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2010年6月 1日 (火)

遺伝子工学の源流

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はっきり目的が決まっていて、ここをこう解決すれば目的を達成できるというような仕事にしか資金は投入できないという考え方は、当然のようでいて研究の世界では落ちてはならない陥穽です。たとえば20世紀に勃興した遺伝子工学の源流は、ほとんどの場合毒でも薬でもない大腸菌(写真 ウィキペディアより)の研究にそのルーツをたどることができます。そんなどうでもいい菌の病気の研究でも研究資金が配分されるような時代だったからこそ、大輪の花を開かせることができたのでしょう。

大腸菌にとって最も困った病気は、体内に入り込んできて増殖し、菌体を破壊するウィルスです。このウィルスを排除するため、大腸菌(他多くの細菌)は巧妙な方法を編み出しました。大腸菌がもつ制限酵素はウィルスのDNAをズタズタに切断して無力化することができます。大腸菌は自分のDNAまでズタズタになると困るので、自分のDNAの同じ切断部位は切られないようあらかじめ化学修飾しておくのです。このバクテリアの制限酵素を借用することによって、DNAを特定の部位で切断することができるようになりました。

人工的に切り貼りして作ったDNAをどうやって増やすかという技術も、大腸菌の研究から発明されたものです。大腸菌の中にはウィルスのような有害なDNAだけではなく、ただ間借りしているだけの(時には有益な)DNAもあります。このプラスミドは増殖する能力があり、プラスミドの中に増やしたいDNAを挿入しても増殖は可能です。したがって後はそのプラスミドを持つ大腸菌をどんどん培養で増やせば、目的のDNAもどんどん増えるというということになります。現在ではキャリー・マリスというマッドサイエンティスト(薬物常用者でサーファー)が発明したPCR法という方法でDNAを増やします。
http://www.karymullis.com/

このPCR法で使う酵素は温泉に住む特殊な微生物の研究によって発見されたものです。このように華やかな果実も、もとをたどってみれば大腸菌の免疫や耐熱菌などの地味なわけのわからない研究から生まれたことがわかります。どんな研究に資金をつけるかという判断を国会議員(もちろん蓮舫のような美人議員であっても)や官僚、彼らとつるんでいる御用学者などにまかせてはなりません。重点配分というのは常に利権という側面があることは否定できません。そしてバラマキが悪であるという考え方は排除しなければなりません。

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