組織標本の作成 よもやま話 その2 パラフィンケーキの作成1
十分に固定した試料はホルムアルデヒドの水溶液が全体に浸透していますが、これをそのままナイフで薄切することはできません。試料に含まれる水分をパラフィンにおきかえて、固いケーキのような形(写真)にしなければなりません。パラフィンとはほぼローソクと同じ物です。もちろんパラフィンでなくてもプラスチックなどでも良いのですが、光学顕微鏡用の試料の場合、薄切したあともう一度パラフィンを溶かして抗原抗体反応を行わせたり、染色したりなどの処理をして検鏡する事が多いので、キシレンで簡単に溶かせるパラフィンは便利です。
水分をエタノールに置き換え、キシレンに置き換え、最終的にパラフィンに置き換えて固めるという操作を行います。試料の固定の場合にもそうでしたが、ここでも試料のサイズが置き換えの時間に影響します。大きければ大きいほど時間がかかります。すべてのプロセスで大きい試料は不利となりますが、だからといって1立方mmの試料がベストというわけではありません。3Dのうち1Dが1mmの厚みなら、他は5mmでも1cmでもほぼ同じです。2Dが5mmの試料なら、1mmの試料にくらべて25倍の領域が観察出来るわけですから、圧倒的に有利です。下記の処理時間は1Dが1mmの場合です。2mmの場合は処理時間は倍になります。
ホルムアルデヒドによる固定が終了した試料
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70%エタノールに1時間以上浸す
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新しい70%エタノールに代えて1時間以上浸す
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新しい70%エタノールに代えて1時間以上浸す
(70%エタノールは組織に大きな影響を与えないので、そのまま長期間保存することが可能です)
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80%エタノールに20分浸す
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90%エタノールに20分浸す
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95%エタノールに20分浸す
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99.5%エタノールに20分浸す
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新しい99.5%エタノールに20分浸す
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新しい99.5%エタノールに20分浸す
(研究用に100%エタノールも販売されていますが、薬局方の無水エタノール(99.5%)で十分です。100%エタノールでも保管がよくないと、すぐに水を吸って使用出来なくなります)
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キシレンに10分浸す
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新しいキシレンに10分浸す
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新しいキシレンに10分浸す
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ここで試料を小さなメッシュのかごのようなもの(カセット)に入れて、キシレン:パラフィン=1:1のパラフィン溶液に浸します。温度は40℃。37℃だとパラフィンが析出する場合があります。
かごとは:http://www.sakura-finetek.com/product/category/siyaku/caset.html
浸す時間は1~2時間でよいのですが、朝から作業をはじめるとここで夜になるので、一晩40℃のまま置いておきます。このときにヨーグルトメーカーを使うと便利です。例えばタニカのヨーグルティア。
https://tanica.jp/household-products/yogurtia/
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試料は50%キシレン:50%パラフィン液で置き換えられています。次にこれを100%パラフィンに置き換えます。
パラフィンはキャンドル用ではなく、研究用のものがよいと思います。ケーキができればよいわけではなく、きれいに薄切できるものでなければ使えません。
例えば http://www.funakoshi.co.jp/contents/571
パラフィンは溶ける温度によっていろんな種類がありますが、融点55~56℃くらいのものがよく使われます。
このタイプのパラフィンに置き換えるには60℃のインキュベータが必要です。これが市販品は結構大げさなものが多くて、家庭用冷蔵庫くらいの巨大なものが一般的です。しかし自作または業者に作ってもらうことも可能ですし、お料理用のオーブンでも、温度計を入れて58℃~65℃くらいで安定していることが確認出来れば使えると思います。
試料をいれる容器はホーローのカップなどが便利です。カップは少なくとも3個は必要で、あらかじめすべてにパラフィンを投入し、オーブンの中にいれて暖めて液体にしておきます。
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サンプルをパラフィンに浸す(60℃、20分)
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新しいパラフィンに浸す(60℃、20分)
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新しいパラフィンに浸す(60℃、20分)
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あらかじめシャーレにパラフィンを入れてオーブンで温め溶かしておく。そこにカップの中から試料入りのかご(カセット)をひろって投入します。
さてここからがちょっとした勝負です(つづく)。
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