油壺紀行
京浜急行も三浦海岸駅をすぎると単線になり、三崎口へと進む。このあたりで都会の空気が消滅し、まったりとした空気があたりを包む。駅を出ると不思議な解放感で脱力する。そしてもう一つ懐かしさに浸ってしまう。学生時代に油壺に行くには、三浦海岸駅からバスを乗り継いで行かなければならなかった。
乗り継ぎ駅で1時間くらいボーッとバスを待っていたこともあった。
油壺の海はいつもあたたかく旅人を迎えてくれる。海へ降りていく道からヨットハーバーが見える。森の中を下っていくので、ひんやりと涼しい。
私はマリンスポーツ、ダイビング、釣りなどには関心はないが、ただこの雰囲気にひたって、歩いたり、腰を下ろして景色をながめたりするのが好きなのだ。
スロープを降りきったところに、古い倒壊しそうな宿舎と実験所がある。実験所で先輩からいろいろ教わった。でもいま覚えているのは「研究費はどうせないから、アルバイトをして稼げ」「東京にいてもいいアイデアは湧いてこないから、油壺に来て考えろ」などと言われ たことだ。ここは私の第二のふるさとでもある。
昔はここから城ヶ島にフェリーが出ていたが、今はもう桟橋も崩壊寸前だ。海上亭という売店は私が知らないくらい昔から営業しているが、連休だというのに暇そうだ。それでも営業しているのは夏には海水浴客が訪れるからだろう。このあたりの主役は今や野良猫かもしれない。
油壺マリンパークは小さな施設で、電車も来てないのによくここまで生き延びたものだと思う。皇太子がデートした場所として知られている。水族館があって、キャビアで有名なチョウザメがのんびりと迎えてくれる。チョウザメは4本のヒゲを持っていて、これを海底にこすって泳ぎ、餌をみつける。この4本のヒゲは彼らの生命線だ。チョウザメはサメではなく、立派な硬骨魚類でいわゆる生きた化石のようなものだ。
ここの親玉はシロワニだ。シロワニと言ってもワニではなくサメだ。因幡の白ウサギの話に出てくるワニはサメのことだと解説ボードに書いてあった。巨大さの割にはあまり迫力はない。多少メタボなのか? こんなボスにもくっついておよいでいる奴がいる。
ショーをやっていて、イルカはサラリーマンのように演技をこなしていた。アシカや猿も登場して頑張っていたが、お客は少なく拍手はまばらだった。拍手のまばらな芸人はいつももの悲しい。しかし意識しない分だけ、彼らは幸福なのかもしれない。
名残惜しく、小網代湾の方に降りていって写真を撮った。こちらのマリーナも静かなたたずまいだった。フランシスコ・ボッシュの「港の停泊」という絵を思い出す。また機会があれば訪れたい場所だ。
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