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2020年1月16日 (木)

45.トランスファーRNA(tRNA)

 DNAが遺伝情報の実体で、それが mRNA として読み取られるというところまできました。では mRNA が持っている情報は、どのようにタンパク質とつながっているのでしょうか。タンパク質はアミノ酸が連結したものなので、合成されるときにどのような順にアミノ酸が連結されるのかが重要です。これを解決するために生物はトランスファーRNA (tRNA)というギミックを生み出しました。mRNAからタンパク質をつくるプロセスを翻訳(translation)といいます。
 翻訳をきちんと行うためには、特定のアミノ酸と結合し、タンパク質合成工場であるリボソームまでそのアミノ酸を運んで、mRNA に指定された順にリボソームに送り込む物質が存在しなければいけません。
 ザメクニック(図45-1)らは、ラットの肝臓を使って試験管内無細胞系でタンパク質合成が行われる実験系を開発し、ATPの存在下で、各アミノ酸と結合する可溶性のRNAが存在することを証明しました(2)。このような重要な発見であるにもかかわらず、mRNAの場合と同様、tRNA の発見者にもノーベル賞は授与されませんでした。少なくとも、この研究の中心となったポール・ザメクニックには授与されるべきだったと思うのは私だけではありません(3)。

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図45-1 ポール・ザメクニック(1、Paul Zamecnik 1912~2009)

  とはいえ tRNA の構造を解明したロバート・ホリー(4、図45-2)には1968年にノーベル賞が授与されています。ロバート・ホリーらが研究を始めた頃には、すでにザメクニックらによって、各アミノ酸は tRNA 末端のアデノシンに結合することがわかっていたので、構造が異なる tRNA がアミノ酸の種類だけ存在すると想像できました。つまりアラニンにはアラニン専用の tRNA、リジンにはリジン専用の tRNA等々というわけです。ロバート・ホリーは第二次世界大戦中に、コーネル大学の大学院生の頃、はやくもペニシリンの化学合成にはじめて成功するなどの輝かしい業績を残しましたが、彼の最大の貢献はtRNAの化学構造解明でした。

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図45-2 ロバート・ホリー(Robert Holley)

 ホリーのグループはクレイグの向流分配法(5)を4年がかりでtRNAに最適化することによって、さまざまな tRNA を分離することに成功しました。彼らは特にうまく分離できたアラニン-tRNAをまず分析しました。140kgのパン酵母から1gの精製されたアラニン-tRNAを得るのに3年を要しました。1961年には、この tRNA は約80個のヌクレオチドが連結した単鎖であることがわかりました(6)。ホリーらの仕事は、本格的な構造決定作業の前に、7年もの準備作業を要したわけで、その間研究室(特に予算)を維持するのが大変だったことでしょう。
  彼らは精製したアラニン-tRNAをRNA分解酵素で切断してフラグメントをつくり、カラムクロマトグラフィーで各フラグメントを分離して、それぞれの構造を決定しました。そしてついに1965年にアラニン-tRNAの全構造を解明しました(7、図45-3)。すでに発表されいたRNAの2次構造に関する FRESCO-ALBERTS-DOTY モデルを参考にアラニン-tRNAの2次構造を描くと、美しいクローバーリーフ状の構造になりました。そしてその中央の葉の先端の3つの塩基がmRNAに対応することもわかりました。この3つの塩基はmRNAが指定するコドンの裏側の配列であり、アンチコドンと呼びます。その他のアミノ酸に対応する tRNA の構造も、その後次々と同様な方法で解明されました。
 tRNAの構造と機能が明らかになることによって、mRNAが持っている情報がいかにタンパク質に構造につながるのかが解明されました。なお図45-3のアラニンtRNAの構造についてはカール・メリルが若干の修正を行っています(8)。
  以前にDNAは2重らせん構造をとるのに対して、RNAは基本的に単鎖と書きましたが、RNAも短い2重鎖をつくることは可能で、特にtRNAの場合には顕著です。これによってtRNAは複雑な構造をとることが可能です。トランスファーRNAの一般的な構造を図45-4に示します。上方にアミノ酸の結合部位があります。下方の赤の部分のアンチコドンに対応したアミノ酸が結合します。おおざっぱには、2重鎖構造をとっている4本の幹と、単鎖の3つのループ、そして短い枝のような部分(γ 図45-4)からできています。

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図45-3 アラニン-tRNAの全構造

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図45-4 tRNAの模式図

 左側にDループ、右側にT(またはTΨC=TプサイC)ループがあり、これらの構造の違いによって、別々の酵素がそれぞれ固有のtRNAにアクセスし、適切なアミノ酸を結合させることができます。下方のAループ(アンチコドンアーム)にはアンチコドン領域があり、ここで mRNA のコドンを認識します。これについては後述します。

 ここでコドンのリストを見て下さい(図45-5)。

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図45-5 コドンのリスト

 DNA・mRNAは3つの塩基でアミノ酸を指定しており、4x4x4=64種類のアミノ酸に対応できますが、アミノ酸は20種類ほどしかなく、複数のコドンがひとつのアミノ酸に対応するようにせざるを得ません。
 たとえば左上のフェニルアラニン(Phe)の場合、UUUとUUCが対応します。ロイシン(Leu)の場合、UUA・UUG・CUU・CUC・CUA・CUG の6つのコドンが対応します。なかにはメチオニン(Met)やトリプトファン(Trp)のように、対応するコドンがひとつしかないものもあります。
 全体をみていくと、最初の2つの塩基は各アミノ酸に特異的であり、3つめはしばりがゆるくなっていることがわかります。コドンのなかにはアミノ酸を指定しないものが3つあり(UAA・UAG・UGA)、これらはここでタンパク質合成を停止せよというシグナルのストップコドンになっています。
 図45-6はtRNAのAループの先端のアンチコドン領域を示したものです。アンチコドンを形成する3つの塩基のうち2つは厳密なワトソン・クリック型の対応(AU・GC)なのですが、残りのひとつ(アンチコドン側からいえば1番目の塩基)はルーズになっており、たとえばイノシン(I)はA・U・G・Cのどれとも塩基対を形成できるので、GUA・GUU・GUG・GUCのコドンに対して、アンチコドンはIACの1種類で対応し、バリンが指定されます。
 このように生物はイノシンを用いるなどの巧妙な方法で厳密なワトソン・クリック型の塩基対を回避し、64種(ストップコドンを除けば61種)のコドンで20種のアミノ酸を指定するという難題を解決しているのです。

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図45-6 コドンとアンチコドンの対応

 酵母のフェニルアラニンtRNAの塩基配列を示します(図45-7)。tRNAはmRNAのようにA・U・G・Cだけからできているわけではなく、その他のいろいろな塩基を含んでいます。mはメチル化されていることを示します。数字はメチル化される場所を示します。Ψはシュードウリジンで、ウリジンとは構造が異なります(図45-8)。たとえばフェニルアラニンtRNAはバリンtRNAと間違えられると困るので、酵素が認識しやすいようにさまざまな修飾がほどこされていると考えられます。

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図45-7 フェニルアラニンtRNAの構造

 今までに知られたメチル化など修飾塩基の種類は100を超えているそうです(9)。22Gというのは2の位置にメチル基が2個ついているという意味です。遺伝暗号とtRNAの関係についてより詳しく知りたい方は文献(10)などを参照して下さい。いずれにしても64種のコドンで20種のアミノ酸を指定することと、特定のtRNAに特定のアミノ酸を正確に結合させるということは、生物がこの世に出現する上で非常に困難かつ重要なステップでした。

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図45-8 ウリジン(U)とシュードウリジン(Ψ)

 tRNAの 3'OH側の端は必ずCCAという塩基配列になっています(図45-7)。この一番端のAがついているリボースにアミノ酸が結合するわけです。ここにアミノ酸を結合させるためには、まずアミノ酸をアミノアシルAMPにしなければなりません。すなわちアミノ酸 NH2-R-COOH を NH2-R-CO-AMPという形にしなければなりません(アシル化とはR-COをくっつけること この場合Rはアミノ酸の種類の数だけ存在します)。この形になると以下の反応が可能となります。

NH2-R-CO-AMP+tRNA → NH2-R-CO-tRNA+AMP 
(アミノ酸-AMP + tRNA = アミノ酸-tRNA + AMP)

 この反応を触媒する酵素は、最低でもアミノ酸の種類の数だけ(20種類以上)存在し、例えばアラニンtRNAには必ずアラニンを結合させるようになっています。この酵素はアミノアシルtRNA合成酵素と呼ばれますが、核酸の持っている情報を使ってタンパク質を合成するというのはすべての生物がやっていることなので、どの生物でも各アミノ酸に対応して最低20種類はもっていなくてはいけません。これは無生物から生物が誕生する上で大きな壁で、ここを突破してはじめて生物なるものが登場し得たわけです。
 こうしてできたアミノ酸-tRNAがタンパク質製造工場であるリボソームに運ばれて、タンパク質が合成されます。その状況はウィキペディアでうまく表現されていたので、図45-9にコピペしておきます(11)。リボソームおよび翻訳機構(トランスレーション)についてはあらためて述べますが、とりあえずtRNA(図45-9ではTRNAと表記されています)がアミノ酸を運んできて、mRNAの指示通りの順にリボソーム内でアミノ酸を結合させ、アミノ酸を手放したtRNAはまたリボソームから去って行くというメカニズムだと理解できます。
  tRNAの3D立体構造については、例えば文献(12)などに美しいイラストが掲載されています。

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図45-9 アミノ酸が結合したtRNA(TRNA)はメッセンジャーRNAが指定した通りの順にリボソームにとりこまれ、タンパク質が合成される。

参照

1)Wikipedia: Paul Zamecnik,  https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Zamecnik
2)Mahlon B. Hoagland, Mary Louise, Stephenson, Jesse F. Scott, Liselotte I. Hecht, and Paul C. Zamecnik., A soluble ribonucleic acid intermedeate in protein synnthesis., J. Biol. Chem. vol.231, pp.241-257 (1958)
3)Thomas H. Maugh II, Dr.Paul Zamecnik dies at 96; scientist made two major discoveries.
http://www.latimes.com/nation/la-me-paul-zamecnik19-2009nov19-story.html
4)ウィキペディア: ロバート・W・ホリー
5)L.C. Craig., Partition Chromatography and Countercurrent Distribution., Anal. Chem. vol. 22, pp. 1346-1352 (1950),  https://doi.org/10.1021/ac60047a003
6)Holley R.W., Apgar J., Merrill S.H., Zubkoff P.L. Nucleotide and oligonucleotide compositions of the alanine-, valine-, and tyrosine-acceptorsoluble ribonucleic acids of yeast. J. Am. Chem. Soc., vol.83:pp.4861~4862 (1961)
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja01484a040)
7)Holley R.W. et al., Structure fo a ribonucleic acid., Science, vol.147, pp.1462-1465 (1965)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14263761
8)Carl R. Merril, Reinvestigation of the primary structure of yeast alanine tRNA., Biopolyners vol.6, pp. 1727-1735 (1968) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/bip.1968.360061207
9)Chem-Station, 核酸塩基は4つだけではない
https://www.chem-station.com/blog/2012/07/post-417.html
10)NS遺伝子研究室 遺伝暗号とアミノアシルtRNA
http://nsgene-lab.jp/expression/genetic_code/
11)Wikipedia: Ribosome,  https://en.wikipedia.org/wiki/Ribosome
12)M. Naganuma et al., The selective tRNA aminoacylation mechanism based on a single G・U pair., Nature. vol. 510(7506): pp. 507-11. (2014) doi: 10.1038/nature13440.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24919148

 



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