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2010年12月26日 (日)

デニソワ人と私たち

1 ミトコンドリアはもともとバクテリアであり、人類の体の中でもある程度の独自性を保持しています。独自のDNAを持つというのも、そのひとつの特徴です。ミトコンドリアは精子にもあるのですが、受精して卵子と一体化したときに、なぜか精子のミトコンドリアはすべて死滅し、卵子のミトコンドリアのみが次の世代に受け継がれます。もちろんミトコンドリアDNAも母親のものだけが次世代に受け継がれることになります。

次に大事な点は私たちのDNAは精子や卵子ができるときに、お互いの一部を交換しあって(組換え)、子孫のバラエティを増やそうとしますが、ミトコンドリアのDNAはそのようなことを行いません。したがってミトコンドリアDNAの変化は突然変異のみによると考えられます。

突然変異は、その発生頻度は経過した年月に比例します。二つの民族間でDNA配列がとてもよく似ているということは、分かれた後に起きた突然変異が少ないと言うことで、より最近にわかれた民族であるということを意味します。逆にあまり似ていない配列は、たくさんの突然変異を蓄積してきたと考えられ、古い時代に分かれた遠い民族であるということになります。

このようにミトコンドリアDNAの違いの多少を調べていくと、いつごろ、どこでミトコンドリアDNAの違いが発生し始めたかが推定できます。1987年にアラン・ウィルソンらは多くの人種のミトコンドリアDNAを解析し、図のように人類のルーツはひとつであることを示しました。しかもアフリカ人には大きなバラエティーがあるが、非アフリカ人にはほとんどバラエティーがないという結論に達しました。これは人類の祖先がアフリカにあり、非アフリカ人は一部のアフリカ人から派生した人々であることを示唆します。アフリカとその他の世界はエジプトとシナイ半島のみでつながっており、ここから外に出て行った一部のアフリカ人たちが私たちの祖先というわけです。

本題に入る前にひとつ注意すべきことは、ミトコンドリア・イヴという言葉が非常に誤解を招きやすい言葉であるということです。イヴというと私たち人類すべてが一人の母親から生まれたと連想しがちですが、イヴという人が生きていた時代にも多くの女性が生きていたはずで。ただイヴ以外の女性の子孫はどこかで男の子だけを産んだか、あるいは子供がなかったという理由で、現在までミトコンドリアが受け継がれなかったということなのです。逆に言えばイヴという母の子孫の女性は20万年間ずっと女の子を少なくともひとり産み続けたということです。そういう家系をモデルとして学説を構築したともいえます。

以前にネアンデルタール人が現代人と混血したと考えられることについては以前にブログに記述しました。
https://morph.way-nifty.com/grey/2010/05/post-1d7d.html

今年の暮れに発表された論文 Nature 468, 1053-1060 (2010) で Reich 博士らはシベリアの洞窟でみつかったデニソワ人少女の指の骨のDNAを解析し、80万年前にネアンデルタール人+デニソワ人のグループが現生人類(ホモ・サピエンス)と分かれ、その後ネアンデルタール人とデニソワ人が分離したとしています。この3種の人類はすべてホモ属に分類されています。

彼らはフランス人のゲノムを調べ、フランス人はネアンデルタール人とかなりの類似性がみられ、一方アフリカ人とネアンデルタール人には類似性がほとんどみられないことから、フランス人は昔ネアンデルタール人と混血したとしています。デニソワ人とフランス人にも多少の類似性はありますが、ネアンデルタール人にははるかに及びません。ところがデニソワ人のゲノムは、ニューギニア東方の島々に住むメラネシア人のゲノムと類似性があり、それはフランス人とネアンデルタール人の類似性よりも大きいということがわかりました。これはメラネシア人が過去にデニソワ人と交配したことを意味しています(デニソワ人からメラネシア人が発生したわけではありません)。

さて私たち日本人のゲノムには、どのくらいネアンデルタール人やデニソワ人、そしてひょっとしたらフローレス人などの遺伝子が刻印されているのでしょうか?

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