胸腺と皮膚の不思議な関係
動物の卵は受精すると細胞分裂をはじめ、ボール状の構造体になります。そこにまずひとつ窪みができて(ヒトの場合これは将来肛門になります- 体の中で最初にできる構造が肛門というのはなんと言っていいのか・・・まあ食べて排泄するというのが生物の基本ではあります)、その窪みがだんだん深くなり将来腸になる管ができます。つまりわけのわからない細胞のかたまりから、一定の形をもった構造に変化します。この時点で細胞は3種類に分化します。すなわち外側に残された外胚葉(ウィキペディアからの図のオレンジ色の部分)・中間の中胚葉・消化管を作る内側の内胚葉(図の赤色の部分)の3種類です。それぞれから下のような臓器・組織ができます。これは動物発生の基本中の基本です。
外胚葉 → 皮膚 (表皮)・毛・脳・神経・色素細胞など
中胚葉 → 皮膚(真皮)・筋肉・骨・子宮・卵巣・精巣・血液細胞など
内胚葉 → 胸腺・肺・消化管・肝臓・腎臓・甲状腺・前立腺など
このなかの内胚葉からできる胸腺はリンパ球をつくる臓器で、思春期まで活発に活動し、十分にリンパ球を作り終えると縮退して大人では脂肪にかわります。スイスの研究者たち(cf1)はラット胸腺細胞を1個1個にばらしてそれぞれを培養し、できた細胞塊をラットの皮膚に移植しました。するとその細胞塊はなんと毛や皮膚に分化したのです。さらにそうしてできた皮膚を再度1個1個の細胞にばらして培養し、再度皮膚に移植するとまた毛や皮膚ができることがわかりました。
どうして発生の初期から全く別の系譜をたどっているはずの胸腺と皮膚の細胞のプログラムが可変なのか、あるいは胸腺の中に皮膚になる能力がある細胞がこっそり潜んでいるのか、いずれにしても発生という現象が一筋縄では解釈できないことをあらためて示した研究結果でした。
cf1. Paola Bonafanti et al. Microenvironmental reprogramming of thymic epitherial cells to skin multipotent stem cells. Nature 466, 978-982 (2010)
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