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2010年5月29日 (土)

「知られざるヒポクラテス」 by 二宮陸雄

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源氏物語を読んでいると、当時の貴族や天皇家の人々にとっても、病気治療についての認識が、「もののけ」がとりついているので加持祈祷でお祓いをするなどというものであることがわかります。病気の治療は主に僧侶が行っていたのでしょう。しかし西欧では源氏物語の時代より1500年も前から、科学的合理性に基づいた医療が行われていたという事実には驚かされます。日本で人体解剖図が導入されるのは、江戸時代の杉田玄白まで待たなければなりません。

古代ギリシャでも、もともとは医学は哲学者や怪しい詐欺師らの領域でしたが、ヒポクラテスは宗教・呪術、詐欺、僅かな経験や伝承迷信に基づく医療から、科学的な医療へ転換する道を切り開きました。ヒポクラテスはギリシャと言っても、トルコと目と鼻の先にあるコス島で紀元前460年頃に生まれたと伝えられています。しかし彼は遠くアテネやマケドニアなどギリシャ各地に出かけて多くの患者を診察し、学術研究を行い、コス島の医学校で講義を行いました。すでに当時のギリシャの各島には医学校があったというのも驚きです。

現在のコス島は大変人気がある観光地だそうです。ヒポクラテスがその下で講義したというプラタナスの木がある公園が保存されています(写真 木は植え替えられたものとは思いますが)。ヒポクラテスの講義録をもとに死後編集されたヒポクラテス全集が現在も保存されていて、彼の業績を知ることができます。たとえば、今で言う「てんかん」について、当時は神聖病と呼ばれ神のなせる業病と考えられていましたが、ヒポクラテスによれば「私の考えでは、ほかの病気に比べて特に神的でも聖なるものでもなく、自然的な原因を有している病気である。・・・実はこの病気の原因は脳である」と喝破しています。

「知られざるヒポクラテス」の著者、二宮陸雄先生は内科の医師で2003年に亡くなられています。この本以外に「古事記の事実」、「医者と侍」、「インスリン物語」、「職業としての医師」、「サンスクリット語の構文と語法」「ラテン語構文と語法の研究」など、医学の世界にとどまらない多方面の著書があります。この本の中で彼はヒポクラテスの業績について概観するだけでなく、アリストテレス・プラトンなど同時代のギリシャの学者達との比較や、ローマ時代の医学者ケルススやガレヌスへのつながりなどについて記しており、医学のはじまりについて知ることができます。

「医学史探訪 知られざるヒポクラテス -ギリシャ医学の潮流-」二宮陸夫著 篠原出版(1983)  絶版だと思いますが、中古本は豊富に流通しています。

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