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2020年1月11日 (土)

17.デボン紀の生物 Ⅱ

 「デボン紀の生物1」で記したように、デボン紀初期には陸上に植物が繁茂し、しかも空気中の酸素が25%もあったので、肺を持たないにもかかわらず節足動物はすでに陸地に進出していました。彼らの仲間はもともと海底を歩いていた者が多かったので、陸地での生活への適応は容易だったとおもわれます。ただそれは酸素濃度が濃い場合の話で、中期には13%まで濃度が減ってしまったので、この環境変化に彼らの多くは耐えられませんでした。昆虫は心臓や血管を使って酸素を体内に循環させるという心肺機能をもたず、気管内の拡散にたよっているため、現在の環境(酸素濃度20%)でも小さなサイズのものしか生きられません。13%という数値は、非常に厳しいといえます。
 一方で当時の脊椎動物はほとんどが泳いで生きるというライフスタイルだったため、デボン紀初期の上陸のチャンスを逸してしまいました。しかしその後の酸素濃度の低下に適応して、効率よく空気中の酸素を利用できる肺を発明したことが、デボン紀中後期における脊椎動物の地上への上陸の基盤になりました。初期の肺の使い方としては、ときどき水面まであがって空気を吸うという方式です。空気中には 200ml/L の酸素があるとして、水中の飽和酸素量は 20°C で 30ml/L くらいですから、肺があれば有利です(1)。
  条鰭類(じょうきるい)は肺を獲得したにもかかわらず、その後の乾燥による河川や湖沼の環境悪化のため、海に戻らざるを得ませんでしたが、一部の肉鰭類(にくきるい)はエラを手足に変化させて歩き始め、ついには陸上でも生きていけるようになります。しかしその過程は非常に困難なものでした。デボン紀後期には気候変動や隕石墜落による大絶滅時代が存在し、彼らはその時代を生き抜かなければなりませんでした。

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(x100万年)

図17-1 肺魚から四肢動物へ

  図17-1は肉鰭類の肺魚が四肢を獲得するまでの過程を示したものです (2)。この左下に最も初期に四肢動物の兆候を示したユーステノプテロンがいます。化石は3億8500万年前(デボン紀中期から後期)くらいの地層から発掘されました。彼らは普通の魚類のようにみえますが(図17-2)、その胸びれ・腹びれには私たちと同様上腕骨・尺骨・橈骨が認められます(3)。彼らは自分たちが住んでいた河川・湖沼が干上がる兆候をみせたとき、この強靱な胸びれ・腹びれを使って陸地を移動できたと思われ、これが当時の環境において適者生存を勝ち得たのでしょう。

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図17-2 ユーステノプテロン(Eusthenopteron foordi)

 図17-1のユーステノプテロン(Eusthenopteron) の上に描いてあるのがデボン紀後期に出現するパンデリクチス (Pandericthys) です。ユーステノプテロンはまだ見た目魚類の感じですが、パンデリクチスになると、魚類とは違和感があります。その要因は彼らは背びれと体の下側の腹びれを失っていることです、手足に相当するひれしかないので、見た目にも四肢動物の祖先という雰囲気が漂っています(図17-3)。彼らは浅い沼のようなところで生活するのに適しており、目は上向きについていますし、頭頂に呼吸孔があってそこだけ出せば水底の泥の中にかくれていても呼吸ができたようです。

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図17-3 パンデリクチス(Pandericthys)

 図17-1でパンデリクチスの右側にいるのがティクターリクで、この生物に関する記載は2006年に発表されました。デボン紀後期(3億7500万年前)のワニっぽい感じの動物で、2メートル70センチの体長があると示唆される化石が発見されています。彼らには首があり、左右に振り向くことができたようです。また骨盤が発達してきていて、いよいよ後ろ足を使って歩く準備が進んできたことを示しています。ですから最初に地上を歩いたのはティクターリクに近縁の生物だと2010年までは考えられていました。
 ところが驚くべきことに、ポーランドの採石場から図17-1の左端、すなわち3億9000万年前に4足動物が歩いた足跡が発見されました(4-5)。しかも非常に多数発見されたのです。足跡から推測される体長は2m以上のものもありました。この動物の身体の化石が発見されていないのでまだ謎ですが、足跡は Zachelmie tracks として認められた化石です(図17-4)。

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図17-4 Zachelmie tetrapod tracks の年代的位置と、四肢動物の祖先と考えられている魚類たち

 ティクターリクの時代からデボン紀大絶滅がはじまりました。デボン紀末の大絶滅は、その原因や期間を含めてまだはっきりしないことが多いようですが、板皮類・棘魚類・無顎類の多くの種が絶滅したことは明らかです。もうひとつわかっていることは、海の動物にくらべて、河川・湖沼の動物は影響が軽微だったということです。そのためでしょうか、普通大絶滅があると生物相がガラッと変わって紀がかわるのですが、デボン紀の大絶滅期は、終了後もデボン紀です。終了後はデボン紀末期ということになります。
 デボン紀末期(3億6500万年前)にはアカントステガ(図17-5)が出現しました。彼らは明らかにヒレではない腕と足を持っており、しかもその先端には8本の指が認められます。サイズは60cmくらいだったようです。いつもは水中に生活していて、エサをとるために上陸したと考えられています。彼らが沼地に住んでいたか、海辺に住んでいたかについては議論がありますが、干潟では多くの生物が潮に取り残されて動きが鈍くなるので、水中よりずっと簡単にエサを捉えられたに違いありません。彼らよりずっと前から四足歩行して、足跡の化石を残した動物たちはデボン紀大絶滅の時代に絶滅したのかもしれません。どちらの系統が両生類につながっているかは、化石生物学の大きなテーマのひとつでしょう。

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図17-5 アカントステガ(Acanthostega gunnari)

 同じ時期にイクチオステガという後肢7本指(前肢不明)のよりがっちりとした体格の大型生物(体長1.5mくらい)も生きていました。彼らのような明らかな四肢動物と、ティクターリクなどの肉鰭魚類との中間的な動物もみつかっており、デボン紀後期~末期には、四肢動物あるいはその前駆的な動物は多様化が進んでいたと思われ、そのなかから石炭紀前期の両生類ペデルペス(図17-6)へとつながっていったのでしょう。

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図17-6 ペデルペス(Pederpes finneyae)

 デボン紀の先駆的四肢動物であるアカントステガやイクチオステガと、石炭紀に出現した両生類とをつなぐ化石は長い間発掘されませんでした(ローマーの空白)。そのミッシングリンクを埋めたのがペデルペスです(6、7)。体長は1mくらい、四肢は歩行専用のような形態で、指の数は5本で私たちと同じです。
 図17-1の右下にいるシーラカンスは不思議な生き物で、肉鰭類の魚なのですが、条鰭類と同様、いったん肺を獲得したにもかかわらず海に帰ったグループです。条鰭類は肺を浮き袋にして生き残りましたが、シーラカンスは浮き袋を獲得することはできず、そのかわり肺を脂肪で満たしたり、骨を軟骨にして深海で生き延びました。こうした一見進化から取り残されたような風変わりなグループが、デボン紀の大絶滅はもちろん、ペルム紀や白亜紀の大絶滅も乗り越えて数億年の間そのままの形で生き残り、図17-1にみられるその他の生物はすべて絶滅しているというのは進化の皮肉と言うべきでしょうか。
 最後に魚類・四肢動物以外の生物に触れておきます。軟体動物については腕足類やオウムガイは健在で、アンモナイトに近い種も出現しました。節足動物については、まずシルル紀に大繁栄したウミサソリは、シルル紀ほどではなくても健在。カブトガニも命脈を保ち、彼らはウミサソリが絶滅した現在でも生き続けています。サソリはデボン紀に陸上にあがり、やはり現在も健在です。三葉虫はシルル紀には低調でしたが、デボン紀には結構繁栄をとりもどしたようです。板皮類などに簡単に食べられないようにトゲなどで武装する種が増えました(8)。
 ダニやリニエラ(トビムシ)はデボン紀前期には陸上で生きていたようです。特に後者は昆虫の祖先と考えられています。リニエラの復元図は川崎悟司氏のイラストが有名です。興味ある方は文献(9)をご覧下さい。クモの祖先であるワレイタムシ(Trigonotarbida)も生きていたようです。ワレイタムシの化石からは書肺というクモがもつ空気呼吸用の臓器も発見されているそうで、すでにデボン紀前期に彼らが上陸していたことが示唆されます(8、10)。レピドカリスというエビもデボン紀前期の地層から数多くみつかっています(8)。

参照

1) Hatena Blog.,   飽和溶存酸素量について
http://d.hatena.ne.jp/Rion778/20110814/1313248269
2)Wikipedia: Sarcopterygii
https://en.wikipedia.org/wiki/Sarcopterygii
3)Palaeos: Life through deep time.Sarcopterygii: Osteolepiformes: Eusthenopteron.
http://palaeos.com/vertebrates/sarcopterygii/eusthenopteron.html
4)Grzegorz Niedźwiedzki, Piotr Szrek, Katarzyna Narkiewicz, Marek Narkiewicz & Per E. Ahlberg., Tetrapod trackways from the early Middle Devonian period of Poland., Nature vol. 463, pp. 43–48 (2010)
https://www.nature.com/articles/nature08623
5)National Geographic,  最古の四足動物の足跡を発見
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2132/
6)Jennifer A. Clack, An early tetrapod from ‘Romer's Gap’,  Nature  vol. 418, pp. 72–76(2002) doi:10.1038/nature00824. PMID 12097908.
https://www.nature.com/articles/nature00824
7)Wikipedia: Pederpes  https://en.wikipedia.org/wiki/Pederpes
8)土屋健著「デボン紀の生物」(技術評論社 2014年刊)
9)古世界の住人 最古の昆虫
https://ameblo.jp/oldworld/entry-10004163620.html
10)Wikipedia: Trigonotarbida,  https://en.wikipedia.org/wiki/Trigonotarbida

 

 

 

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