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2010年6月18日 (金)

凍った地球 by 田近英一

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地球は完全に雪と氷に被われたいわゆる「スノーボールアース」状態になったことがあるというというのは興味深い学説です。しかもその原因が生物にあるかもしれないというのはさらに興味深い話です。そこで田近英一氏の著書「凍った地球-スノーボールアースと生命進化の物語」(新潮選書 2009年刊)を購入して読んでみました。

プロローグと第1章のはじまりあたりはドキュメンタリータッチで、これは読みやすい本だと思わせますが、次第に専門的な内容になって、腰をすえて取り組まないといけない感じになります。生まれたばかりの地球は非常に高温だったようですが、雨が地面に届くようになると海や川ができて気温も一気に低くなってきます。もし気温が非常に下がって川が氷河になると、川底が削られて独特の石ころが堆積します。石ころが海まで運ばれて海底に堆積すると、地層となって後生に残されることになります。

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スノーボールアース説を提唱したのはカーシヴィンク博士で、氷河堆積物の上の地層に酸化鉄の層が形成されていることを、「海が凍結していて分厚い氷がバリアとなり、空気中の酸素が供給されなかったのが、溶けた時に一気に酸素が供給されて海水中の鉄が酸化されて沈殿した」と説明したこと、「スノーボールアース状態が火山の噴火による二酸化炭素の増加によって、二酸化炭素の地球温暖化効果によって解消される」という考え方を提唱したことに特徴があるとされています。この重要な仮説は1992年に発表されましたが、田近氏はこの領域の専門家でありながら、かなり後までこの仮説の存在を知らなかったそうです。田近氏だけでなく、多くの研究者も知らなくて、当初あまり注目されなかったのでしょう。

その後ホフマン博士らは当時の赤道に氷河があったことを示し、また炭素同位体の解析から、当時は生命活動がほとんで停止していたこと(普通の氷河期ならマンモスなどそれなりの生命活動は存在する)、炭酸塩の沈殿の層がみられるなどスノーボールアース時代があったことの科学的証明を行いました。最後の点についてもう少し述べると、スノーボールアース時代は水が蒸発しないので雲はできず毎日が晴天でした。川は流れず、海が完全に凍ると氷河も動かず、一切の浸食活動が停止します。そしてこの時代が終わると一気に金属イオンが海に流れ込み、炭酸塩が沈殿したというわけです。

問題はシアノバクテリアによる酸素の増加とスノーボールアースとが関連しているかどうかということです。図の左は私が調べて書いたもの、右はこの田近氏の著書の図の引用ですが、まず原生代後期のスノーボールアースですが、もしシアノバクテリアの光合成によって二酸化炭素が消費され、同時に発生した酸素(オゾン)がメタンなどの地球温暖化物質を破壊したため地球寒冷化が進展したとすれば、すでに20億年前には繁栄していたシアノバクテリアの効果が7億年前になってやっと出てくるというのはおかしな話ですし、最近の研究によれば27億年前シアノバクテリアが生きていたという説にも強い疑問が抱かれているようです。実際にはシアノバクテリアは22億年位前に誕生したようです。そうだとすると原生代前期のスノーボールアースもシアノバクテリアのせいかというと、かなり微妙になってきたようです。

最後にスノーボールアース時代にどうしてシアノバクテリアや真核生物・多細胞生物が生き延びることができたのかという問題があります。スノーボールアイス時代が終わってから(エディアカラ紀から)真核生物・多細胞生物が発生したという可能性は、遺伝子の解析によって否定されています。シアノバクテリアが生きていくためには光合成が必要なので、1000メートルもの分厚い氷の下の真っ暗な海では生存できません。スノーボールアース時代であっても、海底火山の周辺では生物が生きていくのに好適な環境だったという説もありますが、長期間にわたってそんなに都合良く海底火山の適度な活動が維持されているのかという疑問もあります。最近の考え方としては、スノーボールアースは不完全なもので、一部の地域は全面凍結まではいかなかったのではないかという説もあるらしいです。

二酸化炭素は長い目で見れば、カンブリア紀以降にも火山活動の変化などによる大きな変動があって、恐竜が生きていた白亜紀などでは非常に増加し、温暖化が進んで現在よりも地球の平均気温が10℃くらい高かったこともありました。ただ現在の二酸化炭素増加は地球のこれまでの歴史ではあり得ないスピードで進んでいることが問題なのだそうです。この結果どんなことが起こるかは、過去の気象を研究したりシミュレーションをやっている研究者達もはっきりとは予測できません。「The day after tomorrow」という映画がありましたが( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%83%BC )、あながち映画だけの話とは思われません。このような異常気象がおこるかもしれないことは科学者達も警告しているようです。

この本は類書がありませんし、きちんと書いてある良い本なのですが、私としては最初にカーシヴィンク博士とホフマン博士の話を出しておきながら、内容の説明が80ページまででてこないというのは非常にじらされた感じでイライラしました。

ひとつしかない地球なので、十分な監視と研究を怠らないことと、それに基づいた科学的対策を講じることが重要でしょう。

参照:

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9

http://en.wikipedia.org/wiki/Snowball_Earth

http://www.gps.caltech.edu/~jkirschvink/pdfs/firstsnowball.pdf

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1183582/pdf/pnas-0504878102.pdf

CO2の赤外活性化:
http://www7a.biglobe.ne.jp/~falcons/onshitsu_gas.html

瑠璃色の地球:
http://www.youtube.com/watch?v=BrLGFNisajY&feature=related

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