ヒ素生物はウソだったのか
一昨年サイエンス誌に、リン酸を骨格とするDNAを使わず、ヒ素を使って遺伝情報を維持できる細菌が、カリフォルニアのモノ湖で発見されたという論文が発表になって、驚天動地の発見だと騒ぎになりました。これが本当だと、この生物は宇宙から飛来したものかもしれないわけです。
ただこれを発表したのがNASAということで、予算獲得のための怪しい論文ではないかという疑いも捨てきれませんでした。そうすると、たった1年でいいかげんな実験だったことが明らかになってしまいました。Dr.Redfield は当初から、NASAの論文がでたらめであると予想し、それを暴くプロセスを逐一ブログで実況して、最終的に同じサイエンス誌に批判論文を発表しました。
要するにこの細菌は、ヒ素が多くてリン酸が少ない環境でも生きられるというだけで、その少ないリン酸を利用してちゃんとDNAを合成していたというわけです。NASAの実験では、ちゃんとDNAが洗えてなくてヒ素がサンプルに混在していただけというお粗末な結論となりました。
うがった見方をすると、NASAはこの研究がいいかげんなものだということを知りつつ、宇宙生物の探索というようなテーマをぶち上げて、多額の予算を獲得するという作戦だったのではないかと思われます。この実験結果を否定するために、多くの研究者が無駄な時間・予算・労力を費やすことになったことを考えると、とても笑い話じゃすまされないお話です。
(細菌の写真はウィキペディアより)
NASAの論文: Dr.Wolfe-Simon etc
http://www.sciencemag.org/content/332/6034/1163.full?sid=26542945-e58c-4fc6-bc6c-00945839f202
批判論文(ダウンロードには代金支払いが必要):
1)Absence of Detectable Arsenate in DNA from Arsenate-Grown GFAJ-1 Cells Marshall Louis Reaves et al (Dr. Redfield 博士の研究室)
Published online 8 July 2012 [DOI:10.1126/science.1219861]
2)GFAJ-1 Is an Arsenate-Resistant, Phosphate-Dependent Organism Tobias J. Erb,
Patrick Kiefer et al
Published online 8 July 2012 [DOI:10.1126/science.1218455]
解説:
http://ja.wikipedia.org/wiki/GFAJ-1(日本語)
http://blogs.discovermagazine.com/loom/category/arsenic-life/
Dr.Redfield のブログ
http://rrresearch.fieldofscience.com/2011/09/latest-gfaj-1-results.html
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