やぶにらみ生物論6: 生命の起源
先に進む前に、少し生命の起源について考えてみましょう。もちろんそれはあまりにも古い出来事であるうえ、化石などから判別することも出来ない、今でも謎の出来事であることには間違いありません。もちろん古代から多くの科学者が生命の起源について考えていたことは想像出来ます。近代になってパスツールらは生物は生物からしか生まれないということを証明して、古来からの迷信を打破したわけですが、それでも無生物から生物が生まれるというイベントは必ず存在しなければなりません。
このイベントについて、はじめて科学的な考え方をもとに、1924年にコアセルベート仮説を発表したのがロシアの科学者オパーリンです。まず外界から隔離された部屋が確保されることが重要だという説です。これに対して黄鉄鉱上で、まずオープンスペースで二酸化炭素から有機物質をつくる化学的なプロセスが出来て、それが生命の第一歩だという考え方もあります。
黄鉄鉱の表面代謝仮説をサポートしたのは、米国のウッズホール海洋研究所の潜水調査船アルビン号です(下はウィキペディアにでていた写真)。この船を使って深海を探索した科学者達は、深海に熱水噴出口があり、この周辺にはよく黄鉄鉱がみられることを発見しました。そして周辺には細菌や古細菌ばかりでなく、さまざまな真核生物もみられることから、このような太陽光が届かない深海の環境が生物を生み出したという考え方に至りました。
2010年にはケイマン諸島付近の5000mの深海で、熱水噴出口が発見され、周辺にさまざまな新種生物が発見されているそうです。太古の時代には、そこいらじゅうにこのような熱水噴出口とそれに依存する生物群が存在し、スノーボールアースにも耐え抜いて、生き残った生物が進化して、現在の地球があるのかもしれません。
有機物質は生命にしか生み出すことができないかというと、黄鉄鉱表面というような特殊な条件でなくても、太古には普通に空気中でどんどん生成されていたということを、無機物質だけの気体中で放電することによって実験的に証明したのはスタンリー・ミラーでしたが、その太古の時代の空気中の成分がはっきりしないという批判もあります。
20世紀以来さまざまな研究の進展があっても、生命の起源についてはいまだに1%も解明されていないと言っていいでしょう。遺伝子となる核酸がどのように生成し、それがどのように自己複製し、その核酸が持つ情報をタンパク質の構造に変換するシステムがどのように形成されたかなど、すべては謎に満ちています。ひとつのキーポイントは、細胞の中にあるタンパク質合成工場=リボソームの主成分であるリボソームRNAの歴史を調べることにあります。これからの研究に注目したいところです。
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