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2020年1月 9日 (木)

6.シアノバクテリア

 シアノバクテリアは昔は藍藻と呼ばれていました。藻というと植物を思わせ誤解を招くので、現在ではシアノバクテリアまたは藍色細菌 と呼ばれています。

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図6-1 地球史年表(再掲)

 シアノバクテリアは砂漠から氷河まで、地球上のありとあらゆる場所に住み着いています。私の家の近くの手賀沼ではときどき大発生してアオコと呼ばれています。そのような普通の環境に生きている種の他に、何年も水が無くても生存出来たり、70℃くらいの高温でも生存出来る種もあります。なにしろ30億年も、環境の変化に耐えて地球上のメジャーな生物で有り続けたのですから、分類学者もお手上げなくらい幅広いバラエティーがあり、全貌は不明です。
 図6-2は代表的なグループでネンジュモと呼ばれているもの(左)と、実験室で培養されているシアノバクテリア(右)です。ネンジュモは大腸菌などと比較すると細胞のサイズは大きく、ほぼヒトの細胞くらいのサイズで、しかも数珠つなぎとなって細長い形態をとります。シアノバクテリアは空気中の二酸化炭素や窒素を固定し、生物が利用できる化学物質に変換できます。

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図6-2 シアノバクテリア

 さてなぜこの細菌に注目するかというと、それはこの細菌が地球に酸素をもたらしたからです。シアノバクテリアが生まれる前から、光エネルギーを使って生きている細菌は存在したはずですが、シアノバクテリアの特徴は化学式としてまとめると

6CO2(二酸化炭素)+6H2O(水)+ 光 → C6H12O6(ブドウ糖)+6O2(酸素)

という化学反応で光合成を行い、酸素を反応生成物として放出しました。
  その結果ゆっくりと地球上に酸素が充満してきました。酸素はさまざまな物質を酸化させる(錆びさせる)力があり、生体物質も例外ではありません。したがって酸素の毒性を中和する機能を持たない生物は、そのような環境では生き延びられません。シアノバクテリアの繁栄によって、多くの生物が絶滅するか、酸素が少ない特殊な環境でしか生きられないマイナーな生物となりました。私たちはSOD(スーパーオキサイドディスムテース)という酵素とか、グルタチオンという低分子化合物とか、活性酸素の毒性を緩和するツールを持っているので、酸素が充満した大気の中で生きていくことができるのです。
 ところでシアノバクテリアは細菌ですから、化石といっても頼りない物で、そんな物でどうしてシアノバクテリアが何十億年も前から生きていたことがわかるのか不思議に思われるかもしれません。その謎を解くにはシアノバクテリアの中でもとてもマイナーな種の中に、海中の泥や砂の上に住み着いたら、昼は光合成、夜は粘液を出すという奇妙な性質をもつものがあるということがカギとなります。彼らは粘液で砂泥を固めて特異な石のようなものをつくるのです。これをストロマトライトと呼びます。
 現代でも西オーストラリアのシャーク・ベイなど、特定の場所にこのようなシアノバクテリアが生息する場所があります。彼らはバクテリアであるにもかかわらず、ストロマトライトを製造することによって、生きた痕跡を何億年も残すことができるのです。従って古い地層からストロマトライトが出てくれば、その時代にシアノバクテリアが生きていたことがわかります。現在27億年前のストロマトライトの化石がみつかっているそうです。

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図6-3 ストロマトライト

 図6-3の写真はウィキペディアに掲載されていたシャーク・ベイのストロマトライトの写真です。地球史年表に「32億年前 シアノバクテリア(光合成細菌)の出現」と書いてありますが、シアノバクテリアは出現したときから光合成をやっていたわけではなく、何億年もかけて光合成ができるよう進化したようです(1)。酸素を地球に充満させたことだけでもすごいことですが、シアノバクテリアはもうひとつ、とてつもないことをやってのけました。それは真核生物の体内に入って葉緑体として生きるものが生まれたことです。これは少し後で稿を改めて述べましょう。ストロマトライトの実物を見たい方は、国立科学博物館の地球館に展示してあります(2)。

参照

1)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%8D%E8%97%BB
2)国立科学博物館 常設展示
http://db.kahaku.go.jp/exh/?sno=1&data_id=1752498&hfwd=&estyp=2&zone1=95&zone2=101&zone3=104

 

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コメント

このご発表の内容に大変興味がありますが、このような研究を行っておられる研究機関や大学はどこがありますでしょうか。お教えいただければ幸いです。(日本国内、世界、などでお教えいただけますでしょうか)

投稿: 明石 秀親 | 2021年3月22日 (月) 12時49分

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