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2020年1月 9日 (木)

8.系統樹とその逸脱

 生物の系統樹はチャールス・ダーウィンの進化論をもとに、エルンスト・ヘッケルがはじめて考案したものであり、現在でも生物の進化を説明するために汎用されます。ただ系統樹では説明出来ない進化のイベントが、生物の歴史の中で、少なくとも2回おこったと考えられています。

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図8-1 プロテオ細菌とシアノバクテリアによる系統樹の逸脱

 そのうちのひとつは図8-1のbで、細菌の一種であるα-プロテオバクテリアが、ある真核生物の細胞内に住み着いてミトコンドリアが形成され、そのミトコンドリアを持つ生物が現在まで子孫を残しているわけです(1、2)。真核生物(原生生物)の中でもまれにミトコンドリアを持たない生物がいるそうですが、それらのなかには系統樹のb地点に至る途中から分岐した生物の子孫がいる可能性があります(1)。
 そして2回目のイベントは、図のaで真核生物のなかで現在植物と呼ばれているグループの祖先が、シアノバクテリアを細胞内にとりこんで、葉緑体(クロロプラスト)を持つことになりました。これらのとりこまれたバクテリアは、勝手に増殖するとホストが死んでしまうので、ホストが様々な手段で制御して飼い慣らしているわけです。その最たるものは、バクテリアの遺伝子の一部を奪って、ホストのDNAに組み込んでしまうというやり方です。
 このような重要な生物進化の過程を系統樹は表現出来ません。強いて言えばいったん分岐した枝が再びからまりあって融合したという感じでしょうか。葉緑体と細胞内共生については鈴木雅大氏と大田修平氏がわかりやすく説明してくれています。もうすこし専門的な知識に興味がある方は文献を参照してください(3)。
 真核生物がミトコンドリアを取り込んだということには大きな意義があります。ミトコンドリアがない場合、真核生物は解糖系でグルコース1分子あたり1分子ないしは2分子のATPをつくり、二酸化炭素と水から、このATPのエネルギーを使って細々と有機物質を生成していましたが、α-プロテオ細菌は、
   C6H12O6 + 6O2 + 38ADP + 38phosphate → 6CO2 + 6H2O + 38ATP
   (最近の研究によれば 38ATP ではなく 28.92または27.54 ATP)(4)
という驚異的な代謝系を発明して、グルコース1分子から大量のATPを生成することができました。したがって、α-プロテオ細菌を細胞内に取り込んでミトコンドリアとして飼い慣らし共生することに成功した真核生物は、ふんだんにエネルギーを使うことができるようになりました。
 他の生物を細胞内に取り込んで使いこなすなどということは見てきたようなおとぎ話だと思う方もおられるかもしれませんが、それに近いようなプロセスを現在進めている生物もいるのです。それはアブラムシ(アリマキ)で、体内にブフネラという細菌をとりこみつつあります(5)。

参照

1)黒岩常祥 「ミトコンドリアはどこからきたか」 NHKBooks 日本放送協会 (2000)
2)ウィキペディア: ミトコンドリア
3)鈴木雅大・大田修平 色素体/葉緑体の成立と多様性(2015)
http://natural-history.main.jp/Algae_review/Symbiosis/Symbiosis.html
4)Wikipedia: 呼吸 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%BC%E5%90%B8
5)石川統 細胞内の巧みな共生 ─ アブラムシとブフネラにみる 季刊誌「生命誌」通 巻32号 共生・共進化 時間と空間の中でつながる生きものたち
https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/032/ss_6.html

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