やぶにらみ生物論15: シルル紀の生物
オルドビス紀の末期に気温が低下して、氷河期が到来しました。このために三葉虫や筆石は絶滅の危機に瀕しましたが、次のシルル紀(4億4300万年前~4億1600万年前)には温度が上昇し、現在よりも気温が高い温暖な気候になったため、生物は再び大繁栄することになりました。
筆石はカンブリア紀から存在する生物ですが、これまで言及しなかったので、ここで触れておきたいと思います。筆石はその名前の通り最初は鉱物と思われていたのですが、最近の研究によって翼鰓綱の生物とされています。この綱は半索動物門というわれわれ脊索動物門に近いグループに所属しています。筆石は群体生活を送り、個々の生物はそれぞれ自分の分泌物を使って住居(棲管)を作ってそのなかで生きています。その棲管が化石となって残るので、古生物学者にとっては有難い生物です。実際オルドビス紀からシルル紀までの時代を、この生物の化石の細かい違いによって、100万年単位で同定できる場合もあるようです。
筆石と非常に近いと思われるフサカツギは現在も生きていますが、大変珍しいそうです(図1 東京医科歯科大学 和田勝先生描画)。半索動物にはもうひとつギボシムシというグループがあり、こちらは割とみつかりやすく、私も三崎の砂浜から掘り出したことがあります。フサカツギとギボシムシが近縁な生物であることはDNAの解析から証明されています。
さてオルドビス紀に食物連鎖の頂点に立ったチョッカクガイの仲間たちはどうなったのでしょうか? 彼らは氷河期に絶滅したようですが、近縁のオウムガイ(図2, from wikipedia)が生き残りシルル紀に繁栄しました。しかもオウムガイは現在でも生きていて、その形態は4億年の間ほとんど変わっていません。飼育は難しいようですが、そのような生物が5回の大絶滅時代を生き抜いてきたというのは謎です。形態的に類似するアンモナイトはまだその起源がはっきりしませんが、シルル紀にすでに出現していた可能性もあるようです。
ウミサソリ(図3, from wikipedia)はオルドビス紀末の氷河期を生き抜き、シルル紀に繁栄しました。図3にみられるように、足のうち2本が歩くためのものから泳ぐための櫂(パドル)に変化しており、これを使ってボートを漕ぐように自由に遊泳していたと思われます。サソリと言ってもしっぽの毒針で攻撃するような生き方をしていたかどうかはわかりません。近縁のカブトガニは泳ごうとしないで、ゴソゴソ海底を這い回る生き方を選択しましたが、一見不利と思われるこの生き方を選択したカブトガニが現在まで子孫を残し、ウミサソリは絶滅してしまったわけで、これも進化の皮肉のひとつなのでしょう。
マレッラ、三葉虫、ウミユリなどの生物もオルドビス紀からシルル紀に引き継がれました。こうしてみるとオルドビス紀とシルル紀には大差がないように思われますが、最も大きくイメージチェンジしたのは魚類です。棘魚類(きょくぎょるい)という顎と歯を持った魚類の誕生によって、それまで目立たなかった魚類が、凶暴な捕食者として台頭してきました。今でも生きている顎のない魚類は、ヌタウナギは死体をあさる、ヤツメウナギは泥を飲み込んで有機物をエサにするというような目立たない生き方をしています。
一方で顎をもつ魚類はアグレッシヴで、のんびり遊泳している生物は、たちまちバリバリと食べられてしまいます。棘魚類はその名前のように、腹びれと胸びれの間にトゲを持っているのが特徴です(図4)。この他に頭部が強力な骨のアーマーで装甲されているのが特徴の板皮類も出現しました。板皮類も棘魚類と同様顎と歯を持っていました。これは次のデボン紀のこととなりますが、板皮類のなかには胎生のものがいたようです(へその緒の化石が2005年に発見されました)。棘魚類と板皮類の魚は中生代までは生き残れませんでした。現代も繁栄している軟骨魚類(サメ・エイなど)や硬骨魚類(タイ・ヒラメなど)もシルル紀に出現したとされていますが、当時はまだまだマイナーな存在だったようです。
DNAの解析からは昆虫の祖先はシルル紀には出現していたはずだそうですが、化石による証明がないのでまだはっきりしていないようです。一部の植物(コケ類)はオルドビス紀から陸上に存在したと考えられていますが、シルル紀になるとシャジク藻と近縁のクークソニアという植物が本格的に上陸して生きていたことが、化石からわかっています。
ウィキペディアの筆石
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%87%E3%82%A4%E3%82%B7
フサカツギ
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/my_research/zoology/namikawa/index_vol2.html
オウムガイ
http://www.ikita-kaseki.com/ikita/omugai/
最初の胎生
http://ameblo.jp/oldworld/entry-10102266577.html
シルル紀の海洋と大陸・ウミサソリのイラスト
http://ameblo.jp/oldworld/entry-11577621209.html
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