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2020年1月21日 (火)

63.構造タンパク質

 タンパク質をその役割で分類すると、最もおおざっぱには酵素、制御因子、構造タンパク質、その他ということになります。ここでは構造タンパク質の概要についてみてみましょう。構造タンパク質を代表するものとして、その地球上での量ではダントツのアクチンとミオシンがあります(ミオシンは酵素でもありますが)。これらは筋肉の主成分であり、肉食動物はこの2種類のタンパク質を主な栄養源として生きています。人間は雑食ですが、多くの人々は穀物(炭水化物)の他に、特に南米などではアクチンとミオシンを主要な栄養源としています。日本人も次第にそのようなライフスタイルに近づきつつあります。動物を殺さなくても美味な食事ができるようになれば、人間はもう少し高尚な生物になれると思いますが、エミール・フィッシャーの夢はなかなか実現しそうにありません。
 生物が生物であるためには、生物と外界との間に仕切りが必要ですが、それは脂質が中心となった細胞膜です。細菌や植物はその外にさらに多糖類でできた細胞壁という構造を持っています。細胞壁はいわゆる動物にはありません。脂質の膜は細胞の内部にもあり、コンパートメントや物質輸送の役を果たしています。
 ではタンパク質は細胞の構造形成にどのような役割を果たしているのでしょうか。ひとつは家で言えば柱とか梁のような、細胞に一定の形をとらせることです。細胞壁のない細胞は柱や梁に相当する構造がなければ一定の形態を保つことは不可能です。とは言っても家屋のような静的な恒久構造ではなく、ダイナミックに変化します。もうひとつは、これは特殊な役割ですが、細胞分裂を実行する構造ツールとしてタンパク質が機能するということがあります。
 これらに関与しているタンパク質はほぼ3つのグループ、すなわちチュブリン、アクチン、中間系線維(線維という漢字が好まれますが、繊維でもかまいません)に分類できます。この3つのグループは、細菌・古細菌・真核生物のすべてに存在するユニバーサルなタンパク質です。
 細菌では図63-1のように、チュブリン系のタンパク質であるFtsZは細胞分裂の際にZリングという構造を作って細胞と細胞の仕切りを形成する役割を果たしています。アクチン系のMreBは細胞膜の直下に、細胞の全長に及ぶ繊維構造からなる螺旋状のネットワークを形成しており、細菌がロッド状の形態をとるために必要な役割を果たしています。またある種の細菌では真核生物の場合と同様、収縮リングをつくって細胞分裂を実行する役割を担っているようです(図63-1)。
 中間系繊維グループのクレセンチンは、細胞が三日月のある種の細菌に存在し、細胞を屈曲させる役割を果たしています(図63-1)。人間の胃に住んでいるヘリコバクター・ピロリ、いわゆるピロリ菌もこの仲間のようです。栄養リッチな環境に住んでいる細菌は、その場所から流されたくないので、ひっかかりやすい構造をめざしたのでしょうか? 細菌の細胞骨格については、ウィキペディアにもう少し詳しい解説があります(1)。

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図63-1 細菌の細胞骨格 真核生物との比較

 真核生物におけるチュブリンは毛利秀雄(図63-2)によって発見・命名された分子量約5万の球状タンパク質で(2)、通常重合して微小管などの構造を形成しています。αチュブリンとβチュブリンは図63-3のようにヘテロダイマーαβを形成し、さらにそのヘテロダイマーが連結して線維状のプロトフィラメントを形成し、13本のプロトフィラメントが集合して管になったような形の微小管が形成されます(3)。微小管の直径は約25nmです。

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図63-2 毛利秀雄(1930~)とフェレンツ・ブルノ・シュトラウプ(1914~1996)

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図63-3 チュブリンと微小管

 微小管が最も規則的で美しい形態ととっているのは精子の鞭毛です。私たちオピストコンタの精子は、細胞の進行方向後方に1本の精子の鞭毛を持っています。鞭毛を輪切り(クロスセクション)にすると、中心にある1対=2本の微小管を、9ペア=18本の微小管が取り囲むという美しい規則的な構造になっています(図63-4)。微小管の周囲に存在するダイニンはATPが持つ化学エネルギーを運動エネルギーに変換することができるタンパク質(モータータンパク質)であり、これらの作用によって精子は鞭毛を動かし、泳いで卵に到達することができます。この9+2の構造は繊毛でも同じで、しかも原生動物からヒトに至るまで同じです(4)。

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図63-4 精子の鞭毛 クロスセクション

 アクチンはF.B.シュトラウプ(図63-2)によって発見された、分子量約4万2千の球状タンパク質です(5)。微妙に異なる6種類があり、冒頭で述べた筋肉を作るタイプのものとは異なるβ型アクチンは、重合してマイクロフィラメントという直径6nm前後の線維を形成し、微小管と同様細胞骨格の役割を果たしています(図63-5)。アクチン自体はモータータンパク質ではありませんが、ATPやADPと結合することによって線維形成が制御されています(6-7)。

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図63-5 アクチンとアクチン線維赤丸のATPが結合することによって、アクチンが重合し線維が形成される。 線維が形成された後、ATPはADPとなるので、アクチン線維(マイクロフィラメント)には前後の方向性が存在する。

 細胞形態がいかにチュブリンやアクチンに依存しているかということは、図63-6をみれば一目瞭然です。細胞質の中は微小管やマイクロフィラメントのジャングルジムのようです。これらの細胞骨格はジャングルジムと違ってフレキシブルで、次の瞬間には別の形になることもあります。微小管やマイクロフィラメントは常に多くの分子が参加したり離脱したりしているので、細胞の柱や梁といっても、非常に流動的なパーツではあります(8)。

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図63-6 蛍光染色によって可視化された細胞骨格  緑:微小管(マイクロチューブル) 赤:微笑線維(マイクロフィラメント)

 細胞骨格にはもうひとつの要素、すなわち中間径線維があります。中間径というのは線維の直径が微小管とマイクロフィラメントの中間という意味で、約10nmのサイズになります。中間径フィラメントを構成するタンパク質には、ケラチン、ニューロフィラメントタンパク質、デスミン、ビメンチン、ラミンなどがあり、細胞の種類によって特異性があります。ミオシンもこのグループに近いタンパク質です。
 中間径線維の代表としてケラチンに注目してみましょう。ケラチンは毛髪・羽毛・爪・表皮・角・くちばし・魚類以外のウロコなどの主成分となるタンパク質です。ケラチンはヒトのものだけでも54種類あり、まだ増えるかもしれません(9-10)。ケラチン分子は細長い線維性(フィブラス)の分子で、図63-7のようにまず2分子が同じ方向性でダイマーを形成し、2つのダイマーが互いに逆方向で重合して4量体(テトラマー)をつくり、そのテトラマーがタンデムに結合してマイクロフィラメントが形成されます。8本のマイクロフィラメント(これはアクチンが形成するマイクロフィラメントと同じ用語なので感心しません)が集合してマイクロフィブリルを形成し、マイクロフィブリルがさらに集合して毛や皮膚などの細胞に充満しています(図63-7)。
 ケラチン分子はシステインを多く含んでいる場合があり、システインが分子間で共有結合(S-S)を多数形成すると、非常に強靱な構造をつくることができます。こうなると物理的に強靱であるばかりでなく、酵素による分解も受けにくくなり、場合によっては羽毛恐竜のように1億年以上前の化石からも検出できるようなことがあります。

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図63-7 ケラチン線維の形成

 図63-8は私が撮影した毛の断面の電子顕微鏡写真で、まだ完全にケラチン線維で埋め尽くされていない未分化な下部の構造です。ケラチン線維の束(マイクロフィブリル)の間に隙間がまだみられます(9)。

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図63-8 毛の電子顕微鏡写真(クロスセクション)

 筋肉は中間径線維グループに近縁のミオシンと、全く別オリジンのアクチンなどのタンパク質が共同して作った驚異的な芸術的作品です。筋肉によって動物は歩行し、呼吸し、消化し、出産し、飛翔し、遊泳し、目のピントを合わせ、キーボードをたたくことができます。いずれまた話題になると思いますのが、ここでは1枚の私が撮影した電子顕微鏡写真だけ貼っておきます(9、図63-9)。ケラチンについては文献(10-11)などにも簡潔にまとめてあり、フリーで読めます。より詳しい情報を得たい方は、この分野の世界的権威であるラングバイン博士と共同研究者達が多数のレビューを書いており、一部(12など)はフリーで読むことができます。

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図63-9 筋線維の電子顕微鏡写真 mtはミトコンドリア  筋肉はアクチンとミオシンの相互作用によって収縮する
A帯はその相互作用が行われている場所 I帯はアクチンフィラメント H帯はミオシンフィラメント

参照

1)ウィキペディア: 原核生物の細胞骨格
2)Mohri H., “Amino-acid composition of Tubulin constituting microtubules of sperm flagella.”. Nature vol. 217, pp. 1053-1054 (1968)  PMID 4296139
3)Nogales, E., Wolf, S.G., Downing, K.H. , Structure of the alpha beta tubulin dimer by electron crystallography. Nature vol. 391, pp. 199-203 (1998)
4)廣野雅文 東京大学理学部広報プレスリリース (2011)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2011/06.html
5)Straub FB., Actin,  Studies Inst Med Chem Univ Szeged. vol.2, pp. 3–16 (1942)
http://actin.aok.pte.hu/archives/pdf/StudiesII_1.pdf
6)ウィキペディア: アクチン
7)Geoffrey M Cooper, Structure and Organization of Actin Filaments. The Cell: A Molecular Approach. 2nd edition. Sunderland (MA) (2000).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK9908/
8)Wikipedia: Cytoskeleton,  https://en.wikipedia.org/wiki/Cytoskeleton
9)K. Morioka, "Hair Follicle. Differentiation under th Electron Microscope. An Atlas" Spirnger-Verlag Tokyo (2005)
https://www.amazon.co.jp/Hair-Follicle-Differentiation-Electron-Microscope-ebook/dp/B000SNUPWM/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=hair+follicle&qid=1572774225&s=digital-text&sr=1-1
10)京都大学教育資料 ケラチン
https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~pathology/templates/keratin.html
11)片方陽太郎 ケラチン蛋白質の生化学 -構造、機能、そして遺伝子まで-、蛋白質 核酸 酵素 vol. 38, pp. 2711-2722 (1993)
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1993&number=3816&file=sU0K8gPLUSkWylrPLUS03QAhjDig==
12)Moll R, Divo M, Langbein L., The human keratins: biology and pathology.,
Histochem Cell Biol. vol. 129(6): pp. 705-33. (2008)  doi: 10.1007/s00418-008-0435-6. Epub 2008 May 7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18461349

 



 

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