爬虫類は当時の両生類が獲得していた聴覚を失っていたようで、より原始的な両生類から進化したのかもしれません。

Hylonomus_bw_2

ヒロノムスはヒトにも存在する距骨を持っていました。これは足と指を連結する足首の骨で、爬虫類型両生類では3つに分かれていたのがひとつになったものです(図2)。大地を力強く踏みしめて歩くには必要な進化だったのでしょう。

彼らがどんな卵を産んでいたか、あるいは卵胎生だったか、などについては全くわかっていません。石炭紀後期に両生類から陸上生活に適応するものが出現する過程で、さまざまな試行が行われ、それらの中から恐竜・カメ・ワニ・ヘビ・鳥に進化するグループと哺乳類に進化するグループが分岐して出現したと思われます。

Kyokotsu_2


上陸したばかりの初期の爬虫類であるヒロノムスなどの場合、頭蓋骨に開いている穴は鼻(2)、眼(2)、頭頂(1)の5つで、それ以外の穴(側頭窓)はありませんでした(図3)。このような原始的な爬虫類をまとめて無弓類と呼びますが、特に分類学的にまとまっているわけではないそうです。不思議なことに、このあと哺乳類に進化するグループは側頭窓が2つ(片側1つ)、恐竜などに進化するグループは側頭窓が4つ(片側2つ)あるものに限定されることになり、前者を単弓類、後者は双弓類と呼びます(図3)。これらにはいずれも綱という分類学上の階級が与えられています。

各グループの頭蓋骨の形状を図3に示します。ただし現代に生きている鳥やヒトでは、これらの側頭窓は失われています。側頭窓の機能としては、アゴの筋肉を付着させて咀嚼力を高めるとされていますが、ピーター・D・ウォードなどは頭部を軽くするためとしています。

Photo_2


最古の単弓類として、石炭紀後期の3億1130万年から3億920万年前に生息していたアーケオシリスが知られています(図4)。あるいはディアデクテスが単弓類の原型だという考え方もあります。同時期には最古の双弓類であるペトロラコサウルス(図5)も生きていました。しかし石炭紀後期からペルム紀に圧倒的に優勢になったのは単弓類でした。単弓類のひとつのグループである盤竜類は石炭紀後期からペルム紀前期にかけて大繁栄し、多くの種を出現させました。

250pxarchaeothyris_b


Petrolacosaurus_bw


図6は石炭紀の代表的な盤竜類(後に登場する獣弓類以外の単弓類を便宜的にまとめた呼称)で、アーケオシリスと近縁のオフィアコドン、スフェナコドン科の Ctenospondylus casei 、エダフォサウルスの再現図をウィキペディアから借用して示します。背中にある帆のような突起物は、ここに血液を循環させて太陽熱であたため、朝なるべく早く活動できるようにするためと思われますが、さてどうでしょうか?

 石炭紀後期からペルム紀に至る単弓類全盛の時代には、双弓類は原型に近いトカゲのような形態を保って、地味に生き延びていたようです。彼らが適応放散して繁栄するのは中生代まで待たなければなりません。

Photo_3

両生類と陸上生物についてばかり述べてきましたが、石炭紀当時の海はどうなっていたのでしょうか? ウミユリという棘皮動物、つまりウニやヒトデと同じ門の生物が大繁栄していました。ウミユリはカンブリア紀から現代までずっと生息しつづけている生物ですが、石炭紀の頃が量的にも多様性からも最も繁栄したと考えられています。現代で知られているのはインドネシアのコモド国立公園で、美しいウミユリが名物になっているようです(https://www.pinterest.com/pin/359865826448697713/)。

石炭紀の海も、海底が色とりどりの草原のようで美しかったことでしょう。魚類ではサメが勢力を拡張しました。ウィキペディアの図(図7)を貼っておきますが、上の3匹は Echinochimaera で、下の4匹は Harpagofututor という奇妙なサメです。

300pxharpagofututor_

石炭紀末からペルム紀初頭に至る200万年の間、氷河期が到来しました。ゴンドワナ大陸には2000万平方キロメートル(日本の面積の数十倍)の氷河が存在したそうです。同時にパンゲアすなわち地球上で唯一の巨大大陸が完成し、乾燥した気候がつづいて石炭紀の大森林が衰退しました。余り知られていませんが、ウェゲナーの大陸移動説の証明には古生物学が大いに貢献しました。どの時代にどのような陸上生物の化石がどの大陸でみつかるかという結果を詳しく分析すれば、どの大陸がいつ分離したかということがわかります。

参考書: 

「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」  ピーター・J・ウォード著 垂水雄二訳 文藝春秋社 2008年

「石炭紀・ペルム紀の生物」 土屋健著 技術評論社 2014年


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