麻生圭子と飼い猫ポルクの物語1
麻生圭子さんは昔売れっ子作詞家で、ベスト10のトップを連発する大変なヒットメーカーでした。小泉今日子「100%男女交際」、 吉川晃司「ユー・ガッタ・チャンス」、 浅香唯「セシル」などが代表作だそうです。当時は若いのに赤いポルシェなんかに乗って、調子に乗ってる生意気な女というような印象しかなかったのですが、突然廃業して散文に転向しました。
その辺の事情に多少関心があったとは思いますが、この本「ネコが元気をつれてくる」を買ったのは内容に興味があったというより、表紙の猫の絵(図)に異様なパワーを感じたからだと思います。 説明を見ると夭逝したロック歌手の中川勝彦さんが、病床で最後まで描いていた猫だそうです。それを知ってからますます愛着がわいて、フレームに入れて、部屋に置いてあります。
さて読み始めてみると素晴らしい名文で、中身も面白く、あっという間に麻生ワールドに引き込まれてしまいました。麻生さんはある時底なしの無気力におそわれて、仕事に穴を開け、ついには心配したマネージャーとマンションの管理人に家宅侵入されるという事態にまでなったそうで、ここまでくればやはり病気だったのでしょう。
ちょっと怖かったのは「カミソリが出てくる。手首の表皮をさーっと切ってみる。赤い血がさーっと浮いてくると・・・・・うーん、今回のは全治5時間だな。もうちょっと頑張れば良かった。・・・なんていう種類の反省をする」というくだりです。常習的なリストカッターだったそうです。旦那さんにかまってもらえず、鬱の状態になるのがその原因だったようです。しかも旦那さんがお医者さんなので、旦那さんに縫ってもらうというオチまでついています。そういえば中森明菜もリストカッターなので、「ブロンド」という曲は歌手も作詞家も常習リストカッターというのがすごい。
彼女がそんな悲惨な状況を脱出することができたのは、ポルクという名の彼女の猫のおかげだったというのがこの本の主題です。この本にはネコに関する名言がてんこもりです。「猫は、しあわせになるために生きるのではなく、生きていることがしあわせなのだということを知っている」「猫にはプライドはあるが、見栄や野心は存在しない」「猫には向上心というものがないからね・・・と犬好きの友人が言ったが、それは違うと思う。猫という生き物は、自分に、相対的な自信ではなく、絶対的な自信を持っているのだ」。そう、人間も犬と同じで、他人にほめられないと自信をもてないのが世の常ですから。
猫のエッセイはひとかかえも読みましたが、そのなかでも1番に心に残る本でした。猫のことだけじゃなくて、こんなにも自分をさらけださなくては一流のエッセイストとは言えないんだなと、彼女自身の姿勢にも感銘を受けました。この本はアマゾンや古本屋で300円くらいで手に入ります。実は続編もあるのですが(今日読了)、それはまた近いうちに紹介します。麻生さんは現在は再婚して、京都で活躍されているようです。
麻生圭子「ネコが元気をつれてくる そんなに無理しないでいいのよと猫がいう」 大和出版(1994)
麻生さんのサイト http://www.keiko-aso.com/
PS パーカーの「ゴミため」みたいな悪文のあとで、このようなリズミカルで簡潔な文を読むと、実に涼しい感じです。
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