マグマ
前々から不思議に思っていたことがひとつあるのです。私たちが住んでいる地球はほとんどが灼熱の鉱物・マグマでできていて、たまごの殻のようにごく薄い冷えた地殻の上にすべての生物が生きているわけです。したがって、この無尽蔵のマグマが持つ熱エネルギーを利用すれば、エネルギー問題なんて起きるはずもないし、多量の二酸化炭素を放出して地球温暖化の要因となっている火力発電や、大災害を起こす可能性のある原子力発電、お天気次第の風力発電などを利用する必要が無くなるんじゃないかということです。
地熱を利用した発電法は、もう100年も前からイタリアで試されているそうです。原理は地下のマグマで加熱された水が貯まっているプール(貯留槽)を掘り当て、そこから噴出する蒸気でタービンをまわして発電するというものです。その他貯留槽を掘り当てなくても、高温に熱せられた岩盤があれば、そこに人工的に亀裂をつくって水を送り込み、貯留槽をつくるという高温岩体発電という方法もあるそうです。米国は京都議定書を批准しないけしからん国ですが、ウィキペディアによれば現在最も盛んに地熱発電を行っている国でもあります。この辺が米国という国のふところが深いところです。ビジネス第一のようにみえて、一見何の役にも立たないような基礎研究にも圧倒的な予算をさいている、というのもまた米国の一面ではあります。
日本は火山国家であり、すぐ下にマグマがうごめいているようなところはそこここにあるので、地熱発電には非常に有利であるように思われますが、まだまだ全体の発電量の0.何%というレベルです。何がいったい普及を阻んでいるのかが疑問でした。真山仁の「マグマ」はこれに明快な答えを与えてくれる小説です。
ハゲタカファンドの若手有望株である野上妙子は、休暇から六本木ヒルズの会社に帰ってくると、自分の部署の全員が消えて連絡もとれず、机も椅子も無くなっていることに驚きます。これは外資系ファンドにありがちな突然の解雇かと思っていたら、自分だけは残って九州の倒産した地熱発電の会社を再生する仕事をやってくれと命じられることから、この物語ははじまります。
最初は型どおりのリストラをやって売り飛ばすつもりだったのが、なぜかいろいろな障害や陰謀を乗り越えて再生させることになるというお話なのですが、その間に国際エネルギー戦争、日本の政治・経済、電力会社、環境省、温泉組合、外資ファンドの思惑などがからんできて、緊張感のあるテンポのいい展開があきさせません。またこれ一冊読むことによって、この国のしくみがみえてきます。
真山仁「マグマ-小説国際エネルギー戦争」 2006年 朝日新聞社刊
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