眼の誕生とカンブリア爆発2
オーストラリアの南部にアデレードという街がありますが、この北方にエディアカラの丘という古生物学者にとっては聖地のような場所があります。ここからはカンブリア紀以前の時代の動物の化石が多数出土しています。エディアカラの丘は1946年に発見されましたが、その後カナダ、ロシア、イランなど世界各地から同様な生物の化石が見つかり、カンブリア紀以前にもいろいろな生物が世界中で生きていたことがわかってきました(図1 --- 国立科学博物館の資料)。この時代の動物は、現在の動物門への分類が困難なものも多いようですが、逆に現在の東京湾にも生きているウミエラに似た動物(一見海藻のようです)も多く見つかるようです。エディアカラの丘にちなんで、カンブリア紀の前の時代をエディアカラ紀と呼ぶことになりました。エディアカラ紀は約6億2,000万年前~約5億3000万年前ということになります。
パーカー博士の本によると、エディアカラの丘では眼のない三葉虫の化石がみつかるそうです。三葉虫はカンブリア紀に突然現れたのではなく、それより三千万年前から生きていたということになります。この原始的な三葉虫をはじめ、エディアカラ紀の生物には体に硬い部分がなく、非常に化石として残りにくいのです。カンブリア紀がはじまる頃に何らかの気候変動・・・パーカー博士の本には、霧が晴れ上がる、太陽系が超新星やオールトの雲から離れるなどの説が紹介されています・・・があって光りが地球にふりそそぎ、しだいに眼が形成されてきたと考えられます。三葉虫の目を図2に示します。これは kantablue2004 さんの化石です。画像使用させていただきまして感謝します。kantablue2004 さんのブログのURLを下記に記します。
http://blogs.yahoo.co.jp/kantablue2004
最後にちょっと苦言を呈すると、この本は読むのが結構しんどいです。一般向けの本ならこの半分ぐらいのボリュームで、もっと簡潔な説明で十分だし、学者やマニア向けとしてもあまりに饒舌な語り口です。例えば第8章の冒頭の数行などをみると、もう少しもったいぶらず単刀直入に書け・・・とダメ出ししたくなります。文献の引用もきちんとやっていないので、専門家向けとは言えない本です。かといって、作家としてはC級という感じですね。この冗長さは翻訳者のせいではありません。しかしそれらを考慮しても余りある魅力的な仮説にノックアウトされました。パーカー博士はこの仮説を「光スイッチ仮説」と呼んでいます。
「眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く」 アンドリュー・パーカー著 渡辺政隆・今西康子訳 草思社刊 (2006年)
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