蟹工船
戦前の古い小説「蟹工船」が大ブレイクしてベストセラーになっています。駅構内の書店などにも並べられていて、つい買ってしまいました。これが意外に面白くてびっくり。確かに貧乏人が増えた今の世相の裏返しなのでしょうか。裏返しというのは、実際に労働運動が盛り上がっているわけではないし、ましてやそれで政府を転覆しようというような動きはないからです。私も労働組合にははいっていません。余計な人間関係が増えるのを恐れる消極的な性格のためだと思います。ダメな性格なのですが、驚くべき事に私の友人のなかには、女房の家族とつきあうのがわずらわしいので結婚はしないという人もいます。
「蟹工船」というのは実際に蟹をとってくる船を何艘かと、蟹を加工して缶詰にする船内工場を含み、樺太沖などで操業する船のことで、これにいったん乗り込むと雨の日も風の日もろくに食事も食わされないで、命がけの長時間労働を強いられることになります。実際かっけや過労などで死者も数多く出たようです。この小説はプロレタリア小説というより、蟹工船労働者の反乱を劇画的に書いたもので、そういうところが受けているのかもしれません。
この本の後半にはもう一篇「党生活者」という小説が含まれています。これが素晴らしい傑作でした。戦前の共産党地区細胞の活動を、ハードボイルドとも言っていいくらいクールなタッチで描いてあり、革命政党の単なるプロパガンダとは一線を画する小説です。主人公を養っている女性や同志の女性についても、イメージが浮き上がってくるようにきちんと描いています。今の時代にこのような活動をしようとすると、インターネットや電話は盗み見・盗み聞きされますし、街角はビデオで監視されているのでなかなか難しいだろうと考えると、背筋が少し寒くなりました。
著者の小林多喜二は、1933年に29才の若さで特高警察の拷問によって虐殺されています。この本(新潮文庫)は昭和28年に出版されていますが(伏せ字多数の版は戦前にも出版されていたらしいです)、今年五月の版は第98刷だそうです。
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