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2020年1月12日 (日)

23.三畳紀の生物 II

  ペルム紀に出現したとされるサイノドンはP-T境界を乗り越えて、三畳紀に命をつなぎました。三畳紀が始まった頃は砂漠のような場所が多く、酸素濃度も15%以下に低下するなど、非常に厳しい環境で生きなければいけませんでした。彼らはリストロサウルスのようにもっぱら省エネ(穴居と長期睡眠)で生きるという徹底的に消極的な作戦ではなく、やや積極的な進化戦略を実行しました。まず最初に横隔膜を使う呼吸法の獲得-これによって積極的に空気を出し入れして呼吸が楽になりましたが、腹式呼吸を行うには骨が邪魔になり、腹部の肋骨という内臓を防御する道具を捨てなければなりませんでした。
 2番目の戦略は、トカゲやワニのように足を横に張り出して体をクネクネとひねりながら歩く方法だと、ひねるたびに肺が圧迫されて呼吸が妨害されます。腕立て伏せをしながら歩いている感じなので、体重を支えるのが大変でもあります。これを避けるために、サイノドン達は足をなるべく体の下にまっすぐつけて、前後に動かすだけて移動するという方法を採用しました。このことは歩行のスピードを上げるにも有効です。体をくねらせて移動するというのは、カンブリア紀以来魚類が獲得してきた遊泳技術に基づくものであり、地上の歩行には適さない方法です。前項「三畳紀の生物 I」で見た双弓類のアジリサウルスなども、サイノドンとは独立に古い歩行法を捨てたものと思われます。
 3番目にはあごの骨の一部を進化させて、聴力を強化しました(図23-1)。これは危険を察知する上で、特に夜行性の動物には重要です。サイノドンはあごの奥の方ある様々な骨を徐々に、角骨→鼓室骨、関節骨→槌骨(つちこつ)、方形骨→砧骨(きぬたこつ)という耳の骨に変成させて、耳の構造を確立させていきました。ヒトなどの場合鼓室骨は鐙の形に進化し鐙骨(あぶみこつ)といいます。爬虫類から鳥類のラインも聴覚を発達させましたが、サイノドンから哺乳類のラインとは全く別の進化過程であったことが判っています。  北沢等の研究によると、前者では鼓膜は上顎領域から、後者では下顎領域から発生することがわかりました(1-2)。

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図23-1 爬虫類・サイノドン・哺乳類における耳小骨の進化

 4番目に内温性を確立すると共に体毛と感覚毛を発達させ、温度が下がる夜の活動に備えました。感覚毛は暗闇でも目鼻を傷つけないために重要な役割を果たしました。サイノドンが生きていた時代のオルニソディラはおそらく外温性であり、クルロタルシも当然外温性(ワニはいまでも外温性)だったと考えられるので、夜間・冬期・寒冷地帯ではサイノドン達が優位に立てたのでしょう。
 5番目にサイノドン達は卵ではなく、子供を産んで親が授乳して育てるという繁殖方式を確立しました。食糧不足だった三畳紀初期には、成獣は夏眠・冬眠すればいいのですが、それができない新生仔に与えるためのエサを確保するのが困難だったため、授乳というのは非常に有用だったと思われます。そこまでして卵を否定したのは、卵を温めている間は動けないので大変不便で危険でもある、生みっぱなしの卵は盗まれてエサにされやすいなどの理由によるものと思われますが、結局双弓類との繁殖競争に敗れたわけですから胎生が優位とは言えません。ただ夜行性の生活をするためには、気温が下がる夜に抱卵が必須になるとエサをさがせなくなるので、卵生の繁殖は非常に厳しいとは言えます。ともあれサイノドンは三畳紀の環境圧力に耐えて生き抜くため、この5つの方向に進化していったわけです。
 サイノドン達は三畳紀中期に出現した新興勢力である恐竜類や、それより前からの仇敵であるクルロタルシ達と弱肉強食の戦いを行う中で次第に劣勢になりますが、上記の5つの戦略をすすめて、ついに三畳紀後期には哺乳類を誕生させました。彼らのなかの1グループであるプロバイノグナシアが後に哺乳類を誕生させることになります。プロバイノグナシアに属する生物を一種紹介します。プロベレソドンです(3、図23-2)。

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図23-2 プロベレソドン(Probelesodon lewisi)

 これは中型犬くらいのサイズの生物です。三畳紀後期に、このグループから最初の哺乳類(不完全な哺乳類という意味で哺乳型類とよぶべきだと主張する人もいます)が誕生したとされています。最初期の哺乳類として、2億2500万年前の地層から発掘されたアデロバシレウス(4、図23-3)が知られています。モルガヌコドン(5、図23-4)やメガゾストロドン(6、図23-5)もよく知られています。いずれもネズミくらいのサイズの動物です。特にアデロバシレウスは、今生きているトガリネズミ(7)と外見がよく似ています。トガリネズミも白亜紀から生きている動物なので、関係があるのかもしれません。いずれにしても、哺乳類はネズミのような生物から出発したことは確かなようです。

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図23-3 アデロバシレウス(Adelobasileus cromptoni)

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図23-4 モルガヌコドン(Morganucodon watsoni)

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図23-5 メガゾストロドン(Megazostrodon)

 クルロタルシ(目と綱の中間の分類群)はサイノドンやオルニソディラをしのいで、三畳紀に繁栄したグループです。現在でもこのグループの直系子孫であるワニ類が生きています。クルロタルシの祖先はペルム紀からプロテロスクス(8、図23-6、体長1.5m)などが棲息していました。このグループはP-T境界を生き延びることができました。現在のワニから考えると、彼らは一度大量に摂食すると3年くらいはエサなしでも生きられるという特技をもっているので、ワニの祖先である彼らもこの術で生き延びたのかもしれません(9)。彼らが水中で多くの時間を過ごしていて火砕サージをまぬがれ、また「噴火の冬」時代で陸上生物の数が極少になったときに、エサを水中に求めることができたからという理由も考えられます。

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図23-6 プロテロスクス(Proterosuchus fergusi)

  もう一例ペルム紀のクルロタルシであるプロテロチャムサを図23-7に示しますが、見た目が現在のクロコダイルとほとんど同じです(10)。三畳紀にはこれと近縁の種から生まれたクルロタルシ類が適応放散していろんなタイプが生まれましたが、結局現在まで生き残ったのは原型に近いもので、進化の過程ではよくある現象です。

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図23-7 プロテロチャムサ (Proterochampsa barrionuevoi)

  では三畳紀のクルロタルシをいくつかみていきましょう。ポストスクス(図23-8)は体長4~5mの肉食獣で、当時食物連鎖のトップにいたとされています。ワニよりも足が長く直立していて、以前には恐竜の祖先とされていたこともあったそうです。ワニのように待機していて一瞬のアクションでエサを仕留める感じではなく、エサを求めて歩き回り、追いかけて仕留めることができるような体型です。発達した後肢と比べて、前肢が華奢なので2足歩行をしていたのではないかと考えられています(11)。これと類似した種は世界各地に分布していて、三畳紀の百獣の王はまさしくこれらのクルロタルシでした。

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図23-8 ポストスクス(Postosuchus kirkpatricki)

  同じクルロタルシの仲間で草食獣も繁栄していて、例えばデズマトスクス(図23-9)などは強力なアーマーを装備して、そのスパイクで敵を倒せそうです(12)。

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図23-9 デズマトスクス(Desmatosuchus haplocerus)

 三畳紀の初期(2億5000万年前)には恐竜の祖先動物も登場しました。プロロトダクティルスという祖先動物の足跡は有名です(13)。土屋健著「三畳紀の生物」(14)には復元図も掲載されています。猫くらいの大きさの足の長いトカゲという感じです。しかしその後2億2800万年前~2億3000万年前のエオラプトル(15、図23-10)、シレサウルス、マラスクスまで情報がありません。同時代の地層からパンファギアやエオドロマエウスも発見されていて、後者はティラノサウルスにもつながる肉食恐竜(獣脚類)の始祖と考えられています。

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図23-10 エオラプトル( Eoraptor lunensis )

 P-T境界の大絶滅の被害も癒えて、再び地球が活気を取り戻した三畳紀でしたが、2億100万年前にまたもや大絶滅が起こります。これはP-T境界のような破滅的なものではありませんでしたが、単弓類では哺乳類以外は絶滅し、クルロタルシ類ではワニ以外は絶滅しました。この三畳紀末の絶滅の原因は、おそらくパンゲアが分裂をはじめたことで地殻の下にあるマントルの溶岩が噴出し、P-T境界の時と似たような悲劇が地球を襲ったものと考えられています(16)。

参照

1)東京大学プレスリリース 哺乳類と爬虫類-鳥類は、独自に鼓膜を獲得
-2億年以上前の進化の痕跡を発生学実験で明らかに-
https://www.riken.jp/press/2015/20150422_2/
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/B04HR93V/release_20150422.pdf
2)Taro Kitazawa, Masaki Takechi, Tatsuya Hirasawa et al., "Developmental genetic bases behind the independent origin of the tympanic membrane in mammals and diapsids", Nature Communications, doi: 10.1038/ncomms7853 (2015)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4423235/
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/C8FQEO1U/ncomms7853.pdf
3)Wikipedia: Probelesodon,  https://en.wikipedia.org/wiki/Probelesodon
4)ウィキペディア: アデロバシレウス
5)Wikipedia: Morganucodon  https://en.wikipedia.org/wiki/Morganucodon
6)Wikipedia: Megazostrodon,  https://en.wikipedia.org/wiki/Megazostrodon
7)中田圭亮 「トガリネズミの話」
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/C8FQEO1U/kiho43-3.pdf
8)Wikipedia: Proterosuchus,  https://en.wikipedia.org/wiki/Proterosuchus
9)ailovei: 食べ物無しでも長期間生存できる動物トップ11 (2017)
https://ailovei.com/?p=79949
10)Wikipedia: Proterochampsa,  https://en.wikipedia.org/wiki/Proterochampsa
11)Wikipedia: Postosuchus,  https://en.wikipedia.org/wiki/Postosuchus
12)Wikipedia: Desmatosuchus,  http://morph.way-nifty.com/lecture/2016/09/index.html
13)Wikiwand : 恐竜様類
https://www.wikiwand.com/ja/%E6%81%90%E7%AB%9C%E6%A7%98%E9%A1%9E
14)土屋健著 「三畳紀の生物」 技術評論社 2015年
15)Wikipedia: Eoraptor,  https://en.wikipedia.org/wiki/Eoraptor
16)ナショナルジオグラフィック日本版 三畳紀末の大量絶滅、原因は溶岩の噴出
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7739/

 

 

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