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2008年1月24日 (木)

「在日」 by 姜 尚中

Kann1 姜 尚中(カン・サンジュン)著 「在日」 集英社文庫 2008年1月刊

私はどういう訳か学生時代も卒業以降も在日韓国人・朝鮮人の知人・友人に恵まれなかったので、彼らがどういう立場に置かれ、どのような考え方で日本や日本人と接してきたのか知るチャンスがありませんでした。実は私の恩師は中国人でしたが、面と向かって微妙な問題について尋ねてみることはありませんでした。というか彼が中国人であることを意識したことはほとんどなく、今考えてみると、王選手のファンだったことがわずかにその痕跡だったかなあと思い出します。ともあれ韓国人・朝鮮人の場合と、中国人の場合とではかなり差があるのではないでしょうか。

この本は姜 尚中氏の自伝ですが、同時に日本と韓国に関連した現代史であり、また在日問題の本質をわかりやすく述べたもので、この問題について私はかなり理解を深めることができたと思いました。私の父母(の世代)は非常に根強く在日韓国人・朝鮮人への差別意識を持っていて、これが私には子供の頃から不可解でした。国家やマスコミにすりこまれた意識からは死ぬまで抜け出すことができないものなのでしょうか。さらに最近では拉致問題の影響で、また在日朝鮮人に対する偏見が復活してきました。2ちゃんねるなどには異様なほどの嫌韓の文章があふれています。

姜氏は日韓問題や人種差別などの専門家ではなく、もっとグローバルな政治思想の研究者であり、本来の学術的分野としてはこのような問題を取り扱いたくはなかったと思います。しかし私的な自伝という形をとって、一度はこの問題についてはっきり見解を述べたかったものと思います。それが、在日問題や日韓問題のよい入門書になっていると評価したいです。日本の多くの人々、そして韓国の人々も(選挙の結果をみれば)金大中氏の評価が暴落しているように思いますが、姜氏の文を読むと、確かに金氏は韓国と日本を接近させ、また韓国と北朝鮮を接近させるという、東アジアの平和にとって非常に重要な役割を果たしたのだと再認識させられました。これが米朝接近の基礎を築いたものと思われます。北朝鮮と米国が厳しく対立したままだと、北朝鮮は現在でも死にものぐるいで核開発を推進していたはずで、日本は大きな危険にさらされていたのでしょう(まだ米朝は決裂する可能性が残っており、協議を注視する必要がありますが)。

拉致問題というのは結局日本と北朝鮮が国交回復しないと解決できない問題だと思います。自由に人が出入りできるようになれば、情報をすべて覆い隠すことなどできません。次第に被害者に関する情報も明らかになり、そのうち北朝鮮当局や朝鮮人の感覚にも変化があらわれてくるに違いありません(韓国がそうであったように)。

私がこの本を読んでつくづく感じたのは、日本人として日本にずっぽりはまって生きていると、客観的に日本をながめることができなくなってしまって、日本の進路について誤った選択をする可能性が大きいということです。そういう意味でも在日というのは貴重な存在であり、彼らの意見に耳を傾けるとハッと気がつくことがあるのではないかと思います。

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