« 52.転写 I | トップページ | 54.真核生物メッセンジャーRNAの成熟 I »

2020年1月19日 (日)

53.転写 Ⅱ

 転写1では細菌の転写について述べましたが、ここでは真核生物について述べます。細菌でも真核生物でもDNAの情報をRNAにコピーして、それを設計図としてリボソームでタンパク質を合成するという方式にかわりはありません。
 まず細菌のRNAポリメラーゼと真核生物のRNAポリメラーゼ II を比較してみると、真核生物のRNAポリメラーゼ II は細菌の酵素の構成要素である5つのサブユニットと相同のサブユニットを保持していて(α2:RPB3&RPB11、β:RPB2、β’:RPB1、ω:RPB6)、これに7つのサブユニットが追加されたような構造になっています(1、図53-1。)

531

図53-1 細菌と真核生物のRNAポリメラーゼ

 どうしてRNAポリメラーゼが巨大化したのか、その理由はゲノムのサイズが大きくなり、多種多様なタンパク質を適切な時期に発現させるという複雑なニーズに対応したものと考えたくなりますが、実は細菌よりゲノムサイズが小さめの古細菌(アーケア)のRNAポリメラーゼの構造は、細菌の酵素より真核生物のRNAポリメラーゼに圧倒的に近いということから(1-2)、この考え方は否定されます。古細菌は見た目は細菌と同じなのですが、生命現象の基幹的な部分が真核生物に近いという意味で、進化の最大の謎といっても過言ではありません。真核生物はこのグループから進化したと考えられていますが、その詳細は不明です。
 古細菌も真核生物も構造は異なりますがクロマチンというDNAを保護する重層的な3次元構造を持っているため(3)、そのような障害を乗り越えて転写を行うためにサブユニットが増加したという考え方は可能でしょう。このことはまた真核生物は細菌より古細菌と近縁な関係にあることのひとつの強力な証拠でもあります。真核生物のRNAポリメラーゼ I および III は II よりもさらにサブユニットが増えており(1)、II を基本としてそこから派生したものと考えられます。
 古細菌や真核生物においても転写に際しては細菌と同様なプロモーターが存在し、細菌の-10領域の配列を進化の中で引き継いだと思われるTATAボックスといわれる配列が存在します。この配列は厳密に指定されいるわけではありませんが、5'-TATA(A or T)A(A or T)G-3' のようにTATAという配列を含むものが多く、TATAボックスとかTATAエレメントなどと呼ばれています。この配列は細菌ではシグマ因子が認識するわけですが、古細菌や真核生物ではTBP(TATA binding protein)という転写因子が認識します。TBPはRNAポリメラーゼのサブユニットではなく、真核生物の場合、TFIIDという巨大な転写因子のサブユニットとして機能します(図53-2)。図53-2にみられるように、真核生物の場合細菌よりも多数のプロモーターが存在し、転写開始点をまたいでいるものや、転写開始点より下流にあるものもあります。実は真核生物の場合、転写開始点からすぐ mRNA が読み取られるのではなく、mRNAの塩基配列はかなり下流からはじまるので、このようなことが起こりうるわけです。

532

図53-2 真核生物の転写用プロモーターと主要な転写因子

 図53-2に示したように、それぞれのプロモーターにはその配列に結合する転写因子が存在し、GCボックス-Sp1、CAATボックス-NF-Y、BRE(B recognition element)-TFIIB、TATAボックス-TBP、Inr(initiator element)・DCE(downstream core element )I~III・DPE(downstream promoter element)-TFIID などという組み合わせになっています。
 当初すべての生物に普遍的に存在するTATAボックス-TBPが特に重要と考えられていましたが、真核生物ではすべての遺伝子のうちTATAボックスを持っているのは20%以下という調査結果が報告されており(4-6)、さらに同じ生物の同じ遺伝子でも組織によって使用するプロモーターが異なるというデータもあります(7)。
 TFIIDはTAF1~15とAF4B・AF9B、そしてTBPという多数のサブユニット(全部そろっているとは限らない)で構成される巨大な転写因子複合体で、転写開始に直接的にかかわっていると考えられます(8)。TATAボックスがなくTBPを欠いている場合は、転写開始の位置が正確ではなくなり、複数の位置から開始される場合があることが知られています。実際に転写が開始される場合、TFIIDだけでなく、TFIIA・TFIIB・TFIIFなども加わって、さらに巨大な転写因子複合体を形成し、RNAポリメラーゼを所定の位置に配置した後、RNAポリメラーゼの一部をリン酸化することによって複合体から解離させて転写を開始させることになります(図53-3)。

533

図53-3 RNAポリメラーゼはリン酸化されることによって転写を開始する

 真核生物の場合、DNAはヌクレオソームにまきつき(後のセクションで述べます)、クロマチンという3次元構造をとっているので、それらをほぐさないと転写ができませんし、外部からの指令もさまざまな形できますので、TFIIグループの転写因子複合体だけでは遺伝子発現の調節に対応できません。したがってDNAが3次元的に折れ曲がっていることを利用して、遺伝子から離れた位置にあるプロモーターやエンハンサー配列に結合する因子なども遺伝子発現に影響を与えることができるようなシステムになっています。このため遺伝子発現を調節するためのタンパク質複合体は数メガダルトンという巨大なサイズになることもあります(図53-4)。このようなシステムは細菌や古細菌にはありません。
 このようにして転写は進みますが、どこかで終結させなければなりません。古細菌ではすでに細菌が行っているρ因子やステムループを用いる転写終結をやめていて(9)、真核生物も別のメカニズムで転写を終結させています(10)。

534

図53-4 転写調節のための巨大複合体


 真核生物の場合、例としてβ-グロビンの場合を図53-5に示してありますが、転写開始がmRNAの先頭からはじまるわけではないように、転写終結も終止コドンの位置で終わらず、さらに下流まで転写は継続します。そしてDNAにAATAAAというポリA付加シグナルという塩基配列があると、その少し下流の転写終結シグナルTTTT、TTGCのところで転写は終結します。このあたりは厳密には指定されてはおらず、例えばポリA付加シグナルの何塩基下流でとか、終結シグナルがひとつでもあれば必ず止まるとかというわけではありません。実際この場合TTTTはスルーされています。転写されたRNA3’末端には、ポリAポリメラーゼという特殊なRNAポリメラーゼによって、鋳型なしにAが連続的に付加されます(図53-5)。

535

図53-5 真核生物における転写終結シグナル

 

参照

1)Guy Drouin and Robert Carter, Evolution of Eukaryotic RNA Polymerases. Wiley Online Library., eLS, DOI: 10.1002/9780470015902.a0022872 (2010).
http://www.els.net/WileyCDA/ElsArticle/refId-a0022872.html
2) 平田章, 古細菌の転写装置. 生化学 vol. 81, pp. 377-381 (2009)
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/CFQW7HJS/81-05-04.pdf
3)Tanaka T1, Padavattan S, Kumarevel T., Crystal structure of archaeal chromatin protein Alba2-dsDNA complex from Aeropyrum pernix K1. Jornal of Biological Chemistry, vol. 287, pp. 10394-10402 (2012), doi: 10.1074/JBC.M112.343210
http://www.riken.jp/pr/press/2012/20120224_3/
4)ウィキペディア: TATAボックス
5)Civán P1, Svec M., Genome-wide analysis of rice (Oryza sativa L. subsp. japonica) TATA box and Y Patch promoterelements. Genome. vol. 52, pp. 294-297. doi: 10.1139/G09-001. (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19234558
6)Chuhu Yang et al., Prevalence of the Initiator over the TATA box in human and yeast genes and identification of DNA motifs enriched in human TATA-less core promoters. Gene., vol. 389(1): pp. 52–65. (2007) doi: 10.1016/j.gene.2006.09.029
7)Paul Gagniuc1 and Constantin Ionescu-Tirgoviste, Eukaryotic genomes may exhibit up to 10 genericclasses of gene promoters. BMC Genomics , vol.13, pp.512-527 (2012), DOI: 10.1186/1471-2164-13-512
8)Robert K. Louder,  Yuan He, José Ramón López-Blanco, Jie Fang, Pablo Chacón & Eva Nogales , Structure of promoter-bound TFIID and model of human pre-initiation complex assembly. Nature  vol. 531, pp. 604–609 (2016)
http://www.nature.com/nature/journal/v531/n7596/abs/nature17394_ja.html
9)房富 絵美子 他 古細菌型転写終結因子NusAの結晶構造解析及びRNA結合解析
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/CFQW7HJS/39_e.fusatomi.pdf
10)杉本崇 真核生物mRNA3′末端プロセシング研究の新展開  生化学第86巻第1号,pp. 77~80(2014)
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/C8FQEO1U/86-01-11.pdf

|

« 52.転写 I | トップページ | 54.真核生物メッセンジャーRNAの成熟 I »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 52.転写 I | トップページ | 54.真核生物メッセンジャーRNAの成熟 I »