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2009年8月 1日 (土)

経済問題

Aaa1 今年の夏は冷夏だそうです。それなら何冊か本でも読んでみようかという気分です。経済学関係は何が何だかさっぱりわからない自分ではありますが、三菱UFJ証券参与である水野和夫氏の「金融大崩壊-「アメリカ金融帝国」の終焉」という本を読んでみました。

この本が実にわかりやすい本で、今起こっていることが素人にもよく理解できてすっきりしました。昨年(2008年)3月にベアー・スターンズという投資銀行がJPモルガンに救済合併されたのに端を発して、9月にはメリルリンチがバンクオブアメリカに買収され、リーマン・ブラザースは破綻、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは投資銀行から商業銀行に転換するという大激変がありました。

投資銀行以外でも、ファニー・メイ、フレディー・マックという住宅ローン債権を買い上げて証券化するという仕事をしていた会社が行き詰まり、政府の管理下におかれました。私が訳がわからなかったのは、リーマン・ブラザースをあっさり破綻させた米国政府が、なぜAIGを翌々日に救済し政府管理下においたのかということです。

どうして保険会社のAIGが行き詰まるのかというのも訳がわかりませんでしたが、この本によると、AIGという会社はサブプライムローンを含むハイリスクの証券を取引する際に、万一値下がりしても大丈夫なように買い手に保険をかけさせて稼ぐという仕事をしていたのだそうです。保険はアクシデントが発生した場合には有効ですが、一気に全部値下がりしたら保険会社は破綻します。保険会社が破綻すると、件のハイリスク証券の買い手は総倒れになるので、米国政府がAIGを救済したのはむべなるかなです。とにかくリーマン・ブラザース以外はすべて政府が税金を注入して救済したわけですから、米国政府の財政的なダメージははかり知れません。これは重要なポイントです。

水野氏の指摘するところによると、従来資本主義というのは、産業資本が会社を作って商品をどんどん作って売れば、政府の税収も増えて、それに応じて社会福祉を拡大していけば、産業資本・政府・国民が共にメリットを分け合ってハッピーになるという仕組みでした。もちろん会社と労働者の取り分争いは起きますが、革命がおこって社会主義に転換した例は先進資本主義国ではありません。それは資本・国家・国民の利害が一致していたからです。

現在では実物経済を金融資本が凌駕する規模になっていますが、金融資本というのは水野氏によれば、その利益をめざす行動は国民・国家の利益と全く相反することになりがちだそうです。たとえば危険だとわかっているサブプライムローンを他の証券ととりまぜてCDO(債務担保証券)をつくって売り出した人々は、さっさと売り抜けて莫大な利益をあげたわけです。結局ババを引かされたのは銀行と、破綻のしりぬぐいをさせられる国家・国民というわけです。いずれ家をローンで買った人々が払えなくなって、家を放棄し路頭に迷うことになるということを百も承知で、手練手管で金もうけをした人は大勢いることでしょう。

1995年に64兆ドルだった金融資産は、昨年の金融危機で20兆ドル目減りしましたが、それでも現在167兆ドル残っているそうです。日本円だと兆の単位を越え、京の単位になります。この規模は実物経済を遙かに超えているので、金融が大崩壊したといっても、これからの世界はこのお金を中心に動いて行かざるを得ない状況になります。すなわちこれまで「労働者」vs「経営者・資本家」という対立の様式だった資本主義が、「金融資本=株主=金持ち」vs「国家=国民=貧乏人」という図式に変質していきます。中産階級の没落は日本でも米国でも顕著です。

確かに経済がグローバル化すれば、転がせる資金を持つ金持ちにとって、もうかればニースあたりに家を買って住めばいいので、別に国家・国民などどうなってもいいのです。このような状況の中で日本政府は何をやればいいかについて、水野氏は円高と食料の自給率を上げることだと提言しています。確かに原油と食料を高値で買うのは日本人にとって大きな負担で貧乏のもとなのですが、円高だと不況はまぬがれませんし、食料の自給率を上げるためには輸入制限が必要になるので貿易摩擦は避けられません。これに対する処方箋は示されていません。戦後ずっと米国の属国として多少なりとも繁栄してきた日本は、今後は中国の属国として生き延びていくというのが唯一の繁栄への道なのでしょうか?

金融大崩壊「アメリカ金融帝国」の終焉 水野和夫著 NHK出版 生活人新書

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