カメという生き方
カメというのは不思議な生き物です。捕食者に対して一切反撃せず、ひたすら鎧の中に閉じこもり防御するという動物は、他にアルマジロとセンザンコウくらいでしょう。カメとアルマジロは骨と皮膚からできた甲羅、センザンコウは皮膚のみからできた硬い鱗で防御します。
日本版のウィキペディアに大変詳しい情報があるので、そちらも参照してください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A1#.E9.80.B2.E5.8C.96
今まで知られてきた最古のカメの化石は、約2億1千万年前の三畳紀に棲息していたプロガノケリスで、これは上記URLの日本版のウィキペディアにも写真が掲載されていますが、すでに立派な甲羅を持っています。したがって甲羅のない初期の爬虫類から、どのようにして進化してきたのかを知るよすががありませんでした。
しかし今年、中国貴州省の2億2千万年前の地層からオドントケリスというカメの化石が出土し、これは腹側にしか甲羅がないという驚くべき特徴をもっていることがわかりました。可能性はふたつあり、ひとつは古いタイプのカメは腹側にしか甲羅がなかった、もうひとつはもともとは背中にあった甲羅がオドントケリスでは退化したというものです。水性のカメにはうまく泳ぐために背中の甲羅が退化したものが現代にも生きています(スッポンなど)。しかし胚発生のプロセスでは腹側の甲羅が先にできることから、発見者の Li 博士らは、「個体発生は系統発生を繰り返す」という古典的ドグマに基づき、このカメが原始的なカメであると考えています。
考古学で四肢動物を分類する際には、頭蓋骨の目の穴(眼窩)より後ろ側にいくつ穴(正式には側頭窓という)があるかということが重要なポイントになるそうです。穴がないのが無弓類で、最も原始的で現代ではみられないタイプ。ひとつ穴があるのは単弓類で哺乳類の祖先です。私たちも単弓類から進化したわけですが、いまその穴は痕跡的になっています。ふたつ穴があるのは双弓類で、恐竜、ワニなどが相当します。鳥も恐竜から進化したので、その痕跡が残されています。
そこでカメですが、現代のカメも化石のカメも(今回みつかったオドントケリスも含めて)この穴がないので、以前は非常に古い時代に原始的な爬虫類から分岐したと考えられていました。しかし近年の遺伝子の分析によって、カメは鳥やワニと近縁の生物であり(むしろヘビやトカゲとは遠い)、穴はもとはちゃんとふたつあったものが二次的に消滅したものだと考えられるようになりました。しかしそうすると穴が消えかかっているカメ、穴がひとつのカメ、穴がふたつのカメは発掘されていないので、これは重大なミッシングリンクです。このこともカメが非常に古くから生きていた生物であることを示唆しています(それとも超高速で進化したのか?)。ひょっとするとカメの側頭窓が導火線になって、考古学における常識が覆される可能性があるかもしれません。
サッカーにもひたすら防御してPK戦で勝つという作戦がありますし、将棋でもアナグマ囲いで玉を防御し、相手が攻撃で消耗した段階で逃げ出して相手陣に侵入し(入玉という)、お互い攻め手がなくなった段階で点数を計算して(飛車角は5点、小駒は1点)勝つという作戦もあります。将棋の駒は後ろに進めないものが多いので、自分の後ろにいる玉を詰ませることは至難の業なのです。カメは実際この専守防衛作戦で、2億年以上大して形態も変えず生き延びているわけですから脱帽です。
参照:Chun Li et al: An ancestral turtle from late Triassic of southwestern China. Nature 456, 497-501 (2008)
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