献血にかわるもの
輸血に必要な血液細胞を施設で培養して供給することができると、献血に頼らずに輸血ができます。私も若い頃は赤血球関係の仕事をしていて、これはひとつの夢でした。当時私が撮影したハムスター胎仔の A:赤芽球(幼若な赤血球)と B:赤血球の写真です。
理研のバイオリソースセンターのグループはその夢の第一歩を踏み出す成果を報告しました。彼らはマウスES細胞(胚から得られる万能細胞)から、培養系のなかで次々と赤血球を生み出す細胞系を確立しました。この細胞を貧血のマウスに投与すると症状は顕著に改善され、しかも癌の発生もまったくなかったということで、もしヒトでも同様な細胞系ができれば輸血に必要な赤血球を供給できることになります。そしてその日も遠くない感じがします。
培養初期以外は、SCF、EPO、IL-3、デキサメタゾンの4因子を加えて培養することがポイントだそうです。学術的にはいわゆる造血幹細胞のように、さまざまな血液細胞やその他の細胞のもとになる細胞ではなく、赤血球だけつくるという単能性細胞であるにもかかわらず自己複製能力があって、長期間培養で維持できるというのが興味深いところです。彼らはこの細胞系をMEDEP(mouse ES cell-derived erythroid progenitor line) と呼んでいます。
論文:Establishment of mouse embryonic stem cell-derived erythroid progenitor cell lines able to produce functional red blood cells. T. Hiroyama et al., PLoS One vol.3, no.2, e1544 (2008)
余談:哺乳類が生み出した核のない赤血球はひとつの芸術作品です。核つまりDNAがなくても100日以上機能を遂行できて、脳の微細な毛細血管でもつまりにくいコンパクトな細胞にデザインされています。しかも白血病はしばしば発生しますが、赤血球の癌(赤血病)は極めてまれな病気です。細胞分化のお手本のような細胞系なわけです。しかし私がデザインを任されたら、鞭毛を持って自分で泳いで移動できる赤血球にしたいですね。そうすれば心臓がバクバク動いて高速血流を発生させる必要もありません。ずいぶんのんびりした生物になりそうですが、みんなそうなら問題ありません。
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