毛髪と免疫特権
新しい毛穴は通常大人になると形成されません。ですから毛穴に住み着いている毛のもとになる幹細胞が老化したり死んだりすると、もはや毛は生えてきません。
しかしこの概念を打ち破る研究を、昔ヤホダ博士の研究室でやっていて、今でも印象深く思い出すことがあります。ヤホダ博士が来日したときの講演によると、自分の頭髪の毛根を取り出して、そこから毛の部分を取り除き、毛の周りの真皮の細胞(ダーマルシースという 図のシースと書いてある部分)を取り出して奥様の腕に移植したそうです。
そうすると数ヶ月後には、奥様の腕にまわりの透明ななよなよした短毛とは明らかに異なる、黒々とした長い大変立派な毛が生えてきたそうで、その写真に聴衆は受けまくっていました。その1本の毛の毛根の最深部にある毛乳頭(パピラ)という部分のDNAを分析すると、確かにヤホダ博士のもので、一方その他の毛の細胞は奥様のものだったそうです。
このことはヤホダ博士の移植細胞がシグナルを出して、奥様の皮膚の細胞に毛髪形成を促したということを意味します。つまり大人になっても適切なシグナルによって、毛穴全体を再構築して新しい毛髪を生やすことができるということがわかりました。
ここでひとつ不思議なことは、博士と奥様は免疫学的に不適合であるにもかかわらず、移植が成功したと言うことです。皮膚の移植は通常免疫学的な適合性がないと、拒否反応がおきて失敗しますが、毛根の周囲にあるダーマルシースおよび最深部の毛乳頭という皮膚(真皮)の一部については免疫特権があって、拒否反応が起きないことが明らかになりました。
免疫特権をもつ組織というのはいくつか知られていて、最も有名なのは角膜です。といっても全く拒否反応が起きないわけではなくて、比較的軽微だということですが。そのほかハムスターの頬袋などもよく知られています。母親の子宮と胎児の関係も免疫特権によって可能となります。
テキスト
http://www.bernsteinmedical.com/downloads/TransGenderInductionofHairFollicules1999.pdf
図
http://www.nature.com/nature/journal/v402/n6757/fig_tab/402033a0_F1.html#figure-title
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